27 / 44
瀉血の跡
しおりを挟む寝室に行って、でかいダブルベッドが並んでいることに、がっくり膝をつきそうになるのをこらえる。
今までの流れから、もしかしてそうかなーとは思っていた。
けれど、1つしか設置されないと思っていたから、頑張ってダブルベッドまでお金を突っ込んだのに!と嘆きたい気持ちにはなる。
お陰で寝室はやたらに広い。
それぞれのベッドを決めて潜り込むと、フワッフワの羽毛布団につつまれて、ぬくぬくだ。
疲れたし、お腹いっぱいだし、あったかいし。
すぐに眠くなるかと思ったけど、今朝のこととか今までサリナと引っ付いて寝ていたこともあって、なんとなく1人で寝るのが心細い。
枕元の明るさを調整するツマミを操作しているサリナに、そっと声をかけてみた。
「ねえサリナ、やっぱりそっちに行ってもいい?」
「もちろんです。」
「ありがとう」
もそもそとサリナの隣に移動すると、安心感でホッとため息が漏れた。
「あら。上着を着たままですと、寝づらくはありませんか。
お預かりします。」
「ありがとう」
部屋の温度はちょうどいいし、羽毛布団もふわふわで温かい。
ショート丈の格好で暖かく寝られるなんて、最高だ。喜んでカーディガンを脱ぐ。
が、サリナにカーディガンを渡すために伸ばした自分の腕に残る、沢山の醜い傷跡…。
ハッとして、今更恥ずかしくなり、慌てて引っ込める。
サリナはそれに気づいて、眉根を寄せた。
カーディガンを枕元のハンガーラックにかけたサリナは、一緒にベッドに潜り込んで私の傷跡を優しく撫でた。
「瀉血のあとが、すっかり残ってしまいましたね。」
「…仕方ないわ、繰り返し倒れたから」
小さい頃からコルセットをしめていた私は、頻繁に気を失って倒れていた。
医者にはそれが、悪い血が溜まっているのだと説明されて、瀉血を行っていたのだ。
今考えれば、頻繁に血を抜いていたせいで貧血を起こし、余計に具合が悪くなっていたのかもしれない。
気づけばマーガレットは、15歳なのにまだ生理もきていない。
思った以上に私の体は、具合がよくないかもしれない。
ぞわ と背中に走る恐怖に、身震いした。
そして今更ながら、とっくに初潮を迎えているであろうサリナに対しては、この中でどれだけのことをしてあげられるだろうと、不安になった。
「ちゃんと準備をしておりますので、ご安心ください」
「そうなの?」
「マーガレット様に月のものがきた時にお教えしようと思っていただけで、何も考えていないわけではありませんよ」
私は何も考えていませんでしたよ。えらいね、サリナ。
「地下で洗濯物が乾くのかは心配しておりましたが、魔法の洗濯カゴがありますし……マーガレット様」
「ん、なあに?」
「瀉血の跡が、消えております」
「えっ?」
ずっと私の腕の傷跡を撫でていた手が止まり、サリナが目を見開いた。
刃物で切り裂いた痕が、醜く盛り上がっていたはずの肌。
そこが、跡形もなくツルリとしている。
思わず飛び起きて、スベスベになった腕をマジマジ見つめた。
指で擦っても引っかかりの1つもない。
「えっ?えっ?なんで?」
「………」
「なに、その表情は。何か心当たりがあるんでしょ」
サリナも揃ってベッドの上に座り込み、戸惑った顔で自分の手を見ている。
「私はただ…おいたわしいと思って、さすっていただけ、なのです。」
「サリナ、責めているわけじゃないわよ」
「そうする内に、ふっと「回復」という言葉が浮かんで、手が温かくなったのです。」
「あ」
マジか。
今日、ゲームでサリナに取得させたスキルだ。
魔法のないこの世界に、私が魔法を生み出してしまったのか。
現実に反映するって、本当にどこまでなのかわからない。どこまで?どこまでもなの?
ということは、もしかしてステータスも反映されているんだろうか。
考えたら、久しぶりに身体を動かしたはずなのに、ラジオ体操をきっちりやった後で半日トランポリンで遊んでも、ああ楽しかった!で済んでいる。
もっと疲れても…というか、そんなに遊ぶ前にダウンしていてもおかしくない。
思い返せば、モフルの死体を見て気絶したサリナを、ベッドに寝かせてあげる時にも苦労した覚えがない。
モフルの巨大な体を、アイテムボックスに収納する時も。
じゃあ、サリナの父達がサリナを連れ去ろうとした時、あまりにあっさりと突き飛ばせたのは…相手が油断していたからではなくて、私のステータスが上がっていたから…だったのか。
しょせん非力な女の力だと思って、全力で突き飛ばしたけれど、そういえば3人とも壁に激突した後、うずくまったまま力なく呻いていた。
男装した娘。
まともな物資もないのに、いつまでも元気そうな地下牢の囚人。
突如現れて、怪力を見せる私。
スマホの力は隠していたつもりだが、充分に人外の力を感じられたに違いない。
「そりゃ…封印しなきゃってなるわけね」
今更に、石牢が封印された理由がわかった気がして、私は乾いた笑いを浮かべたのだった。
7
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる