キーナの魔法

小笠原慎二

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シゲール襲来編

回復薬?

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「メリンダさん!!」

空間の亀裂が綺麗になくなると、解放されたキーナがそこへ向かって飛びかかる。しかしそこには何もない。

「メリンダさん! メリンダさん!!」
「落ち着けキーナ!」

取り乱すキーナをテルディアスが宥める。

「テル…! メリンダさんが…メリンダさんが…僕の代わりに…!」

メリンダの叫び声を聞いて、それは薄々感づいていたテルディアス。言葉無くキーナの肩を掴むしか出来ない。
空間に逃げられたなら、それを追えるのは闇の者だけだ。

「闇の宮に戻ろう。俺達だけじゃどうしようも出来ない」

サーガが悔しそうに呟く。
キーナもそれが一番早いと判断したのか、落ち着きを多少は取り戻し、さっさと荷物をまとめた。
そしてサーガが風の結界を張り、来た道を急いで戻って行ったのだった。










陽が完全に暮れる前に闇の宮へ到着した一行は、何があったのかと出て来たルイスに、中の街までは行かず、入り口の建物の応接間で事情を説明した。
話しを聞いてルイスの顔が険しくなった。

「俺があの時気付いてりゃ良かったな…」

キーナが「闇の宮に来る時に襲って来たあの男だ」という言葉を聞き、ルイスはその男は「シゲール」というのだと言った。

「ちょっと…、女の扱いが乱暴な奴でな…」

その言葉を聞き、キーナでさえメリンダがどういう風な目に遭わされるのかがなんとなく分かった。なんとなく。

「どうにか奴の所へ行く事は出来ないか?」

サーガが少し焦った風に尋ねる。
その問いに、ルイスが腕を組んだ。

「亜空間てのも実は1つじゃなくて無数に存在してるんだ。泡を想像してくれたら分かりやすいかな? 俺達の今いる世界が1つの大きな泡。その周りに無数の小さな泡がある。それは同じ所にあるんじゃなくて、移動したりするんだ。だから、何か手掛かりがないとその空間を探し当てるのは難しい」
「手掛かりか…。あるかも」

あるんかい。
ツッコミは置いといて、サーガがチラリとキーナを見てから話し出す。

「ブルゴイっつー山の周りで女が攫われる事件が頻発してるらしい。まあ、しばらくしたら帰ってくるというか、その山の辺りで発見されるらしいんだが…」

サーガが濁した言葉の意味を理解したルイスの顔がますます険しくなる。

「あいつ…まだそんなことを…」

口調からすると、ルイスはシゲールの事を知っているようだ。しかもあまり良くは思っていなさそうだ。

「分かった。俺が行こう。あいつも結構上位の奴だからな。俺じゃなきゃ無理だろう」

ルイスが腰を上げ、出かけることを伝えるためにと1度街へと飛んだ。

「場所は? 何処なの?」

こちらも険しい顔をしたままのキーナが、サーガに尋ねる。

「詳しい場所までは…。北の方にあるとだけ」

世界はもう、夜の闇が広まっている。












メリンダと最後に食事を共にしたあの村の酒場に駆け込んで、詳細な山の場所を聞くが、「北の方」という事しか知らなかった。
近くの村や街の場所を教えてもらい、急いで村を出る。
既に陽は落ち、真っ暗である。もちろんであるが、道々に街灯なんぞというものはない。
そしてこういう時に限って曇り空。星明かりも月明かりもない、まさに真っ暗だ。

「このまま進むのは難しいと思うが」

魔法で明かりを灯し進もうとするキーナとそれを先導するサーガ。それを止めたのはルイスだった。
同意するかのようにダンが頭を縦に振っている。
テルディアスもその考えに同意なのか、足を止めている。

「んなこた分かってる。だが休んでられるかよ」
「そうだよ」

先を急ぎたい二人。気持ちは痛い程に分かるが、光が全くない中、魔法の光だけで寝ずに進行するのは無理がある。
道を間違えるかも知れないし、魔力が尽きる恐れもある。

「戦う前から疲れてたらいざって時に動けねーぜ?」

ルイスの冷静なツッコミに、唇を噛むサーガ。そんなことはサーガもよく分かっている。しかし逸る気持ちが休むという選択をさせない。

「でも、メリンダさんが…」
「キーナ。場所も分からずウロウロしても余計に時間を食うだけだぞ」

テルディアスもキーナを宥める。
テルディアスとて場所が分かれば強引に行こうとしたかもしれないが、「北」ということしか分かっていない。闇雲に探したところでこの真っ暗な中見つけ出すことは難しい。
何よりキーナに無理をさせたくない。

二人は理解はしたものの納得はしていないという風ではあったが、休むことにしたのだった。
ダンの作った簡易携行食と簡単なスープを食べ、体を休める一行。
今日はダンの野宿部屋はさすがに作らないようだ。
しかしいつもなら「おやすみなさい」の3秒で就寝するキーナも、気が昂ぶっているのか眠れない様子である。
サーガも燃える焚き火を見つめたまま、険しい顔をしている。

その横でダンが何やら作っていた。そして出来上がったのか、それをコップに注ぎ込む。
そしてそれをずいっとサーガの目の前に差し出した。

「ん」

飲め、ということらしい。

「なんだよこれ」

怪しい飲み物を目の前に差し出され、警戒するサーガ。当然だ。
色は抹茶のような真緑。しかし臭いはそれほど悪くない。
押しつけられ、手にしてしまったサーガ。怪しすぎるそれを飲み干すのは勇気がいる。

「魔力、体力回復薬」

ダンが喋った。

「は?」
「え?」

サーガとキーナが驚いた声を出す。テルディアスとルイスもダンの顔を凝視する。
キーナは元の世界のゲームを思い出していた。そう、ゲームにはポーションと呼ばれる万能体力回復薬があった。それを飲めばどんな重症者もあら不思議、たちどころに回復するというまさに夢のような魔法の薬。
この世界には魔法はあれど、そんな都合の良い回復薬などなく、怪我をしたら魔法で治すか、自然治癒、はたまた薬草や医療に詳しいものの力を借りるしかない。もちろんだが高度な医療技術などはない。
それを差し置いても、魔力回復薬というものは今までに見かけたことがなかった。余程の知識や繊細な技術が必要で希少で市場に出回っていないだけなのか、それとも開発されていないだけなのか、一度も目にしたこともないし聞いた事がない。

それを、目の前のダンが「作った」と言う。
皆サーガの手元を凝視していた。本当ならば凄いことである。

「本当に、回復するんだな?」

ダンが頷く。
実際サーガは風の結界を張ってあちこち移動しまくっていたのもあり、魔力が心許ないとは考えていた所だ。明日からの行動を考えても魔力は回復しておきたい。もちろん体力も。
ダンの腕はここ数日一緒に過ごしていたこともあり、心配はないと思っている。しかし…。

真緑の液体を前に、サーガは躊躇する。臭いは変ではない。というか美味しそうな匂いである。

「ええい、ままよ!」

意を決してサーガはそれを一気に飲み込んだ。
それを見ていたキーナ、テルディアス、ルイス。飲み干したサーガの様子を凝視している。

「あ、結構美味いかも…」

そう言った途端、サーガの手からコップが滑り落ち、ドタリ!と音を立ててサーガが倒れた。

「サーガ?!」

慌てるキーナ。しかしダンがすぐにサーガの体を楽になるように横たえ、布団を掛けてやった。そんな物まで持ってきてたのか。
サーガは気持ちよさそうにクースカ寝息を立てている。
ダンが口元に人差し指を当てた。静に寝かせてやれ、ということらしい。

「え? 回復、薬?」
「強力睡眠薬なんじゃ…?」

ルイスとテルディアスがダンを見る。しかしダンは顔を横にフルフルと振る。

「回復、休む必要。睡眠薬も入ってる。その他に滋養強壮諸々。起きたらスッキリする」

回復させるにはつまり休むのが一番、ということらしい。その他にも体に良いものが詰め込まれているので起きたら今まで以上に元気にスッキリしているはず、と。
ポーションのように都合の良い回復薬では無かったようだ。
そして、もう一つのコップをキーナにずずいっと差し出した。

「・・・」
「・・・」

無言の会話。

「飲むの?」

コクリとダンが頷く。
この中では一番体力に心配があるキーナ。それに夜は子供は寝る時間。
受け取るまで手を引っ込めないと感じたキーナは、渋々それを受け取る。

「それを飲んで休め、キーナ。いざという時にお前が必要になるかもしれん」

テルディアスの説得に、渋々頷いたキーナ。キーナも寝なければいけないことは分かっている。気分としてはとても眠れたものではないが。

「ん。分かった…」

キーナもコップの中身を飲み干した。仄かに甘みがあって口当たりもまろやか。確かに美味い。
これなら何杯でもいけるかも。と考えながら、キーナも眠りに落ちた。

「俺はいらないよ?」
「俺もいらん。見張りをしなければならん」

二人は辞退した。
ダンもそれは承知していたのか頷く。
汚れたコップや鍋を片付けて、3人交代で見張りをしたのだった。
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