キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
95 / 296
火の村編

疑い

しおりを挟む
扉が開き、中からメリンダ、キーナ、テルディアスが出て来た。
大婆様も後ろからのそりと現われ、

「急ぎ仕度するのじゃ。明日の朝には入れるようにの」

とメリンダに声をかける。

「は~いはい」

少し投げやりな感じでメリンダが返す。
トントントンと小気味よい足音を立てながら、三人は長い階段を下りて行く。

「大丈夫なの? 僕たちも一緒に行っちゃって」
「大婆様が良いって言ったんだから大丈夫よ」

メリンダが大婆様に言ったのだ。
聖選の洞へは二人を連れてではないと入らないと。
そしてもう一つ。

「それに・・・、本当にいいの? メリンダさん」
「何が?」
「宝玉・・・、僕達が借り受ける代わりに、メリンダさんがこの村にずっといるって・・・」

後ろを歩くキーナには、メリンダの顔が一瞬強ばった事は分からなかった。

「い、いいに決まってるじゃない!」

そうして振り向いたメリンダの顔には、貼り付けられたような笑顔。

「元々ここはあたしの生まれ育った村なんだし! おかしなキーナちゃん!」

そしてまたトントントンとリズム良く階段を下りて行く。
メリンダのその不自然な笑顔に、ちょっと複雑な気持ちになるキーナ。
しかし、キーナにはどうすればいいのか分からなかった。
テルディアスは相も変わらず無表情だった。















長い階段の下に人影。

「メリンダ!」
「リオ姉?」

頭に被っていた布を取って、先程より少し身軽な服装をしている。

(さっきの?)

メリンダさんと同じくらい背の高いリオ姉さんが手を振っていた。
メリンダが階段を下りきる。

「ここにいるってことは・・・」
「そ。私があんたの禊ぎの手伝いするの。あんたが逃げないように、ナスカにも応援頼んだから」
「おひさ~」

リオ姉さんの隣に、メリンダと同じように赤い髪の女性が立った。
リオ姉さんと似たような服を来ている。
この村の普段着のようだ。

「あたしってそんなに信用ない?」

メリンダが苦笑いをする。

「あると思って?」

リオ姉さんがにっこりと微笑み返す。

「二人の事はこっちのレズリィに頼んだから」

とリオ姉さんの手の指し示す方を見ると、

「こんにちは」

と、背の高い女性の陰で見つけにくかったが、これまた赤い髪の、キーナくらいの背丈の女の子が笑っていた。

「さ、行こっか」

二人の女性がメリンダの両脇を抱え込み、ガッチリと固定して連行・・していく。

「ちょ、自分で歩けるわよー!!」

と叫びながら、メリンダはずるずると引き摺られて行ったのだった。
それを見送った三人は、気を取り直して、

「じゃ、私達も行きましょう」

とレズリィが先頭に立って歩き始めた。
その後を大人しく付いていく二人。

「狭い村だから案内するほどでもないけどね~」

などと言いながら、村の中を案内していく。
そんな三人の後ろ姿を、大婆様は鋭い目つきで、まるで睨むように眺めていた。

「ラジール」
「は」

側にいた護衛の一人を呼んだ。

「念の為、あの二人から目を離すな」
「は」
「特にあの背の高い方。あやつはダーディンじゃ」
「は・・・え?」

言われた意味が一瞬分からず、聞き返してしまう。

「もしおかしな動きを見せるようなら・・・、構わん。殺れ」
「は」

ラジールが足早に三人の後を追って行った。
階段下に大婆様だけが残った。

(もう一人の小さい方・・・。娘(?)とメリンダは言っていたか・・・。あの子からもただならぬ気配は感じるが・・・、光の御子とは。だが、伝承によれば御子は男と女が交互に生まれてくるはず。先代の光の御子は女・・・。何故あの娘(?)が御子なのだ?! あのメリンダが信じたくらいじゃ。余程の使い手かまやかしか・・・)

大婆様の眼が細められる。

「宝玉で何をするつもりかは知らんが、そう思い通りにはいかんぞ・・・」

















村のほぼ中心にある広場に人が集まっていた。
真ん中にキャンプファイヤーのように薪が高く積んであり、その中で火が踊っている。
その周りに、ある人は座って酒を酌み交わし、ある人はご馳走を手に歩き回って配っており、ある人は空いたスペースで何か踊りを踊っていた。
キーナ達もその輪の中に座って、ご馳走をもらい受けていた。

「もうすぐ村祭りだからって準備してたんだけどね」

レズリィが飲み物を持って来てキーナに手渡す。

「メリンダ姉さんが帰って来たのも兼ねて前祝いだって」
「そ~なんだ」

ありがとうと飲み物をもらい、ご馳走を口に運ぶ。
年が近いせいか、この二人、気が合っているようである。
祭りなど、人が集まる行事全般苦手なテルディアスは、ただ空気のように黙々と食べたり飲んだりしていたが、

「辛気くさい顔してないで、どんどんお食べ!」
「あ、ああ・・・」

この村の人達は皆人懐っこいのか、テルディアスにもどんどん話しかけて来た。
人見知りマックスのテルディアス、いたたまれない。
隙を見て席を立つと、そっと、誰にも気付かれないように、離れた木陰に身を隠した。

(元々こういうのは苦手だし、この姿だしな。終わるまでここで潜んでいよう・・・)

と暗がりで息をついた。
その頃、

「あり? テルがいない」
「あら?」

ようやっとテルディアスがいない事にキーナが気付いた。

















テルディアスから少し離れた木陰に、ラジールが身を潜めて様子を伺っていた。

(ダーディン・・・。本当にダーディンならば、いっそのこと、早めに始末してしまった方がいいのではないのか?何故様子を見なければならないんだ)

木陰に身を潜めたテルディアスは、時折宴の方をチラチラと気にしている。

(今だって、宴の様子を見ながら、誰を襲おうか考えているのかも・・・)

そう思うといてもたってもいられない。

(いっそのこと・・・、今・・・、俺が・・・)

ラジールが一歩踏み出した。
















木陰から男がにじり出て来た。
気配でこちらの様子を伺っていることは分かっていた。
きっと大婆様が命じたのだろうと思っていた。
機を見て殺せとでも言われているのだろうと。
じりじりとその男は近づいて来る。
宴の明かりはここまで届く事もなく、闇が事を隠してくれるだろう。

「信用されてはいないと思ったが、早かったな」

槍を構えた男が油断ない目つきで答える。

「これは俺の独断だ。大婆様は様子を見ろとおっしゃったが、お前のような危険な奴を、野放しになんてしておけるか!」

槍の穂先がジリジリと近づいて来る。
テルディアスは特に怖くはなかった。
ただ、

(たとえ戦っても戦わなくても、面倒な事になるのは目に見えてる・・・)

戦って騒ぎを起こせば、何もしなくてもダーディンである自分が悪いと責め立てられるだろう。
戦わなかったら言わずもがな。
しかし黙って串刺しになることなどできない。
さて、どうするかとテルディアスが悩んでいた所に、小さな足音が聞こえた。

「テル?」

ジャリ、と砂を踏む音に二人が振り向く。

「何してるの?」

キーナが闇を背に現われた。
テルディアスに向けられた槍を見て、キーナの眼が開かれる。

「何を、してるの?」

キーナの眼が男に向けられる。

「テルに何を、しようとしてるの?」

ざわり

空気が動いた気がした。

「あ・・・、うあ・・・」

キーナの瞳に射すくめられ、男は身動きが取れなくなった。
















(!! なんじゃ? この気配は・・・?)

屋敷で一人、瞑想をしていた大婆様が顔を上げた。















「も、申し訳ありません!」

気付くとラジールは土下座していた。

(な、なんだ・・・?! この迫力・・・! こんな小さい子供から・・・!)

一応15歳ね。

土下座する男を見て、キーナが慌てる。

「え? あの・・・、そこまで・・・」

キーナとしては、何をしてるんだ?と問いかけただけなので、何もしてないなら土下座する必要を感じない。
というか、何かする前だったのでは?

「し、失礼致しました!!」

男は高速お辞儀をすると、そそくさとその場から去って行った。
テルディアスには、何かに追われてでもいるかのように見えた。

「何があったの?」

状況がよく分からないキーナがテルディアスに近づいて来て問いかける。

(分かってねーのか)

テルディアス、小さく溜息。

「さあな、何かあったんだろ?」

とキーナの頭に手を乗せた。

「ふにゃ?」

何かってなんぞや?とも思ったが、テルディアスに分からない事がキーナに分かるわけがないと、早々にその考えを放棄する。

「そーにゃ。テルがいなくなっちゃったから探しに来たんだよ?」

頭をナデナデするテルディアスの手を自分の手で挟み込む。

「ああ、・・・こーゆー場は苦手だし、この姿だからな・・・」

とキーナの顔を見ると、タコが膨れてるような顔をしている。
たらりと汗が一筋。

「一緒に楽しまないと面白くないでしょ!」

と強引にテルディアスを引っ張って行った。

(俺に拒否する権利はないのか?!)

と強く思ったが、口には出せなかった。

















「キーナちゃあん」

メリンダがキーナの姿を捕らえ、走り寄ってくる。

「メ、メリンダさ・・・ぐえ」
「キャーッ! 会いたかった!」

ほんの数時間しか離れてないだろうが。
メリンダのとても・・・熱い抱擁に、首元が少し締め付けられたキーナ、くらくらする頭でなんとか疑問を口にする。

「み、禊ぎは・・・?」

メリンダは嬉しそ~うににっこりすると、

「いや~ん、こんな面白そうなことしてんだもん。抜け出して来ちゃった♪」

乙女が恥じらうかのような顔して身をよじる。
あ~、やっぱり~
とキーナとテルディアスが頭の中で唱えた。

「よう! メリンダじゃないか!」
「やっぱり抜け出して来たか!」

宴の面々からヤジが飛んできた。

「うっさいわね!」

メリンダ負けじと言い返す。

「メリンダお姉ちゃん踊って~!」

女の子の一人が叫んだ。

「そうだ! 踊ってくれ!」
「昔みたいに!」

みんなも踊れ踊れと騒ぎ立てる

「しょうがないわね~。みんながそこまで言うなら~」

と、一応渋々の態を装って、メリンダが輪の中へと入っていく。

「キーナちゃんも踊る?」
「うん!」

メリンダがキーナの手を取った。

「テルも!」
「俺はいい!!」

テルディアスは速攻拒否した。
キーナとメリンダが輪の中で踊り出す。
テルディアスはできるだけ外側で、早く終われと祈りながら座っていた。
しかし、お節介な人々はテルディアスの前に食べ物やら飲み物やらを頼んでもいないのに置いて行った。
そして、メリンダを探しに来たリオ姉さんとナスカは、火の側で踊るメリンダを見つけ、呆れながら睨み付けていた。
きっと後で怖い事になるのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...