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第二章
11 騙された国王
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「お前たちは廊下で待っていろ」
レジェスの命令に複数の従者たちが一礼し、廊下に控える。
そして、レジェスは扉を閉めた。
お父様が席を立ち、二人は握手をする。
もうレジェスは一人前で、外交も当たり前にこなす。
レジェスの紫色の瞳に見られただけで、お父様は萎縮してしまうくらいだ。
「レジェス殿下。ようこそ。滞在を歓迎します!」
お父様は大国アギラカリサの王子を迎え、張り切っていた。
「いや、滞在するつもりで来たわけではない。用事あって来た」
なんだか嫌な予感がする。
セレステが言うようにレジェスは忙しい。
なぜなら、アギラカリサ王国では王位継承争いが激化し、殺し合いにまで発展しているという噂が、オルテンシア王国にまで届いている。
自分の領地を離れている場合ではないと思う。
けれど、そんなレジェスが、わざわざやってきたということは、オルテンシア王国に関する面倒なことが起きたと考えるべきだ。
もしくは、これから起きるから、気をつけろと警告にきたか……
――どちらにせよ、オルテンシア王国にとってよくないことよね。
すぐにでも内容を聞きたかったけれど、お父様を差しおいて、レジェスと会話するわけにはいかなかった。
それなのに、お父様ときたら……
「幼い頃からセレステと親しい間柄。身内同然。ぜひ、我が国に滞在を!」
お父様の空気を読まずに、『セレステの結婚相手になってください』攻撃!
のんきすぎるよ~!
お父様の的外れな返事に加え、セレステまで斜め上なことを言い出した。
「レジェス様。私とのんびり過ごせないのですか?」
セレステが微笑み、レジェスを誘う。
同じ年頃の男の子たちなら、それだけでセレステを好きになってしまうだろうけど、レジェスは呆れた顔でお父様とセレステを見る。
――申し訳なさすぎる。
レジェスに向かって、遠くからお辞儀をした。
それに気づいたレジェスが苦笑する。
「セレステと遊んでやりたいが、今は遊んでいる余裕がない。土産を持ってきた。後から、部屋に届けさせよう」
子供扱いされたセレステは、顔を赤くし、ムッとしていたけど、レジェスは動じない。
そのうち婚約者になるレジェスとセレステだけど、今のところ七年前と変わりない関係が続いている。
レジェスがセレステの婚約者になるのは、セレステが光の巫女になってからだから、まだ早い。
「ルナリア。また身長が伸びたんじゃないか?」
レジェスは私のことも子供扱いしている。
十二歳だから、当たり前といえば当たり前。
でも、それが少し悔しい。
「先月に会った時から変化してません」
「そうかな?」
レジェスは座っていた私を軽々と抱き上げ、太陽みたいに笑った。
「重くなった気がするけどなぁ」
「レジェス様。私はもう子供じゃありません。おろしてください」
――私は抱っこされる年齢じゃないんだから!
むうっとした顔をすると、レジェスは私に謝った。
「ああ、すまん。今、いくつだ?」
「十二歳です」
私を椅子に戻して、レジェスは悪い顔をする。
その顔は幼馴染みのレジェスではなく、大国の王子たる者の顔だ。
「勉強に励んでいるそうだな。俺が父上から領地をもらったのは、十二歳の時だ。今のルナリアと同じ年齢だ。オルテンシア王。ルナリアに領地を与えたらどうだ?」
「は……? ルナリアに領地を?」
「ルナリアは優秀だぞ」
――私に領地を?
レジェスはなにを考えているのだろうか。
お母様はレジェスの冗談だと思ったらしく、笑いをこらえきれず吹き出した。
「まあ、レジェス様ったら! ご冗談がお上手ですこと! ルナリアはセレステに比べ、平凡な娘ですわ」
「セレステと間違えているのでは?」
お父様は笑えない冗談だと思ったらしく、頬をひきつらせていた。
けれど、レジェスはお母様たちのように笑っていなかった。
冗談ではなく、本気で言ったのだ。
「そうか。では、ルナリアの予定は空いてるか?」
「え? 私の予定ですか?」
なぜか、私の予定を尋ねてきた。
セレステがくすりと笑った。
「レジェス様。社交的な私と違って、ルナリアはいつも暇ですわ。毎日、本ばかり読んで友達もいませんの」
人気者のセレステは、同じ年頃の貴族令嬢たちとお茶会や観劇に出かけて忙しい。
私はというと、出歩く時間が惜しく、ひたすら語学や政治、農業などの勉強の時間にあてている。
なにも知らないお母様は、セレステの言葉に同意する。
「この子ったら、フリアン様が不在だと運動もしないで、ずっと図書館にいるんですよ。暗くて地味だし、なんの取り柄もなくて困っていますの」
お母様は私を絶対に褒めない。
セレステが一番可愛くて優秀な娘だと思っているからだ。
「では、ルナリア。俺と一緒に来い」
レジェスの紫色の目が私を覗き込み、捕らえて離さない。
けれど、その目は『ついてこい』と言っている。
「はい。ご一緒します」
もちろん、私はレジェスについていく。
オルテンシア王宮で学べることは、もうほとんどないからだ。
「お待ちを! ルナリアをどこへ連れていくおつもりか!?」
堂々とした態度の誘拐犯に、お父様が慌てた。
――そうよね。私は十二歳だし、いくら関心のない娘だからって、あっさり渡さないわよね。
「アギラカリサ王宮だ」
「お、王宮ですと!?」
レジェスの領地ではなく、王宮と聞いてお父様は顔色を変えた。
王子たちでさえ、国王の許可がない限り、気軽に王宮に入れないと聞く。
社交界にデビューすらしていない半人前の私が、アギラカリサ王宮に招待されるなんて、あり得ない話だった。
「どうして……ルナリアだけ……」
セレステはショックを受け、呆然としていた。
なにもかも優先されてきたセレステだけど、アギラカリサ王国の王宮には、まだ行ったことがない。
お父様だって、式典の時に招待されるくらいで、それ以外の交流はなかった。
だから、王子のレジェスが訪れただけで。あの喜びようなのである。
――普通なら、アギラカリサくらいの大国が近づいてきたら、なにかあるんじゃないかって警戒するはずなのに、お父様ときたら、大喜びなんだもの。
アギラカリサ王から、いつでもカモにできる国だって思われているに違いない。
「父はマーレア諸島の商人たちをもてなすため、王宮に呼んだ。そこで、ルナリアを商人たちに紹介したいと思っている」
「私の役目はオルテンシア王国とマーレア諸島との間に、交流を持たせるための外交役ですね?」
「そうだ」
私の言葉にレジェスは、やっと話が通じる相手を見つけたという顔でうなずいた。
というより、私くらいしか話が通じないと思われている可能性がある……
――あ、お父様の顔に『わからない』って書いてある。
お父様は私とレジェスを交互に見て、首をかしげてる。
お母様はセレステが選ばれなかったから悔しがっているだけで、セレステも同じ。
遊びに行くんじゃないのに……
――でも、私しかアギラカリサ王国に、行く人がいないと判断したレジェスは正しいわ。
「私がアギラカリサ王国へ行く理由は、お父様が最近、頭を悩ませているスパイスと紅茶のためです」
「うむ? なかなか手に入らない品だが、それがどうかしたのか?」
どうかしたから、手に入りにくくなっているのだ。
お父様の返事に困惑し、額に手をあてた。
――光の巫女が出現したら、なんとかなるって思っているからこうなるのよね。
光の巫女が出現すれば、信仰心の高い人々から、王宮横の神殿にお金が集まるけど、それはまだ遠い話だ。
だいたい光の巫女に頼りすぎて、王家が仕事をしなくなりつつある。
これは滅びゆく王家の姿にしか見えない。
「お父様。マーレア諸島から入るスパイスの量が少なく、必要な量が手に入っていません」
「言われなくてもわかっている! 入ってこないから、高値で困っているのだ!」
「そうです。高値のせいで、人々の不満がたまっています。そして、価格はもっと高くなるでしょう」
レジェスが私の頭にぽんっと手を置いた。
「ルナリア。お前は俺が見込んだとおり、優秀で賢い。そこまでわかれば、たいしたものだ」
褒められて嬉しいけど、子供扱いはちょっとね……
頭をなでられて、むうっとしているとレジェスが気づいたらしく、『ああ、悪い』と小さな声で言って、手を離した。
「お父様。マーレア諸島のスパイスと茶葉は、アギラカリサ経由で手に入れてます。つまり、アギラカリサが値上げしているということです」
マーレア諸島が値上げしたという話はどこからも聞こえてこない。
なら、値上げしたのはアギラカリサである。
「そうだ。兄上がスパイスや茶葉の価格を上げている。そして、さらに値を上げるつもりだ」
お父様が息をのんだ。
オルテンシア王国はマーレア諸島と交流がなく、レジェスの兄たちを仲介し、手に入れていた。
「これ以上値上げすると!? ただでさえ、高騰しているというのに……!」
「だが、買わないわけにもいかないだろう? 値上げした分の利益はすべて兄上のものになる」
「そんなバカな! 騙されたのか!」
レジェスの兄たちに甘い言葉で騙されたことに、ようやくお父様は気づいたのだった――
レジェスの命令に複数の従者たちが一礼し、廊下に控える。
そして、レジェスは扉を閉めた。
お父様が席を立ち、二人は握手をする。
もうレジェスは一人前で、外交も当たり前にこなす。
レジェスの紫色の瞳に見られただけで、お父様は萎縮してしまうくらいだ。
「レジェス殿下。ようこそ。滞在を歓迎します!」
お父様は大国アギラカリサの王子を迎え、張り切っていた。
「いや、滞在するつもりで来たわけではない。用事あって来た」
なんだか嫌な予感がする。
セレステが言うようにレジェスは忙しい。
なぜなら、アギラカリサ王国では王位継承争いが激化し、殺し合いにまで発展しているという噂が、オルテンシア王国にまで届いている。
自分の領地を離れている場合ではないと思う。
けれど、そんなレジェスが、わざわざやってきたということは、オルテンシア王国に関する面倒なことが起きたと考えるべきだ。
もしくは、これから起きるから、気をつけろと警告にきたか……
――どちらにせよ、オルテンシア王国にとってよくないことよね。
すぐにでも内容を聞きたかったけれど、お父様を差しおいて、レジェスと会話するわけにはいかなかった。
それなのに、お父様ときたら……
「幼い頃からセレステと親しい間柄。身内同然。ぜひ、我が国に滞在を!」
お父様の空気を読まずに、『セレステの結婚相手になってください』攻撃!
のんきすぎるよ~!
お父様の的外れな返事に加え、セレステまで斜め上なことを言い出した。
「レジェス様。私とのんびり過ごせないのですか?」
セレステが微笑み、レジェスを誘う。
同じ年頃の男の子たちなら、それだけでセレステを好きになってしまうだろうけど、レジェスは呆れた顔でお父様とセレステを見る。
――申し訳なさすぎる。
レジェスに向かって、遠くからお辞儀をした。
それに気づいたレジェスが苦笑する。
「セレステと遊んでやりたいが、今は遊んでいる余裕がない。土産を持ってきた。後から、部屋に届けさせよう」
子供扱いされたセレステは、顔を赤くし、ムッとしていたけど、レジェスは動じない。
そのうち婚約者になるレジェスとセレステだけど、今のところ七年前と変わりない関係が続いている。
レジェスがセレステの婚約者になるのは、セレステが光の巫女になってからだから、まだ早い。
「ルナリア。また身長が伸びたんじゃないか?」
レジェスは私のことも子供扱いしている。
十二歳だから、当たり前といえば当たり前。
でも、それが少し悔しい。
「先月に会った時から変化してません」
「そうかな?」
レジェスは座っていた私を軽々と抱き上げ、太陽みたいに笑った。
「重くなった気がするけどなぁ」
「レジェス様。私はもう子供じゃありません。おろしてください」
――私は抱っこされる年齢じゃないんだから!
むうっとした顔をすると、レジェスは私に謝った。
「ああ、すまん。今、いくつだ?」
「十二歳です」
私を椅子に戻して、レジェスは悪い顔をする。
その顔は幼馴染みのレジェスではなく、大国の王子たる者の顔だ。
「勉強に励んでいるそうだな。俺が父上から領地をもらったのは、十二歳の時だ。今のルナリアと同じ年齢だ。オルテンシア王。ルナリアに領地を与えたらどうだ?」
「は……? ルナリアに領地を?」
「ルナリアは優秀だぞ」
――私に領地を?
レジェスはなにを考えているのだろうか。
お母様はレジェスの冗談だと思ったらしく、笑いをこらえきれず吹き出した。
「まあ、レジェス様ったら! ご冗談がお上手ですこと! ルナリアはセレステに比べ、平凡な娘ですわ」
「セレステと間違えているのでは?」
お父様は笑えない冗談だと思ったらしく、頬をひきつらせていた。
けれど、レジェスはお母様たちのように笑っていなかった。
冗談ではなく、本気で言ったのだ。
「そうか。では、ルナリアの予定は空いてるか?」
「え? 私の予定ですか?」
なぜか、私の予定を尋ねてきた。
セレステがくすりと笑った。
「レジェス様。社交的な私と違って、ルナリアはいつも暇ですわ。毎日、本ばかり読んで友達もいませんの」
人気者のセレステは、同じ年頃の貴族令嬢たちとお茶会や観劇に出かけて忙しい。
私はというと、出歩く時間が惜しく、ひたすら語学や政治、農業などの勉強の時間にあてている。
なにも知らないお母様は、セレステの言葉に同意する。
「この子ったら、フリアン様が不在だと運動もしないで、ずっと図書館にいるんですよ。暗くて地味だし、なんの取り柄もなくて困っていますの」
お母様は私を絶対に褒めない。
セレステが一番可愛くて優秀な娘だと思っているからだ。
「では、ルナリア。俺と一緒に来い」
レジェスの紫色の目が私を覗き込み、捕らえて離さない。
けれど、その目は『ついてこい』と言っている。
「はい。ご一緒します」
もちろん、私はレジェスについていく。
オルテンシア王宮で学べることは、もうほとんどないからだ。
「お待ちを! ルナリアをどこへ連れていくおつもりか!?」
堂々とした態度の誘拐犯に、お父様が慌てた。
――そうよね。私は十二歳だし、いくら関心のない娘だからって、あっさり渡さないわよね。
「アギラカリサ王宮だ」
「お、王宮ですと!?」
レジェスの領地ではなく、王宮と聞いてお父様は顔色を変えた。
王子たちでさえ、国王の許可がない限り、気軽に王宮に入れないと聞く。
社交界にデビューすらしていない半人前の私が、アギラカリサ王宮に招待されるなんて、あり得ない話だった。
「どうして……ルナリアだけ……」
セレステはショックを受け、呆然としていた。
なにもかも優先されてきたセレステだけど、アギラカリサ王国の王宮には、まだ行ったことがない。
お父様だって、式典の時に招待されるくらいで、それ以外の交流はなかった。
だから、王子のレジェスが訪れただけで。あの喜びようなのである。
――普通なら、アギラカリサくらいの大国が近づいてきたら、なにかあるんじゃないかって警戒するはずなのに、お父様ときたら、大喜びなんだもの。
アギラカリサ王から、いつでもカモにできる国だって思われているに違いない。
「父はマーレア諸島の商人たちをもてなすため、王宮に呼んだ。そこで、ルナリアを商人たちに紹介したいと思っている」
「私の役目はオルテンシア王国とマーレア諸島との間に、交流を持たせるための外交役ですね?」
「そうだ」
私の言葉にレジェスは、やっと話が通じる相手を見つけたという顔でうなずいた。
というより、私くらいしか話が通じないと思われている可能性がある……
――あ、お父様の顔に『わからない』って書いてある。
お父様は私とレジェスを交互に見て、首をかしげてる。
お母様はセレステが選ばれなかったから悔しがっているだけで、セレステも同じ。
遊びに行くんじゃないのに……
――でも、私しかアギラカリサ王国に、行く人がいないと判断したレジェスは正しいわ。
「私がアギラカリサ王国へ行く理由は、お父様が最近、頭を悩ませているスパイスと紅茶のためです」
「うむ? なかなか手に入らない品だが、それがどうかしたのか?」
どうかしたから、手に入りにくくなっているのだ。
お父様の返事に困惑し、額に手をあてた。
――光の巫女が出現したら、なんとかなるって思っているからこうなるのよね。
光の巫女が出現すれば、信仰心の高い人々から、王宮横の神殿にお金が集まるけど、それはまだ遠い話だ。
だいたい光の巫女に頼りすぎて、王家が仕事をしなくなりつつある。
これは滅びゆく王家の姿にしか見えない。
「お父様。マーレア諸島から入るスパイスの量が少なく、必要な量が手に入っていません」
「言われなくてもわかっている! 入ってこないから、高値で困っているのだ!」
「そうです。高値のせいで、人々の不満がたまっています。そして、価格はもっと高くなるでしょう」
レジェスが私の頭にぽんっと手を置いた。
「ルナリア。お前は俺が見込んだとおり、優秀で賢い。そこまでわかれば、たいしたものだ」
褒められて嬉しいけど、子供扱いはちょっとね……
頭をなでられて、むうっとしているとレジェスが気づいたらしく、『ああ、悪い』と小さな声で言って、手を離した。
「お父様。マーレア諸島のスパイスと茶葉は、アギラカリサ経由で手に入れてます。つまり、アギラカリサが値上げしているということです」
マーレア諸島が値上げしたという話はどこからも聞こえてこない。
なら、値上げしたのはアギラカリサである。
「そうだ。兄上がスパイスや茶葉の価格を上げている。そして、さらに値を上げるつもりだ」
お父様が息をのんだ。
オルテンシア王国はマーレア諸島と交流がなく、レジェスの兄たちを仲介し、手に入れていた。
「これ以上値上げすると!? ただでさえ、高騰しているというのに……!」
「だが、買わないわけにもいかないだろう? 値上げした分の利益はすべて兄上のものになる」
「そんなバカな! 騙されたのか!」
レジェスの兄たちに甘い言葉で騙されたことに、ようやくお父様は気づいたのだった――
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