現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう

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25話 小話 後押し

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イベントから数日経っても、
あの日の光景が、ふとした拍子に頭をよぎる。

(……やっぱり、近すぎる)

ゆきは昼休みの自席で、紙コップのコーヒーを指先で転がしながら、ふと考えていた。

イベント会場の喧騒。
人に囲まれた玄関前。
あのときの光景が、何度目か分からないくらい頭の中で再生される。

ホルの手首を、迷いなく掴んだ悠人の動き。
声をかけるよりも先に体が動いていたあの反応。
人目の少ない場所に移動したあとも、自然とホルの前に立つ立ち位置。

守る、というより――
遮る、に近い。

(……あれは)

ゆきは、ゆっくりと息を吐いた。

(「大丈夫か」って距離じゃない)

一度そう思ってしまうと、他の細部も無視できなくなる。

ホルが話している間、視線を外さないこと。
少し人が増えただけで、無意識に距離を詰める癖。
必要以上に触れないくせに、離れさせもしない。

(線は引いてるのに、囲ってる)

その矛盾が、一番ひっかかっていた。

「親戚」

そう説明されたとき、表情を崩さなかったのは大人の判断だった。
踏み込めば、たぶん説明は破綻する。
それに――
踏み込まれたくない空気を、悠人自身が出していた。

(でも)

ゆきはコーヒーを一口飲む。

(あれ、両想いだよね)

確信に近い感覚だった。

ホルの方は、もっと分かりやすい。
声の温度。
視線の置き方。
名前を呼ぶときの間。

本人は無自覚だろうけど、
あれはもう「懐いてる」段階を越えている。

問題は、悠人の方だ。

(自覚、してるよね……)

しているからこそ、線を引いている。
引いているのに、離せていない。

良くも悪くも、真面目すぎる。
責任感が強くて、自分の感情を後回しにするタイプ。

(膠着状態、か)

どちらも一歩踏み出せない。
でも、時間だけは確実に積み重なっていく。

ゆきはスマホを取り出し、何気なくメッセージ履歴を開いた。

――ホル:今日は家でゆっくりしてます
――ホル:昨日の話、また聞いてもいいですか?

その文面に、ゆきは思わず小さく笑った。

(……この子、距離詰めるの上手いな)

押している自覚は、きっとない。
でも、自然体のまま寄っていく。
受け止める側が揺らがない限り、関係は変わらないのに。

(それで揺らいでるのが、悠人さんなんだよなあ)

ゆきは、スマホを伏せた。

節介かもしれない。
余計なお世話かもしれない。

でも。

(友人、だもん)

二人とも。
どちらの味方でもある。

だからこそ、
このまま何も起きずに、どちらかが我慢し続けるのは――
正直、見ていられない。

(……次の昼休み)

ほんの一言でいい。
踏み込まなくてもいい。

「ホルさん、楽しそうですね」とか。
「大事にしてますよね」とか。

答えを求める必要はない。
揺れていることを、言葉にさせるだけでいい。

ゆきは、決めた。

(少しだけ、後押ししよう)

壊さない程度に。
逃げ道を残したまま。

もどかしい二人の背中を、
ほんの少しだけ、前に押すために。

昼休み終了のチャイムが鳴る。

ゆきは立ち上がり、椅子を戻しながら小さく呟いた。

「……進まない恋ほど、見てて落ち着かないものはないですよ」

それは、誰に向けた言葉でもない。
けれど確かに、
次の一歩を決めた音だった。


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