転生覚醒が遅すぎたので全力ヒキニートします!

カカオ70

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ノブレスオブリージュ

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その日は朝からなんとなく気分が滅入っていて、石牢でダラダラゴロゴロしていた。
お昼ご飯が終わる頃になっても変わらない私に、サリナがお庭に出ることを勧め、チーズケーキと紅茶を準備してくれた。
レオンも外に出たがって足に飛びついてくるから、仕方なく扉をくぐった瞬間だった。

わあー!!

小さな窓の向こうから、湧き上がるような歓声が響いてきて、サリナと顔を見合わせる。

「…なにかしら」
「見てまいります」

私の不安のこもった目を見て、サリナは滑るように外に出る。
私もすぐに飛び出して行けるように、スマホで男性の姿に変わっておいた。
なんだか気分が悪くて、心臓が落ち着かない。
壁によりかかって深呼吸していると、戻ってきたサリナが慌てて椅子をすすめてくれた。
回復の光に包まれていると、少し気分が落ち着いてきて、私はサリナを見上げた。

「それで、何があったの?」
「ライヘンベルグに、戦争で勝利したとのことです」
「……ああ」

予想はしていたので、やっぱり と思った。
また気分が悪くなってきて、頭を抑えたまま項垂れる。
前世の感覚に引き摺られているんだろうか。
いや、これは人間としての通常の反応だろうか。
人生が「死後」扱いになってから、仲間であるサリナ以外に僅かばかりに交流があった、たった2人の内の1人。
その人が戦争で命を落としただろうことは、覚悟していた以上に衝撃が大きい。

「…スマホで、少し、情報を見てはいたんだけど」
「はい」
「前の晩に、ライヘンベルグの首都が包囲されたと、知ってはいたのよ」

呼吸がし辛くて、私は喘ぐように切れ切れに呟く。
サリナは私の背中を黙ってさすってくれていた。
ファーマレストとイカレスが、この世界の覇権を握ることはわかっている。
つまり、どの国も敗戦するということ。
わかっていたけれど、しんどい。

「…ああ、でもその情報はまだガセね。
 包囲網が整ったっていう話が、伝言ゲームの中で誤って伝わっただけみたい」
「そうなんですね」

スマホで少しニュースを確認したが、それで心が晴れたりもしない。
どちらにしろ、時間の問題だ。
ああ、気が滅入る。
ベッドに潜り込んで寝てしまいたい。
気晴らしをする気にもなれない。

しばらく項垂れたまま時間を過ごして。
やはり部屋へ戻ろうと立ち上がった私は、そこでじっと自分を見つめていたらしいサリナと目があった。

「…なぁに?」
「どうなさるおつもりですか?私にお手伝い出来ることはありますか?」
「それって、どういうこと!?」

カッと顔と頭が熱くなる。

私を素晴らしい主人だと信じて疑わないサリナ。
そんなサリナに、言外に「見捨てるのですか」と言われたのだと思った。
燃えるような恥ずかしさが襲ってくる。
真っ赤になっただろう私を見ても、サリナは黙って見上げてくるだけで、それが更に私に追い打ちをかけた。

「何をしろって言うの?私にファーマレストとイカレスを止めろって言うの!?
確かに今の私の力なら、この戦争をどうにか出来るかもしれないわね。でも、だからって、どうして私がどうにかしなくてはいけないの!?」
「…マーガレット様」
「言わないで!
いい?裏切られても、イカレスは私の祖国なのよ!
どうしてこの私が、自国の兵士を殺してまで、他人を助けなくてはいけないの!?」

腐っても王太子の元婚約者だったのだ。
何度も王宮には足を運んだ。
この国のために、必死で訓練を重ねている兵士達も見ている。
私よりずっと年上なのに、未来の王妃として眩しいものを見るような目で、深々と挨拶をしてくれた人も居た。
イカレスの兵。イカレスの意思を押し通すための武力 という大きな塊として見ることなど、とてもできない。
彼らの一人一人が人間だったことを、私は間近で見て知ってしまっていた。

私をじっと見てくるサリナの目が痛い。
お願いだから、許して欲しい。
転生ものと言えば、バンバン敵をやっつけるのが相場かもしれないが、私は彼らをかっこ「敵」にしたくない。
倒したくなんてない。

黙っているサリナと目を合わせていられなくて、顔を逸らした。
落ち着いて考えれば、サリナは私に声を出すのを禁じられた状態で黙っていただけなのだけど。

「どうして私が助けなきゃいけないの…私にそんな義理ないでしょう?ねえサリナは、私の味方でしょ?」

答えを求められた途端。
サリナはさっと私の手をとると、力強く握った。

「はい。私は味方です。」

ホッと力が抜けてサリナの胸元に寄りかかると、サリナはそっと私の頭を抱き止めてくれた。

「ライヘンベルグを助けて欲しいと、誰かに頼まれたのですか?」
「えっ」
「お嬢様のご負担になることを強いた者がいるなら、私が始末いたします」
「………」

それは、誰も言ってない。

今更ながら、責められていると私が思い込んでいただけだったことに気づいた。

「サリナは思わないの?助けるべきって」
「思いません」

あまりにきっぱりと言われて逆に、ライヘンベルグを助けなくてはという焦燥感にかられていたのは自分だと気づく。
サリナは先ほどからの私の言動の理由に合点がいったらしく、ホッとしたように表情を緩めた。

「マーガレット様は、根っからの貴族でいらっしゃるから」
「え、どういうこと?」
「持つものは持たざるものを助ける義務がある…ノブレスオブリージュが根底にあるのでしょう。
力を手にした上で力ないものを助けないのは、マーガレット様の価値観に反するので、苦しいのではないでしょうか」

庶民全開の前世の感覚で苦しんでいるのかと思ったら、これって貴族として育ったからの価値観だったということ?
ポカンとしていると、サリナは私達がうずくまっている小さな民家をぐるりと見渡した。

「ご覧ください、この小さな家を。
私達はもはや貴族ではないのです。
まして、世間では死んだことになっている身。
なさりなくないことをなさる必要はないのです。」
「そう…そうね。」

やらなくてはいけないことはない。
やりたいことだけ、やればいい。
だから、ライヘンベルグを助ける義理なんてない。

けど、そこまで思って、またも胸にもやっとしたものが込み上げてくる。
そんな私を見透かすように、サリナは私の目をひたりと見つめた。

「その上で…マーガレット様はどうなさりたいのか。私めにお教えください。」
「私…ライヘンベルグを見捨てたくないみたい」
「それなら、方法を考えましょう。」

イカレスと敵対せず、私達が軍と戦うこともなく、ライヘンベルグから連合軍を追い出す方法。

そんなのあるわけないと思ったが、罪悪感に苛まれながらこの先も生きるより、ずっと簡単な気がする。
私はこくりと頷いて、立ち上がったのだった。



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