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ピロキン騒動
ピロキン騒動
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「おいテルディアス」
「なんだ」
「いいか、良く考えろよ」
「?」
「さっきまでこの湯に姐さんとキーナが、そのすらりとした足を付けて、そのつるんとした尻を底に付け、その引き締まった腰も湯に沈ませて、そのたわわに実った胸を湯に浮かべて、「ハア~」とか溜息吐きながら浸かってたんだぜ。あ、キーナはそれほどの大きさはないけど、中々に形のいい小ぶりだが揉みがいのありそうなつんとした―――」
「おい、こいつの口とついでに鼻も塞いでやれ」
頷くよりも前に、サーガの口に木の蔓が巻き付く。
「ちょま、鼻―――!!」
一拍遅れて、サーガの鼻にも蔓が巻き付いた。ダンなりの気遣いなのか、片穴だけだが。
「ふふふん! ふーん! ふーん!」
「後は、水で包めば、大人しくなるかな?」
「ふんふんふーん!!」
すでに体中蔓で巻かれた状態のサーガが、最後の抵抗とばかりに暴れるも、蔓は全く外れる事はない。
なんとかダンの説得により、水の刑は免れたサーガであったが、2人が十分堪能した後に、
「熱い湯が好きなんだったな?」
と、テルディアスが火の魔法で湯の温度を上げたことにより、完全にのぼせ上がったのだった。
介抱はダンの役目になっていた。
茹で上がったサーガを湯から出し、キーナに出してもらった水で体を冷やし、体が乾くまで待つ。
乾いた後で服を着せ、ベッドに縛り付ける。
これが一連の動作となっていた。
「毎度思うんだが、俺の扱い酷くないか?」
頭がすっきりしてきたサーガが声を上げた。
楽しく談笑していた4人がサーガの声に振り向く。
しかし、ダン以外の視線はとても痛くて冷たい物。
「あんた、分かってないの?」
「何が?」
メリンダの問いに、サーガが首を傾げる。体は縛り付けられていて動かないが、辛うじて首は動く。
「風呂での会話、筒抜けよ」
その言葉で、サーガは気がついた。今までに見たことのない、汚い物を見るかのようなキーナの痛い視線に。
つまり、今までに喋っていた内容が、メリンダはともかく、キーナにも聞こえていたわけで…。
「じょ、冗談に決まってんだろ?! なははははははは…はは…は…」
引き攣った笑い声が、虚しく響き渡っただけだった…。
「なあテルディアス」
「なんだ」
「野宿って、こんなんだったっけ?」
「言うな」
地の一族の村を出て早7日。一行は順調に旅を進めていた。
そう、順調に。
普通の街道であれば、長くても3日程で次の街やら小さな村などに行き着き、そこで食料を求めたり、必要な物資を売ったり買ったり、または小さな仕事を片付けて、少々の金銭を稼いだり。道中の食事は、何か獲物が見つかれば、簡単に焼いたりして食べたりもする。基本は携帯食料を食べる。
余程の事がなければ、茶葉など持ち歩かないし、スープ類なども口に出来ない。つまり、旅というのは、街に着かなければ美味しい物は食べられず、ゆっくり眠る事も出来ないものだった。そのはずだった。
サーガが先程出て来た地下へと続く階段を振り返る。その向こうではダンが既に朝食の用意、メリンダとキーナが手伝っている。
男2人は周りの警戒と、何か獲物があれば狩る役目。まあ、昨日捕まえた獲物がダンの手によって何かに加工されていたので、今朝はそれを用いた何かなのであろう。ついでに野草なども満載だろう。
ダンが仲間に加わってから、旅は一変した。森の中で迷ったら生きるのは難しいはずなのに、何と言っても森、つまりは地の事情にとても詳しいダンが加わってから、食料に関しては全くと言って良いほど不安がなくなった。なにせ野草に関してはエキスパート。獲物に関しても、風程の精度はないが、地も探索系の魔法が使える。それにより獲物がいるかいないかを探し出し、あとはサーガ達に指示を出す。川があれば魚を捕り、捌くのもプロの腕前。
探索系の魔法では風の方が優れてはいるが、大地を走る獲物を見つけるのは、ダンの方が一枚上手だった。
肉、野菜、時々魚。栄養満点の食事を一日に2度は必ず口に出来る。昼は残っていた携帯食料を消費した後は、簡単にダンが朝のうちに作っておいた携帯食料という名の弁当を食べる。もちろんだが、ダンが作った物の方が人気だ。なにより味が良い。
そのまま元気に歩き続け、夕刻が近づくと適当な場所を見つけ、ダンが仮の宿を作る。まさしく作る。
その中は快適で、メリンダがいれば灯りの心配はないし、水を出せるキーナとテルディアスがいる。サーガはまあ、時々換気を手伝う。
入り口を閉めてしまえば、夜中に何者かが侵入してくることもない。空気穴はきちんと開いているから窒息することもない。しかもトイレ風呂完備で、ご丁寧に柔らかベッド付き。
慣れすぎると安宿のベッドが物足りなくなってしまうのではないかと心配するほどに寝心地がいい。
((おかしい…))
男2人は数日前から同じ事を思っていた。
((野宿のはずなのに、宿よりも快適だ…))
女性陣よりも旅に慣れている男達は、この環境が少し怖かった。もしこの快適な旅に慣れてしまったら、もう普通の過酷な旅が出来なくなるのでは…。
「2人共~、出来たわよ~」
メリンダが向こうで2人を呼んだ。
同時に溜息を吐いた2人は、少し気まずそうに目を合わせて苦笑いすると、朝食を摂る為にキーナ達の元へと向かったのだった。
「およ? メリンダさん、これ、何の実だろう?」
「ん? あら、美味しそうね」
森の中で小休止をしているときに、2人はその木に気付いた。
それほど高い枝振りではないが、横に広がったその枝に、サクランボのような可愛い実が付いている。
「美味しそう」
「そうね、ダンに聞いてみましょうか」
すでに何かあったらダンに聞け、という不文律が完成しつつあった。
「ダーンー、これ、食べられるー?」
少し離れた所にいたダンがこちらを向き、キーナが指さした木を見て、こくりと頷いた。そして歩み寄ってくる。
「食べられるって」
「そうね、じゃあ大丈夫ね」
地のエキスパートが了承したのだ。美味しいに違いないと2人はその実をもぎ取って、早速口へと運んだ。
「ん、甘いけど、ちょっと苦みがある?」
「そう? あたしは甘さしか感じないけど」
プチプチとその実をもぎって食べ続ける2人。するとダンが慌てたようにやって来た。
「ん? どしたの?」
「何? やっぱやばかったとか?」
ダンの慌てぶりに少し不安になる2人。だがしかし、ダンは首を横に振る。
「そ、それ、違う。食べ、られる、けど、違う…」
「食べられるならいいじゃない」
何を慌てているのやらと首を傾げる。
何か調理でもしてから食べた方が良かったのか?
「まあまあ、ダンもどうぞ一粒」
キーナがその口に、その美味しい実を突っ込んだ。
突然のことに、種を吐き出すことも出来ずに丸呑みしてしまうダン。
顔を青くする。
「ね? 美味しいよね?」
キーナが満面の笑みを浮かべた。
小休止から戻って来た男2人が、離れた所で赤い実を食している3人を見かけた。
「あんだあ? あいつらだけで何か食ってるのか…? ん? あれ…あの実…」
「なんだ? あの実が何か知ってるのか?」
近づきながら言葉を交わす2人。
「ん~俺の記憶違いでなければ…、あれ、確か…、そちらの方面のお薬に使われるものだったと思うが…」
「お前の言うそちらの方面となると…」
「もち、夜のお仕事♪」
テルディアスがげんなりとなる。此奴と会話をしてると、何故かいつの間にか下ネタが混ざっていることもしばしば。メリンダの言っていた「下半身脳みそ男」という名前がピッタリくる。
「ん? ちょっと待て。その方面の薬って…」
テルディアスが顔を青くする。まさか、堕胎薬とか? それ系の薬はあまり摂取し過ぎると体に良くないのでは…。
「うん。強精薬」
全く違った。
「催淫剤とかにも使われるやつ。つまり、やりやすくするためのお薬ね」
サーガがにっかりと笑った。
テルディアスが睨み付けるも堪える気配はない。
「いやちょっと待て。それでも、大量摂取はまずいんじゃ…」
「あんまり良くはないとは思うがなぁ」
近づく前に、すでに2人は十数粒口に運んでいるのが見えていた。
「! キーナ!」
テルディアスが心配になって駆け寄る。サーガもついでに付いてくる。
少し前から、何故かキーナの手は止まり、木の実を食べるのを止めてはいた。しかし、なんだか体を抱きしめるようにして震えている。
「キーナ?!」
テルディアスが肩を掴んで揺らすと、キーナがゆっくりと振り向いた。
「キー…ナ?」
潤んだ瞳がテルディアスを見上げる。
呼吸が浅く速く、頬が上気してほんのり赤く染まっている。
ヤバい
テルディアスは一目でそう思った。
「テル…」
キーナが抱きついてきた。反応が遅れたテルディアスは躱すことも出来ず、キーナに抱きつかれるままになってしまう。
「キーナ!」
「テル…」
テルディアスの体に顔を埋めていたキーナが、その赤くなった顔を上げて、テルディアスの顔を見つめる。
「熱いの…」
固まるテルディアス。
その後ろで、サーガがその様子をニヤニヤと眺めていた。
いつもスカしているテルディアスが固まる所を見られるのは貴重だ。
ところがそこへ、メリンダがサーガに襲いかかってきた。
「姐さん?」
「サーガ…」
いつもよりも色っぽい顔をしたメリンダが、サーガを見つめる。
「お願い…、熱いの…。めちゃくちゃに、して…」
その豊満な胸を押しつけ、腰をくねらせる。
実を言うなら、ここ数日の間にも、2人は3人の目の届かない所で、発散はさせていた。なので、それほど溜まっているわけでもない。
だがしかし、そこはブレないサーガ。
「お安い御用です」
良い笑顔で頷くと、メリンダをひょいっと抱き上げた。
「せめて、邪魔をしない、されない所まで行こうか~」
「ちょっと待て! これ、なんとかならないのか!!」
キーナに抱きすくめられ、身動きの取れなくなったテルディアスが、サーガに助けを求めるが、
「無理無理。酒と一緒よ。気が抜けるまで相手してやるんだな」
そう言って、木陰へと消えて行った。
「気が抜けるまでって…」
何個食べたんだこいつ…。
「テル…」
苦しそうな悲しそうな顔をしながら、キーナが体を押しつけて来る。
どうにもこうにもどうすればいいのか分からないテルディアスはただ慌てふためくのみ。
と、そこへ、ゆらりと大きな影が覆い被さってきた。
「! ダンか…! おい、これ、どうにか…」
ダンならば何か良い方法を知っているのではないかと、テルディアスは顔を上げるが、そこで気付く。
キーナがダンの口に、一粒だったが押し込んでいたことを。
「ダン…?」
テルディアスが顔をひくつかせながら、ダンの顔をよく見る。
目が潤んで、頬が上気して赤くなっていて、呼吸が速く浅く…。
テルディアスの背筋を悪寒が駆け抜けた。
「なんだ」
「いいか、良く考えろよ」
「?」
「さっきまでこの湯に姐さんとキーナが、そのすらりとした足を付けて、そのつるんとした尻を底に付け、その引き締まった腰も湯に沈ませて、そのたわわに実った胸を湯に浮かべて、「ハア~」とか溜息吐きながら浸かってたんだぜ。あ、キーナはそれほどの大きさはないけど、中々に形のいい小ぶりだが揉みがいのありそうなつんとした―――」
「おい、こいつの口とついでに鼻も塞いでやれ」
頷くよりも前に、サーガの口に木の蔓が巻き付く。
「ちょま、鼻―――!!」
一拍遅れて、サーガの鼻にも蔓が巻き付いた。ダンなりの気遣いなのか、片穴だけだが。
「ふふふん! ふーん! ふーん!」
「後は、水で包めば、大人しくなるかな?」
「ふんふんふーん!!」
すでに体中蔓で巻かれた状態のサーガが、最後の抵抗とばかりに暴れるも、蔓は全く外れる事はない。
なんとかダンの説得により、水の刑は免れたサーガであったが、2人が十分堪能した後に、
「熱い湯が好きなんだったな?」
と、テルディアスが火の魔法で湯の温度を上げたことにより、完全にのぼせ上がったのだった。
介抱はダンの役目になっていた。
茹で上がったサーガを湯から出し、キーナに出してもらった水で体を冷やし、体が乾くまで待つ。
乾いた後で服を着せ、ベッドに縛り付ける。
これが一連の動作となっていた。
「毎度思うんだが、俺の扱い酷くないか?」
頭がすっきりしてきたサーガが声を上げた。
楽しく談笑していた4人がサーガの声に振り向く。
しかし、ダン以外の視線はとても痛くて冷たい物。
「あんた、分かってないの?」
「何が?」
メリンダの問いに、サーガが首を傾げる。体は縛り付けられていて動かないが、辛うじて首は動く。
「風呂での会話、筒抜けよ」
その言葉で、サーガは気がついた。今までに見たことのない、汚い物を見るかのようなキーナの痛い視線に。
つまり、今までに喋っていた内容が、メリンダはともかく、キーナにも聞こえていたわけで…。
「じょ、冗談に決まってんだろ?! なははははははは…はは…は…」
引き攣った笑い声が、虚しく響き渡っただけだった…。
「なあテルディアス」
「なんだ」
「野宿って、こんなんだったっけ?」
「言うな」
地の一族の村を出て早7日。一行は順調に旅を進めていた。
そう、順調に。
普通の街道であれば、長くても3日程で次の街やら小さな村などに行き着き、そこで食料を求めたり、必要な物資を売ったり買ったり、または小さな仕事を片付けて、少々の金銭を稼いだり。道中の食事は、何か獲物が見つかれば、簡単に焼いたりして食べたりもする。基本は携帯食料を食べる。
余程の事がなければ、茶葉など持ち歩かないし、スープ類なども口に出来ない。つまり、旅というのは、街に着かなければ美味しい物は食べられず、ゆっくり眠る事も出来ないものだった。そのはずだった。
サーガが先程出て来た地下へと続く階段を振り返る。その向こうではダンが既に朝食の用意、メリンダとキーナが手伝っている。
男2人は周りの警戒と、何か獲物があれば狩る役目。まあ、昨日捕まえた獲物がダンの手によって何かに加工されていたので、今朝はそれを用いた何かなのであろう。ついでに野草なども満載だろう。
ダンが仲間に加わってから、旅は一変した。森の中で迷ったら生きるのは難しいはずなのに、何と言っても森、つまりは地の事情にとても詳しいダンが加わってから、食料に関しては全くと言って良いほど不安がなくなった。なにせ野草に関してはエキスパート。獲物に関しても、風程の精度はないが、地も探索系の魔法が使える。それにより獲物がいるかいないかを探し出し、あとはサーガ達に指示を出す。川があれば魚を捕り、捌くのもプロの腕前。
探索系の魔法では風の方が優れてはいるが、大地を走る獲物を見つけるのは、ダンの方が一枚上手だった。
肉、野菜、時々魚。栄養満点の食事を一日に2度は必ず口に出来る。昼は残っていた携帯食料を消費した後は、簡単にダンが朝のうちに作っておいた携帯食料という名の弁当を食べる。もちろんだが、ダンが作った物の方が人気だ。なにより味が良い。
そのまま元気に歩き続け、夕刻が近づくと適当な場所を見つけ、ダンが仮の宿を作る。まさしく作る。
その中は快適で、メリンダがいれば灯りの心配はないし、水を出せるキーナとテルディアスがいる。サーガはまあ、時々換気を手伝う。
入り口を閉めてしまえば、夜中に何者かが侵入してくることもない。空気穴はきちんと開いているから窒息することもない。しかもトイレ風呂完備で、ご丁寧に柔らかベッド付き。
慣れすぎると安宿のベッドが物足りなくなってしまうのではないかと心配するほどに寝心地がいい。
((おかしい…))
男2人は数日前から同じ事を思っていた。
((野宿のはずなのに、宿よりも快適だ…))
女性陣よりも旅に慣れている男達は、この環境が少し怖かった。もしこの快適な旅に慣れてしまったら、もう普通の過酷な旅が出来なくなるのでは…。
「2人共~、出来たわよ~」
メリンダが向こうで2人を呼んだ。
同時に溜息を吐いた2人は、少し気まずそうに目を合わせて苦笑いすると、朝食を摂る為にキーナ達の元へと向かったのだった。
「およ? メリンダさん、これ、何の実だろう?」
「ん? あら、美味しそうね」
森の中で小休止をしているときに、2人はその木に気付いた。
それほど高い枝振りではないが、横に広がったその枝に、サクランボのような可愛い実が付いている。
「美味しそう」
「そうね、ダンに聞いてみましょうか」
すでに何かあったらダンに聞け、という不文律が完成しつつあった。
「ダーンー、これ、食べられるー?」
少し離れた所にいたダンがこちらを向き、キーナが指さした木を見て、こくりと頷いた。そして歩み寄ってくる。
「食べられるって」
「そうね、じゃあ大丈夫ね」
地のエキスパートが了承したのだ。美味しいに違いないと2人はその実をもぎ取って、早速口へと運んだ。
「ん、甘いけど、ちょっと苦みがある?」
「そう? あたしは甘さしか感じないけど」
プチプチとその実をもぎって食べ続ける2人。するとダンが慌てたようにやって来た。
「ん? どしたの?」
「何? やっぱやばかったとか?」
ダンの慌てぶりに少し不安になる2人。だがしかし、ダンは首を横に振る。
「そ、それ、違う。食べ、られる、けど、違う…」
「食べられるならいいじゃない」
何を慌てているのやらと首を傾げる。
何か調理でもしてから食べた方が良かったのか?
「まあまあ、ダンもどうぞ一粒」
キーナがその口に、その美味しい実を突っ込んだ。
突然のことに、種を吐き出すことも出来ずに丸呑みしてしまうダン。
顔を青くする。
「ね? 美味しいよね?」
キーナが満面の笑みを浮かべた。
小休止から戻って来た男2人が、離れた所で赤い実を食している3人を見かけた。
「あんだあ? あいつらだけで何か食ってるのか…? ん? あれ…あの実…」
「なんだ? あの実が何か知ってるのか?」
近づきながら言葉を交わす2人。
「ん~俺の記憶違いでなければ…、あれ、確か…、そちらの方面のお薬に使われるものだったと思うが…」
「お前の言うそちらの方面となると…」
「もち、夜のお仕事♪」
テルディアスがげんなりとなる。此奴と会話をしてると、何故かいつの間にか下ネタが混ざっていることもしばしば。メリンダの言っていた「下半身脳みそ男」という名前がピッタリくる。
「ん? ちょっと待て。その方面の薬って…」
テルディアスが顔を青くする。まさか、堕胎薬とか? それ系の薬はあまり摂取し過ぎると体に良くないのでは…。
「うん。強精薬」
全く違った。
「催淫剤とかにも使われるやつ。つまり、やりやすくするためのお薬ね」
サーガがにっかりと笑った。
テルディアスが睨み付けるも堪える気配はない。
「いやちょっと待て。それでも、大量摂取はまずいんじゃ…」
「あんまり良くはないとは思うがなぁ」
近づく前に、すでに2人は十数粒口に運んでいるのが見えていた。
「! キーナ!」
テルディアスが心配になって駆け寄る。サーガもついでに付いてくる。
少し前から、何故かキーナの手は止まり、木の実を食べるのを止めてはいた。しかし、なんだか体を抱きしめるようにして震えている。
「キーナ?!」
テルディアスが肩を掴んで揺らすと、キーナがゆっくりと振り向いた。
「キー…ナ?」
潤んだ瞳がテルディアスを見上げる。
呼吸が浅く速く、頬が上気してほんのり赤く染まっている。
ヤバい
テルディアスは一目でそう思った。
「テル…」
キーナが抱きついてきた。反応が遅れたテルディアスは躱すことも出来ず、キーナに抱きつかれるままになってしまう。
「キーナ!」
「テル…」
テルディアスの体に顔を埋めていたキーナが、その赤くなった顔を上げて、テルディアスの顔を見つめる。
「熱いの…」
固まるテルディアス。
その後ろで、サーガがその様子をニヤニヤと眺めていた。
いつもスカしているテルディアスが固まる所を見られるのは貴重だ。
ところがそこへ、メリンダがサーガに襲いかかってきた。
「姐さん?」
「サーガ…」
いつもよりも色っぽい顔をしたメリンダが、サーガを見つめる。
「お願い…、熱いの…。めちゃくちゃに、して…」
その豊満な胸を押しつけ、腰をくねらせる。
実を言うなら、ここ数日の間にも、2人は3人の目の届かない所で、発散はさせていた。なので、それほど溜まっているわけでもない。
だがしかし、そこはブレないサーガ。
「お安い御用です」
良い笑顔で頷くと、メリンダをひょいっと抱き上げた。
「せめて、邪魔をしない、されない所まで行こうか~」
「ちょっと待て! これ、なんとかならないのか!!」
キーナに抱きすくめられ、身動きの取れなくなったテルディアスが、サーガに助けを求めるが、
「無理無理。酒と一緒よ。気が抜けるまで相手してやるんだな」
そう言って、木陰へと消えて行った。
「気が抜けるまでって…」
何個食べたんだこいつ…。
「テル…」
苦しそうな悲しそうな顔をしながら、キーナが体を押しつけて来る。
どうにもこうにもどうすればいいのか分からないテルディアスはただ慌てふためくのみ。
と、そこへ、ゆらりと大きな影が覆い被さってきた。
「! ダンか…! おい、これ、どうにか…」
ダンならば何か良い方法を知っているのではないかと、テルディアスは顔を上げるが、そこで気付く。
キーナがダンの口に、一粒だったが押し込んでいたことを。
「ダン…?」
テルディアスが顔をひくつかせながら、ダンの顔をよく見る。
目が潤んで、頬が上気して赤くなっていて、呼吸が速く浅く…。
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