キーナの魔法

小笠原慎二

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小話~ダン無双

ダン無双

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有り難く昼食を頂いて、止めにかかる女性達を(主に男性陣が)振り切り、地の一族の村を後にした。
そのまま北に向かって歩き進める。ダンの説明によると、北西の方角に馴染みのとある街があるのだとか。西寄りに進むとあのうるさい国にかかってしまう恐れがあるので、まず北に向かってから西へ向かうのだそう。さすが、未開地と呼ばれる地を開拓しようという逞しい一族の1人である。未開地なのになんだか詳しい。

未開地なので、もちろん道はない。かろうじて獣道のような所を、果てしなく森の中を歩き続ける。森の中は地の一族に任せとけとばかりにダンが先頭を歩きながら、持っている鉈で邪魔な草や木の枝を切り落としてくれたりするので、後ろについて行く4人は歩きやすかった。
そんなかでも、時折キーナは勝手に道を逸れて行こうとし、テルディアスがそれを阻止するという攻防が繰り広げられていた。

さすがはキーナ。自由人である。

時折ダンが足を止め、何やら木を調べたり地面を弄っていたりする。何かを採っていたり、何かを確認していたり。

「何してるの?」

キーナが声を掛けると、手に持った草を見せる。

「食べられるの?」

こくりと頷く。
どうやら食べられる野草などを採取しながら歩いているようだった。

「んなことやってねーで早く行けよ」

ダンの足取りの遅さに、サーガがちょっといらついていた。
サーガとしてはとっとと森を抜けて、早く温かい布団のある場所に行きたいのだが、唯一道、というか場所を知っているダンがこの状態。街に着くまでどれほどかかるのやらとイライラしてしまう。
さすがは風。根がせっかちなのであろう。

ダンもそんなサーガの様子に気付いたのか、採取をさっさと済ませ、足を進める。
しかし、昼過ぎに村を出たのだ。そう進めるわけもない。
少し疲れを感じ始めた頃、森の中はすでに陰りが差し始めていた。
平地よりも暗くなるのが早い森。陰り始めたら真っ暗になるのもあっという間だ。
上手く見つけた少し広い場所にて、今夜は休むことになった。

そして、ここからダンの大活躍が始まるのである。

獲物がいるので狩ってきて欲しいとサーガに頼み、サーガが狩りに出かける。
キーナ達3人に薪になりそうな小枝を拾ってくるように頼み、その間に手際よく魔法で簡易竈を拵え、持って行くと聞かなかった鍋をそこに乗せ、3人が拾って来た薪を敷き、メリンダに火を付けてもらい、キーナに水を出して貰う。
ほどなくして帰って来たサーガが獲って来たウサギのような獲物を素早く解体。やはり水を出して貰い洗っていらないものは土に埋め、お肉を一口大に切り、下拵え。洗っておいた野草も切って、これまた持って行くと言って聞かなかったスープの素らしき物を入れて味付けした中に入れて一煮立ち。
灰汁を取り、味を調える。

その様子を、4人は少し唖然となりながら見ていた。
今までの4人の食生活。
1、携帯食があればそれを食べる。
2、獲物があれば簡単に捌いて焼いて、簡単に味付けして食べる。
3、野草なんぞ訳が分からないので手出しできなかったので、道中野菜に飢えることも。大概その前に街に着いてはいたのだが。

温かい食事は街、宿にいる時だけ。旅の空で食べるなど、まったくと言っていいほどなかった。
まず鍋を持ってないし。スープの素なんぞも持ってないし。
鍋が出来たのか、ダンが荷物の中から人数分の器を取り出す。この世界では珍しい、日本のお椀のような薄さを持った木の食器。漆でも塗ってあるのか、綺麗な光沢がある。

これだけで普通に伝統工芸品として売り出せそうである。

ついでに箸も配り、器によそって皆に差し出す。
手渡された器を、それぞれに色んな表情を浮かべて眺めた。

喜び、驚き、呆気、欺瞞…。

ダンが食べろという風にジェスチャー。しかし、喋らない男である。

「ありがとう! いただきます!」

例によって警戒心という言葉を持っているのか疑わしいキーナが一番に口を付けた。
3人がその様子を眺める。
器からは美味しそうな匂いが漂ってきている。匂いにつられて今にも口元に持って行きそうになるほどに魅惑的な匂いが。
少し猫舌のキーナが、器に入っていたお肉をふーふーして、口に運んだ。

「あふ、あふ、あふ」

熱かったらしい。
口の中で熱を取り、咀嚼し、飲み込む。

ゴクリ。

飲み込む瞬間、釣られて3人も一緒に喉を動かした。

「美味しい!」

満面の笑みでそう叫ぶキーナ。
ふーふーしながら、次々に口に運ぶ。
その様子を見て、テルディアスが、メリンダが口を付けた。
皆が口を付けたのを見て、サーガも少し渋い顔をしながら口を付けた。
そして、目を見開く。
無言で勢いよく口に運び始めた。

「美味いな…」

テルディアスが珍しく感想を呟いた。

「美味しいわ~」

メリンダも幸せそうに箸を進める。

「まあまあだな」

と言いながらがっついているサーガ。正直者だ。
皆の美味しそうに食べる様子を見て、嬉しそうに自分も食べ始めるダン。
少し多めに作ったのだが、全てなくなったのは言うまでもない。












食後の片付けを終え、後は寝るだけになった時。
ダンが地面に手を当て、何かをやっていた。

「何してるの?」

再びキーナが問いかける。
目を瞑って集中していたダンが、顔を上げると、その目の前に、今し方までなかった地下への階段が現われた。
ダンがどうぞとばかりに手で示す。

「何何?」

不思議な物大好きキーナが、躊躇せずにその中へと足を踏み入れる。
それを、テルディアスが素早くやって来て、襟首を掴んだ。

「お前は! いきなりどこへ行こうとしている!」
「だって~、ダンが行っていいよって」

ダンを睨み付けるテルディアス。眼光に射すくめられビクッとなるダン。

「なんだ? これは?」

警戒心MAXでダンに問いかければ、

「野宿、部屋…」

と答えた。
文章を喋れ。

「野宿する為に部屋を作ってくれたんだって!」

キーナがそれを訳した。
何故分かる。

「なんだと…?」

絶句するテルディアス。
普通に考えれば、そんなことはあり得ない。全くもって、魔法の無駄遣いである。普通の者が行おうとすれば、まずは大量の魔力がいるだろうし、繊細な調整も必要になってくるだろう。
だがしかし、ダンは元々地の祝福を受けた者。もちろん魔力量もかなりの量を持っているし、微調整などは地の精霊などに頼んでやっているのかもしれない。
であれば、ダンであれば、可能である。という結論に達する。

「分かった。まずは俺が確認する」
「え~」

キーナがずるいと喚くが、万が一作りが甘く、天井が崩れるような事があったら大変だ。
もしもの時はと、騒ぎを見に来ていたメリンダとサーガに目配せし、そろりそろりと地下へと降りて行った。
途中、魔法で灯りを灯す。
そこそこの深さのある地下で、5人がゆったり寝られるほどに広い。
隅の方に空気穴らしき物も開いているので、窒息する危険もないだろう。

「テ~ル~」

待ちきれないらしいキーナの声が上から降ってくる。

「大丈夫だ。降りてこい」
「わーい」

嬉しそうにキーナが駆け下りて来た。

「おお、思ったより広い!」

部屋を駆け回るキーナ。

「あらまあ、結構広いわね」
「へ~、地下の空間ねぇ」

地下が苦手なサーガは少し及び腰。
最後に降りてきたダンがまた地に手を付け、集中し始める。
と、5つのベッドのような台が出現し、そこに柔らかな草がモソモソと生えた。まるで人工芝だ。

「! ベッド!」

目の前に現われたベッドに早速キーナが飛び乗る。

「おお! 思ったよりやっこい!」

大の字になって転がるキーナ。もう少し恥じらいを覚えた方が良いと思う。
ベッドが現われ、メリンダも嬉しそうに駆け寄る。

「本当だ! 柔らかいわ!」

同じように横になり、トロンとした顔でそう呟く。
顔を合わせる男2人。
そんな2人を気にせず、スタスタと奥の開いているスペースにダンが行くと、再びなにやらし始める。
仕切りの壁が現われ、その中にダンが入ってなにやらやっていると、少しして出て来て、キーナにちょいちょいと手招きする。

「何何?」

また何か面白いことでもあるのかと、キーナが飛んで行く。
メリンダはこのまま眠っても良いとばかりにベッドに体を預け、テルディアスとサーガも恐る恐るベッドに近づいて、その感触を確かめた。

「お風呂!!」

キーナの喜びの声が、奥の仕切りの向こうから響いてきた。
お風呂という単語を聞いて、メリンダの閉じていた目がかっと開かれた。
飛び起きたメリンダが急いでそちらへ向かう。男達が唖然となるほどに素早い行動だった。

「お風呂!!」

メリンダの喜びの声も響いてきた。

「ありがとうダン!」
「ありがとうね! 早速入ってみるわ!」

その言葉を聞いて、ダンが急いで出て来た所を見ると、すでに衣服を脱ぎ始めたようだ。
簡単な仕切りで入り口が丸開きだったので、ダンが再び集中して、ツタで簡易カーテンを付けた。これで振り向いたら見えちゃいましたということはない。

「ち」

誰かの舌打ちが聞こえた。
キーナが水を出す音が聞こえ、メリンダのはしゃぐような声も聞こえてくる。
察するに、キーナが水を出し、メリンダがそれを温めているのだろう。
パシャパシャと水の跳ねる音が聞こえ、楽しそうな2人の声が聞こえてくる。

「へ~、どんなもんなんだ?」

と呟きながら、風呂場へと近づこうとしたサーガに、

地縛ウルバル

テルディアスの放った木の蔓が、サーガの足を絡めとった。

「なにしやんだ!」
「お前が動くと碌な事がない」
「へ、こんな物!」

すぐに風の力で引き裂いてしまう。

「ダン!」

テルディアスが叫んだ。

「げ」

すでに待機していたのか、すぐさまサーガの体に、無数の木の蔓が絡みつく。

「ちょ、ま…」

簀巻きにされたサーガが転がった。

「やり過ぎだろこれ!」
「お前にはそれ位が丁度良いだろう」

安心したように、ベッドに腰を下ろすテルディアス。
ダンも空いているベッドに腰掛け、具合を確かめている。

「こ、こんなもん!」

サーガが風を駆使して脱出を図るも、さすが本家本元地の一族が縛ったもの。簡単には解けなかったのであった。













「まさかお風呂に入れるとは…」
「本当、ダンが仲間になってくれて良かったわね~」

風呂を十分堪能したのか、2人が長い風呂からやっと出て来た。
ちなみに、タオルはないので風で乾かしました。

「なら、俺達もいただくか…」
「その前に、これ解けーーー!!」

当然のように転がっているサーガを、誰も不自然とは感じていなかったようである。
ちなみに、メリンダはわざわざ踏みつけて通り過ぎて行ったのだった。












その後、やっとこ解いてもらったサーガ。
いつものようにさっさと服を脱ぎ捨て(もちろん、脱衣所で服を脱ぎました)、風呂に飛び込んだ。

「姐さん達が使った湯!!!」

変態だった。

その後、再び縛り上げられたサーガだけ、ゆっくり湯を堪能出来なかったのは言うまでもない。
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