キーナの魔法

小笠原慎二

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光の宮再び

悩み

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テルディアスには悩みがあった。
元々彼は、その少し訳ありの家庭環境で育ったためか、恋愛に対してもの凄い偏見を持っていた。
欲望を満たすためのお飾りの言葉=愛、と。
故に彼は今まで一度も恋など…、したことはなかった。

(自覚していないニブチン野郎だった。)

だが、闇の魔女によってダーディンの姿に変えられ、真の孤独を知ってから、今までどれだけ周りの人達に助けられていたかを知った。
そんな孤独に苛まされる中、彼は一人の少女(?)と出会った。
最初は責任感から、その少女と旅をした。
だが、少女と一度別れ、再び独りの時間を過ごし、再び少女と出会った後は、独りに戻ることが怖くなり、離れられなくなった…。

幸い少女は自分に(疎ましく感じるほど)懐いてくれているので、離れていく心配は無かった。
だが、時々この少女が、普段は少年にしか見えない少女が、女だと実感させられる事が起こり、彼の胸の奥にいつからか、妙なざわめきが立つようになっていた。

(やっぱりニブチン野郎だった。)

そのうち意図せず旅の仲間が加わって、彼の中のざわめきも、なんだか大きくなっているような気がしていた。
そして最大の焦点は、近頃、少女に対し、少~~~しだけ、びみょ~~~に、ほんのちょ~~~~っぴりだけだが…、女を感じるようになってきてしまった自分に、悩んでいた。


テルディアスの背後では、その問題の少女が、気持ちよさそうに眠っていた…。











キーナに悩みができた。
いつものように夜中にふと目が覚めて起き上がる。
暗い空は晴れていて、月や星がよく見えた。
口元に手を当て考える。
今から自分のしようとしていることを…。



つい先日、自分の内にある強大な力を暴走させてしまい、一つの街とそこに住む人々を、跡形もなく消し去ってしまった。
それだけでも心苦しいのに、よかれと思って行った光の宮にて、男達に襲われるという、経験したくもないとても怖い体験をすることになった。

幸い大事には至らなかったが…。

実を言うと、それまで共に旅して来た男達にさえ、少なからず恐れを抱くようになってしまった。
そんなことをするはずがないと分かっていても、体が拒絶してしまう。
メリンダの側にひっつき、さりげなく悟られないように振る舞ってはいるが、怖いものは怖いのだ。




キーナはベッドを下り、静かに部屋を出る。
隣のテルディアスの部屋へ行き、静かに錠を外し、中へ忍び入った。
キーナにとって、最大の悩みは、いつも安心して寝ていた男の隣で、今までのように眠れるのか、ということだった。
だったら寝なきゃいーじゃねーか、と思うかもしれないが、キーナには幼い頃から見る恐ろしい夢があり、その夢を見た後は酷く孤独を感じ、一人ではいられなくなる。
だったら同室の女性でもいいではないかと思われるが、何か違うのである。
あの女性がいれば、あの怖い夢を見た後も平気ではあるが、この男の元ならば、あの夢さえ見ないで済むという安心感がある。

何故かは、分からないが。

男に対する恐れと、夢に対する恐れ。普通の人ならば、迷わず夢を取ったかもしれない。
だが、男から感じるあの安心感は、キーナにとって、なくてはならないものになっていた。
しばし、眠りこける男、テルディアスの顔を見つめていたが、

(可愛い…)

普段は、油断のない、隙のない顔をしている男が、安心しきった顔で寝こけている。
その寝顔は少年のようだった。
そっと手を伸ばし、無造作に置かれた男の手に自分の手を重ねてみる。
眼を覚ます気配は無い。

(あったかい…)

キーナの手では覆いきれないほどに大きな手。
ちょっと考え、男の手をうんせと持ち上げてみる。
それを顔まで持って来て、その掌に自分の頬を埋めてみた。

(おっきいにゃ…)

その手を広げれば、キーナの顔など容易く隠れてしまうだろう。
大きくて温かいその手の温もりを感じていると、不思議と、目の前の男に対する恐れが消えていく。

(この人ならば、テルならば…、大丈夫)

自然とそう思えた。
胸の内に、仄かに湧き上がった感情に気付くこともなく、いつものようにいそいそと男の隣に体を横たえる。
その大きさと温もりと、微かな鼓動を感じながら、キーナは目を閉じ、そしてすぐに、安らかな寝息を立て始めた。
キーナの悩みは解決したのだった。













いつものように朝が来て、いつものようにテルディアスがベッドの横でうなだれている。
うん、いつもの光景である。
キーナがパチリと目を覚ますと、テルディアスのうなだれる後ろ姿が目に入る。
もそもそと起き上がり、

「おふぁよぅ、テル~」

と欠伸混じりに朝の挨拶。

「うぎゃあ!」

悲鳴を上げて向こうの壁際まで逃げるテルディアス。
なんだか情けない姿だ。

「? テル?」

何がそんなに驚いたのかと、頭をポリポリ掻きながら考えるが、自分は何もした覚えがない。
テルディアスは壁に背をつけ、緊張しながら、

「お、起きタか…」

半分棒読みでキーナを見上げる。

「うん! おはよ!」

満面の笑みで答えるキーナ。
だがその笑みも、テルディアスには油断のならないものとしか映らない。

「起きたなら…、出てけ…」

精一杯冷静に言葉を紡ぐ。

「にゅ? うん、そーする」

キーナの素直な返事を聞いて、ちょっとほっとする。が、

「テルがおはよって言ったら」

条件出して来やがった。
それくらいで素直に出ていくのならばと、

「お、おは…よう…」

声を絞り出す。
これでどーだと言わんばかりに、テルディアスがキーナを見つめる。
その視線を軽々と受け止め、

「えへへ~」

とにへりと笑った。
テルディアスには怪しい笑みにしか見えない。
ぴょいっとベッドから下りてくる。
いちいち反応してビビるテルディアス。
だからからかわれるんだよ…。

素直に扉へと向かうかと思いきや、何故かテルディアスの顔をじいっと凝視する。

「な、なんだ?」

壁があるのでそれ以上は後退れないテルディアスが身を固くする。
するとキーナがにっこり微笑んで、

「うん! 大丈夫!」

と言った。

「? 何が?」

一体何のことを言っているのやらとテルディアスが尋ねるが、

「何でもにゃーい!」

とクルリとキーナがテルディアスに背を向け、扉に向かう。

「じゃ、また後でね」

そう言って、部屋を出て行った。
パタンと静かに扉が閉められる。
そしてやっと、テルディアスが強ばっていた筋肉から、力を抜き始めた。

「今日は…、素直だな…?」

いつもならもう一悶着あっても良さそうなものだが…。
少し不思議に思いながらも、テルディアスはおずおずと支度をし始めた。
今朝も綺麗に晴れている。
今日も一日いい天気に恵まれそうであった。
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