キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
133 / 296
テラモト

テラモト

しおりを挟む
それはこの世界で語られている神話。

「光と闇がこの世界を形作り、四大精霊が世界を廻す。それがこの世界の成り立ち。そして人は、その精霊の力を、加護によって、または訓練によって扱うことができる。何故人のみが精霊の力を扱えるのかは謎だけど、一説には魂の昇華によるものだと言う人もいるわ」
「魂の昇華?」
「よくは分からないけど、魂の元みたいなのがあって、そこから生み出された魂が、植物、虫、動物、人という感じで魂の位を上げていくとか。そして人の上が精霊なんだって。だから人は精霊の力を扱うことができると言われているわ」
「へ~」
「魂を昇華するには、善行を重ねるとか、徳を積むとか、まあ、善いことをしていればいつか位が上がるかもって言われてるんだけどね」
「ホウホウ」
「で、そういうことを実践しているのが、テラモトと呼ばれている所なの」
「な~るほど!」



部屋の扉がバタンと開かれる。

「面白ぇ情報仕入れてきたぜ~」

と遠慮もなしにズカズカとサーガが入って来た。

「なんざます? その顔」

メリンダに睨まれ、立ち竦む。

「まさか、テラモトのことじゃないでしょうね?」
「あら嫌だワン。もう入手済み?」
「今キーナちゃんに説明してた所よ」
「な~んだ、そうざますのね~」
「何その言葉使い!」
「なんとなく」

メリンダとサーガが仲良く口げんかしている間、

(僕の世界のお寺とか教会みたいなもんか)

とキーナが一人で納得していた。
サーガが遠慮なく、二人が座っているベッドの端に座り込む。
もう一つあるベッドには、何故か暗い空気を纏ったテルディアスが座り込んでいる。

「んじゃ、アレ行くのか? 体験修行だっけ?」

どういう活動をしているのか知りたいな、という人向けに、一日体験修行というものができるらしい。

「もちろんよ。堂々と宝玉を探し回れるチャンスじゃない」

その問題のテラモトに、なにやら希少な宝玉があると街で噂になっていたのだ。

「だよな。んじゃあ、俺は今回出番なしだな~」

と大欠伸。

「んなわけないでしょう…」

メリンダがニヤリとほくそ笑む。

「え? だってあそこは女寮だから男子禁制なんじゃ…」

テラモトは男性寮と女性寮に別れているらしく、男性寮は女性禁止。女性寮は男性禁止となっている。
と、なにやらメリンダ、側の袋をゴソゴソすると、中からサーガの髪の色とほぼ同じ色のカツラを取りだした。
冷や汗。

「女装…しろと…?」
「人手は多い方がいいでしょう?」

メリンダにっこり。

(あ~、だからテルディアスが落ち込んでたのか…)

プライドの高いテルディアス、女装したくないと拒否したはずだが、結局あんた自身が探さないでどうすんだとか言われて、承諾するを得なかったのだろう。
サーガだって嫌だ。

「いや、だけどさあ姐さん、俺みたいのが、んな所行ったらヤバいとか、思わなかった?」

必死に逃げ口上を探す。

「そりゃあもちろん、考えないわけないわよ」
「ダロ? ダロ?」
「でももし万が一そんなことをしたら、私の灼熱の想い・・・・・が、あんたのコカン・・・を焦がすわよ?」

下手な真似をしたら、男ではいられなくなるぞと…。
サーガも膝を抱えてテルディアスの横で暗くなった。

「まともな男でいたかったら、大人しくしておくことね!」

おーっほっほっほとメリンダの高笑いが響いた。












体験修行の日。
キーナも目立たないようにカツラを被る。といっても短い髪を長くするだけの話。
そして修行用の衣服に着替える。
メリンダは服を変えるだけ。長い髪を一つに纏める。

大変なのはサーガとテルディアスだ。
服を変え、胸に詰め物、頭にカツラを被り、なおかつ化粧を施す。
化粧はメリンダが担当。
手早く二人の顔から男っぽさをなくしていく。

最初に出来上がったのはテルディアス。
テルディアスはその耳を隠すために、カツラの上からさらに被り物。
顔は肌色に塗られ、付け睫毛も完備、頬も少し明るくしようと頬紅を軽く塗られ、唇も少し色が悪いと口紅も目立たない程度に。

出来上がったテルディアスの顔を見て、キーナは5秒ほど耐えた。
その後腹を抱え、

「ぶひゃーっはっはっはっはっは!」

と爆発したかのように笑い転げる。

「キーナ…」
「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
「おい!」

笑いが止まらない。
殴りつけたいのを必死で我慢する。

その横で着々と出来上がるサーガ。
テルディアスよりは化粧も楽だ。

「よし、できた」

メリンダが筆を取り上げた。

「なかなか似合うわよ…」

震えた声で一応褒める。

「嬉しくないよ」

女装が似合うと言われて嬉しいのは、そういう趣味のある人だけだろう。
笑い転げていたキーナが、サーガの顔を凝視した。
そして何か考え込んでいる。

「メリンダさん、メリンダさん」

メリンダの袖を引っ張ると、なにやらメリンダに耳打ちした。

「うん、確かに。そうね」

なにやらメリンダ同意した。
そして手にカミソリを持ち、

「やっぱり剃りましょう」

とサーガに迫った。

「え? え? 何を?」

剃るって、毛?どこの?

「ちょ…」

必死の抵抗も虚しく、サーガの自慢の毛は剃られた。













テラモトの前で、迎えに来た女性が微笑んだ。

「ようこそ、一日体験修行へお越し下さいました。お待ち申し上げておりましたわ」
「よろしくお願いしま~す」

キーナとメリンダが元気よく挨拶する。
横の男共の顔は暗い。
サーガも一応小声で

「…しま~す」

と返事。
テルディアスはボロが出ないように、口がきけない設定になっている。

「お二人ほど顔色が優れませんけど…」

と案内の女性が心配そうに首を傾げる。

「緊張してるんですわ」

メリンダがこっそりサーガの頭を肘で小突く。

「て、あにすんだよ」
「怪しまれないようにしなさいよ」

小声で言い合う。

「んなこと言ったって…。俺の凜々しい眉毛…」

女にしては眉毛が太くないか?というキーナの意見で、サーガの男らしい眉毛は今や細~い眉毛になってしまっている。

「女々しい!」
「め、女々しいって…」
「すぐまた生えてくるわよ!」

ボソボソと言い合う二人。
何を言ってるのかしらと、案内の女性はまたも首を傾げたが、とりあえず案内する自分の役割を果たすことにした。

「では、ご案内致しますわ。修行と言っても大したことはございません。とりあえず皆様は、各部署にてお仕事を手伝って頂きます」

と中を簡単に案内し始める。

「ほ~~~~う」

サーガが周りを見渡すと、女、女、女…。

「本当に女しかいねぇんだな~」

と感心。

「当たり前でしょ」
「こいつぁやる気が出ますなぁ…」

と思わずコカンに血流が集中。

「どこにやる気を集中させとるか!」

メリンダのするどい蹴りが、集中した所をクリーンヒット。

「ぐぼっ!!」

少し行動不能に陥る。

「気にしないでください」

とキーナが案内の女性に声をかけた。

「はあ…」

意味が分からず、女性はまたもや首を傾げていた。














四人はそれぞれ部署に分けられ、仕事を手伝い始める。
サーガは掃除。
廊下の雑巾掛け担当。

「掃除ねぇ…」

めんどくせーと思いながら、搾った雑巾を広げていると、

「サーラさん?」

声を掛けられた。

「あの、サーラさん?」
「あああ! ハイハイハイ!」
(やっべ、偽名使ってたんだっけ)

一瞬自分だと分からず、サーラって誰だ?と首を傾げてしまった。
一緒に掃除を担当している女性が声を掛けてきたのだ。

「サーラさんも俗世と関わりを絶ちたい何かがあってここへいらしたのですか?」
「え、ええ…、まあ…」

こんな所に入りたがる奴の考えなんて分からんわ!と内心突っ込む。

「どんなことかお伺いしてもよろしくて?」

とにっこり。
なんでここの女は皆バカ丁寧な喋り方するんだろうなと思いながら、必死に言い訳を考える。

「え、え~と…」

こういう所にはどんな奴が入るんだっけ?と昔聞いた噂話を思い出す。

「そ、その、性欲が激しくてですね…」

なんか昔、性欲は罪だとか唱えた聖職者の話をまともに受け止め、テラモトに入った男がいたとかなんとか。
その話を思い出し、なんとか言葉を紡ぐ。
てか、当てはまりすぎ。

「その情念を断ち切りたいな~なんて…」

まてよ?これ男の話だけど、女でもいけるのか?と内心焦りだしたが、

「まあ! でしたら、本当に良い所に来られましたわ!」
「は?」

何故か目の前の女性はとても嬉しそうな顔をした。













メリンダは洗濯の係。
畳んだ服をもって、指定の場所まで持って行く。

「よいっしょっと」

廊下の向こうから、女性に連れられて、サーガが歩いてくる。

(ん? サーガ?)

向こうで掃除してたんじゃなかったっけ?と思っていたら、サーガの口が小さくパクパクと動いた。
少し遅れてメリンダの耳元に言葉が届く。

「話の流れで宝玉まで案内してもらえることになった。盗めるものなら盗んでくるから、キーナ達に伝えてくれ」

まるで耳元で囁かれているかのようだった。
にっと笑い、小さくVサインをして、サーガが女性の後を付いて行った。

(はあ…さすがというか…)

噂話を拾うのが上手い。
これもサーガが風だからなのだろうか。

(ま、なんにせよ、でかしたわサーガ)

珍しく心の中でだけだが、サーガを褒めたメリンダ。
仕事の隙を見つけ、キーナの元へと行った。














キーナは台所仕事の手伝い。
洗い終えた皿を拭いていた。

「キーナちゃん」

メリンダの声で振り向く。
拭いていた皿を置くと、メリンダに近寄っていく。

「メリンダさん、どしたの?」
「んふ、あのね」

メリンダがそっとキーナに耳打ちした。

「てなわけだから、テルディアスにも伝えといてくれる?」
「ラジャ!」

メリンダは怪しまれないように持ち場へ戻った。
キーナは適当な用を見つけ、テルディアスの元へ向かった。














テルディアスの仕事は風呂釜の管理。
人数が多いので、代わる代わる風呂に入りに来る。
その間火を絶やさないように見張って、薪をくべる。

「テッル」

火を見ていたテルディアスが振り向いた。

「頑張ってる?」

こくんと頷くテルディアス。
ここは一人担当らしく、他に人はいなかった。
口がきけないテルディアスにはありがたい。
ところが、突然目の前の窓がガラリと開いて、テルディアスがビクリとする。

「テルザさん、でしたかしら? お湯の加減が熱いので、少し火を弱くして下さる?」

と女性が顔を出した。
もちろん裸だ。
一応窓は高い所にあるので、顔くらいしか見えないのではあるが…。

「あら? 薪を取りにいらしたの?」

キーナを見て言った。

「え、ええ…」

ひくつる顔をなんとか笑顔にし、答える。

「頑張って下さいね」

にっこり微笑むと、女性は窓を閉めた。
無言でテルディアスに視線を向ける。
テルディアスは昨日から続いているような暗い空気をしょっていた。

「頑張って…」

優しくその肩に手を置いた。


サーガが知ったらきっと悔しがるだろう…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...