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沈黙の森編
メリンダ達と合流
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少し時間は遡り、夜になりかけた森の中。
さすがに足元が見えなくなり、ダンが首を横に振った。
焦る気持ちもあるが、ここで自分達も遭難するわけにはいかない。
3人は適当な所で野宿の準備を始めたのだった。
しかし、この森では魔法が殆ど使えない。となると、いつものダンの野宿小屋?という設備も作れない。久々にまともな?野宿となったのだった。
食事だけはダンがいるので、いつもと変わらず野宿なのに豪勢だ。
メリンダが頭を抱える。
「どったの? 姐さん」
「慣れって怖いわ…」
ダンの野宿小屋がないのが余程身に応えているのかもしれない。
サーガも多少そちらに染まりつつある我が身に、苦笑いしていた。
(時々普通の野宿をしといたほうがいいかも…)
そう思った。
キーナ達は食料を持っていなかったはずと思うが、1日くらい食べなくてもなんとかなるだろうし、2人は水の魔法を使えるから最低水は確保出来るだろうと推察。その辺りは心配してもどうにもならないのでさっさと考えを捨てた。
ただ、3人はとりあえずの飲み水しか確保していないので、こちらの方が不味いかもしれない。ダンは料理後の食器などを水洗いできないので残念な顔をしていた。
魔法がまともに使えるならば、サーガが水源を探し当てられるのだが…。しかし、この森に池や湖などあるのだろうか?
色々な事を考えつつ、とにかく身体を休める。
メリンダもやはりキーナ達が心配なのかしばらくもぞもぞとしていたが、やがて寝入ったようだった。
先の見張りをダンに頼み、サーガも木に背中を預ける。しかし、久しぶりのまともな野宿に加え、いつもの感覚や魔法が使えないことからまともに眠る事が出来なかった。
ダンと交代した後、ダンは疲れていたのかすぐに寝入った。呆れと羨ましさで少し睨み付けるが、ダンが起きるわけでもない。小さくなりかけた火に薪をくべ、そのまま朝まで見張りを続けたのだった。
森が明るくなってくると、先にメリンダが眼を覚ました。
ダンが目覚めるまででいいからと、サーガが少し見張りをメリンダに頼む。
ダンが起きると食事をし、明るくなって来た森の中を、再びダンが足跡を追って歩き出した。
森の地面は多少湿っていたので、足跡は消えることもなく森の中を続いていく。
「外、向かってる」
ダンの言葉に、メリンダとサーガもほっとする。とにかくこの森から出ているならば大丈夫だろうし、自分達も助かる。
そのまま足跡を辿っていくと、やがて森の外に出た。
やっといつもの感覚が戻ってきて、サーガとダンもほっとする。見れば、少し先に山小屋のような物が見える。そこへ向かって足跡は続いていた。
「あそこ…」
「あそこにいるのね?!」
ダンの言葉を遮り、メリンダが叫んで走り出す。
この中で一番元気で、しかもキーナ心配性のメリンダだ。とにかく無事な姿を見たいと一番に小屋に向かって駆け始めた。
ダンと目を見合わせ、サーガも苦笑い。2人の気配を確認し、ほっとしながら小屋へ向かって歩き出した。
「キーナちゃん!!!」
勢いよく扉を開けたメリンダが固まった。少し置いて、何故か中に入らず静かに扉を閉めた。
扉を背にし、何やら難しい顔をしている。
「お~い。姐さん、どうした? 2人はいたんか~?」
何かあったのかと、早足で小屋へと向かうと、何やら慌てたようにそこに転がっていた棒を拾い上げると、
「あんたは、余計に、来るな―――――!!」
「なじぇ――――――!」
メリンダの盛大なスイングがサーガの腹にめり込み、オートガードも手伝って、サーガは空の彼方へと飛んで行った。
呆然とダンはそれを見送り、肩で息をするメリンダを怖々見つめたのだった。
少しすると、何故か小屋の中から笑い声が聞こえて来た。
少々顔を青ざめさせていたメリンダの顔が緩む。とりあえずキーナが酷い目に合っていたようではないようで安心したのだ。
ダンも、小屋の中の状況を詳細に確認し(地の一族は地に足を付けている者ならば詳細な位置確認も出来るのだ)、小屋の中に入れるような状況ではないと扉の前でメリンダと共に立っていたが、笑い声を聞いて安心したようだった。その表情はほとんど変わっていないので余程慣れた人でなければ読み取れないのだろうが。
サーガも戻って来た頃、小屋の扉が中から開き、キーナがまず顔を出した。
「メリンダさん!」
「キーナちゃん!!」
ひしっと抱き合う2人。
「おう。無事で良かった」
「サーガ、ダンも、ごめんね…。また心配かけちゃった」
「いや、まずはあの緑野郎が落ちたのがマヌケだっただけで…」
「貴様に言われる筋合いはない」
「あんだあ? 生きてやがったのか?」
後からやって来たテルディアスといつもの口喧嘩を始める。
それをお約束でメリンダが宥め(?)、とりあえずお腹が空いているだろうと小屋で食事を取ることになった。
キーナもテルディアスも昨日からほぼ食べていないのでお腹はぺこぺこであった。
食事後に今後の予定を話し合う。ダンが言うには今から山道を登ると中途半端な所で陽が暮れるということなので、小屋もあるしとそこで一泊することになった。
適当な理由をつけて、メリンダはキーナと共に外に出た。
「で、キーナちゃん…。その、体は…、大丈夫?」
直で聞く勇気はなく、それでいて何もない振りをするのも難しかったメリンダは、それとなくキーナに問いかける。
扉を開けた時、キーナの瞳に涙が光っているような気もしていたので、とにかく心配であった。体も、心も。
キーナの顔が赤くなる。
「そ、そ、そのう…」
鈍いキーナもメリンダの問いの内容が分かったようで、モジモジと人差し指を合わせて動かす。
キーナも恥ずかしかったのではあるが、メリンダにちょっと相談したかったので、天の助けとその問いに答えようとするのだが、如何せん、どう答えたらいいのか分からない。
「そ、その…ね、あのね?」
ちょっとずつ、ちょっとずつキーナは昨日からの出来事を話す。
小屋に着いたものの、テルディアスの意識がなくなってしまったこと。濡れたままでは不味いと思い、脱がせたこと。ついでに自分も脱がなければならなかったこと。火は起こせたものの、寒そうだったのも有り、セオリー通りにくっついて寝たこと。まあ、寝るのに然程の抵抗はなかったのだが…。そして、今朝目覚めたら、何故かテルディアスが腕を…。
「腕を?」
「う、うで…を」
キーナがいい淀む。顔が真っ赤になる。
キーナにとって、テルディアスのあの行動は不可解なものであった。そして、なんだかとても恥ずかしいことであった。腕なのに。
恥ずかしさのあまり、その先をメリンダに告げる事が出来ない。真っ赤になったまま押し黙ってしまったキーナを見て、メリンダの顔が青ざめる。ただし、口元は笑ったまま。
「キーナちゃん、敵はとるからね」
「にゅ?」
メリンダのなんだかとても冷えた声を聞いて、背筋が寒くなったキーナだった。
嫌なら無理に言わなくていいとメリンダに言われ、ほっとするキーナ。とてもじゃないが恥ずかしくて口に出せなかった。まあ、おでこにちゅーで気絶するような奴だし。
メリンダと共に小屋へと戻る。キーナが中に入ると、メリンダがテルディアスを呼んだ。
「ちょっと話がある」
と。
元々青緑の肌に、今朝のことがあってから青くなっていた顔が、さらに青ざめた。
何が起きるのか分かっているのか、すごすごと大人しくメリンダと共に外に出て行った。
「何かあったのか?」
「べ、別に!」
状況がよく分かっていないサーガに尋ねられるも、誤魔化すキーナ。誤魔化しきれてないけどね。
何かあったという事だけは察したサーガ。しかもそれは、テルディアスがキーナを害するような何か。でなければメリンダがあんなに怖い顔をするはずがない。
小屋から離れた所で、
「お、俺を殴ってくれ!」
テルディアスが言った。
「あんた、そっちの人だったの…」
「そうじゃなくて!」
メリンダの冷たい眼に怯みつつ、素直に突っ込むテルディアス。
「で? 何をしたの?」
「・・・・・・!」
青かった顔が赤くなる。
「そ、その…、寝ぼけていたとは言え…、その、とても、酷いことを…。キーナにはすまなことを…。だが、キーナに殴ってくれと言っても、あいつはきっと殴ってくれない…」
先程も着替えながらも何度も謝ったのではあるが、キーナは「寝惚けてたんでしょ?」と笑って許した。心が抉られる。
怒鳴り散らして殴られた方がましだった。
「最低だ…。俺は…、俺は…」
つまり何をしたんだお前は。とメリンダは問いかけたかったが、目の前の男はキーナと同じくらい純情な奴。事細かに話せと言っても、キーナのように顔を赤くして固まるのだろう。そして多分、恥ずかしさとか後ろめたさとかで何も喋れなくなる。
メリンダは大袈裟に溜息を吐いた。
「つまりあんたは、罰して欲しいわけね」
「そうだ! 俺を、俺を殴ってくれ!」
とりあえず自分が何をしたかは良く理解していて、とてつもなく反省していることは分かった。悪意を持っていたわけでもなく、まあ寝惚けていたわけではあるが、それでも犯したことは許される事ではない。
「じゃあ、殴らない」
「は?」
「殴らないことで、あんたは余計に苦しみ続けるでしょう。それがいい罰だわ」
望む罰を与えてやっても、テルディアスが満足するだけだ。ならば突き放してずっと罪の意識に苛まされる方がよほど苦しい罰になるだろう。
「だ、だが、俺は、最低な事をしてしまって…」
「そうやって罪の意識に苦しめばいいんだわ。今ここであんたを罰した所で、キーナちゃんが受けた苦しみから解放されるわけじゃないでしょう?」
テルディアスの顔が苦い顔になった。
確かに、テルディアスが今罰を受けた所で、テルディアスはすっきりするかもしれないが、キーナはこの後もずっとあの時の恐怖を抱き続けるのだ。
頭がはっきりして来た時、キーナの顔が恐怖で固まっていたことが思い出される。
「キーナちゃんがあんたを許すって言うことが、あんたにとっては一番の罰なのかもね」
そう言って、メリンダは先に小屋へと戻っていった。
テルディアスはしばらく項垂れたまま、動くことが出来なかった。
次の日、一行は小屋から出立した。
いつもと変わらない様子ではあったが、テルディアスが何かを決意したような、いつもよりも引き締まった顔をしていたような…。
きっと一生を掛けてでも罪を償う、などと考えているのだろう。
そして、キーナ達は無事、沈黙の森を越えていったのだった。
さすがに足元が見えなくなり、ダンが首を横に振った。
焦る気持ちもあるが、ここで自分達も遭難するわけにはいかない。
3人は適当な所で野宿の準備を始めたのだった。
しかし、この森では魔法が殆ど使えない。となると、いつものダンの野宿小屋?という設備も作れない。久々にまともな?野宿となったのだった。
食事だけはダンがいるので、いつもと変わらず野宿なのに豪勢だ。
メリンダが頭を抱える。
「どったの? 姐さん」
「慣れって怖いわ…」
ダンの野宿小屋がないのが余程身に応えているのかもしれない。
サーガも多少そちらに染まりつつある我が身に、苦笑いしていた。
(時々普通の野宿をしといたほうがいいかも…)
そう思った。
キーナ達は食料を持っていなかったはずと思うが、1日くらい食べなくてもなんとかなるだろうし、2人は水の魔法を使えるから最低水は確保出来るだろうと推察。その辺りは心配してもどうにもならないのでさっさと考えを捨てた。
ただ、3人はとりあえずの飲み水しか確保していないので、こちらの方が不味いかもしれない。ダンは料理後の食器などを水洗いできないので残念な顔をしていた。
魔法がまともに使えるならば、サーガが水源を探し当てられるのだが…。しかし、この森に池や湖などあるのだろうか?
色々な事を考えつつ、とにかく身体を休める。
メリンダもやはりキーナ達が心配なのかしばらくもぞもぞとしていたが、やがて寝入ったようだった。
先の見張りをダンに頼み、サーガも木に背中を預ける。しかし、久しぶりのまともな野宿に加え、いつもの感覚や魔法が使えないことからまともに眠る事が出来なかった。
ダンと交代した後、ダンは疲れていたのかすぐに寝入った。呆れと羨ましさで少し睨み付けるが、ダンが起きるわけでもない。小さくなりかけた火に薪をくべ、そのまま朝まで見張りを続けたのだった。
森が明るくなってくると、先にメリンダが眼を覚ました。
ダンが目覚めるまででいいからと、サーガが少し見張りをメリンダに頼む。
ダンが起きると食事をし、明るくなって来た森の中を、再びダンが足跡を追って歩き出した。
森の地面は多少湿っていたので、足跡は消えることもなく森の中を続いていく。
「外、向かってる」
ダンの言葉に、メリンダとサーガもほっとする。とにかくこの森から出ているならば大丈夫だろうし、自分達も助かる。
そのまま足跡を辿っていくと、やがて森の外に出た。
やっといつもの感覚が戻ってきて、サーガとダンもほっとする。見れば、少し先に山小屋のような物が見える。そこへ向かって足跡は続いていた。
「あそこ…」
「あそこにいるのね?!」
ダンの言葉を遮り、メリンダが叫んで走り出す。
この中で一番元気で、しかもキーナ心配性のメリンダだ。とにかく無事な姿を見たいと一番に小屋に向かって駆け始めた。
ダンと目を見合わせ、サーガも苦笑い。2人の気配を確認し、ほっとしながら小屋へ向かって歩き出した。
「キーナちゃん!!!」
勢いよく扉を開けたメリンダが固まった。少し置いて、何故か中に入らず静かに扉を閉めた。
扉を背にし、何やら難しい顔をしている。
「お~い。姐さん、どうした? 2人はいたんか~?」
何かあったのかと、早足で小屋へと向かうと、何やら慌てたようにそこに転がっていた棒を拾い上げると、
「あんたは、余計に、来るな―――――!!」
「なじぇ――――――!」
メリンダの盛大なスイングがサーガの腹にめり込み、オートガードも手伝って、サーガは空の彼方へと飛んで行った。
呆然とダンはそれを見送り、肩で息をするメリンダを怖々見つめたのだった。
少しすると、何故か小屋の中から笑い声が聞こえて来た。
少々顔を青ざめさせていたメリンダの顔が緩む。とりあえずキーナが酷い目に合っていたようではないようで安心したのだ。
ダンも、小屋の中の状況を詳細に確認し(地の一族は地に足を付けている者ならば詳細な位置確認も出来るのだ)、小屋の中に入れるような状況ではないと扉の前でメリンダと共に立っていたが、笑い声を聞いて安心したようだった。その表情はほとんど変わっていないので余程慣れた人でなければ読み取れないのだろうが。
サーガも戻って来た頃、小屋の扉が中から開き、キーナがまず顔を出した。
「メリンダさん!」
「キーナちゃん!!」
ひしっと抱き合う2人。
「おう。無事で良かった」
「サーガ、ダンも、ごめんね…。また心配かけちゃった」
「いや、まずはあの緑野郎が落ちたのがマヌケだっただけで…」
「貴様に言われる筋合いはない」
「あんだあ? 生きてやがったのか?」
後からやって来たテルディアスといつもの口喧嘩を始める。
それをお約束でメリンダが宥め(?)、とりあえずお腹が空いているだろうと小屋で食事を取ることになった。
キーナもテルディアスも昨日からほぼ食べていないのでお腹はぺこぺこであった。
食事後に今後の予定を話し合う。ダンが言うには今から山道を登ると中途半端な所で陽が暮れるということなので、小屋もあるしとそこで一泊することになった。
適当な理由をつけて、メリンダはキーナと共に外に出た。
「で、キーナちゃん…。その、体は…、大丈夫?」
直で聞く勇気はなく、それでいて何もない振りをするのも難しかったメリンダは、それとなくキーナに問いかける。
扉を開けた時、キーナの瞳に涙が光っているような気もしていたので、とにかく心配であった。体も、心も。
キーナの顔が赤くなる。
「そ、そ、そのう…」
鈍いキーナもメリンダの問いの内容が分かったようで、モジモジと人差し指を合わせて動かす。
キーナも恥ずかしかったのではあるが、メリンダにちょっと相談したかったので、天の助けとその問いに答えようとするのだが、如何せん、どう答えたらいいのか分からない。
「そ、その…ね、あのね?」
ちょっとずつ、ちょっとずつキーナは昨日からの出来事を話す。
小屋に着いたものの、テルディアスの意識がなくなってしまったこと。濡れたままでは不味いと思い、脱がせたこと。ついでに自分も脱がなければならなかったこと。火は起こせたものの、寒そうだったのも有り、セオリー通りにくっついて寝たこと。まあ、寝るのに然程の抵抗はなかったのだが…。そして、今朝目覚めたら、何故かテルディアスが腕を…。
「腕を?」
「う、うで…を」
キーナがいい淀む。顔が真っ赤になる。
キーナにとって、テルディアスのあの行動は不可解なものであった。そして、なんだかとても恥ずかしいことであった。腕なのに。
恥ずかしさのあまり、その先をメリンダに告げる事が出来ない。真っ赤になったまま押し黙ってしまったキーナを見て、メリンダの顔が青ざめる。ただし、口元は笑ったまま。
「キーナちゃん、敵はとるからね」
「にゅ?」
メリンダのなんだかとても冷えた声を聞いて、背筋が寒くなったキーナだった。
嫌なら無理に言わなくていいとメリンダに言われ、ほっとするキーナ。とてもじゃないが恥ずかしくて口に出せなかった。まあ、おでこにちゅーで気絶するような奴だし。
メリンダと共に小屋へと戻る。キーナが中に入ると、メリンダがテルディアスを呼んだ。
「ちょっと話がある」
と。
元々青緑の肌に、今朝のことがあってから青くなっていた顔が、さらに青ざめた。
何が起きるのか分かっているのか、すごすごと大人しくメリンダと共に外に出て行った。
「何かあったのか?」
「べ、別に!」
状況がよく分かっていないサーガに尋ねられるも、誤魔化すキーナ。誤魔化しきれてないけどね。
何かあったという事だけは察したサーガ。しかもそれは、テルディアスがキーナを害するような何か。でなければメリンダがあんなに怖い顔をするはずがない。
小屋から離れた所で、
「お、俺を殴ってくれ!」
テルディアスが言った。
「あんた、そっちの人だったの…」
「そうじゃなくて!」
メリンダの冷たい眼に怯みつつ、素直に突っ込むテルディアス。
「で? 何をしたの?」
「・・・・・・!」
青かった顔が赤くなる。
「そ、その…、寝ぼけていたとは言え…、その、とても、酷いことを…。キーナにはすまなことを…。だが、キーナに殴ってくれと言っても、あいつはきっと殴ってくれない…」
先程も着替えながらも何度も謝ったのではあるが、キーナは「寝惚けてたんでしょ?」と笑って許した。心が抉られる。
怒鳴り散らして殴られた方がましだった。
「最低だ…。俺は…、俺は…」
つまり何をしたんだお前は。とメリンダは問いかけたかったが、目の前の男はキーナと同じくらい純情な奴。事細かに話せと言っても、キーナのように顔を赤くして固まるのだろう。そして多分、恥ずかしさとか後ろめたさとかで何も喋れなくなる。
メリンダは大袈裟に溜息を吐いた。
「つまりあんたは、罰して欲しいわけね」
「そうだ! 俺を、俺を殴ってくれ!」
とりあえず自分が何をしたかは良く理解していて、とてつもなく反省していることは分かった。悪意を持っていたわけでもなく、まあ寝惚けていたわけではあるが、それでも犯したことは許される事ではない。
「じゃあ、殴らない」
「は?」
「殴らないことで、あんたは余計に苦しみ続けるでしょう。それがいい罰だわ」
望む罰を与えてやっても、テルディアスが満足するだけだ。ならば突き放してずっと罪の意識に苛まされる方がよほど苦しい罰になるだろう。
「だ、だが、俺は、最低な事をしてしまって…」
「そうやって罪の意識に苦しめばいいんだわ。今ここであんたを罰した所で、キーナちゃんが受けた苦しみから解放されるわけじゃないでしょう?」
テルディアスの顔が苦い顔になった。
確かに、テルディアスが今罰を受けた所で、テルディアスはすっきりするかもしれないが、キーナはこの後もずっとあの時の恐怖を抱き続けるのだ。
頭がはっきりして来た時、キーナの顔が恐怖で固まっていたことが思い出される。
「キーナちゃんがあんたを許すって言うことが、あんたにとっては一番の罰なのかもね」
そう言って、メリンダは先に小屋へと戻っていった。
テルディアスはしばらく項垂れたまま、動くことが出来なかった。
次の日、一行は小屋から出立した。
いつもと変わらない様子ではあったが、テルディアスが何かを決意したような、いつもよりも引き締まった顔をしていたような…。
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