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正体
しおりを挟むペガサスを木につないだら、レオンはその側でチョコンとお利口に座ってくれた。
さて。どこから話そう。
振り返ると、王子の視線はまっすぐだった。怯えていたはずなのに、今は静かに私を見据えている。
「…それで、あなたはどうやって我が国を救うつもりなのです?」
「ええと……土魔法で。」
ウィルド王子は僅かに眉を上げたが、それ以上の反応はなかった。
内心では、魔法という単語に引っかかっているのだろうが。
「土を使って、どうなさるのでしょう」
「土壁ができればよかったんですが、持ち合わせがなくて」
「持ち合わせ…」
「有効そうなのは…ええと」
目を逸らしながらモゴモゴしているた、彼は短く息を吐いた。呆れているのか、それとも不安なのか。
使いたくないなと思っていたけれど、そうだ。地震が人の命を奪うのは、建物の倒壊。
開けた土地に展開している軍隊なのだから、ビックリさせるだけで済むんじゃないだろうか。
「地震を試してみましょう。」
「じしん?…地震?」
「そうです。驚いて隊列を乱して隙をつくることくらいは出来ます。
行きましょう。敵の前線基地はどちらですか?」
先を立って案内してくれるウィルド王子に、私はホッと息をついた。
ペガサスの縄は、レオンが咥えて後ろからついてきている。
待たせておきたかったが、キュンキュンないて、とても大人しく待っているような状態ではなかったのだ。
「よかった、信じていただけて。
この勢いで伝えますけど、私は実はマーガレットなんです。死んだと思われていたでしょうが、生きていました。」
「そうですか…あなたが、マーガレット嬢ですか」
やんわりと柔らかく響くウィルド王子の声は、信じているのかいないのか、全く感情が読めない。
信じられなくても、当たり前ではある。
とにかく、助けがきたんだと協力しあえれば、それでいい。
「あそこです。」
「…ひえ」
森の中に身を潜めたまま、そっと覗いた先。
首都の周りを走っている川沿いに、びっしりと夥しい数の兵が立っていた。
漆黒の鎧はファーマレスト、白銀の鎧はイカレスの兵に違いない。
揃いの美しいデザイン。
エリート軍団と呼ばれる第一騎士団も出向いているらしい。
王子が前線にまで赴いているのだろう。
巨大な軍幕が張られているが、明らかに煌びやかで豪奢なものだった。
勝利を微塵も疑っていない。
力の差が歴然とわかっているのが、ひしひしと伝わってくる。
「王子が指揮を取るようですね。」
「何が見えているのですか」
「何って、あそこに…」
言われてみれば、人の目で見るには距離がある。
猟師で取得した射程距離を広げるパッシブスキルが、まだ生きていることに気がついた。
「鷹の目」
呟くと、視点がスーッと上空に上がり、隊列の全体を見渡せるようになる。
どうやら、転職しても前の職業で得たスキルが失われないらしい。
大変ありがたい。魔法だけじゃなく、いざとなったら弓矢でのスキルが使用できる。
軍隊は川に沿って中央は分厚く長方形を成すように整然と列を成し、そこから左右に首都の出入り口を包むように列が広がっている。
恐らく総勢で5000人はくだらないだろう。
威圧感が凄まじい。
猟師のスキルで計画を練り直すことも出来るかな、と考えた瞬間だった。
王族用の軍幕から、ひときわ煌びやかな甲冑の男が出てきた。
側近らしき人間が、飾り立てた美しい軍馬をひいてくる。
そうだ。
言われてみれば、隊列が美しく整いすぎている。
これは明らかに、休憩中の軍隊ではない。
今まさに、彼らは川を渡り進軍を開始するのだ と気づいた瞬間。
目の前で戦争が始まる恐怖に、パニックになった。
「アースクエイク!アースクエイク!!アースクエイク!!」
夢中で、スキルを連射する。
なのに、何も起こらない。
「どうしよ、サリ…ナ…」
泣きそうになって隣を見ると、ポカンとした表情のウィルド王子と目があった。
隣にいるのがサリナじゃないことに驚いて、私もひゅっと気持ちが冷える。
「すみません、動揺しました。先ほどスキルを使いましたが…」
戦闘が開始したこと、計画を練り直す必要があることなどを伝えようとした時だった。
くらり
目眩がした気がして、咄嗟にウィルド王子の腕に手をつく。
次の瞬間
――地面が鳴った。
「……っ!」
重く、低い唸り声のような音が、足元から突き上げるように響いてくる。
木々の枝が揺れ、枯れ葉が舞い上がる。地面が波のように揺れた。
でも、木が倒れるほどではない。建物があれば耐えられないかもしれないけれど、森ならなんとかなる程度の規模。
けれど、ここは余波だ。
直撃地点は、イカレスとファーマレストの軍隊の真下。
川の水が逆立ち、馬も人もツボに投げ込まれたサイコロのようにコロコロと転がっている。
恐慌状態になって逃げる どころの話ではない。
待って!これでは、怪我人が…下手すると死人が!
恐ろしさに身体が震えるが、やってしまったことはもう取り返しがつかない。
地震が徐々に鎮まるも、もはや戦闘どころではない連合軍からは、悲鳴と呻き声が響いてきている。
「……これが、地震魔法です。」
見上げると、ウィルド王子がじっと私を見ていた。目を見開いたまま、口をわずかに開けて。
けれどそれは、恐怖というより、驚きと――ある種の尊敬のようなものが混ざっているように見えた。
「……貴方は、いったい何者なのですか」
彼の問いに、私は少し困ったように笑ってみせた。
「マーガレットです。この世では死んだことになっているので、もう人ではないかもしれませんが」
「……理解はできませんが、信用はします。魔物でも、悪魔でもいい。……今の我々には、力が必要だ。」
その言葉を聞いて、私はようやく肩の力を抜いた。
心のどこかで、ずっと信じてもらえないだろうと思っていた。でも、彼は信じてくれた。
なら、やるしかない。
間違っていたとしても、自分の信じた道を突き進むのだ。
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