キーナの魔法

小笠原慎二

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光の宮再び

逃亡

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扉の外の様子をテルディアスが伺う。
人の気配はない。

「行くぞ」
「うん」

バン!

乱暴に扉を開けて、廊下へと飛び出す。
そのままバタバタと廊下を駆ける。
その音を聞きつけたのか、一人の光の者が向こうの廊下の角から現われた。

「御子様!」

走り去るキーナの背に向かって叫ぶ。
ギクリと後ろを振り返り、その姿を認める。
その姿に向かってキーナが叫ぶ。

「ごめんなさい! 僕のいるべき場所はここじゃないみたい!」
「御子様―!」

止まる事なく、キーナ達は廊下を走っていく。
光の者が風の力を使い、宮の者達全員に声を送る。

《御子様が逃げたぞ! 手の空いている者は全て、御子様を捕らえにかかれ!》

宮内が騒然となった。











「御子様!」

廊下の先の曲がり角から、昨夜キーナの元を訪れた、三人の内の一人が現われた。
昨夜の事を思い出し、体が強ばるキーナ。

「逃がしはしません…」

男の言葉は、テルディアスの足の裏によって塞がれた。

ドカ

テルディアスが高く跳躍し、男の顔を足蹴にしたのだった。
そのまま地面に倒れる。

「邪魔だ」

一言呟くと、何事もなかったかのようにテルディアスは走り出した。
キーナはちょっぴり不憫に思いながらも、胸がスッキリしたのだった。












廊下の奥に窓が見えた。

「御子様!」
「御子様! 見つけたぞ!」

光の者が二人。

「お前は…?!」

先を走るテルディアスを見て、驚く。
テルディアスが加速し、一瞬にして、二人の背後に回り込む。

「何?!」

振り向いた一人に、テルディアスの膝が顔面にめり込んだ。
残る一人が手をかざし、力を集め始める。

「きさ…」
「わ――!!」

男の言葉は悲鳴に掻き消された。

「ん?」

悲鳴の上がった方向を振り向くと、

「あ」

キーナが振り上げた足が、見事に顎にヒットした。
本当はテルディアスのように高くジャンプして、顔面に飛び降りるつもりであったのだけれど、キーナにそんな跳躍力などありはしない。
不完全に飛んだら、たまたま顎に足が当たってしまったのだ。

「この場合、ごめんなさいと言うべき?」

間違いではないけど、間違いで当たってしまった…。
まあいいか。

「風斬!」

ガシャン!

テルディアスが窓を破壊する。

「キーナ」
「はいな」

キーナがテルディアスに飛びつく。
キーナを抱きかかえたまま、テルディアスが窓から飛び出した。
そのまま一目散に飛び去る。

「御子様――!!」

後ろから追ってきた者が、空へと追いかけようと窓から出ようとしたが、

「うわ!」

勢いづいた炎が、行く手を阻んだ。

「何故だ?! 何故火の精達が、光の者われらの言う事を聞かんのだ?!」

火は収まる事なく、宮を着々と包んで行った。


















低空で飛ぶテルディアス達。
すると下から、声が聞こえてきた。

「あ!」
「キーナちゃーん!」

メリンダが少し開けた所で、両手を振っていた。

「メリンダさん!」

そこを目がけてテルディアスが下りていった。
地面に降り立つと、

「メリンダさん!」
「キーナちゃん!」

キーナがメリンダに飛びついた。

「会いたかった!」
「僕も!」

お互いにぎゅっと抱きしめ合う。

「キーナ!」

その横から声。もちろんサーガのもの。
サーガも両手を広げ、さーさーめいっぱい飛びかかってらっさいらっさいらっさい、と待ち構えるが、何だか不穏な空気を感じたキーナ。

「会いたかったよ! サーガ!」

メリンダに抱きついたまま片手を上げただけだった。

「そんだけ?!」

なんだか俺にだけ冷たくない?とちょっとしょんぼり。
その時、空の彼方から迫り来る二つの影にテルディアスが気付く。

「追っ手が来るぞ!」

空を見上げる三人。

「まっかせなさ~い!」

メリンダが宙を一睨みすると、

ゴウ!

炎の渦が巻き起こった。

「うわあ!」

「サーガ!」
「おうよ!」

瞬時にサーガが結界を張り、そのまま空へと飛び去る。
炎の渦はしばらく収まらず、ようやっとなんとかした時には、すでに追いかけていた人影は、影も形もなくなっていた。

「逃げられたか…」

力なく、一人が呟いた。

















素早く森の上を、山の陰を飛んで行くキーナ達。

「へ~、こうやって来たんだ~」

結界に感心するキーナ。
自分で飛ばないぶん楽だし、飛ぶのが苦手なメリンダも一緒に行けるので便利だ。
サーガがこの魔法が使える事に感心する。

「すげーだろ。なかなか疲れんだぜ、これ」

一人先頭に座るサーガが、ほぼ真後ろのキーナに振り向く。

「うん。すご~い」

素直に賞賛するキーナ。

「へっへっへ。そうやって褒めてくれるのは、キーナだけだぜ…」
「昨日のうちに着いてたらね~。凄いって言えたのにね~」

メリンダが皮肉る。

「仕方ねーだろ! これすげー疲れんだってば!」

何しろ結界を張り、その結界を浮かせ、ましてや飛ばしている。
かなり集中力がいるのだ。

「あ、まだ疲れが…」

ふらりとするサーガ。

「ここで倒れるなよ」

テルディアス釘を刺す。
今ここで倒れられても、まだ宮に近い。油断ならない。
できればもう少し遠くまで行きたい。
今は早く逃れるためにも、サーガに倒れられる訳にはいかないのだ。
サーガをせっつく。

「とにかく、無事で良かったわ、キーナちゃん」
「うん」

ちょっと安心して、メリンダがキーナに微笑みかける。

「無事で…」

キーナの全身をなめ回す。

「無事で…」
「?」

笑顔が少し引きつる。

「無事で…?」
「?」

ついつい、心配そうな顔をして、キーナの肩に手を乗せてしまう。

「おいおい」

サーガが止める。

「突っ込んで聞くような事じゃないだろ」
「そうだけど…」

メリンダがキーナから体を離し、モジモジする。
分かってはいるのだ。
もし無理矢理そんな事をされたのならば、どれ程の恐怖を味わったであろうか。
思い出す事だって辛いに違いない。
ましてや、人に話す事などできやしないだろう。

「? …!」

キーナもようやく、メリンダ達の心配事に気付く。
そう言えば、テルも以前、宮に捕まっていたのだ。
同じような目にあっていてもおかしくは無い。
それをテルディアスから聞いて二人共知っていたのだろうと。

(そっか…テルが…)

チラリとテルディアスを見ると、テルディアスもなんだかソワソワとした顔をしている。
なんだか一生懸命キーナから視線を外しているみたいだ。
テルディアスも心配していたのだ、と思うと、なんだか嬉しかった。
脇に置かれたテルディアスの手の上に、そっと自分の手を乗せた。

「大丈夫だよ」

テルディアスがピクリと反応するが、他の者は気付かない。

「僕、大丈夫だよ」

メリンダに向かってにっこりと微笑みかける。

「本当? 本当に?」

思わずメリンダ食い下がる。

「うん!」

テルディアスがそっと、キーナの手を包んだ。
柔らかくて小さいその温もり。
テルディアスの顔に安堵の色が浮かぶ。

「本当ね! 本当なのね!」

がっつり食いついてくるメリンダ。

「う、うん」

ちょっとその迫力に押され気味になるキーナ。

「きゃ~ん! キーナちゃ~ん!」

メリンダが思いっきりキーナに抱きついた。

「ぐえ!」

その衝撃で、テルディアスの手の中から、キーナの手が消えた。

「キーナちゃん!?」

強く抱きしめすぎて、意識を失いかけたキーナを、メリンダが揺さぶる。

「殺す気か?」

サーガが突っ込んだ。
その騒動の横で、なんだか不機嫌になったテルディアスがいた。














無事に生還(?)したキーナの横で、メリンダがはしゃぐ。

「次の街に行ったら、まずは服ね! 可愛いの見繕っちゃう!」
「普通のでいいよ」

なんだかものすごい服を着せられそうで、キーナが一応突っ込むが、どの程度メリンダの耳に届いたのだろうか。

「そのままでもいいと思うぞ?」

サーガが前から口を挟む。

「なんで?」
「眺めがいい♪」

ハッとなって、キーナが急いで体育座りしていた足をペタリと下に下ろした。
超ミニスカート状態になっている今状態では、その中身が丸見えになっていたのだろう。
履き慣れていないので油断した。

「サーガー!」

メリンダが拳を振り上げた。

「わ! 待て! 今は!」

サーガの叫びも虚しく、その鉄拳がサーガの顔を捕らえた。
その途端、消え去る結界。

「わ――!!」
「ぎゃ――!!」

突然宙空に投げ出され、落ちて行く。
テルディアスが風の魔法を唱えようとした時、

ブワッ

風の結界が再構築された。

「集中してる時に殴るな! バカ!」

殴られた頬をさすりさすり、メリンダに向かって怒鳴る。

「あんたが変な事言うからよ!」

ドキドキする胸を押さえながら反論するメリンダ。

「まったく」

サーガが再び意識を集中させ、結界の舵をとる。

「ほら、さっさと次の街を見つけてよ。また野宿なんてや~よ」

メリンダが偉そうに注文を付けてくる。

「…風使いの荒い姐さんだぜ…」

ぼやきながらも、サーガは結界を飛ばしていった。
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