キーナの魔法

小笠原慎二

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シゲール襲来編

ね、姐さんがカワイイ…

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皆がいるところでは、もちろんだがイチャイチャ(肉体的な意味で)出来るわけもない。
かといってそこら辺で適当に出来る状態でもない。
でも自分の状態を確かめたいし、なによりサーガに恩返しとか、喜んで欲しいとか、まあいろいろあるわけで。
つまりサーガと2人きりになっていろいろ確かめたりしたいことがある。ので、メリンダはちょっと苦しいかなと思いながら、提案した。

「たまには宿屋に泊まってみない?」

と。
キーナと一緒に寝られるのはもの凄く有り難い。キーナのほんわかした雰囲気というのか、キーナ自身にそういう効果があるのか、とてもリラックスして寝ることが出来る。それはいい。それはいいのだ。今確かめたいのはサーガに触れられる事が大丈夫なのかということ。
手を繋ぐことは出来た。軽く肩や腕に触られる事はまあ大丈夫だ。というかドキドキしてしまう。
自分の乙女な部分を発見して内心悶えているメリンダ。
しかし肩や腕だけではこの男を繋ぎ止めておくことは出来ない。いや、この男は風。もとより繋ぎ止めることなど出来るのだろうか。
だがしかし、恋と呼ぶものはそんなものなど脇にどけて、とにかくこの男を手に入れたいと思ってしまうもので。

メリンダは焦りつつ悩んでいた。この男とはいつまで一緒にいられるのだろうか。だいたいこの男はある種気まぐれでキーナ達にひっついて来ているようなものだ。「キーナと一発」などとアホな事を言っているが、それも何処まで本気なのだが…。いや、案外本気なのかもしれない…。
風の宝玉を手に入れた途端に「やっぱやーめた」とどこかに消えてしまう可能性もなくはない。それほど薄情とは思いたくもないが、この男は分からない。
西にあるかもしれない戦場に、もしかしたらサーガの村があるかもしれない。そうしたら風の宝玉が手に入るかもしれない。かもしれないばかりだが、そうなったらその後どうなるかはメリンダには全く想像出来なかった。
だからこそ、この男サーガが「共にいたい」と思えるような関係を作りたい訳なのだけれど…。
今までのことを思い返すと頭を抱えたくなる。まさにどうでもいいと思っていたので、かなり扱いがぞんざいだった気がする…。

気がするわけではないのだが、今のメリンダはそれを認めたくない。
だからこそ、だからこそ唯一メリンダが人よりも優れていると思えていることで策を講じたいのだが…。それが今は封じ手となってしまっている…。
どうすればいいのよおおおおお!とメリンダが1人悶えているのも納得である。
だからこその宿屋である。とにかく2人きりになって「どこまで出来るか確かめたい」とサーガに協力を仰ぎつつ、リハビリを兼ねつつサーガを繋ぎ止める!
メリンダは燃えていた。
いや、物理的な意味ではないよ。














久しぶりの宿と聞いて、サーガは賛成した。
メリンダがそれくらい大丈夫になったのかも確認したいし、なによりいろいろ溜まっているので発散させたい。

何が?

メリンダが泊まりたいというならば、キーナに反対する理由は無し。キーナが賛成するならばテルディアスが反対する理由もない。ダンもいろいろ察したのか、特に反対意見を上げることもなかった。というかこいつ滅多に喋らんしな!

というわけで、久々の宿屋へやって来た。
部屋割りは男女で分けるのかと思うところだが、女性2人は特に否やはない。しかし男共が嫌がった。テルディアスとサーガはもとより仲が悪いので同室などまっぴらごめん。同室にしたら早喧嘩をおっぱじめるだろうと察し。男共は各1人部屋と相成った。
え?なんでテルディアスとダンを同室にしなかったのかって?
まあそれは、テルディアスが嫌がったのもあるのだが…。察してあげて。
ダンがちょっと涙目になっていたけれど。

久しぶりの宿屋の一室。普通に野宿していた時は宿屋に泊まれることが有り難かったのだが、ダンが来てからは宿屋の方が質素に思える…。フシギダナー。
こういう所はだいたい1階が食堂になっているので、夕飯を皆で頂く。これはいつもの流れだった。今後の打ち合わせを済ませて食事を終わらせ各々部屋へと帰る。これもいつもの流れだ。その後はキーナ達は寝る仕度を済ませて、とくにやることもなければ早々就寝するのである。テレビもないしね。
男共は剣の手入れなど雑用をこなし、ダンは荷物の整理や必要な物などの確認なども行う。今ダンの荷物の中にはテルディアスが稼いできたお金の袋が存在感を示している。いつの間にやらダンが会計係のようなものになっていた。
テルディアスは他に筋トレなどもこなしてやることがなければ早就寝してしまうが、サーガは違う。お外へ遊びに行くのである。
久しぶりに発散出来ると、食後にウキウキ部屋に戻ろうとしたサーガに、メリンダが声を掛けてきた。

「ちょっと、後で用があるから…。待っててくれる?」

お目々をぱちくりさせる。
今までのメリンダであれば、

「後で用があるから待ってて」

とちょっと命令口調だったのだが、今回は頼み口調。まだ本回復では無いのかもしれない。

「いいけど、俺ちょっとお外に…」
「待ってて」

命令口調になった。
あ、これ待ってないとまずいやつ。と判断し、首を素直に縦に振った。
お外へ遊びに行くのはお流れになった。
久しぶりに発散できるはずだったのに…。と内心恨めしく思いつつ、素直にメリンダを待つ。
いやしかし、メリンダはいつもキーナが眠るのを見計らってから来ていた。となれば多少時間はあるのでは…?ぱっと行ってぱっとやってぱっと帰ってくれば大丈夫じゃね?などと考えて実行に移そうかと思ったその時、

コンコン

扉を叩く音。
キーナがすぐに寝入ったのか、それとも適当な理由をつけて来たのか分からないが、今日は早かった。もう少し遅かったらやばかったと内心胸を撫で下ろしつつ、なんでもない顔をして扉を開ける。

「いらっさい」

気配で分かってはいたがメリンダだ。少し難しい顔をしながら入って来た。
一応扉に鍵をかけ、いつものように結界を張る。もちろん音が外に漏れない為である。念の為。
宿屋で用意されている寝間着用のワンピースを身につけたメリンダが、少し緊張した面もちでベッドに腰掛ける。少し間を開けて、サーガも腰掛けた。

「どうよ、久しぶりの宿屋」

緊張を解そうと、適当に話しかける。何をそんなに緊張しているのだろう。

「そ、そうね…。思ったよりは、平気かな」

旅人の多くはやはり男性が多い。つまり宿屋に来るのは男性が多い。1階の食堂でもほとんどが男性客だった。一応気を使って壁際の席を取ってキーナを隣に座らせたのだが、どうやら大丈夫そうだった。
いろいろ経験しているメリンダだからこその回復力なのだろう。といっても元の仕事、娼婦に戻るのは難しいであろうが。

まあ本音を言うならば、利用しているサーガが言うのもなんなんだということもあるが、やはりこれを機に娼婦の仕事からはさっぱり足を洗って欲しいとも思う。女性に出来る仕事が少ないというのも分かるが、娼婦の仕事は危険が多い。相手の男が暴力的であったならば、下手をすれば体を傷つけられることもあるし、場合によっては命を取られる事もある。病気をもらう確率も高いから、体を壊すこともある。およそ5年とはいえそれほどに務めあげたメリンダは余程幸運だったのか、はたまた務めていたお店がしっかりしてくれていたのか。
村にいた頃は女が体を売るのは普通の事でなんの疑問も持たなかったが、村を離れいろいろ見聞きしたせいか、やはり女が体を売るのはあまり良くないことだと言うことは分かってきた。でも利用してるけどね!
スターシャが何故体を売ることをやめたのか、その意味も朧気ではあるが分かったような分からんような。

「ん。順調そうで良かった良かった」

殊更明るく言い放つが、メリンダの緊張が取れた気配はない。何をそんなに思い詰めることがあるのかと、近頃の行動を思い返してみるが、特におかしなこともなかった。

「んで? 御用はなあに?」

ちゃかすように言ってみた。しかしメリンダは何故か余計に体を固くさせる。

「?」

訳が分からず、メリンダを観察する。何か口をパクパクさせてはいるが、声にはなっていない。微かでも声が出ていれば、サーガが聞き逃すはずがない。
何か余程のことがあるらしいと、サーガは待った。何か言葉にするのを躊躇っている。
何度か口をパクパクし、意を決したようにメリンダが顔を上げてサーガを見た。
サーガも思わず身構える。

「あ、あたしを抱いて!!」

サーガ、フリーズ。

脳の処理速度が限界まで遅くなったのか、その言葉を脳が理解して飲み込むまでに時間がかかった。お目々をぱちくりさせる。
メリンダは真剣な瞳でサーガを見つめ、顔を赤くさせている。なんとなく泣きそうな顔をしているのは恥ずかしいからなのか。

「えーと、姐さん?」

落ち着けと手で示しつつ、自分も落ち着けと自分に言い聞かせる。

「何を仰っているのか、ちょーっと理解出来にくいのでありますが…」
「抱いてって言ってんのよ!」

あ、メリンダが泣きそうになってる。

「ちょい待ち、落ち着いて。姐さんどうどう」

馬じゃない。

「いやなの…?」

涙がこぼれ落ちそうになっている。
とっっっっっても勇気を出して言ったのは分かった。しかし、いくらなんでも時期尚早では?

「いやじゃない。いや、いやじゃないんだけど、姐さんが不味いだろう?」

メリンダの顔が下を向く。一滴の涙がベッドに落ちた。

「いやよ。いやなのよ…。あんな記憶に縛られてるのが一番いや…」

ポタリポタリと涙が落ちた。
サーガ中で、一瞬で怒りの感情が荒れ狂った。下卑た笑いを貼り付けたあの男の顔が浮かんで来た。この手で殺したはずなのに、まだ足りない。

「サーガ?」

サーガの怒りの気配を感じたのか、メリンダが顔を上げる。
サーガは片手で顔を隠して反対方向へ顔を背けた。きっと今は酷い顔をしている。

「や、ねんでもねー」

さすがにそんな顔を女の子に見せるわけにはいかない。女の子とは楽しく過ごすものだ。
気分を落ち着かせ、なんとかいつもの笑顔を顔に貼り付ける。

「姐さんの気持ちも、分かるというのはあれだけど、いくらなんでもまだ早過ぎんじゃね?」

サーガが触れたり手を握るだけでもビクリと反応しているのに、さすがにそれ以上はまだ難しいだろう。

「だ、だから、その、早く慣れたいっていうか…、早く払拭したいっていうか…」

涙を拭きつつ、メリンダがモジモジし始める。

「その、あんたとは、その、なんというか、だから、その、き、気持ちいい…から、その、嫌な記憶を塗り替えるのに一番いいかと…思って…、その…」

モジモジモジモジ。

(アレ? なんか姐さんがカワイクミエル…)

いや元々綺麗な人だし、腕の中でよがっている姿は可愛らしくもあるのだが、こんな風に可愛く思えるのは初めてだった。思わず息子が反応しそうになる。

(ちょっと待て。落ち着け、俺)

ここで野獣になるわけにはいかない。

「そ、そぉんなに良かったぁ? 俺?」

冗談で胸を張ってみたのだが、

「うん…」

メリンダが恥ずかしそうに俯いた。
てっきり、

「んなわけないでしょーが!」

と返ってくるとばかりに思っていたサーガは不意打ちにあった。野獣が目を覚ましそうになる。

(おおお落ち着け――――! 俺――――!)

今までに「良かった」と言われたことがなかったのもあり、いろいろ急上昇。上がってくる何かを寸でで堪え、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

(堪えた。堪えたぞ、俺。頑張れ)

自分で自分を褒めてあげることも大切ですね。

「そ、それは真に光栄ではありまするが、でも、ねぇ?」

動揺で言葉が可笑しくなっている。
メリンダがモジモジしながら、こちらをちらりと見る。

「…して、欲しいの…」

そんな流し目でそんな可愛いこと言われたら、野獣がばっちり眼を覚ましてしまう。

「落ち着け姐さん! 落ち着くんだ!」
「落ち着いてるけど…」

落ち着いていないのはお前だ。
抑えきれないものが溢れ出してきそうになる。

「姐さん、ちょっと待ってて…」
「? うん」

サーガが部屋を出て行った。
少しすると、ちょっとすっきりした顔で帰って来た。
何をすっきりしたのやら。
再びベッドに腰掛ける。

「姐さんの気持ちも分からんでもないけど、そんなに急いですることか?」

すっきりしたせいか、思考も落ち着いたようだ。

「うん…。だって…」

と言ったきり、なにやらモジモジ。

「き、キーナちゃんに心配かけさせたくないし、どうせいつかはぶち当たることだし。だったら、今でもいいじゃない?」

いや、もっと落ち着いてからの方がいいと思うよ。とサーガが口を開き掛けた時、

「それに、あたしだっていつかは、子供、欲しいもん」

何も言えなくなった。
夜の行為が子作りに繋がることはサーガでも知っている。一応避妊には気をつけては来ていた。
大抵の女性は、女性として生まれついた性質なのか、子供を欲しがる。それは娼婦であろうとなかろうと関係ない。
メリンダも例に漏れずそうなのだ。いつかは子供が欲しいと思っているのだ。年齢的に売れ残りであっても…。口を噤む。
いつだかに見た夢、スターシャがサーガに似た子供を抱いて微笑んでいた夢を思い出した。その顔は今までに見たことがないほどに幸せそうだった。
子供を作るならば、やはり行為は避けられない。

「…分かったよ」

サーガが根負けした。

「俺がお手伝いさせて頂きます! んでも、姐さんが駄目そうなら言えよ! すぐやめるから!」
「う…うん」

メリンダの恥ずかしそうな嬉しそうな顔を見た時、サーガの胸が高鳴った。
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