キーナの魔法

小笠原慎二

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闇の宮編

闇の宮(?)へ

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その近くに他に村などはなく、物資を補給する必要があるとのことで、テルディアスとメリンダとサーガが渋い顔をしていたものの、一行は闇の宮へと向かう。
キーナには何故皆がそんなに渋い顔になるのかがよく分からない。こればかりはこの世界の文化というか、教育の差というものだろう。
幼い頃から闇の力というものは良くない物だと教わり続けて来たテルディアス達。まあ、光の宮の実情を知った今では、教わってきた事が真実とは限らない、とはなんとなく分かってはいても、やはり幼い頃から言い聞かされてきた事をいきなり方向転換出来るほど、人は簡単にはできていないのである。
特に、実際に被害にあってしまっているテルディアスはなおのことであった。

「あそこだぜ」

振り向いたルイスが指し示す方向には、木々にまだ隠れてはいるものの、黒い壁が見えていた。そのまま道なりに進んで行くと、黒い門が姿を現わした。
大きな門の横に、小さな扉が見えた。大きな門は馬車などが通る時に使われるものだろう。
それを裏付けるようにルイスが小さな扉の方へと向かった。小さいと言っても大きなルイスやダンが楽々通れるくらいは大きい。
扉の横に備え付けてある紐をルイスが引くと、門の一部が小窓になっているのか、開いた。目だけがこちらを覗き込んでくる。

「おお、ルイスか」

ルイスを知っている者のようだ。

「ああ、今帰った。それと、お客さんだ」
「え? 珍しいな。何の用だ?」
「例の御一行だよ」
「え?! すぐ開ける!」

何やらよく分からない会話をしていたが、小窓が閉まるとすぐに鍵を外す音がして、扉が開いた。

「ようこそ、いらっしゃいました」

軽く武装した男の人が、扉を開けて挨拶をした。そして中へ入るようにと手で示す。

「さ、どうぞ」

ルイスも招くように扉の中へ入るように促す。
少したじろぐテルディアス達を他所に、ダンとキーナは平然と扉を潜っていった。さすが怖いもの知らずの娘である。
中へ入ると、何故かキーナ、そこにいた人達からジロジロと見られる。

「?」

よく分からん好奇の目に晒され、顔を曇らせる。まあ、敵意はなさそうなので大丈夫そうではあるが。
扉の中は少し開けた所になっていた。しかし、少し間を開けて、同じような高い壁が聳え立っていた。
門から真っ直ぐ道が敷かれており、その先には立派なお屋敷が鎮座している。
この先に馬車は行かないのだろうかと、キーナは首を傾げた。

「まだまだ、こっちだぜ」

ルイスがお屋敷に向かって歩き出した。不思議そうに辺りを見回していたテルディアス達も、その後に続く。
建物に入ると、曲がりくねった廊下が続いた。右に曲がり左に曲がり、道順を忘れそうになる。
色々な部屋を通り過ぎ、何故こんなにも面倒くさい造りになっているのかと嫌気が差してきた頃、今までとは違った扉の前に着いた。

「ちょっと長いかもしれんけど、頑張って付いてきてくれよ」

そう言うとルイスは扉を開け、その中へと入って行く。キーナ達も一緒に入ると、そこは長いトンネルだった。
道幅は5人並んで歩けるくらいには広い。等間隔に灯りが灯され、足元もよく見える。
それぞれの足音を聞きながら長いトンネルを歩くと、また扉。ルイスが備え付けてある紐を2回引くと、少しして鍵が外れる音がした。そしてゆっくりと扉が開かれる。

「ようこそ、闇の宮の最深部へ」

ルイスが扉の外へと出て行く。
キーナ達も後から続くと、

「え?」

思っていたのと全く違う光景に、キーナが声を出す。
ダン以外の後から来たテルディアス達も、皆一様にその光景に目をパチクリさせた。
光の宮は綺麗な白い建物が幾重にも建てられ、ある種幻想的な光景であったのであるが…。

「村?」

キーナ達が今いるのは、ちょっとした広場。続く道の先には、質素な家が建ち並び、住宅街の周りには畑が広がっていた。
のどかな田舎の風景、といった感じだった。

「想像してたのと違う…。光の宮は凄かったのに…」

あっけに取られているキーナ達を悪戯が成功したような笑みを見せるルイス。
近くを通りかかった女性に声を掛けると、一言二言言葉を交した。

「! 分かったわ!」

何か興奮したような感じの女性が、一目散に何処かへと走って行った。

(そういえば、門番さんも、今の女性も、黒髪黒眼だ…)

日本育ちのキーナからすればそれは珍しい事ではないのだが、この世界に来てからは黒髪黒眼という人種もいないわけではないが、多くはない。日本のように振り向けば黒髪黒眼の人人人ということはなく、振り向いて黒髪黒眼の人がいるかどうかという所。これだけ揃っているのも何だか珍しい気がする。
かくいうキーナも、日本人にしては多少色素が薄い感じの髪色なので、ちょっと真っ黒の髪に憧れを抱いている。

「んじゃ、こっちに来てくれ。キーナちゃんの替えも用意しなきゃな」

そう言ってマントを軽く持ち上げ、付いてくるように示す。マントも掛け金がおかしくなってしまっているので、直すか新しい物を用意しなければならない。
ルイスが真っ直ぐ、村の中央辺りにある、少し立派な建物へと向かう。その間もキョロキョロと周りを見渡すが、やはりどう見ても普通に村だった。小さな商店や飲食店らしきものも見えた。
立派な建物へとルイスが入って行き、一行も後に続く。そのうちの一室、応接間のような所へと通された。

「ちょっとここで待っててくれよな」

一行を部屋に置いて、ルイスが出て行った。とりあえずソファに腰を下ろす一行。なんとなく部屋を見渡すが、高価な装飾品などは一切なく、やはり質素な部屋だった。

「なんか、光の宮とは大分違うね…」
「そうだな…」

キーナの感想に、テルディアスが相槌を打つ。なにせ2人は宮の中を知っている。

「光の宮は城って感じだったけど、ここにはあんなでかい建物は全くないんだな」
「そうね。でもこの建物、質素に見えるけど、結構しっかりした造りになってるみたいね」

サーガとメリンダもキョロキョロと辺りを見回している。メリンダの村でも家屋は殆ど村人の手で造られていたので、その建物の丈夫さというのがなんとなく分かるのかもしれない。
そして、その言葉を聞いて、何故かダンが照れていた。しかしその顔はほぼ無表情なので、誰も気付いていなかった。
ほどなくして、ルイスが戻って来た。

「キーナちゃん、合うかどうか分からんけど、とりあえずこれ」

差し出された服を見て、キーナが嬉しそうに飛び上がる。

「ありがとう!」
「こっちで着替えなさんな」

もう一つの扉の方を指し示す。キーナはそそくさとそっちの小部屋へと入っていった。
すぐに着替え終えたキーナが出てくる。どうやらサイズは丁度良かったようだ。
借りていたルイスの上着を返し、破れた服もルイスが捨てておくと引き取ってくれた。
安心した顔のキーナが、テルディアスとメリンダに挟まれた席に戻ってくる。

「良かったわね、キーナちゃん」
「うん。やっぱり落ち着かなかったから…」

流石のキーナも前が開けっ放し状態は落ち着かなかったようだ。というかいつも落ち着いていない気もするが…。
再びルイスが出て行き、今度はすぐに戻って来た。お茶と茶菓子らしき物が乗った盆を持って。そしてその後ろから、黒髪黒眼の上品な感じの綺麗な女性が一緒に入って来た。
キーナ達の向かいのソファの前に立つと、

「闇の宮の最高責任者をやらせて頂いております、リーステインと申します」

と頭を下げた。
キーナ達も立ち上がり、頭を下げる。

「キーナです」
「テルディアスだ」
「メリンダです」
「サーガってんだ」
「・・・・・・」

いや、喋れよ。

皆が座り、ルイスが茶を入れて皆に配る。キーナが遠慮なくそれを啜る。しっかりお茶請けの菓子も既に手元に1つ置いている。
その警戒心まるでなしの態度に、サーガとテルディアスが少し眉を顰めた。もちろんだがこの2人はまだ茶に手をつけようともしていない。メリンダはキーナにつられ、茶を口に運んでいた。
ダンは無言のまま、やはり茶を口に運んでいた。いや、喋れよ。
その様子を見て、リーステインもくすくすと笑う。

「聞いていた通りの方のようですね」
「面白いだろ?」
「ええ」

ルイスと楽しそうに語るその様子に、テルディアスとサーガが何が楽しいのかと首を捻る。
キーナがおかしいのはいつもであるが。

「闇の宮へようこそ。お話は伺っておりますわ」

どんな話しだ。

「それで、ここへはどのようなご用件で?」

そう聞かれ、皆で一斉にダンを見る。
サーガと向かい合うように1人用の席に座って無言を貫いていたダンが、ようやっと口を開いた。

「調味料とか。少し、欲しい」
「もちろんですわ。他には?」
「・・・・・・」
「え…、それだけですか?」

それだけらしい。

「いや、あたし達もそろそろ色々と買いたい物があるし…」

メリンダが女性の必需品などを揃えたいと口に出す。
そういえばそうだとキーナも首を振る。
リーステインは何がおかしいのか、くすくすと笑ったまま、

「光の御子様がいらっしゃったというから、何事かと思いましたが、すいません、私達が大袈裟に考えすぎてしまっていたんですわ」
「俺が大袈裟に言いすぎたかな?」
「仕方ありませんわ」

ルイスとリーステインが肩を竦めた。
どうやら何か盛大に勘違いをさせてしまっていたらしい。
キーナはいつもの通り、良く分からぬ顔をして、茶菓子を旨そうに食べていたが、テルディアスとサーガは少し緊張した。
これが、光の御子という名が持つ影響かと。

「入り用な物はすぐにご用意いたしますわ。よろしければ、ここを少し見て行かれては如何でしょう? 色々驚かれると思いますわ」

すでに色々と驚いているのであるが。

「宮っていうか、村って感じだけど」

サーガが茶に全く手もつけずに問いかける。

「そうですね。少しここの事情をご説明いたしますわ。ご存じの通り、世間では闇の者というのは不吉であるとか災いを呼ぶとか言われて忌み嫌われております。実際に人々を傷つけるはぐれ闇と呼ばれる方々がおりますので、一概に否定は出来ませんが。しかし、人々に害を成す者は極一部。それ以外の者達は、闇の力を使えるだけの只の人です。ですから、街や村や国から追い出された者達を迎え入れる為に造られたのが、この闇の宮なのです。といっても、光の宮がある為、それに対を成すということで、ここが闇の宮と呼ばれているだけで、ご覧の通り、ここはただの闇の者が多く集まっただけのただの村ですわ」

言い切った…。
リーステインがお茶を一口啜って、先を続ける。

「光の宮はその作られた理由からしても、人々の助けになるように動かなければなりません。ですので毎日いろんな人が訪れて、色々な悩み事などを持ち込んでおり、それを光の者達はどうにかしようと動き回っています。しかし、闇の宮は、見ての通り、そんな問題が持ち込まれることもなく、ここを訪れるのは馴染みの行商の人だったり、こちらの地の一族の方だったり、時に迷い込んだ人、という人しか来ませんから、気楽に過ごしておりますわ」

と言ってもう一口茶を啜る。

(気楽なんだ…)

サーガが心の中で突っ込む。

「俺もここに来て良かったよ。下手にその辺うろついてると、はぐれ闇に間違われたりして酷い目に合うからな」

テルディアスがその言葉を聞いて、少し体を縮こませた。いや、テルディアスがそういう風にしてしまうのも、彼の経験からして仕方ないことなのではあるが。

「仕方ないです。世間では私たちは悪者ですから」
「んだな」

リーステインとルイスが揃ってお茶を口にする。その姿は達観したお年寄りが縁側に座って茶を啜るようにキーナには見えた。

「え、でも、闇の力を持つ人って、結局悪いことをし始めるって聞いたけど…」

まだちょっと疑い半分のメリンダが疑問を口にする。
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