キーナの魔法

小笠原慎二

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火の村編

大婆様

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森が終わり、立ち並ぶ家々が見えてきた。
村の入り口に立ち、メリンダは息を呑む。

(変わってない・・・)

幼い頃から見慣れた景色がそこに広がっていた。
もう二度と見る事はないと思っていた景色。

「懐かしい?」

リオ姉がメリンダに振り返る。

「そりゃ・・・」

懐かしいに決まっている。
郷愁というのか、胸に込み上げてくるなんとも言えない感情。
嬉しいような、寂しいような、切ないような、言葉に表せないごった返した感情が湧き上がる。

「それじゃ、早速大婆様の所へ!」
「ちょ――――!!」

有無を言わせずメリンダを引っ張って行こうとするリオ姉。
それに抗うメリンダ。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 心の準備が・・・」

村落ちしていきなり帰ってきて、そんな正面から堂々と一番会いたくない人に、一番に会いに行くなどと・・・。
さすがに勇気がいる。
それに、大婆様の所へ行くには、村の中を歩いて行かねばならない・・・。

「あ?」

リオ姉が冷たい眼でメリンダを睨んだ。

「そんなの、準備するだけ無駄」

と一蹴。
腕を引っ張られながら、涙がチョチョ切れるメリンダだった。
キーナとテルディアスもその後ろから続く。
通りを手を引きながら強引に歩いて行く姿はかなり目立つ。
そして振り向いた人々が、メリンダの姿を見て目を開いた。

「まあ、メリンダちゃん?」

子供を連れた女性が声を漏らす。

「メリンダお姉ちゃん?」

荷物を運んでいた少女が足を止める。

「メリンダだ・・・」
「メリンダちゃん、帰って来たんだ・・・」
「メリンダお姉ちゃんだ・・・」
「あのメリンダお姉さん?」

人々が口々にメリンダの名を上げる。
さすがに気恥ずかしいのか、メリンダも顔を赤くしている。

「早速大婆様の所とは・・・」
「相変わらずね・・・」
「やっぱりメリンダお姉ちゃんだ・・・」

とクスクス笑う声も聞こえてくる。

「どうやらそこそこ問題児だったようだな」

テルディアスが声を潜めながら言った。
メリンダのおかげか、二人を気にする人も少ない。

「なんで?」
「大婆様というのが村長のようなものなのだろう。そこにしょっちゅう入り浸っていたということは・・・」
「ああ!」

鈍いキーナもなんとなく分かった。

「メリンダさん、ここでもある意味有名人なのね・・・」

人々にクスクスと笑われながら、メリンダは顔を赤くして引っ張られて行く。



















村は山々に囲まれていて、家々は平坦な場所に並んでいる所もあれば、山を切り崩したような少し高台になっているような所もあった。
そしてその屋敷は、山の途中の突き出した大きな岩場に建てられており、目の前には長い急な階段が備え付けられていた。
メリンダは逃げる事も叶わず、リオ姉に引き摺られるようにその階段を登って行った。
キーナとテルディアスも後から続く。
正面の扉をリオ姉さんがバタンと押し開ける。

「大婆様! メリンダが帰ってきました!」

と威勢良く声を上げた。

「何? メリンダじゃと?」

そこに座っていた人物がゆっくりとこちらを振り向いた。
メリンダの顔は赤から青に変わり、恐怖に引きつっていた。



















部屋の奥には祭壇のような物があり、その手前の長机の前に、赤い髪、赤い瞳の小柄なお婆さんがちんまりと座っていた。
リオ姉さんが座布団を三枚用意して、メリンダを先頭に、三角形のような布陣で座った。
小柄なお婆さんのはずなのに、何故かそのプレッシャーが半端ない。
なんとなく三人とも縮こまって座り込む。

「それじゃ、ごゆっくり~」

と楽しそうに手を振って、リオ姉さんが部屋を出て行った。

(リオ姉~~~~!!!)

この状態で置いて行くな~~と心の中で悪態をつくが、目の前から発せられるプレッシャーで身動きもままならない。
呼吸さえも苦しくなるような沈黙が続く。

(なんか、空気が重い・・・)

キーナも沈黙に耐えきれなくなってきた。
なんとか動ける眼で、なんとなく部屋や大婆様を観察する。
大婆様は身じろぎもしない。
メリンダも恐る恐る大婆様を観察するが、石像にでもなってしまったかのように動かない。
その雰囲気がまたさらに空気を重くしていく。

(重苦しい・・・)

色々な苦難を乗り越えてきたテルディアスも、さすがに空気の重さに耐えかねてきた頃だった。
大婆様が小さく息を吸い、

「まったく・・・」

と呟いた。
そして次の瞬間、大きく息を吸い、



「こんの、バカ娘があ!!」



と、向こう六件どころか、山々に谺するくらいの大声でメリンダを叱りつけた。













その怒鳴り声を聞いた村人達は、

「あ~、久しぶりだな~、この怒鳴り声」
「本当に」
「6年ぶりだな」

と笑い合った。
















「巫女候補の一人だというのに、自ら進んで掟を破りまくるわ、あげくに駆け落ちなどして村を捨ておって! 何を考えておるのやら! よくまあおめおめと今更また村に帰って来れたものじゃ! のうメリンダ!」

メリンダがいちいちビクビクしながら、大婆様の言葉を一応しっかり受け止める。
「あの・・・、本当に、申し訳ないことはしたけど・・・、あたし、帰って来ようとしたわけでは・・・」

としどろもどろに言い訳するが、

「と言いたい所じゃが、よく帰ってきてくれたメリンダ」

え?

三人の顔にハテナマークが浮かぶ。
180度違う言葉を聞かされて、メリンダも変な顔して固まった。

「本当に丁度いい所に帰ってきてくれたものじゃ」

大婆様がメリンダを見つめる。

「お前、とっとと仕度を整えて、聖選の洞へ行ってこい」

メリンダの眼が驚愕に見開かれる。

「な・・・? ちょ、ちょっと待って! 何であたしが?!」
「仕方なかろう」

大婆様溜息をつく。

「仕方なかろうって、村落ちまでしたあたしがそんな権利あるわけないじゃない! 他にも候補はいっぱいいるでしょ! ナスカとか、アデネードとか・・・!」
「みんなダメじゃった」
「え?」

大婆様が目を伏せる。

「お前以外の候補全て、それと匂わせる者まで送り出したが、誰一人として、宝玉を持って来る事はできなかった」
「! ・・・そんな」
「現巫女様のお体もここのところあまり良くない。このままでは、宝玉の力を操れる者がいなくなってしまう。そうなると、村の存続さえ危うい。お前なら分かるだろう? メリンダ」

メリンダが考え込む。
幼い頃から巫女候補として育てられたメリンダ。
だからこそ今の状況がとても良くないことだというのが分かる。
この村にとって巫女とは道標。
暗闇に灯された僅かな光。

「行ってくれるな?」

大婆様がメリンダの眼を見つめる。
メリンダは一度考え込むように眼を伏せだ。
そして顔を上げ、しっかりと大婆様を見返した。

「分かった。行くわ」

大婆様は頬を僅かに緩め、

「よう言ってくれた」

と微笑んだ。
しかし、

「ところで、後ろの方々は?」

と再び顔を引き締めた。
メリンダが、

(今更かい)

とギクリとなる。
とりあえず、先程リオ姉にした話を思い出しながら口にする。

「あ~、女の子の方が光の御子で~、フード被ってる男の方が~、難病で、光の御子しか治せないとかなんとか」
「嘘をつくな」

速攻でツッコミが入った。

「眼が泳ぎすぎとるわ」

メリンダさん、表情が正直すぎた。

「それに、そちらのフードの方。そのフードを取って頂けますかな?」
「?!」
「そのような異質な気を纏いおって・・・。何もないとは言わせんぞ」

メリンダがゲゲっとした顔をする。
キーナもなんだと?!とテルディアスを振り見た。

(さすが大婆様・・・。簡単にはいかないわね・・・)

まさかテルディアスの気を読んで、その異質さに気付くとは。

(見せたとしても、見せなかったとしても、ただじゃ済まないでしょうね・・・)

見せたとしても、ダーディンとして追われる。
見せなかったとしても、怪しいと狩られる。
どうしたとしても逃げ切る事はできない。

「いかがいたした?」

大婆様の瞳が冷たさを増す。
これ以上返事を渋るようなら、答えを待たずに焼き殺されるかもしれない。
それだけは、キーナのために阻止しなければならない。
キーナのためかい。

「テルディアス。フードを取って」
「だが・・・」
「あたしがなんとかするから。大丈夫よ」

ニコリと笑いかけるメリンダ。
眼は笑っていないが。
テルディアスも隠し通す事は無理だと判断し、メリンダに任せる事にする。
ゆっくりとフードとマスクを外した。

その下から現われる青緑の肌、尖った耳。
大婆様がテルディアスを射殺すかのように睨み付ける。

「信じられないかもしれないけど、この男はただの普通の人間で、悪い魔女の呪いでダーディンの姿になっているの」

メリンダが真剣な眼差しで大婆様に語りかける。

「メリンダ・・・、お主、それを信じたのか?」
「もちろん! 初めは信じられなかった!だけどこの子が、光の御子であるこの子がそう言ってるし、半信半疑ではあったけど、一緒に旅してるうちに、本当なんだって思えて・・・。信頼できると思ったから連れてきたの。もしこれで何か起こるようなら、あたしがキチンと片を付けるわ」

大婆様を挑むような目つきで睨み付けるメリンダ。
それを冷たい視線で受け止める大婆様。
少しの沈黙の後、

「分かった」

大婆様が頷いた。

「とりあえず納得しておいてやろう。お前がそこまで言うのならばな」

メリンダが小さく溜息をついた。
少なからずとも緊張していたのだ。

「では急ぎ仕度を・・・」
「大婆様、もう一つ、大事なお話が」

メリンダが改まるように、両手を床に着けた。
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