5 / 23
5 適合者
しおりを挟む
遅番シフトの勤務時間は生徒に夕食を出して後片付けを済ませるまでの時間だった。
今日一日、仕事が楽だったはずなのに何故かすごく疲れているような気がする。
制服から私服に着がえていると、他のスタッフが話しているのが聞こえてきた。
「ここ最近はキングの卒業で代替わりってことが多かったけど、やっぱり獅央が入学すると違うね」
「まだ四月だよ」
「獅央家は怖いねえ」
今日一日でほとんど決着は着いてしまったようなものだ。
私が出勤してきた時の学園内に響いていた賑やかな声は徐々に小さくなり、夕方には静まり返っていた。
つまり、ほとんどの獣人が六名によって抑え込まれたといういことになる。
夕食を食べに来た一年生の獣人達は粛々としていた。
無駄話もなく、よけいなことを一切話さないようにしているようで食事を終えるとすぐにいなくなった。
そんな光景を見ているはずなのに―――
「けど、私はイケメンだから許せるね」
「確かに! 私が適合者だったら間違いなく惚れてるわー!」
なにその絶対正義イケメン枠。
しかも適合者なんて冗談じゃない。
「スタッフの中に適合者はいないよ。学園スタッフは獣人も適合者も採用しないのが基本だからね」
「例外は学園の警備業務の獣人くらいでしょ」
そうなのだ。
学園スタッフは獣人と適合者の採用はない。
これは希少な適合者を守るための措置。
獣人の世界は弱肉強食。
このマリアステラ学園に入学できる獣人は能力が高いかお金持ちや地位の高い獣人の一族が優先される。
マリアステラ学園に入学が認められていない獣人と適合者の間に間違いが起きないよう厳しく定められている。
適合者の世界も甘くはない。
成績順に適合者達もランク付けされていて上位獣人に接することができるのはランク上位の適合者のみなのだ。
だから私は―――バタンとロッカーの扉を閉めた。
「お先に失礼します」
おしゃべりに加わらず、外に出た。
春の夜風はまだ冷たい。
裏門を抜けたところにある自動販売機で温かいミルクティーを買う。
一口飲むと温かいミルクティーの甘さが疲れた体を癒してくれた。
学内からで出てからスマホの画面を確認した。
時々ある私への連絡。
その相手は決まって母親だった。
本当は電話をかけ直したくない。
でも、かけ直さなかったら働いている私のところまで押し掛けてくるかも知れなかった。
こっちの都合も構わずに。
そんな人なのだ。
「もしもし」
『もー、美知なにしてたの? かけ直すの遅いじゃないの』
「仕事よ。今日は遅番だったから」
『そう。ねえ、美知。お母さんに生活費送ってくれない? 今月、ちょっとお金が厳しくてー』
「生活費は送ったはずよ」
『五万なんてはした金、もうないわよ』
はした金?
驚いて言葉がでなかった。
そのお金は私が頑張って働いたお金だった。
『あーあ。あんたみたいな出来損ないが生まれてきたせいでお母さん、辛いわ』
「あと少し送るから。明日まで待って」
すぐに電話を切った。
これ以上聞きたくない。
私が母になにをしたというのだろう。
いつも母は私にお金をせびる。
しんどい―――いつまでこの関係が続くの。
息苦しくなってどこかに座りたくなった。
裏門近くのベンチまで戻り、少し横になろうとベンチがある場所までなんとか歩いた。
「美知」
裏門前のベンチに泉地が座ってた。
どうしてこんな暗がりにここにいるのだろう。
「どうしてここにいるの?」
「待っていたら、ここに来るかなって思ってただけだよ」
自分の隣の空いているベンチをとんとんと泉地は手で叩いた。
座れということだろうか。
気まずいけど、今は少し座りたい。
「なんかあった? 顔色悪いけど」
「……貧血よ」
「そうか」
そっと頭に触れて自分の膝に私の頭を置いた。
「な、なにして……」
「貧血なら横になった方がいいと思っただけだけど?」
それはそうだけど。
なんで膝の上なのよ!?
泉地のぬくもりが伝わってきて動揺してしまう。
「この騒ぎが終わったら、ゆっくりできると思う」
泉地を見た。
整った顔と優秀な成績、称号を得るだけの強さ。
将来を約束されているようなものだ。
「ねえ、泉地」
「うん」
「泉地はちゃんと適合者と恋をして、学園生活を楽しんで」
「わかっているよ」
「わかっているならいいの。よかったわ。私は適合者じゃないから―――」
学園スタッフに適合者はいない。
泉地もそれを知っているはずだ。
きょとん、とした顔で泉地は言った。
「美知が適合者じゃなくてもかまわないけど。適合者だろう?」
「え?」
驚いて言葉がすぐに出てこなかった。
今日一日、仕事が楽だったはずなのに何故かすごく疲れているような気がする。
制服から私服に着がえていると、他のスタッフが話しているのが聞こえてきた。
「ここ最近はキングの卒業で代替わりってことが多かったけど、やっぱり獅央が入学すると違うね」
「まだ四月だよ」
「獅央家は怖いねえ」
今日一日でほとんど決着は着いてしまったようなものだ。
私が出勤してきた時の学園内に響いていた賑やかな声は徐々に小さくなり、夕方には静まり返っていた。
つまり、ほとんどの獣人が六名によって抑え込まれたといういことになる。
夕食を食べに来た一年生の獣人達は粛々としていた。
無駄話もなく、よけいなことを一切話さないようにしているようで食事を終えるとすぐにいなくなった。
そんな光景を見ているはずなのに―――
「けど、私はイケメンだから許せるね」
「確かに! 私が適合者だったら間違いなく惚れてるわー!」
なにその絶対正義イケメン枠。
しかも適合者なんて冗談じゃない。
「スタッフの中に適合者はいないよ。学園スタッフは獣人も適合者も採用しないのが基本だからね」
「例外は学園の警備業務の獣人くらいでしょ」
そうなのだ。
学園スタッフは獣人と適合者の採用はない。
これは希少な適合者を守るための措置。
獣人の世界は弱肉強食。
このマリアステラ学園に入学できる獣人は能力が高いかお金持ちや地位の高い獣人の一族が優先される。
マリアステラ学園に入学が認められていない獣人と適合者の間に間違いが起きないよう厳しく定められている。
適合者の世界も甘くはない。
成績順に適合者達もランク付けされていて上位獣人に接することができるのはランク上位の適合者のみなのだ。
だから私は―――バタンとロッカーの扉を閉めた。
「お先に失礼します」
おしゃべりに加わらず、外に出た。
春の夜風はまだ冷たい。
裏門を抜けたところにある自動販売機で温かいミルクティーを買う。
一口飲むと温かいミルクティーの甘さが疲れた体を癒してくれた。
学内からで出てからスマホの画面を確認した。
時々ある私への連絡。
その相手は決まって母親だった。
本当は電話をかけ直したくない。
でも、かけ直さなかったら働いている私のところまで押し掛けてくるかも知れなかった。
こっちの都合も構わずに。
そんな人なのだ。
「もしもし」
『もー、美知なにしてたの? かけ直すの遅いじゃないの』
「仕事よ。今日は遅番だったから」
『そう。ねえ、美知。お母さんに生活費送ってくれない? 今月、ちょっとお金が厳しくてー』
「生活費は送ったはずよ」
『五万なんてはした金、もうないわよ』
はした金?
驚いて言葉がでなかった。
そのお金は私が頑張って働いたお金だった。
『あーあ。あんたみたいな出来損ないが生まれてきたせいでお母さん、辛いわ』
「あと少し送るから。明日まで待って」
すぐに電話を切った。
これ以上聞きたくない。
私が母になにをしたというのだろう。
いつも母は私にお金をせびる。
しんどい―――いつまでこの関係が続くの。
息苦しくなってどこかに座りたくなった。
裏門近くのベンチまで戻り、少し横になろうとベンチがある場所までなんとか歩いた。
「美知」
裏門前のベンチに泉地が座ってた。
どうしてこんな暗がりにここにいるのだろう。
「どうしてここにいるの?」
「待っていたら、ここに来るかなって思ってただけだよ」
自分の隣の空いているベンチをとんとんと泉地は手で叩いた。
座れということだろうか。
気まずいけど、今は少し座りたい。
「なんかあった? 顔色悪いけど」
「……貧血よ」
「そうか」
そっと頭に触れて自分の膝に私の頭を置いた。
「な、なにして……」
「貧血なら横になった方がいいと思っただけだけど?」
それはそうだけど。
なんで膝の上なのよ!?
泉地のぬくもりが伝わってきて動揺してしまう。
「この騒ぎが終わったら、ゆっくりできると思う」
泉地を見た。
整った顔と優秀な成績、称号を得るだけの強さ。
将来を約束されているようなものだ。
「ねえ、泉地」
「うん」
「泉地はちゃんと適合者と恋をして、学園生活を楽しんで」
「わかっているよ」
「わかっているならいいの。よかったわ。私は適合者じゃないから―――」
学園スタッフに適合者はいない。
泉地もそれを知っているはずだ。
きょとん、とした顔で泉地は言った。
「美知が適合者じゃなくてもかまわないけど。適合者だろう?」
「え?」
驚いて言葉がすぐに出てこなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,178
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる