キーナの魔法

小笠原慎二

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ピロキン騒動

ピロキン騒動終結

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「早く…、早くぅ…」

悶えるメリンダを、サーガが少し眺める。
いつも高飛車な態度でこちらを(物理的にも)見下しているような物言いのメリンダが、泣きそうな顔をしてサーガにねだっている。

(これはこれで、有りだな)

上から目線でちょっと照れたような感じもなかなか可愛いが、こうやって素直にねだられるのも悪くない。
にやつく口元を抑えながら、

「はいはい」

従順にお役目を果たそうと色々脱ぎかけて、手が止まる。

「ん?」

迫り来る気配と足音。しかもこちらに真っ直ぐ。
嫌な予感を覚え、サーガがメリンダを抱き上げた瞬間、後ろにキーナを抱いたテルディアスの姿が現われ、そのままこっちに体当たりするかのように迫ってくる。

「っぶねえ!」

寸でで避けるサーガ。
そのまま走り去るテルディアス。そして、その後ろからテルディアスを追うように走り抜けていくダン。

「ん?」

何故ダンがテルディアスを追いかけてるんだ…?
そういえば、とサーガも思い出す。キーナに一粒だったが口に押し込まれていた姿を。
あれでまあ、女2人のように催淫状態に陥ってはいるのだろうが…。
何故テルディアスを追いかけているのだろう?

「いや、キーナをか?」

だよなぁと首を傾げる。

「サーガン…」

メリンダがその豊満な胸を押しつけて、体を薫らせる。

「はいはい。ちょっと待ってな…」

メリンダを下ろそうとしたその時、再び迫り来る気配と足音。

「って、なんでこっち来るんだよ!」

ここはまずいと走り出すサーガ。そして現われるテルディアス。

「貴様1人で楽させるものか!」
「ざけんな! 1人でやってろ!」

いや、キーナを襲おうとしてるなら助けた方がいいか?
とサーガが考えていると、

「テ~ル~ディ~ア~ス~」

ダンの声が聞こえた。
サーガの額から頬にかけて、一筋の汗が流れた。

「いや~、なんかあいつ苦手だな~とは思ってたけど、そちらさんだったせいか~」
「アホなこと言ってないでどうにか手はないか!!」
「いや、ご指名されてるし、同類だろ?」
「違うわ!!」

各々手に女性を抱えながら、軽口を叩きながら走っている。さすがというかなんというか。

「テル…」
「サーガ…」

女性達は使い物にならない。

「なんとかお前の持ち技で足止め出来ねーのかよ」
「得意な地縛《ウルバル》は使えん」

そういえばそうだな、と納得。なにせダンはその術の本家本元。かけたとしてもすぐに解かれてしまうだろう。というか効くかどうかも怪しい。
唯一の弱点というか、対抗できるだろう力を持つメリンダも、腑抜けてしまっている。

「簡単なことじゃねーか。お前が犠牲になればいいんだ」
「ふざけたとこを言うな!!!」

自称そちらではないと言っていたが、本当らしい。まあ、キーナに反応している以上はそうなのだろうけれど。

「いや、俺関係ねーし」
「俺が追いかけ回してやる」
「酷くね?!」

折角可愛いメリンダといちゃこら出来ると思ったのに、どうやらダンの気が抜けきるまでテルディアスがサーガを追い回すようだ。そうなると当然いちゃこら出来ないわけで。

「分かった!」
「何だ?」
「俺が姐さんとキーナの両方を相手してやるから、その間お前が逃げ続ければ良い!」

テルディアスの目が殺気を帯びた。
サーガの逃げ足が一段上がった。

「今すぐ切り落としてやろうか」
「この状態でどうやってだよ!」

憎まれ口を叩いている場合ではないと思うが。

「テ~ル~ディ~ア~ス~」

ダンの声が追いかけてくる。

「ほれ! ご指名受けてるぞ!」
「受けられるわけないだろうが!」

有り難い事に、体がでかいおかげか、ダンは足がそれほど早くはない。しかし、あの巨体が迫ってくるのはなかなかにして迫力がある。

「そうか! 分かったぞ!」
「何か手があったか?!」
「俺だけ空に逃げれば良いんだ」

そう言って軽く地面を蹴ると、すいっとサーガが宙に浮かび上がる。

「逃がすか!」

テルディアスも風を纏い、呪文を唱えてサーガを追う。

「追ってくんなボケ!」
「誰が逃がすか!」

そのまま木々の間を抜けて空に…行こうとしたが、

ザザザザザザザザ!!

突如木々の枝やら何やらが網の目の様に張り巡らされ、通れなくなってしまう。

「「げ」」

地の力の本領発揮だ。
地系の力は、攻撃力は火には敵わないものの、その防御力たるや4大勢力の中で随一である。閉じ込める、囲う、縛りつけるはお手の物である。
そして、風の力は地の力とは相性が特段に悪い。

「おい! 火で焼き切れねーか?!」
「っ! 出来ない事はないが、こんな所で使ったら…火の海になるぞ…」

ここは森の中です。
せめてメリンダが正気ならば、火の調節もしてくれるかもしれないが、今は…、

「サーガ…、早くぅ…」

駄目だこりゃ。

「やっぱりお前が犠牲になれば…」
「なるか!!」
「そもそも! 俺は関係ねーだろ!」
「1人で逃げようったってそうはさせるか!」
「俺を巻き込むんじゃねー!」
「どこまでも巻き込んでやるわ!」

仲良いだろお前ら。
言い合いをしていた2人がハッとなり、慌てて身を翻す。と、今まで2人がいた場所を狙って、木の枝が襲いかかってきた。

「やべ、宙も安全じゃねーとか。てかここじゃあいつ最強じゃね?」
「くそ、飛んでてもまずいのか」

魔力の無駄遣いだと、2人共地面に降り立つも、やっぱりダンが迫ってくる。

「気が抜けるまで追いかけっこするっきゃねーのか…」
「どれくらいで抜けるんだ?」
「んなこと俺が知るかよ」

気が抜けるのが先か、体力が果てるのが先か…。
そんなことを考えていた2人が、ハッとなり足を止める。

ザザザザザザザザ!!

木の根が地面より突き出してきて、通せんぼしてしまう。

「ちょ、俺は関係ねーだろ!」
「経験豊富なんだろ? 俺の代わりに掘られて来い」
「そっちの経験はねぇーーーー!」

アホな事を言っている間にも、ダンが近づいて来る。

「く、こうなったら…」

一撃入れて意識を飛ばすしかないかとテルディアスが身構える。

「じゃ、俺は関係ないってことで」
「逃げるのか?!」
「だから、あいつのご指名はお前だろ?!」

とすたこら逃げ出すサーガ。

「待て…!」

しかし、その目の前に木の根の檻が…。

「しま…」

3方を囲まれ、身動きが取れなくなる。
ダンがゆっくりと近づいて来た。

「ま、待て…。落ち着け、ダン、正気に戻れ…」

その顔は…、瞳が潤って上気して呼吸が速く…。

(駄目か…)

隙を見て一発入れてやろうと身構えるが、

しゅるっ

背後から蔓が巻き付き、体の自由を奪われた。

「な…!」

抵抗不能の状態にされる。
キーナの体に巻き付いた蔓が、キーナの体をそっと地面に下ろし、テルディアスに巻き付いた蔓は、テルディアスの四肢を拘束する。
その力は強く、どんなにテルディアスが引き千切ろうとしても千切れない。

「く…」

ダンが近づいて来る。
テルディアスは生まれて初めて、屈辱の涙を流しそうになった。
いや、悲しみ? 恐怖?
とにかくなんでもいいから誰か助けてくれと、初めて心の中で叫んだ。
魔女に捕らわれていた頃でさえ、そんな事を考えたこともなかったのに…。
しかも、ダンの股間の膨らみを見てしまい、余計に絶望感が増す。

ダンが目の前に立つ。
恐怖が膨れあがる。
ダンが腕を伸ばしてくる。
反射的に仰け反るが、可動域には限界がある。
ダンの手が頬に触れた。
全身に鳥肌が立ち、悪寒が走り抜ける。

(助けてくれ!!)

テルディアスが涙目になってそう心の中で叫んだ時だった。
それまで転がって悶えていたキーナが、ゆっくりと体を起こした。
しかし、まだ瞳は潤ったまま、顔は上気したまま、呼吸は速いまま。正気に戻ったわけでもないらしい。
そしてダンを睨み上げる。
その気配に気付き、ダンが下を見ると、キーナと目が合った。

「邪魔…しないで…」

キーナが呟く。

「テルは僕のなのーーーーーーーーーーー!!」

キーナの体が光り輝いた。
その眩しさに、テルディアスもダンも目を瞑った。










「うおっ?! なんだ?!」

ようやく落ち着ける所に来ていたサーガ達も、その光を受けて目を瞑った。













光が落ち着き、テルディアスが目を開けると、正気に戻った様子のダンと目が合った。
いつもの無愛想そうな目つきに、表情の乏しい顔。
テルディアスと目が合うと、ダンの顔がさっと青くなった。
テルディアスを縛り付けていた蔓がするすると外れ、自由になる。
キーナは光が落ち着くと、やはり気が抜けたのか、上気していた顔が元に戻り、そのままコテンと眠りに落ちた。
テルディアスは眠ってしまったキーナを抱きかかえ…、ダンと少し距離を取った。
ダンが青い顔をしながら、首を横に振っているが、後の祭り。
それ以降も、ダンはテルディアスから一歩距離を取られるようになってしまったのは、言うまでもない。













そして、サーガ達も…。
光が収まった途端に、メリンダが正気に戻った。

「なんだったんだ今の。まあいいか、では早速…」
「あんた、何やってんのよ」
「え? 何って、お願いって姐さん…。あれぇ?」
「あんた、女はこりごりとか言ってなかったっけ?」

メリンダの平手打ちが綺麗に決まり、森の中にそのいい音が谺したのだった。
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