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囁き
しおりを挟む自分たちが持ってる手駒の確認。
その手駒でやれること。
回避したい結果。
理想の形。
それやこれやを洗い出し、精査してまとめ、練り上げていく。
とはいえ、私がどこまでのことが出来るか、わからない。
ひとまず私は、ゲームだ。
ゲームは機能が多すぎて把握できていない部分も多い。
けど。
「MMOっぽいこのゲームなら、フレンドへの囁き機能があるはず…」
万が一サリナとはぐれた時の緊急連絡手段を探して、まずはお庭ゲームや冒険ゲームの中を再確認。
久しぶりにフレンド欄を開いて、私はハッとして手を止めた。
「ウィルド様とアンジェリカ様のお名前があるわ…」
「?」
「もしかして、直接連絡が取れるかも!」
私のフレンド欄には、サリナのアイコン。
その隣に枠を隔ててアイコンがズラリと並んでいる。
サリナのお父様や執事親子、ウィルド王子、アンジェリカ様、不動産屋…地下牢クエストを始めた以降に接触のあった人達だ。
試しにアイコンをタップしてみたら、フレンド登録の項目と…見落としていた1:1の機能。
「相手はスマホを持っていないのに、どうやってメッセージのやり取りをするのかしら?
サリナ、ちょっと試してみてもいい?」
「はい、喜んで」
居酒屋か。
何が起こるかわからないのに、本当にサリナは度胸がある。
私は恐る恐る、1:1のウィンドウに「テスト」と打ち込んで送信した。
「あっ」
その途端、サリナが声をあげる。
「なになに?どんな感じ?」
「頭の中に、マーガレット様の声が聞こえました。テスト と。」
「サリナから私にメッセージを返すことは出来そう?頭の中で返事しようと念じてみるとか」
「試してみます」
サリナは両手を組んで目を閉じる。
スマホの画面とサリナを見比べていた私は、パッと顔を輝かせた。
「きたきた!マーガレット様 って念じたの?」
「はい、その通りです。」
「きゃー!すごい!」
思わずサリナとキャッキャと手を取り合って喜んでしまう。
ライヘンベルグ側と連絡が取り合えるかもしれないのは大きい。
でもウィルド王子に直接メッセージを送って「死亡している相手には送信出来ません」なんて返ってきたら、めげそうになるので今はやめておこう。
というわけで、まずはアンジェリカ様にメッセージを送ることにした。
フレンドであるサリナ以外の人ともうまくやり取りが出来るのか、確かめてみる必要はある。
スマホニュースで、具合が悪く伏せっていると聞いていたので、心配していたし。
「アンジェリカ様、お久しぶりです。マーカスです。覚えていらっしゃるでしょうか?」
「マーガ??☀︎°#まわ!!まーがれ、様!?」
すぐに返信が返ってきたけれど、なんかメッセージがバグってるみたいだ。
やっぱりフレンドじゃないと、上手くやり取りはできないのかも と一緒にスマホを覗き込んでいたサリナを見ると、サリナは半目の猫みたいな顔で私を見つめてきた。
なにその顔、怖い。
そうこうするうちにバグが解消されたのか、突然滑らかなメッセージが届き始めた。
「ああ、マーガレット様。どれだけお会いしたかったことでしょう。
そうですか、わたくしはもうじき死ぬのですね。
それでも、もうすぐあなたにお会いできるならば、なんという幸福でしょう。」
いや、やっぱりどこかと混線してるかも。
内容がおかしい。
マーカスだって言ってるのに、マーガレットと確定して話してるし。
「マーカスです。お加減が悪いようですね。
どうぞ、お大事になさってくださいませ。
1日も早く回復されるよう、祈っております」
「ああ、マーガレット様、もったいないですわマーガレット様、マーガレット様、マーガレット様」
怖い怖い!どうしよ、これ!
やっぱりフレンド以外とはまともに話が出来ないのかも!
あわあわしていたら、サリナが
「失礼します」
と、しゅっとスマホをさらっていった。
横から私のやる事を見て、操作を覚えていたらしい。
滑らかに文字を打ち込み始めた。
「何やってるの?」
「ライヘンベルグへの手引きをしてくださるそうですよ、出発の準備をいたしましょう」
「へ!?」
慌ててスマホを確認したら、
「ライヘンベルグに行きたいので、手引きしていただけないですか」
と、めちゃくちゃダイレクトにお願いしていた。
それに対する返事は、
「承知しました、地図を …少々お待ちくださいませ」
「ライヘンベルグとイカレスの国境に、オーファという村がありますの。そこまでいらしてください。なんとかいたします。」
打てば響くように了承してるけど、アンジェリカ様はファーマレストの王女。
ライヘンベルグと敵対してる国の王族だ。
ましてや病床に臥せっていたのに。
慌てて話を止めようとしたが、
「メッセージが受け取れません」
という表示が出て、こちらの送信ログが灰色になってしまう。
囁き機能は、何かしらの条件が揃わないと、使用できないのかもしれない。
これでは、アンジェリカ様が私達に助力するために送り込んでくれただろう人が、オーファで待ちぼうけしてしまうことになる。
仕方ない。とにかくも合流するだけして、助力は直接断ろう。
急いで出発する準備を整える。
突然戦闘に巻き込まれた時の為に、念の為に冒険ゲームで使わなくなってアイテムボックスに放り込んでいた武器。
なるべく目立たないように、一般人ぽい綿の服。
顔を隠しやすい、フード付きの外套を羽織る。
男の身体にしておいたけれど、髪の毛が長いので邪魔にならないように縛って。
地図の確認。
オーファはイカレス、ライヘンベルグ、ファーマレストの三国が交わる地点だ。
今いる場所から、北東。
経由する必要のある町、道、迷いそうなポイントをチェックする。
「あとは、移動手段…移動手段…どうしよ、馬を借りてくる?でもなあ…」
馬を借りてくるなら、現金のない私はまた、サリナに出してもらう必要があった。
けれど、今はちょっと…。
勝手なことをしたサリナに腹を立てていたし、後でめちゃくちゃ説教するつもり満々なので、頼む気になれなかった。
急いでいるからか、普段なら絶対に考えない手段が思いつく。
「いいや、ペガサスで行ってみよう!
もしかしたら、上手くしたら、人には見えないかもしれないし!」
地下牢だって、お庭だって、上手く存在を隠してくれていたのだ。
ペガサスも見えないかもしれない。
見えても、ただの馬に見えるかもしれない!
そこに一縷の望みを託すことにして、家畜ゾーンにペガサスを解き放った。
「ひ、ひえ~…神々しい…」
お庭ゲームが元になっている我が家の庭は、めちゃくちゃ広くてたわわな実りがある楽園みたいな場所だと、自負している。
が、その楽園を背景にしていても存在感が浮く。
白銀に輝く身体と、大きな一対の翼。
スタイルはサラブレッドに近いが、大きさはもっと大きいように思う。
今まで見た馬の中でも、群を抜いて顔がいい。
私が恐る恐る近づいても、動かない。
まつ毛の長い穏やかな理知的な瞳で、じっと私を見つめ返してきた。
「急いで行きたいところがあるの。乗せてちょうだい。」
レオンに日常的に声をかけている感覚で、声をかけてみる。
わかっている 気がする。
手を伸ばすとペガサスはそっと首を下ろして、乗りやすいように前足を折った。
「ありがとう!」
喜んで背中に飛び乗ると、レオンもひょいと飛び乗ってくる。
「レオン!危ないからお前は………」
咄嗟に下そうかと思ったが、やめた。
ゲームでモンスターを狩猟する時、レオンが軌道をコントロールしてくれていたのを思い出したのだ。
レオンが居た方が、上手くコントロールできる気がする。
むしろ、レオンが居ないと思うように操れない気がする。
「じゃあ、いってくるわね」
「えっマーガレット様!?私を置いていかれるのですか!?」
「当たり前でしょう。私、怒っているのよ。
なぜアンジェリカ様を巻き込むような真似をしたの?
こんな勝手な真似をする人は、連れていけないわ」
流石のサリナも、動揺したらしい。
あたふたとペガサスの前に立ち塞がって、進路を妨害してくる。
「マーガレット様の力になるという選択をしたのは、王女様ですよ」
「サリナ!」
なんて言い草だと思って、声を荒げてしまった。
サリナはビクッと固まって、胸元を握りしめる。
私はゆっくりと深呼吸して、気持ちを落ち着けた。
サリナは気圧されたように項垂れてはいるけれど、謝ってこない。
まだ悪い事をしたとは思っていないのだろうか。
目が合わないまま話をするのは、好きじゃないけど、わざわざペガサスから降りてあげるのは違うと思って、そのまま声をかけた。
見下ろしながら叱るのは、なんともやりきれない気持ちがした。
「助けてくれとお願いしたのは、こちらでしょう。
責任は私達にあるわ。
万が一、手引きしたことがバレたら、アンジェリカ様のお立場がどれだけ危うくなるか…理解していないだなんて言わせないわよ」
断る事も出来たのに、それをしなかった。
それが、結果も責任も全て押し付けられる立場にアンジェリカ様を立たせてよい理由には、決してならない。
私たちはいいだろう。
いざとなれば、地下牢に逃げ込める。
世界で起きた全てのことに、知らんふりができる。
けれど、死者に近い立ち位置の私達では、アンジェリカ様を守ることができない。責任がとれないのだ。
そんな無責任な立場で彼女1人を危険に晒すなんて、許されるわけがないではないか。
私と行動を共にする以上、サリナにも理解してもらう必要はある。
だがサリナは、頑なに顔をあげない。
「サリナ、どう考えているの?
今の貴女の気持ちを聞かせてちょうだい。」
「いざとなれば、私のように仲間にしてさしあげればよろしいのでは」
「彼女と貴女では立場が違うでしょう。」
「…そうですね。王女様と侍女では違いますものね。高貴な方ですもの、お守りせねばなりませんね。」
「何言ってるの…」
これでは埒があかない。
「もういい。話の続きは、帰ってからにするわ。」
私は諦めて、ペガサスの横腹を軽く蹴った。
「わっ!」
ゆっくりと前進するかと思っていた馬体が、グンと加速する。
思わず声をあげたが、ペガサスはそのまま軽やかに何もない空間を蹴って、空へ空へと駆け上がっていく。
こ、これ、他の人には見えてないよね!?見えてませんように!
かなり上空に上がったところで、ペガサスはゆっくりと翼をはためかせながら滞空する。
見渡す限り、空が広がっている。
風が強いが、そんなに寒くは感じない。
上空だとかなり冷えるはずだが、ペガサスの能力だろうか。
明らかに飛ぶには足りていない翼のはためきで、飛行しているし。
さて。地図は頭に入れてきた。
道を辿らなくてもいいぶん、まっすぐ目的地に向かえるので、迷うこともない。
目的地の北東に目をやり…。
下を見下ろすと、豆粒のように小さくなったサリナが、こちらを見上げているのが見えた。
離れすぎて、表情はわからない。
揉めた状態のまま離れることに不安を感じたが、戦線がいつ変わるかわからない。
のんびりしている時間はないのだ。
「行くよ、レオン。オーファに!」
「わん!」
レオンの声と共にペガサスが足を動かし、駆けるように移動が始まった。
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