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テルディアスの故郷編
剣戟
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なんとか自力で復活したテルディアスと共に、道場へと帰り着く4人。
「ただいま~」
と、扉を開けて元気よく入ってくるキーナ。続く3人。
振り向く門下生達。
最後に従ってきたテルディアスの姿を捉えると、
「帰って来たかテルディアス―――!!」
「ギャー!!」
一斉にテルディアスに飛びかかっていった。
どんだけ人気なんだ。
「なんだ? お前?!」
「久々マーサさんに甘えて来たってか?!」
「コノヤロコノヤロ!」
と揉みくちゃにされるテルディアス。
「相変わらず大人気…」
「邪魔になるから向こうに行ってましょ」
「そうしようそうしよう」
と、そそくさとテルディアスを置いて行くキーナ達だった。
「甘えとらんわ――!!」
縋り付いてくる者達を一斉に吹っ飛ばすテルディアス。
綺麗に吹っ飛ばされる門下生達。
そこへ今まで姿を消していたアスティが現われた。
「落ち着けって、みんな」
「アスティ」
「テルディアスがマーサさんに甘えるわけ無いだろう?」
おお、アスティも偶には良い事を言うじゃないかとテルディアスは感心したが、
「クマちゃんに会いに言ってたんだろ?」
やっぱりアスティだった。
「「ああ~~」」
何故か納得する門下生達。
「ベラーのぬいぐるみ、お前可愛がってたもんな~」
「ガキの頃の話だ! ガキの頃の!!」
テルディアスがアスティを追いかけ始める。
これ以上アホな事を喋らすまいと。
「「へぇ~~」」
とニヤニヤとするメリンダとサーガ。
あ、これ後でからかいネタにする気の顔だ。
キーナはあれ?と言う顔をしている。
(この世界ではクマって言わないのかな?)
実はキーナが知らないだけで、色々生物の呼び名が違っていたりする。
でも話題に上がった事もないのでそれを不思議に思う事もなかったのであった。
キーナが渡したあのぬいぐるみ。
『クマちゃん』と名付けてテルディアスが小さい頃可愛がっていたらしい…。
まあ別段悪い事ではないよね、と一人何か納得しているキーナだった。
「まあ、それはそれで置いといて」
とアスティが急に止まる。
勢いがついていたテルディアスは止まる事もできず、上手く躱してついでに出したアスティの足に引っかかって綺麗に前回りで転んだ。
しかしその先には椅子とテーブルがあったりするのだけど。
(あのテルディアスが…)
(あのテルが…)
((軽くあしらわれてる?))
キーナの不意打ちなどで転ぶ、または転ばされる事のあるテルディアスであったが、普段であればそんな隙を見せる事はない。
アスティの実力がどんなものなのか。
サーガの胸が高鳴る。
派手に音を立てて転んだテルディアスが起き上がる。
顔を押さえているのは椅子の脚にでもぶつけたのだろうか。
「…っの!」
睨み付けるテルディアスに、
「ホレ」
アスティが練習用の剣を投げ渡した。
自分も練習用の剣を担ぎ、言った。
「久々相手になってやんよ」
テルディアスの目が開かれる。
門下生達も驚きのあまり皆口と目が大きく開かれた。
あのアスティが。
いつも練習から逃げ回っているアスティが…。
一応今の道場主なんだけど…。
「師範」や「先生」と呼ばれることも嫌がり、滅多に練習の相手もせず、とりあえず打ち方などの練習は見ているけれども、それだって形を整えてるだけの話なのではと有名なアスティが…。
驚きのあまり静まりかえったその場に、テルディアスの嬉しそうな声が響いた。
「ああ、もちろん!」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
サーガが異議を申し立ててきた。
「俺との勝負はどうなんだよ! 俺との!」
「ん? 門下生全員とやったのか?」
「やったっつーの! 勝ったっつーの!なのに、終わった時にはまたあんたどっかに消え…て…」
アスティの手が何かを指し示している。
サーガがその先を見ると、立ち上がるテルディアスの姿。
そう、テルディアスも門下生の一人だ。
「……やっでまぜん…」
サーガ、悔しそうに項垂れた。
「全員とやって、勝ったらな~」
楽しそうにアスティが練習場の方へと向かっていった。
道場中が騒がしくなった。
「あのアスティがやるらしいぞ!」
「あのアスティが?!」
「しかもテルディアスと?!」
「アスティが?!」
「アスティがやるって?!」
「テルディアスを襲うのか?!」
「やっぱり男色…」
「違う! 戦うんだ!」
途中で情報が乱れたようである。
練習場のほぼ中央で向かい合う二人。
それを見守るキーナ達と、門下生達。
壁際がほぼ人で埋まった。
皆滅多に見ないアスティの剣技を見れると嬉しそうである。
しかもその相手が、実力が伯仲していると思われるテルディアスだ。
「凄い観客ね…」
「ほんと…」
観客の多さにあきれ果てるメリンダ。
本当に大丈夫かこの道場と心配になる。
「なあ、あのアスティって兄さんとテルディアスじゃ、どっちが強いんだ?」
サーガが隣に立っていた門下生に話しかけた。
「え?! え~~~っと…」
門下生が首を2、3回捻り答えた。
「多分…、アスティ…」
「たぶん?」
「アスティはまともに剣を合わせる事のない人だから、誰も本当の実力を知らないんだよ」
「おいおい」
練習で剣を交わす事はある。
だがしかし、明らかに手を抜いていると分かるのだ。
自信を付けるためなのか、はたまた面倒くさいだけなのか…。
「昔は神童って呼ばれてたらしいけど…」
「強かったらしいぜ」
「それがいつの頃からかサボるようになって…」
「今のようになっちまったと」
聞いてもいないのにべらべらと喋ってくれる門下生達。
「そんなにサボりまくってるなら、弱いんじゃねーの?」
門下生達が黙り込んだ。
だが皆一様に渋い顔をしている。
「でもあの人が弱いって…、想像つかないよな…」
「亡くなった先代の信頼も厚かったし…」
「弱いとは思えん…」
考え込む門下生達だった。
「変な師範だな」
サーガも何故か、アスティが弱いとは思えなかった。
何故か。
こきりこきりと首を回し、ブンブンと腕を振り回す。
「さってと~。久々に本気出すか~、テルディアス」
「ああ…。望む所だ!」
テルディアスは既に剣を構え、本気の目だ。
「そう力むなって。そこがお前の悪い所だ!」
ブラブラしていたと思った次の瞬間、アスティが踏み込み、一瞬で間合いを詰めた。
全くの自然な動作で剣を振り下ろすアスティ。
待ち構えていたかのように受けるテルディアス。
「おほっ。良い反応」
踊るように一回転したアスティの剣を、難なく受けるテルディアス。
次の瞬間、剣では無く、足がテルディアスの顔面に迫る。
予期していたように後ろに跳んで避ける。
そこへ、一瞬で間合いを詰めたアスティが上段から剣を振り下ろす。
ガゴン!
重い音が響き渡る。
両手で剣を持ち、アスティの剣を止めたテルディアスの腕が、小刻みに震えている。
「ふう~、良い反応するようになったなぁ、テルディアス」
「あんたはやっぱり強いな、アスティ」
二人が距離を取った。
「ふ~ん、あの兄さん、戦場では相手にしたくない手合いだな~」
再び始まった剣戟を見ながら、サーガがポツリと呟いた。
「なんでよ?」
呟きが聞こえたメリンダが問いかける。
「う~ん、あの兄さん、最初から全く、殺気がない」
今も打ち合い続けるテルディアスからは、殺気、程まではいかないけれども、闘気が溢れている。
普通なれば皆そうだ。
練習とは言え、下手に当たれば骨折しかねない剣での打ち合いでは、少なからずとも気が漏れる。
ところが、アスティからはその気配が全くない。
剣を振り始める前の落ち着いた状態、普通の気配しか感じられないのだ。
「本気を出してないだけかもしれんけど…。もしあれがあの兄さんの本気だっつーなら、あの人、息をするように人を殺せる人だぜ」
門下生達が目を剥いた。
いつもへにゃりと笑っているアスティからは考えられない言葉だ。
「あーゆー奴は背後に立たれても気配を感じねーから、背中からブスリとやられるんだよな~」
暗殺者タイプの人間。
本物の暗殺者は殺気がない。
だからこそ怖い。
まあ、滅多に戦場という人が入り乱れる所には現われないのであるけれども。
激しい打ち合いが続く。
そして再び二人が距離を取る。
テルディアスが両手で構えているのに対し、アスティは本当に戦っているのかと言いたくなるほど自然体で剣を下げている。
のに隙が無い。
「いや~、嬉しいぜテルディアス。想像以上だな~。本気の俺とやり合えるのは、お前しかいないと思ってた♪」
にぱっと嬉しそうに笑う。
「てことで、こっからは真面目に、殺り合おっか?」
「!!」
アスティの言葉に、警戒するテルディアス。
と、アスティが軽く地面を足で叩いた。
「地縛《ウルバル》」
地面からツタが伸び、テルディアスに襲いかかる。
反応が遅れたテルディアスだったが、なんとか全てを避けきる。
(いつの間に地の気を?!)
考える間もなく、アスティが後ろから襲いかかる。
地に伏せて剣を避け、そのまま足元に斬りかかる。
「うおっと」
飛び退るアスティ。
そして2、3合打ち合った時、
「地《ウル》…」
アスティの言葉を聞き、飛び退る。
「矢《ロア》!」
地面が矢のように鋭く盛り上がった。
まともに受けていたら、行動不能どころか、重傷を負う。
(また…!)
詠唱なしの、発現の言葉のみで魔法を発現させるアスティ。
テルディアスも魔法を発現させようとするが、それに集中する暇が無い。
またも踏み込んでくるアスティに迎え撃つ。
テルディアスの旗色が悪くなっていく。
その戦いを見ていたキーナが呟いた。
「アスティさんて凄いねぇ…」
「え? ええ、かなりの剣の腕よね」
「うんにゃ! 魔法の!」
「え? 魔法?」
サーガがどういうことだとキーナを見る。
「うん。だって、魔法使う時ってさ、使う精霊の気配探して、繋がる所から始めるでしょ?」
((そーゆーものなんだ…))
精霊の加護を受けているので、意識せずとも繋がっている状態の二人には、分からない事だった。
普通の者はキーナの言う通り、精霊の気配を探し、繋がる所から始める。
詠唱がその役割を果たしていると言える。
そしてどういった事象を起こして欲しいのかをきちんと思い描きながら、言霊に乗せ、精霊達に頼む。それが魔法である。
キーナはおじいさんとの特訓のおかげで、詠唱なしで精霊と繋がることができるようになったが、精霊と繋がる作業はきちんとやらねばならないのである。
「でもアスティさんは、それを一瞬でやっちゃう…」
詠唱なしで、事象を起こす言霊だけを発している。
「おじいさん並みの実力者なのかもね~」
「おじいさん? お前の言うおじいさんて、もしかしてミドル王国の…?」
「うん」
名前まで聞かずとも、門下生達の脳裏に思い浮かぶ名前は一つ。
レオナルド・ラオシャス。
門下生達がどよめいた。
門下生達はあくまで剣士であるので、魔法の事にはそこまで詳しくない。
なので、そんな話は今まで上ったこともなかったのである。
「まったく…」
テルディアスが少し構えを解いた。
「アスティ、あんたはどれだけの物を隠してたんだ」
テルディアスの問いに、アスティは左手の親指と人差し指をちょこっと広げて、
「コレだけ♡」
と頬を赤らめた。
「アホ言うな!!!」
そんなちょっとでは無いだろう。
「そーゆーお前だって、まだ全力じゃないんだろう? 見せてみろよ。お前の全力」
テルディアスが不敵な笑顔を見せる。
「…まさか、人間相手に全力で戦う事があるとはな…」
含みをもたせた言い方に、
「あ、その意見には俺も同意」
何故かアスティが乗ってきた。
「?!」
思わず目をパチクリさせてしまうテルディアス。
「どーゆー意味だ?!」
「勝ったら教えてやろう」
アスティがニヤリと笑う。
(まだ何か隠してるのかこの人は…)
アスティの底の深さに歯噛みするテルディアス。
そしてまたお互いに剣を構え、同時に踏み込んだ。
先程までとは比べものにならない、激しい剣の応酬が始まった。
「早すぎて見えない…」
メリンダの目では追いきれなかったようだ。
キーナとサーガは目を輝かせているが…。
テルディアスとアスティの体が、示し合わせたように回転する。
ドガッ
重い音が響き渡る。
そこでアスティが気付いた。
テルディアスがぶつぶつと何かを唱えている事に。
思わず顔がにやける。
剣を捌き、お互いに距離を取った所で、
「地縛《ウルテガ》!」
テルディアスが魔法を放った。
ドゴオ
アスティの目の前の地面が弾け飛んだ。
「残念、外したなぁ~」
サーガが苦い顔をして見ていた。
ぼんやりしていたアスティが、何かに気付いた。
砂のカーテンの向こうから、テルディアスが飛び出てきた。
だがしかし、そこに居るはずのアスティの姿は消えていた。
「いや~、残念だったなぁ~」
頭の上から降ってくる声。
頭上を見上げるテルディアス。
「目だけで相手を追う二流ならともかく、気配でバレバレだぜ?」
この時、サーガの胸に鋭いトゲが刺さったが、誰も気付いた者はいなかった。
避けるに避けられないテルディアス。
ドゴオ!
頭上から降ってきたアスティの肘を、もろに顔に受けてしまう。
なんとか着地と同時に、アスティから距離をとった。
アスティは追撃の気はないのか、剣を肩に担いでテルディアスを見た。
「ほう。油断がねぇなぁ…」
着地と同時に距離を取ったテルディアスに感心していた。
(今の…、首にきまってたら、ヤバかったよな…)
サーガは気付いていた。
アスティの肘が、テルディアスの首を狙っていた事を。
テルディアスがそれをなんとか避けたが、顔にくらってしまったこと。
本当に殺る気なのかもしれない…。
「発想はすげぇいいと思うぜ」
アスティがにっかりと笑いながら言った。
そう、これは魔法が外れたと油断した所に襲いかかるという作戦だ。
そのうえ目の前は砂のカーテンで何も見えなくなっている。まさかその中を突っ切ってくるとは思うまい。
油断させるには持ってこいの作戦であった。
「まあ俺だったら、わざと外したりしねーで、当てに行くけどな」
そう言うと、剣をざっくりと地面に突き立てた。
「!」
「地縛《ウルテガ》」
ドン!!
テルディアスを中心にして、大地が爆発した。
「でけえ! あれは避けきれん!」
サーガの声を聞きながらも、落ち着いた様子でキーナは戦いを見ていた。
砂の礫が、石の礫が巻き上げる中、その巻き上げに翻弄されるかのようにマントがなびいている。
「そして一緒に飛び込む」
言葉通り飛び込んできたアスティが、その頭に思い切り剣を振り下ろした。
ぐぼ
感触がおかしい。
「何?! 土人形?!」
マントを被せられた土の人形だった。
そこに迫る人影。
アスティが気付くのが遅れた。
テルディアスが横薙ぎに剣を振る。
なんとか剣を滑らせるが、勢いを殺しきれず、脇腹にめり込む。
「く…」
アスティが、嬉しそうな、悔しそうな顔をして、笑った。
巻き上がる砂の中から、二人が同時に出て来た。
アスティは脇腹を押さえ、テルディアスはあちこち汚れ、傷を作っている。
何が起きたのか分からない観客達がざわめく。
「いや~、いいね。やっぱお前は最高だよ、テルディアス。まさかあの中で、身代わり人形を作っちまうとは…」
爆発の衝撃、巻き上げに耐え、咄嗟に土人形を作りマントを被せ、自分の代わりに巻き上がらせた。
そしてアスティが飛び込んでくるのを待ったのだ。
地縛《ウルテガ》が殺傷力の低い魔法だったからできたことであるが。
「期待以上というか、予想以上というか、まあそろそろ、終わりにしないとな」
二人が剣を構え、睨み合った。
その時。
「あ! キーナちゃんのパンチラ!」
「なにい!!」
アスティがキーナに目を向けた。
思わずつられてテルディアスもキーナに目を向ける。
そして、一瞬思考が停止してしまった。
キーナはスカートを履いていないのだから、パンチラなんざ起こるわけがない…。
はっとなったその時には、
「ほい。おしまい」
アスティが首元に剣を当てていた。
にっかり笑うアスティ。
固まるテルディアス。
ついでに観客も固まった。
「いや~、強くなったよな~テルディアス」
場の空気も読まずに、笑いながらテルディアスの肩を叩く。
「ア…」
「しかし、こんなに手引っかかってるようじゃ、まだまだだな」
うんうんと頷く。
「ア…」
ようやく再起動し始めたテルディアスが、思い切り息を吸い、
「アスティ!!!」
怒鳴った。
「真面目にやれ――!!」
剣を振り回しながら追いかけるテルディアス。
「やったじゃねーかよう」
器用に避けながら逃げるアスティ。
それは、もういつもの光景であった。
固まっていた観客達も徐々に始動し始める。
「結局、これって…、アスティさんの勝ちってことなの?」
キーナが誰ともなく尋ねた。
「まあ、多分…、そうなんじゃねーか?」
サーガが自信なさげに答えた。
アスティらしい終わり方に、門下生達も溜息を吐きながら、自身の練習に戻って行った。
練習場の真ん中辺りでは、お詫びのちゅうをしようと迫るアスティを、テルディアスが必死に離そうと踏ん張っていた。
「ただいま~」
と、扉を開けて元気よく入ってくるキーナ。続く3人。
振り向く門下生達。
最後に従ってきたテルディアスの姿を捉えると、
「帰って来たかテルディアス―――!!」
「ギャー!!」
一斉にテルディアスに飛びかかっていった。
どんだけ人気なんだ。
「なんだ? お前?!」
「久々マーサさんに甘えて来たってか?!」
「コノヤロコノヤロ!」
と揉みくちゃにされるテルディアス。
「相変わらず大人気…」
「邪魔になるから向こうに行ってましょ」
「そうしようそうしよう」
と、そそくさとテルディアスを置いて行くキーナ達だった。
「甘えとらんわ――!!」
縋り付いてくる者達を一斉に吹っ飛ばすテルディアス。
綺麗に吹っ飛ばされる門下生達。
そこへ今まで姿を消していたアスティが現われた。
「落ち着けって、みんな」
「アスティ」
「テルディアスがマーサさんに甘えるわけ無いだろう?」
おお、アスティも偶には良い事を言うじゃないかとテルディアスは感心したが、
「クマちゃんに会いに言ってたんだろ?」
やっぱりアスティだった。
「「ああ~~」」
何故か納得する門下生達。
「ベラーのぬいぐるみ、お前可愛がってたもんな~」
「ガキの頃の話だ! ガキの頃の!!」
テルディアスがアスティを追いかけ始める。
これ以上アホな事を喋らすまいと。
「「へぇ~~」」
とニヤニヤとするメリンダとサーガ。
あ、これ後でからかいネタにする気の顔だ。
キーナはあれ?と言う顔をしている。
(この世界ではクマって言わないのかな?)
実はキーナが知らないだけで、色々生物の呼び名が違っていたりする。
でも話題に上がった事もないのでそれを不思議に思う事もなかったのであった。
キーナが渡したあのぬいぐるみ。
『クマちゃん』と名付けてテルディアスが小さい頃可愛がっていたらしい…。
まあ別段悪い事ではないよね、と一人何か納得しているキーナだった。
「まあ、それはそれで置いといて」
とアスティが急に止まる。
勢いがついていたテルディアスは止まる事もできず、上手く躱してついでに出したアスティの足に引っかかって綺麗に前回りで転んだ。
しかしその先には椅子とテーブルがあったりするのだけど。
(あのテルディアスが…)
(あのテルが…)
((軽くあしらわれてる?))
キーナの不意打ちなどで転ぶ、または転ばされる事のあるテルディアスであったが、普段であればそんな隙を見せる事はない。
アスティの実力がどんなものなのか。
サーガの胸が高鳴る。
派手に音を立てて転んだテルディアスが起き上がる。
顔を押さえているのは椅子の脚にでもぶつけたのだろうか。
「…っの!」
睨み付けるテルディアスに、
「ホレ」
アスティが練習用の剣を投げ渡した。
自分も練習用の剣を担ぎ、言った。
「久々相手になってやんよ」
テルディアスの目が開かれる。
門下生達も驚きのあまり皆口と目が大きく開かれた。
あのアスティが。
いつも練習から逃げ回っているアスティが…。
一応今の道場主なんだけど…。
「師範」や「先生」と呼ばれることも嫌がり、滅多に練習の相手もせず、とりあえず打ち方などの練習は見ているけれども、それだって形を整えてるだけの話なのではと有名なアスティが…。
驚きのあまり静まりかえったその場に、テルディアスの嬉しそうな声が響いた。
「ああ、もちろん!」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
サーガが異議を申し立ててきた。
「俺との勝負はどうなんだよ! 俺との!」
「ん? 門下生全員とやったのか?」
「やったっつーの! 勝ったっつーの!なのに、終わった時にはまたあんたどっかに消え…て…」
アスティの手が何かを指し示している。
サーガがその先を見ると、立ち上がるテルディアスの姿。
そう、テルディアスも門下生の一人だ。
「……やっでまぜん…」
サーガ、悔しそうに項垂れた。
「全員とやって、勝ったらな~」
楽しそうにアスティが練習場の方へと向かっていった。
道場中が騒がしくなった。
「あのアスティがやるらしいぞ!」
「あのアスティが?!」
「しかもテルディアスと?!」
「アスティが?!」
「アスティがやるって?!」
「テルディアスを襲うのか?!」
「やっぱり男色…」
「違う! 戦うんだ!」
途中で情報が乱れたようである。
練習場のほぼ中央で向かい合う二人。
それを見守るキーナ達と、門下生達。
壁際がほぼ人で埋まった。
皆滅多に見ないアスティの剣技を見れると嬉しそうである。
しかもその相手が、実力が伯仲していると思われるテルディアスだ。
「凄い観客ね…」
「ほんと…」
観客の多さにあきれ果てるメリンダ。
本当に大丈夫かこの道場と心配になる。
「なあ、あのアスティって兄さんとテルディアスじゃ、どっちが強いんだ?」
サーガが隣に立っていた門下生に話しかけた。
「え?! え~~~っと…」
門下生が首を2、3回捻り答えた。
「多分…、アスティ…」
「たぶん?」
「アスティはまともに剣を合わせる事のない人だから、誰も本当の実力を知らないんだよ」
「おいおい」
練習で剣を交わす事はある。
だがしかし、明らかに手を抜いていると分かるのだ。
自信を付けるためなのか、はたまた面倒くさいだけなのか…。
「昔は神童って呼ばれてたらしいけど…」
「強かったらしいぜ」
「それがいつの頃からかサボるようになって…」
「今のようになっちまったと」
聞いてもいないのにべらべらと喋ってくれる門下生達。
「そんなにサボりまくってるなら、弱いんじゃねーの?」
門下生達が黙り込んだ。
だが皆一様に渋い顔をしている。
「でもあの人が弱いって…、想像つかないよな…」
「亡くなった先代の信頼も厚かったし…」
「弱いとは思えん…」
考え込む門下生達だった。
「変な師範だな」
サーガも何故か、アスティが弱いとは思えなかった。
何故か。
こきりこきりと首を回し、ブンブンと腕を振り回す。
「さってと~。久々に本気出すか~、テルディアス」
「ああ…。望む所だ!」
テルディアスは既に剣を構え、本気の目だ。
「そう力むなって。そこがお前の悪い所だ!」
ブラブラしていたと思った次の瞬間、アスティが踏み込み、一瞬で間合いを詰めた。
全くの自然な動作で剣を振り下ろすアスティ。
待ち構えていたかのように受けるテルディアス。
「おほっ。良い反応」
踊るように一回転したアスティの剣を、難なく受けるテルディアス。
次の瞬間、剣では無く、足がテルディアスの顔面に迫る。
予期していたように後ろに跳んで避ける。
そこへ、一瞬で間合いを詰めたアスティが上段から剣を振り下ろす。
ガゴン!
重い音が響き渡る。
両手で剣を持ち、アスティの剣を止めたテルディアスの腕が、小刻みに震えている。
「ふう~、良い反応するようになったなぁ、テルディアス」
「あんたはやっぱり強いな、アスティ」
二人が距離を取った。
「ふ~ん、あの兄さん、戦場では相手にしたくない手合いだな~」
再び始まった剣戟を見ながら、サーガがポツリと呟いた。
「なんでよ?」
呟きが聞こえたメリンダが問いかける。
「う~ん、あの兄さん、最初から全く、殺気がない」
今も打ち合い続けるテルディアスからは、殺気、程まではいかないけれども、闘気が溢れている。
普通なれば皆そうだ。
練習とは言え、下手に当たれば骨折しかねない剣での打ち合いでは、少なからずとも気が漏れる。
ところが、アスティからはその気配が全くない。
剣を振り始める前の落ち着いた状態、普通の気配しか感じられないのだ。
「本気を出してないだけかもしれんけど…。もしあれがあの兄さんの本気だっつーなら、あの人、息をするように人を殺せる人だぜ」
門下生達が目を剥いた。
いつもへにゃりと笑っているアスティからは考えられない言葉だ。
「あーゆー奴は背後に立たれても気配を感じねーから、背中からブスリとやられるんだよな~」
暗殺者タイプの人間。
本物の暗殺者は殺気がない。
だからこそ怖い。
まあ、滅多に戦場という人が入り乱れる所には現われないのであるけれども。
激しい打ち合いが続く。
そして再び二人が距離を取る。
テルディアスが両手で構えているのに対し、アスティは本当に戦っているのかと言いたくなるほど自然体で剣を下げている。
のに隙が無い。
「いや~、嬉しいぜテルディアス。想像以上だな~。本気の俺とやり合えるのは、お前しかいないと思ってた♪」
にぱっと嬉しそうに笑う。
「てことで、こっからは真面目に、殺り合おっか?」
「!!」
アスティの言葉に、警戒するテルディアス。
と、アスティが軽く地面を足で叩いた。
「地縛《ウルバル》」
地面からツタが伸び、テルディアスに襲いかかる。
反応が遅れたテルディアスだったが、なんとか全てを避けきる。
(いつの間に地の気を?!)
考える間もなく、アスティが後ろから襲いかかる。
地に伏せて剣を避け、そのまま足元に斬りかかる。
「うおっと」
飛び退るアスティ。
そして2、3合打ち合った時、
「地《ウル》…」
アスティの言葉を聞き、飛び退る。
「矢《ロア》!」
地面が矢のように鋭く盛り上がった。
まともに受けていたら、行動不能どころか、重傷を負う。
(また…!)
詠唱なしの、発現の言葉のみで魔法を発現させるアスティ。
テルディアスも魔法を発現させようとするが、それに集中する暇が無い。
またも踏み込んでくるアスティに迎え撃つ。
テルディアスの旗色が悪くなっていく。
その戦いを見ていたキーナが呟いた。
「アスティさんて凄いねぇ…」
「え? ええ、かなりの剣の腕よね」
「うんにゃ! 魔法の!」
「え? 魔法?」
サーガがどういうことだとキーナを見る。
「うん。だって、魔法使う時ってさ、使う精霊の気配探して、繋がる所から始めるでしょ?」
((そーゆーものなんだ…))
精霊の加護を受けているので、意識せずとも繋がっている状態の二人には、分からない事だった。
普通の者はキーナの言う通り、精霊の気配を探し、繋がる所から始める。
詠唱がその役割を果たしていると言える。
そしてどういった事象を起こして欲しいのかをきちんと思い描きながら、言霊に乗せ、精霊達に頼む。それが魔法である。
キーナはおじいさんとの特訓のおかげで、詠唱なしで精霊と繋がることができるようになったが、精霊と繋がる作業はきちんとやらねばならないのである。
「でもアスティさんは、それを一瞬でやっちゃう…」
詠唱なしで、事象を起こす言霊だけを発している。
「おじいさん並みの実力者なのかもね~」
「おじいさん? お前の言うおじいさんて、もしかしてミドル王国の…?」
「うん」
名前まで聞かずとも、門下生達の脳裏に思い浮かぶ名前は一つ。
レオナルド・ラオシャス。
門下生達がどよめいた。
門下生達はあくまで剣士であるので、魔法の事にはそこまで詳しくない。
なので、そんな話は今まで上ったこともなかったのである。
「まったく…」
テルディアスが少し構えを解いた。
「アスティ、あんたはどれだけの物を隠してたんだ」
テルディアスの問いに、アスティは左手の親指と人差し指をちょこっと広げて、
「コレだけ♡」
と頬を赤らめた。
「アホ言うな!!!」
そんなちょっとでは無いだろう。
「そーゆーお前だって、まだ全力じゃないんだろう? 見せてみろよ。お前の全力」
テルディアスが不敵な笑顔を見せる。
「…まさか、人間相手に全力で戦う事があるとはな…」
含みをもたせた言い方に、
「あ、その意見には俺も同意」
何故かアスティが乗ってきた。
「?!」
思わず目をパチクリさせてしまうテルディアス。
「どーゆー意味だ?!」
「勝ったら教えてやろう」
アスティがニヤリと笑う。
(まだ何か隠してるのかこの人は…)
アスティの底の深さに歯噛みするテルディアス。
そしてまたお互いに剣を構え、同時に踏み込んだ。
先程までとは比べものにならない、激しい剣の応酬が始まった。
「早すぎて見えない…」
メリンダの目では追いきれなかったようだ。
キーナとサーガは目を輝かせているが…。
テルディアスとアスティの体が、示し合わせたように回転する。
ドガッ
重い音が響き渡る。
そこでアスティが気付いた。
テルディアスがぶつぶつと何かを唱えている事に。
思わず顔がにやける。
剣を捌き、お互いに距離を取った所で、
「地縛《ウルテガ》!」
テルディアスが魔法を放った。
ドゴオ
アスティの目の前の地面が弾け飛んだ。
「残念、外したなぁ~」
サーガが苦い顔をして見ていた。
ぼんやりしていたアスティが、何かに気付いた。
砂のカーテンの向こうから、テルディアスが飛び出てきた。
だがしかし、そこに居るはずのアスティの姿は消えていた。
「いや~、残念だったなぁ~」
頭の上から降ってくる声。
頭上を見上げるテルディアス。
「目だけで相手を追う二流ならともかく、気配でバレバレだぜ?」
この時、サーガの胸に鋭いトゲが刺さったが、誰も気付いた者はいなかった。
避けるに避けられないテルディアス。
ドゴオ!
頭上から降ってきたアスティの肘を、もろに顔に受けてしまう。
なんとか着地と同時に、アスティから距離をとった。
アスティは追撃の気はないのか、剣を肩に担いでテルディアスを見た。
「ほう。油断がねぇなぁ…」
着地と同時に距離を取ったテルディアスに感心していた。
(今の…、首にきまってたら、ヤバかったよな…)
サーガは気付いていた。
アスティの肘が、テルディアスの首を狙っていた事を。
テルディアスがそれをなんとか避けたが、顔にくらってしまったこと。
本当に殺る気なのかもしれない…。
「発想はすげぇいいと思うぜ」
アスティがにっかりと笑いながら言った。
そう、これは魔法が外れたと油断した所に襲いかかるという作戦だ。
そのうえ目の前は砂のカーテンで何も見えなくなっている。まさかその中を突っ切ってくるとは思うまい。
油断させるには持ってこいの作戦であった。
「まあ俺だったら、わざと外したりしねーで、当てに行くけどな」
そう言うと、剣をざっくりと地面に突き立てた。
「!」
「地縛《ウルテガ》」
ドン!!
テルディアスを中心にして、大地が爆発した。
「でけえ! あれは避けきれん!」
サーガの声を聞きながらも、落ち着いた様子でキーナは戦いを見ていた。
砂の礫が、石の礫が巻き上げる中、その巻き上げに翻弄されるかのようにマントがなびいている。
「そして一緒に飛び込む」
言葉通り飛び込んできたアスティが、その頭に思い切り剣を振り下ろした。
ぐぼ
感触がおかしい。
「何?! 土人形?!」
マントを被せられた土の人形だった。
そこに迫る人影。
アスティが気付くのが遅れた。
テルディアスが横薙ぎに剣を振る。
なんとか剣を滑らせるが、勢いを殺しきれず、脇腹にめり込む。
「く…」
アスティが、嬉しそうな、悔しそうな顔をして、笑った。
巻き上がる砂の中から、二人が同時に出て来た。
アスティは脇腹を押さえ、テルディアスはあちこち汚れ、傷を作っている。
何が起きたのか分からない観客達がざわめく。
「いや~、いいね。やっぱお前は最高だよ、テルディアス。まさかあの中で、身代わり人形を作っちまうとは…」
爆発の衝撃、巻き上げに耐え、咄嗟に土人形を作りマントを被せ、自分の代わりに巻き上がらせた。
そしてアスティが飛び込んでくるのを待ったのだ。
地縛《ウルテガ》が殺傷力の低い魔法だったからできたことであるが。
「期待以上というか、予想以上というか、まあそろそろ、終わりにしないとな」
二人が剣を構え、睨み合った。
その時。
「あ! キーナちゃんのパンチラ!」
「なにい!!」
アスティがキーナに目を向けた。
思わずつられてテルディアスもキーナに目を向ける。
そして、一瞬思考が停止してしまった。
キーナはスカートを履いていないのだから、パンチラなんざ起こるわけがない…。
はっとなったその時には、
「ほい。おしまい」
アスティが首元に剣を当てていた。
にっかり笑うアスティ。
固まるテルディアス。
ついでに観客も固まった。
「いや~、強くなったよな~テルディアス」
場の空気も読まずに、笑いながらテルディアスの肩を叩く。
「ア…」
「しかし、こんなに手引っかかってるようじゃ、まだまだだな」
うんうんと頷く。
「ア…」
ようやく再起動し始めたテルディアスが、思い切り息を吸い、
「アスティ!!!」
怒鳴った。
「真面目にやれ――!!」
剣を振り回しながら追いかけるテルディアス。
「やったじゃねーかよう」
器用に避けながら逃げるアスティ。
それは、もういつもの光景であった。
固まっていた観客達も徐々に始動し始める。
「結局、これって…、アスティさんの勝ちってことなの?」
キーナが誰ともなく尋ねた。
「まあ、多分…、そうなんじゃねーか?」
サーガが自信なさげに答えた。
アスティらしい終わり方に、門下生達も溜息を吐きながら、自身の練習に戻って行った。
練習場の真ん中辺りでは、お詫びのちゅうをしようと迫るアスティを、テルディアスが必死に離そうと踏ん張っていた。
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