キーナの魔法

小笠原慎二

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闇の宮編

はぐれ闇のシゲール

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地の一族が懇意にしている所があると、とりあえずそこを目指している一行。
さすがのダンも、調味料を一から作りながら旅をすることは出来ない。多少は出来るが…。
サーガとテルディアスに言わせれば、「塩があるだけまし」なのではあるが。

他にも手に入れたい日用品などもあるので、一行はその場所を目指していた。
地の一族の村より北北西に進んだ森の中。途中村などはないので、普通に森の中を旅していたならば色々ボロボロになっていておかしくはないのだが…。
5人の身体は清潔に保たれており、服は多少ほつれなどはあっても擦り切れている事もなく、野営続きで疲れるはずが、毎日心地よいベッドで寝られる日々…。

ダン無双。

時折サーガとテルディアスは普通の野営(と言っている)をしていたりはするが。
普通の旅人がいたならば、「ふざけるな」と文句を言いそうな旅をしていたのだった。
そして、目的の場所が近づいて来たのか、なんとなくだが少し開けた道のような場所を通っていた。はっきり道として整備されているわけではなく、そこそこの往来があるのか草が少ないので歩きやすくなっている。

相変わらずちょろちょろと無駄に動きの多いキーナを、テルディアスとサーガが注意して見張りながら歩いていた。時折メリンダと楽しそうに会話などもして、何がそんなに楽しいのか、ルンルンと足も軽い。
きちんと見張っていた。しかも2人がかりで。なのに…。

「! キーナ?!」
「キーナ?!」
「キーナちゃん?!」

4人が気付いた時には、キーナの姿は消えていたのだった。








「! おい、おかしいぞ!」
「貴様の顔はいつもおかしいだろう」
「あんだあ? 誰の顔がおかしいって?」
「ああ、顔だけじゃなく、頭もだったな」
「あああん?!」
「喧嘩しとる場合か!」

メリンダの容赦ないチョップで、争いを止める2人。
ダンはすでに探索を開始している。

「で、何がおかしいって?!」

メリンダの睨みにギクリとなるサーガ。

「その、俺が付けてた風が、なくなってる…」
「風?」
「キーナが何処か行ってもすぐ分かるようにいつも風を付けてるんだが、それが消えてるんだよ」
「あんたが見失ったんじゃないの?」
「俺が風を見失うなんてことあるわけないだろ」

テルディアスもさっそく双子石で探し始めるが…。

「おかしい…」
「あんたも?」
「反応が、ない…」

ダンを見ると、ダンも首を横に振る。ダンにも見付けられないようだ。

「どういうことよ…」

メリンダが辺りを見回すも、キーナの姿を見付けることは出来なかった。













「にゅ?」

普通に歩いていたら、何か変な感じがして足を止めたキーナ。

「あり?」

気付いたら、すぐ前を歩いていたテルディアスの姿がなくなっている。
キョロキョロ辺りを見回すが、すぐ側を歩いていたメリンダの姿も、その後ろにいたサーガの姿もなくなっている。

「おろろ?」

テルディアス達の姿がなくなっただけで、森は続いている。

「またはぐれたんかな?」

時折自分が皆とはぐれてしまうのは自覚している。しかし、いつの間にはぐれたのか覚えがない。
いつもならつい目に付いた花とか鳥とか小動物とかに気を取られ、ついついそっちに足を向けそうになって止められるのだが。今回は何かに気を取られたわけでもなく、皆と一緒に歩いていたはずなのだが。
とにかく皆と合流せねばと、足元に続いている道を辿る。しかし…。

(なんか、変だぞ)

いくらも行かないうちに足を止めた。
上手く言えないが、何かが変だ。空気が違うというか、気配が違うというか。
第六感とでも言えばいいのか、それが何か警鐘を鳴らしている。
ここは、違う・・・・・・

「へえ、さすがというか。気付くのか」

どこからともなく声がした。聞いた事のない声だ。
だが、キーナの背筋がゾワリとなった。今すぐにでも逃げ出したいと思うが、何処へ逃げていいのか分からない。
視線を右に左に、忙しなく動かすが、誰の姿を見ることも出来ない。
後ろに下がろうかとも思うが、果たして後ろに進んだ所で安全とも思えなかった。

動けない。

「勘がいいのか? それとも、御子の力?」

また声がした。

(正面?!)

声がした方をよく見ると、木陰に人影が見えた。先程までは見えなかったはずなのに。

「誰?!」

その人物が近づいて来る。黒い髪、黒い瞳の目つきの悪い、感じの悪い男だ。

「初めまして、だな。光の御子さん、だよな? 俺はシゲール。所謂、はぐれ闇って奴だよ」

シゲールと名乗った男がにやりと笑った。
キーナの背筋が余計にゾワゾワと寒くなる。
よく分からないが、キーナの本能が訴える。この男は気持ちが悪い。近づきたくない。
シゲールが近づいて来る事に本能的な恐怖を感じたキーナは、踵を返して逃げ出した。

「おいおい、なんで逃げる?」

笑いながらシゲールが追ってくる。
向こうは歩いているだけなのに、何故か距離が開かない。夢中で足を動かすのだが、シゲールの姿はいつまで経っても同じ距離に見えている。

(違う、違う。ここは何か違う!)

キーナは感じた。ここは、違う空間だ・・・・・、と。
どうやったのかは分からないが、キーナはいつの間にかあのシゲールの空間に引き摺り込まれていたらしい。そして、その答えに行き着いた。

(あの人の空間なら、出口は…!)

多分、ない。

前に出会ったナトという、闇の力を使う少年に聞いた事がある。
上位の闇の者ほど、自分の空間を思いのままに作り出す事が出来ると。ナトとアディはその空間に捕らわれ、出ることが出来なかったと。
闇の力を使えるナトでさえ、脱出するのがもの凄く難しかったというのに、闇の力など使えないキーナが、その空間から脱出することなど不可能だ。

光の力を使えればどうにか出来るかもしれないが、如何せん、キーナは何故か光の力を思い通りには使えなかった。

(なんで、なんでこんな時にこそ、使えないの?!)

あの人がいないから?

キーナにもその答えは分からない。

「そろそろ鬼ごっこも飽きたかな?」

背後からそんな声が聞こえ、背筋がゾワリとなる。
すると、あちらこちらの木の枝がしなり、キーナに向かって来た。

「うわあ!」

振り払おうとした手に枝が絡まる。反対の手も絡み取られた。そして、右足、左足。
あっという間に動けなくなった。

「う、く…」

藻掻いてもびくともしない。
シゲールが近づいて来た。

「へ~。本当に男にしか見えね~な~」

ジロジロとキーナを上から下まで眺める。
キーナはその視線が気持ち悪くてしょうがなかった。手で身体を覆いたい衝動に駆られるが、両手は万歳の格好のまま動けない。

「お前、本当に女なのか?」

シゲールが顔を近づけて来た。
気持ち悪さと恐怖で顔を背けるも、追いかけるように顔を近づけて来る。

「まあ、見てみりゃ分かるよな?」

シゲールがキーナの胸元を掴んだ。そして、勢いよくその手を下に振り下ろす。

ビリイ!

「うああ!」

マントが外れ、地面にパサリと落ちた。来ていた服の胸元が縦に裂かれ、下着と肌が露わになる。
キーナは初めて、顔から血の気がなくなるという現象を知った。
恐怖で身が強ばる。喉がきゅっとなり、声が出なくなる。
とてつもなく逃げたいのに、恐ろしすぎて身体が動かない。

「へえ、本当に女だな」

シゲールがキーナの胸元を見つめ、唇を舐めた。
それがとてつもなく気持ち悪くて、身の毛がよだつ。

(テル! テル! テル! テル!)

眼を瞑り、テルディアスの名前を心の中で叫ぶ。
助けを呼ぶ単語さえ出て来ない。

「いいね~、その顔」

シゲールがキーナの顔を見ているのか、見られていることさえ気持ち悪く、余計に目を瞑る。

「裸にひん剥いてやったら、どんな顔になるのかなぁ?」

心底嬉しそうなシゲールの声が聞こえた。

「っ!」

恐ろしさのあまり、キーナが目を開けると、シゲールと目が合った。キーナの胸元から見上げるようにキーナの目を覗き込んでくる。
嬉しそうに楽しそうに、シゲールがにんまりと笑う。

(テル! テル! テル! テル!!)

心の中でテルディアスの名を叫ぶ。しかし答えるものはいない。
シゲールの手が、キーナのズボンに伸びてくる。
恐怖のあまり、涙が滲み出る。これから起こるだろう事に身を竦ませ、キーナは見たくないとばかりに眼を瞑った。







「何をしている」

違う声が聞こえた。
シゲールの身体が離れたのが空気で分かった。

「てめえ…」
「こんな所に変なものがあると思ったら、お前か、シゲール」

キーナがゆっくりと目を開けると、

「久しぶりだなぁ。ルイス」

黒い髪、黒い瞳の背の高い男、以前に出会ったはぐれ闇、ルイスが立っていた。
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