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家畜はしつけられません
しおりを挟むめちゃくちゃ早い。
ペガサス自体が移動速度が速いのはもちろん、全てを突っ切ってまっすぐ目的地に向かうのは、本当に早い。
なにせ、空には坂道も信号もない。
ストレスフリーで空をかけていくが、頭の中はぐるぐるしていた。
まずは助力を断って。
ペガサスがあるなら、上空からライヘンベルグに入国することができるだろう。
人気のない森のあたりで降りて、そこから王宮に向かって…いやいっそ、王宮に直接乗り込んだ方がいいだろうか。
サリナと立てていた案は、
①サリナが持っている聖職者の極大魔法「神の雷」を使う。
②モンスターを沢山家畜化して、首都の周りに配置しておく。
③猟師から魔術師に転職して土魔法を覚え、土の壁で首都をぐるりと囲ってしまう。
の3つだ。
①はサリナを置いてきてしまったので没。
②は、目にするだけで兵士の闘う気力を削ぐだろうとは思うが、人の目に映るのがが問題。
ということで、③を選択することにする。
ペガサスの馬上が安定しているので、上体をしっかりと立てている方が怖くないことに気づき、更に片手を離してスマホも触ることが出来てしまう。
ゲームを操作して職業変更クエストを受け、魔術師に転向。
猟師の時に取得したスキルが消えてないことに、ガッツポーズを決めてしまった。
その後、土魔法を初級から取得していったが…思ったようなスキルがない。
石礫を飛ばすようなスキルと、石盤のようなものが周囲をぐるぐると回って攻撃を防ぐスキル、あとは地震…
「地震は…規模がでかくない?」
初級スキルに地震が入っているのはゲームとしてはあるあるだけど、リアルに使用することを考えると、妙な話だ。
こんなの天変地異じゃない?
敵単体の足元を少し揺らすくらいのものだろうか?いやでも、全体攻撃って表記がある。
試しに使用して、耐震性能なんてないこっちの建物がバカスカ倒壊したらと思ったら、怖くて使えないじゃないか。
「うーん…」
考え込んでいたがハッと我にかえり、下の様子を伺う。
見ると、丁度真下に小さな森が見えた。
地図に記載されていた町の数、村の数を数えながら移動していたのだ。
次の村が目的地のはず。
確か目的地の手前に、円形の小さな森がある。
まずはそこで降りて、村に移動しなくては。
おそらくココが、その手前の森。
少しひょうたん型ではあるけれど、切ったり新しい木を植えていたら、多少は形が変わるだろうし。
まして、真上から見ることは出来ないのだから、細かい形はわからないのではないだろうか。
地図も手書きだし、そんなに正確な地図ではないだろう。
うん。多分、ここだ。
「レオン、この森におりて」
「わん!」
レオンに声をかけると、ペガサスが前に進む速度を落とし、降下を始める。
やはりレオンが家畜を誘導する役目を担っているのは、間違いないだろう。
ここから、更に北東に向かって歩いて…と考えていた時だ。
ひゅん
と小さな風切り音が響き、次の瞬間、ペガサスがいなないて前脚を跳ね上げた。
「えっ、えっ?なに?」
驚いて、ペガサスを宥めようと首元に手をやった瞬間、パッと目の前に銀色の羽根が舞い上がった。
羽根が飛んできた方向に目をやると、羽根に2本、矢が突き立っているではないか。
攻撃を受けてる!
ギョッとした途端、ペガサスが降下する速度が増した。
落下している どころの速度ではない。
脳内に、時代劇とかでよか見る「暴れ馬だ!」と町人が逃げ惑うシーンが再生される。
攻撃されて、混乱したのだろうか。
上空に逃げればいいのに、まっすぐに地面に向かって突進している。
このままでは、地面に激突して死ぬ!?
「ぎゃー!!落ち着いて!止まって!!」
必死でたてがみを掴んで叫ぶ私の声に重なって、レオンの声が響く。
混乱していても、レオンの声は届いたらしい。
ペガサスは急ブレーキをかけるように、地面直前で止まってくれた。
「はあっ…はっ…」
心臓が破裂しそうな勢いでドキドキしている。
無意識に息を止めていたんだろう。
全身にドッと汗がふきだすのと同時に、息が上がって苦しくなった。
必死で呼吸を整えようとする私を心配して、レオンが小さく鳴きながらつぶらな瞳で見上げてくる。
「く~ん…」
「う、うう…」
可愛い声に混じって、なぜか低い唸り声。
「ん?なに?」
不審に思って周りを見渡すと、気づけば周囲を5~6人の武装した人間が取り囲み、剣をこちらに向けているじゃないか。
ギョッとして慌てて私も腰の剣を抜く。
そういえば、上空でも攻撃を受けたんだった。
矢を射掛けてきたのは、この人達だろう。
盗賊ではなさそうだ。
胸当てが金属製の揃いのもの。
王宮に属する正規兵のものだろう。
けれど、その紋章はイカレスのものではない。
「ライヘンベルグの兵士がなぜこんなところに」
「ライヘンベルグの土地に我らが居るのに、なんの不都合がある」
「すでにイカレスとファーマレストの国土にでもしたつもりか!」
思わず口にした私の言葉に、周囲の兵士がいきり立つ。
えっ、ここライヘンベルグ?
手前で降りるつもりが、どこか見落としたか数を数えまちがったのか…。
すでにライヘンベルグに入っていたらしい。
しかし、助けに来たのに、すっかり敵扱いだ。
どうしたものかと思っていたが、彼らの背後から歩み出てきた人が、流れを変えてくれた。
「話し合いの余地がある相手だと思ってもよろしいか?」
「ウィルド王子!よかった、ご無事だったのですね!」
ホッとした私の呼びかけに、彼はおやっと眉を上げる。
「失礼。お会いしたことが?」
「ええ、もちろん。…詳しいことは、ここではお話しすることが出来ませんが、私はあなたをお助けしようと此処まで参りました。」
「なんと…」
そういえば、男装したままだった。
こないだも会いましたよ、と言うわけにもいかず、なんと続けたらよいか口ごもってしまう。
しかし、私の気持ちは伝わったらしい。
ウィルド王子が、パッと表情を明るくした。
そして、すぐまた眉を寄せて、困ったような顔を見せた。
「あの、では…こちらから攻撃しておいて申し訳ないが、彼の命を奪わないで欲しい」
「えっ?」
王子の視線を追って見ると、ペガサスの右前脚が何かを踏みつけ、地面に押さえつけている。
寸止めしたとはいえ、上空から蹴り込んだ蹄が金属製の胸当てをべっこりと凹ませたのだろう。
その下に口から泡を吹いている男性が、仰向けに倒れて気を失っていた。
「きゃーーー!!レオン、どけて!解放させて!」
動揺のあまり悲鳴をあげると、レオンがわんわん吠えてペガサスをどかせてくれる。
慌ててペガサスから飛び降りて様子を伺おうとしたが、仲間の兵士がさっと彼を取り囲んでしまって近づけなかった。
彼らの足の隙間から、地面に横たわっている兵士の身体が僅かに覗きみえる。
その手に弓が握られていることに気づき、ペガサスに矢を射掛けてきたのは、彼だったのだろうとわかった。
「アバラが折れてる、動かすな!」
「棒を用意しろ、マントで担架を作れ!」
テキパキと応急処置を始めているので、私が手を出す隙もない。
けれど、私が乗っていた馬のせいで、人が死ぬかもしれない と思うと、恐怖で血の気が引く思いだった。
「ご、ごめんなさい。まさか人を踏んでるなんて」
「いいえ、攻撃をしかけたのはこちらです。
温情に感謝します。」
穏やかな声でそう言うが、ウィルド王子の表情は怪我人の安否を案じているのか、不安そうに曇っている。
助かりますか?と聞きたいけど、流石に聞ける雰囲気ではない。
こんな時、サリナが居てくれたら とすぐに考えてしまう私は、たいがい彼女に依存しているのだろう。
どこからともなく調達してきた木の棒で担架を作成し、負傷者を載せた兵士たちは、命令を待ってウィルド王子を伺う。
ウィルド王子は、
「偵察は切り上げだ。一旦、砦に戻ろう。」
と言った後、再び私に目を向けた。
「助けに来てくださったが、あいにく立て込んでおります。また改めてお話しを聞かせていただきますので」
いや、それはないだろ。
怪しいから連れて行きたくないんだよね。
ここで別れたら、絶対に二度と会えないやつじゃん。
そりゃ見ず知らずの男に、助けに来たって言われたからと、砦まで入れてくれるわけはないだろうけれど、私を撒こうとしないで欲しい。
さりげなく踵を返そうとするウィルド王子。
無礼とは思いつつ、手首を掴んで止めさせてもらった。
ライヘンベルグを救うなら、味方をする側との意思疎通と協力関係である認識は必須だ。
ここで離れるわけにはいかない。
「待ってください。少し2人で話せませんか。」
「賛成いたしかねます、殿下!相手はおそらく魔物です!」
「ま、魔物!?失敬な!」
カチンときたが、まあ…まあ、それもそうか。
空を飛んで移動する人間なんて、この世にはいない。
怪しいのはもっともだけど。
ウィルド王子は、私の手を振り解こうと少しジタバタしたが、力の差が歴然だ。
僅かに恐怖の滲む顔で、私を見上げる。
もうこうなったら、自分の伝えたいことを言うだけで言うしかないと腹をくくった。
気持ちが通じて、なんとかなれ!という気持ちだ。
「聞いてください!
貴方を救いたい理由は、マーガレットの死を惜しんでくださったからです。
ライヘンベルグを救う義理を感じているのは、それを理由にイカレスが攻め込もうとしているからです。それ以上でも以下でもない。
私の助けが不要ならば、このまま帰ります。
けれどこのままでは、ライヘンベルグの名前は地図から姿を消すでしょう。」
「貴様、殿下をはなせ!」
「黙りなさい!貴方達に話をしているんじゃない、私はウィルド様に話をしています!」
殺気立って剣をこちらに向ける兵士。
けど、サリナと喧嘩してまでノコノコこんなところまでやってきて、私だってこのまま手ぶらで帰りたくないのだ。
話をややこしくしてくるなら、一発くらい殴ってやろうか というくらいには、私も殺気立ってしまう。
まさに一触即発の空気だったが、ウィルド殿下がすっと双方の間に身体を割り込ませてその空気を断ち切ってくれた。
「私は彼の話を聞こうと思う。
お前達は先に砦に向かうように」
「お待ちください、殿下!
もはや我らには、殿下しか残っておりません…殿下がご無事でなければ、我らが戦う意味などないのです!」
涙ながらに叫ぶ兵士。
悲壮な顔で微笑むウィルド殿下。
これじゃまるで私が、これからウィルド王子を快楽殺人する魔族みたいな。殿下は部下を守るために我が身を捧げてる みたいな空気じゃないか。
やめろやめろ!
話が終わったら殿下は無事にお返ししますから、さっさと行ってください!
…って言いたいけど、言ったらまた拗れるんだろうな。嫌になってきたな、もう。
私もサリナに気遣われたい。早くおうちに帰りたくなってきた。
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