キーナの魔法

小笠原慎二

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テルディアス変身!

闇から解放される

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キーナが軽く息を吸った。
胸元に手を当てる。

「僕の、僕の望みは・・・」

目を閉じ、自分がこの世界に来た、いや、招かれた理由を思い出す。
そして、元の世界の風景、学校、友達、両親を思い出す。
そう、自分は、帰らなければならないのだ。
あそこに。

「ある人を探し出して、することを成して、元の世界の僕の家へ帰る事・・・」

一息に言って、目を開けた。

「それが、僕の、望み・・・」
「・・・」

ルイスは動かない。
ただ少し目を細めただけだった。

「さあ、あなたに叶えられる?!」

ルイスが目を伏せた。

「ん~、確かになぁ。難しいなぁ・・・」

開かれた瞳が、キーナを映す。

「できないでしょ? じゃあ、約束通り・・・」

空間が揺らめき、闇が噴き出してきた。

「?!」

キーナの手足を拘束する。

「キーナ?!」
「ああ!!」

突然縛り上げられた痛みでキーナが悲鳴を上げる。

「確かに自由にしてやるとは言ったが、すぐにとは言ってないぜ?」
「!」
「貴様!」
「はははは。こ~んな面白そうな逸材、簡単に手放すかよ」

キーナの顎に手を当て、上を向かせる。

「約束を、破る気?!」
「そんなことはない」

キーナの顔に顔を近づけて囁く。

「すこ~しだけ、俺と遊んでから・・・な」

テルディアスは怒りで目の前が真っ赤に染まった。

「っがあああああああ!!!」

ズバアッ!!

闇の戒めが無理矢理引き裂かれた。

「?! まさか! 眷属でもないのに・・・」

驚き、反応できないルイスにテルディアスが迫る。

ドガ!

強く握りしめた右の拳を、ルイスの顔に叩き込んだ。

「く・・・そ・・・」

その一発でショックから立ち直ったルイス。
その顎を下から拳が狙う。

「あぶ・・・」

ギリギリで避けるが、態勢がまずい。
テルディアスは次の動作に既に入っている。

「く・・・」

ガクン

テルディアスの体が動かなくなった。

「おおお?!」

再び闇に捕らわれ、体の自由がきかなくなる。

「ったく・・・」

ルイスが殴られた頬に手を添える。

「テル!」
「ぐ・・・」

やはり闇の戒めはびくともしない。
ルイスが近づく。

「ここは俺の空間だぜ? 好き勝手にはさせねぇよ」

嘲るようにテルディアスに顔を近づける。

「しかし、なんだって普通の人間が・・・。そうか。お前、あのお方の人形だったけなぁ」
「?!」

あのお方。
きっと闇の魔女のことだろう。
あの女もさんざん、テルディアスのことを玩具呼ばわりしていたものだ。

「その時に、闇の力でも与えられたか?」
「!」
「?!」

闇の力を与える?
だがしかし、テルディアス達を追ってきたレイさんは、確かに魔女から力を分けてもらったと言っていた。
それが、テルディアスにも・・・?

「なるほどね。だったら、俺の力が効きづらいのも納得がいく。てことは、今まで以上にきつく締め上げねえといけねぇってことだな」

すると、その言葉に従うかのように、テルディアスの戒めが体を締め付け始めた。

「あああ!!」
「テルゥ!」
「あのお方の物だからって、手加減してやってたんだが、最初からんなもんいらなかったか。意識を封じた時に気付くべきだったな」

ギリギリと戒めがテルディアスの体を締め上げた。

「うあああああああ!!」

足が、腕が、腹が、少しずつ少しずつ、締め上げる力を上げていく。
筋肉が千切れそうになる。
骨が悲鳴を上げる。
内臓が押しつぶされる。
呼吸をする事さえも苦痛になる。

「や・・・」

そんなテルディアスの様子に我慢ならなくなったキーナが声を上げた。

「だめ――――!!」

キーナの体から光が溢れ出した。

「な・・・、何?!」

闇が広がっていた空間に、一つの大きな光が灯った。


















闇の戒めは消え去り、白い光の中に、白く長い髪をなびかせ、少女が立っていた。

「まさか・・・、光の御子?!」

キーナがキッとルイスを睨み付けた。
キーナに気を取られたせいか、テルディアスの戒めが消えた。

「へ・・・、ど~りで、おチビちゃんから面白いもん感じるハズだよ。だが、光の御子ときたら分が悪い」

ルイスが空間に溶け込もうとする。

「てことで、アバヨ」

消える寸前、

ルイス・・・

キーナがその名を捕らえた。
ギクッとなったルイスは、体を半分以上空間に潜り込ませながら、そのまま動けなくなる。

「ぐ・・・、くそ・・・」

いくら動かそうとしても、体は言う事を聞かない。

「俺の名を・・・、縛りやがったか!!」

固まったままキーナを睨む。

あなたが・・・・自身で・・・放った言葉を・・・・・・実行しなさい・・・・・・

ルイスの体が軽くなった。

「へ・・・、あんたらを自由にして、二度とこんなことはしない。ってやつね。へいへい。御子様に言われたら、逆らえねーもんな」

渋々という感じで頭を掻きながら、ルイスは大人しく空間から出てきた。

『ええ、あなたの大切な人の為にも・・・』

キーナが悲しそうな顔をして言った。
その言葉に反応する。

「てめぇに何が分かる!」

ルイスが突然怒り出した。

「もともとあいつを連れて行ったのも、てめぇらだろうが!!」

闇の力が溢れ出し、キーナへと矛先を向けた。

「キーナ!!」
『あなたの苦しみ、よく分かる・・・』

キーナがそう呟くと、光が強さを増し、闇の力は光の前に、消えた。
ふわりと宙に浮かんだキーナが、ルイスの顔を両手で優しく包み込む。

『私もまだ、あの人を見つけられない。一番大切なあの人が傍にいない・・・。その哀しさ、切なさ、寂しさは、分かるから・・・』

キーナが優しくルイスを抱きしめる。
その温かさを感じ、ルイスは何故か動けなくなった。
キーナの光がまた強くなった。

『さあ、そこから出て。私が代わりに明かりを灯してあげるから。自分を、取り戻して・・・』

光が増し、テルディアスは目を開けていられなくなった。
両手で顔を覆っても、まだ眩しいほどの光だった。
ルイスの体から力が抜けていく。
闇を映していた瞳に、光が戻る。
キーナが体を離すと、夢から覚めたような顔をしていた。

「俺? 俺・・・は・・・。俺は・・・?」

キーナがにっこりと微笑んだ。
もう大丈夫だと言うように。
ルイスが自分の手を見つめる。

「俺・・・は、俺は、これから、・・・どうしたらいい?」

キーナは少し間を置いて、

『あなたの大切な人が、悲しまないように生きて』

そう言った。

「そうか・・・。そうだな・・・」

ルイスは納得できたように、穏やかに笑った。

「ありがとよ。御子様」

そして、今までとは違う爽やかな笑顔を見せて、ルイスはその空間から消えた。


















光が収まり、テルディアスが目を開けると、そこにはキーナが立っているだけだった。
あのルイスという男の影はどこにもなかった。
部屋は闇に包まれていた部屋ではなく、普通のただ広い部屋に変わっていた。
少し離れた所にメリンダが転がっていた。
軽く見た限りでは、特に外傷などなさそうだった。

「キーナ?」

キーナの光が消え、髪も瞳も元に戻り、キーナの体がゆっくりと倒れかける。

「キーナ!」

テルディアスがキーナの体を支えた。

「テル・・・、メリンダさんは・・・?」
「ああ、大丈夫だ」
(多分)

いや、ちゃんと確認しろよ。

「良かった・・・。少し、寝るね・・・」

そう言うとすぐにキーナは眠ってしまった。

「ああ・・・」

キーナの穏やかな寝息を聞きながら、テルディアスは無事に事が済んだ事を実感した。
窓からは、いつもと変わらない月明かりが、薄暗く差し込んでいた。
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