キーナの魔法

小笠原慎二

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闇の宮編

ルイス再び

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(あの…、人は…?)

見たことがある。以前、まだメリンダが仲間に加わったばかりの頃に訪れた街で、金持ちの女性に招待された屋敷で出会った闇の者。
あの頃はもう少し嫌な雰囲気を纏っていたが、今は以前とは違う。
着ている服もあの頃は真っ黒一色だったが、今は普通、なんというか、普通の格好だった。
キーナが御子の力を発揮して、うんちゃらかんちゃらしたわけだが、実を言うとあまり詳細を覚えていない。

実は御子の姿になった時の記憶は朧気なのだった。多少は覚えているものの、詳細はキーナにも分かっていない。多分御子の力をきちんと制御出来ていないからだろう。
睨み合う2人。緊迫した空気が流れる。

「で、どうする? 闘《や》るか?」

ルイスが目を細める。

「ち。てめぇとなんざ闘《や》らねーよ」

面白くなさそうに吐き捨てると、じろりとキーナに視線を移す。

ビクリ

条件反射でビクついてしまうキーナ。
それを見てにやついたシゲールが、キーナの耳元に口を近づけた。

「じゃあなぁ、光の御子さん。また会おうぜ」

そう呟くと、その姿がかき消えた。
いつの間にか止めていた息を思い切り吐き出す。それと共に体中から力が抜けた。強ばっていたのだと、その時気付いた。それほどに気持ち悪かったのだ。
ザクザクとルイスが近づいて来る。

「大丈夫か? おチビちゃん。おっと、じゃなくて、光の御子さん」

絡まっていた木の枝などがするすると解けていく。ルイスがやってくれたらしい。
支えを失い、キーナは地面にへたり込んだ。緊張と恐怖で足に力が入らない。

「あ、ありがとう。僕はキーナ。キーナでいいよ」

光の御子と呼ばれるのはいい気がしない。まだきちんと力を使えないのだし。

「そうか、キーナちゃんか」

羽織っていた上着を、キーナに被せてくれた。

「俺はルイス。前に会った時は、名乗る事もなかったもんな」

ちょっと遠い目をするルイス。過去の所業でも思い出しているのだろうか。

「今は、何してるの?」

あの時、キーナが何かをした後、どこかスッキリした顔をして去って行ったのだが。
あの頃とすっかり様相が違っている。何かを諦めていたような瞳が、今は力強く光っている。

「ああ、今はまあ、おっと、その前にさっさとここから出よう」

と手を差し出して来た。

「? うん」

素直にその手を取るキーナ。
すると、一瞬のうちに空気が変わったのが分かった。景色は然程変わったようには見えないのだが、明らかに空気が違う。

「あいつが作った疑似空間にいたからな。いつ崩れるか分からなかったし。今は通常空間に戻って来たから、もう大丈夫だ」
「ほえ~。凄いねぇ」

キョロキョロ辺りを見回すキーナ。ふと見れば、キーナの手足を捕まえていた枝などがなくなっている。確かにさっきの場所とは違うようだ。

「うん、気持ち悪い空気がなくなった」
「気持ち悪い…。まあ、あいつの空間だからな…」
「?」

何か考え込むような表情になるルイス。しかしそれも少しの間だけだった。

「それで、キーナちゃんの連れは?」

ルイスはしっかりと覚えていた。闇の眷属でもないのに闇の力を破ったあのダーディンの男の事を。あと、思わずツバを飲み込んでしまう妖艶な女性がいたはず。

「んとね、あっちかな?」

双子石を使えば分かるだろうに、何故か勘で方向を指し示すキーナ。

「そっか。んじゃ、行こう。立てるか?」

特に突っ込む事もなく、キーナのマントを持ってルイスは立ち上がり、キーナに手を差し出す。

「うん」

ルイスの手を取って立ち上がるキーナ。まだ少し足元がふらつく。

「気をつけてな。道に出れば歩きやすくもなる」
「うん」

手を繋いだまま、2人は歩き出した。キーナが指し示した方角には、人が通る道もある。
しかし、幾ばくも行かないうちに、木立の向こうから人影が現われた。

「キーナ!!」
「テル!」

テルディアスの姿を見付けて嬉しそうに声を上げる。しかし、テルディアスの方はキーナ達の姿を見るなり、抜刀する。

「貴様!!」

そのままルイスに躍りかかる。

「ま、待ってテル!!」

慌ててルイスの前に立ち塞がるキーナ。

「キーナ?! どけ!」
「待って! 多分勘違いしてる!!」

前を破かれた自分の格好に、以前一行に襲いかかったルイス…。絶対に勘違いしている。
とにかく説明をしなければと口を開きかけた時、

「おーい、キーナ!」
「キーナちゃん!!」

後ろから3人が現われた。

「サーガ、メリンダさん、ダン!」

嬉しさに3人の方へ視線を移すと、何故か強ばる3人の顔。

「おま…」
「キーナちゃん…」

そして、キーナの後ろの人物を射殺すように睨み付ける。

「待って待って待って! 違うの! ルイスさんは助けてくれたの!」
「助けた? こいつが? 闇の者だろう?」
「だから違うったらー!」

なかなか剣をしまわないテルディアスと、ルイスを睨み付けながら今にも魔法を繰り出しそうになっているサーガとメリンダを根気よく宥めながら、キーナはそれまでの経緯を丁寧に丁寧に説明するのだった。

その間も、ルイスは苦笑いを浮かべ、ダンはいつもの通りに無表情だった。










「すまなかった」

テルディアスが剣をしまい、ルイスに頭を下げた。

「いやいやいや、まあ、前科もあることだし、仕方ないだろうよ」

笑って流してくれたルイス。大人だ。

「何かあったん?」

サーガがヒソヒソとメリンダに問いかける。

「実は…」

メリンダもほとんど気絶していたのであまりよく分かっていないが、とにかく閉じ込められて酷いことをされそうになったことは分かる。ほぼ未遂であったが。

「あの時はすまんかった。俺も、正気じゃなかったんだ」

ポリポリとばつが悪そうに頬を掻くルイス。
そう言われてテルディアスとメリンダも、ルイスの気配が以前とはなんとなく違うのに気付く。以前と違い、どこかさっぱりしている気がする。

「御子さん…、じゃない、キーナちゃんが俺を正気に戻してくれたからな」
「ふにゃ?」

笑顔を向けられても、よく分かっていないキーナ。

「んで、あんたら、ここに居るって事は、あそこに向かってるんだろ? 丁度いいから案内するぜ」
「あそこ?」
「あそこ?」
「あそこって?」
「どこだ?」

一斉にダンの顔を見る。
ダンはゆっくりと頷いた。

いや、喋れよ!

「俺が今身を寄せている所。というか、闇の者達が暮らす場所、闇の宮だよ。そこに用があるんじゃないのか?」

ダンは頷いた。

いや喋れよ!

「聞いてねーぞ」
「聞いてないわよ」

サーガとメリンダが訝しげな顔になる。テルディアスの顔も警戒を露わにする。
皆がダンから聞いていたのは、地の一族が昔から懇意にしている所に向かっている。それだけだった。
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