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第三章
27 ルナリアの弱み ※セレステ
――ルナリアのせい。すべてルナリアのせいなのよ!
私を苦しめる二番目の姫。
どれだけ私から、称賛と好意、周囲の人間を奪うの?
ルナリアがいなければ、すべて私のものだった!
「セレステを女王にするのが、わたくしの夢だったのに……」
そう言って、お母様は私に失望し、寝込んでいるけど、それは今だけ。
私はレジェス様の妃となって、アギラカリサの王妃になるの。
そうすれば、誰も私を殺せないわ。
――どれだけ有能な宰相であってもね。
あの日から、私のことをシモンがずっとにらんでいる気がしてならない。
憎悪と殺意、敵意を感じる。
「早くアギラカリサ王国へ行ってしまいたいわ」
光の巫女の務めを果たし、王宮へ戻ってくると、ちょうど王宮前に向かうお父様とシモンに出会った。
――会いたくなかったわ。
シモンは表情を変えず、お父様とともに私の横を素通りしていった。
お父様から声をかけられることもなく、シモンから挨拶もなかった。
こんな扱いは初めてだった。
「どういうこと?」
振り返り、お父様に私から声をかける。
「お父様!」
「うん? ああ、セレステ。セレステか……」
なにがあったのか、ひどく焦燥している。
シモンのほうも厳しい顔つきだった。
――なにがあったの?
王宮前が騒がしい。
侍女たちのはしゃぐ声が、ここまで聞こえてきた。
「ルナリア様がマーレア諸島のルオン様をお連れしたそうよ!」
「ルオン様って、すっごくお金持ちでエキゾチックなイケメンだって聞いてるわ。みたーい!」
「はしたないわよ!」
若い侍女を叱る声と客間の準備に追われる者たちで、王宮内の慌ただしさが増した。
「ルナリアから事前に連絡があったが、ルオン殿とともにアギラカリサの巫女が来た」
「巫女ですって!?」
お父様が動揺するのも無理はない。
光の巫女の私と違って、アギラカリサの巫女は王宮から出ることを許されない。
異民族の力を封じる役目を担うアギラカリサの巫女は、命を狙われる可能性が高く、その身を守るため、アギラカリサ王の監視下に置かれ、王宮の奥に閉じ込められている。
「ルオン様がさらってきたの?」
「うむ……。外交問題になるだろう」
「アギラカリサにルオン様を引き渡せば、マーレア諸島との関係が悪くなるでしょうし、ルオン様を逃がせば、アギラカリサ王から咎められるでしょうね」
シモンに言われ、お父様は額に手をあてた。
「困ったことになった。どうしたらよいのだ……」
小国のオルテンシア王国にとって、どちらも敵に回せない。
――オルテンシア王国のことなんて、私には関係ないわ。私はレジェス様に嫁ぐんだから!
二人がアギラカリサ側の追手に捕まるまで、放って置けばよかったのに、ルナリアはなにを考えているのかしら。
なぜ、王宮まで連れてきたのかわからない。
「陛下。ルナリア様には考えがあると思います。悩まれるのは、話を聞いてからでよろしいでしょう」
「そ、そうだな。たしかにそうだ! シモン、お前は頼りになる……」
そのシモンが頼りにし、信頼しているのはルナリア。
お父様とシモンは、私と話している場合ではないというように、背を向けた。
成り行きが気になり、私も二人の後を追った。
――ルナリアがシモンの信頼を裏切るところを見てやるのよ。
どうせ、シモンはああ言ったけど、解決策なんてないのだから。
ルナリアがどうするか見物だわ。
王宮前には、いつもより出迎えの人間が多く、侍女たちが浮わついている。
「オルテンシア王。突然、訪れてしまい申し訳ない」
あの方がマーレア諸島のルオン様。
褐色の肌に黒い髪、宝石がたっぷりついた豪奢なアクセサリーと美しい刺繍。
エキゾチックな魅力が溢れる男性だった。
――侍女たちが騒ぐのも当たり前だわ。
オルテンシア王国にはない不思議な空気が漂い、人々の目を惹く。
「お父様。こちらがアギラカリサの巫女、スサナ様です」
日に焼けてない白い肌、華奢な女性。
海のように青い髪と瞳が印象的で、二人が並ぶととてもお似合いだった。
「オルテンシア王国を巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「む……。いや、まずはルナリアの考えを聞こうと思っている」
ルオン様、スサナ様に謝罪されたお父様は強気にでれず、シモンが言った言葉を繰り返す。
お父様は完全にシモンの傀儡。
まるで、人形劇の人形のよう……なんて情けないの。
「お父様。アギラカリサからの追手は、レジェス様です。まもなくレジェス様が到着するでしょう。私からレジェス様に説明します」
「む、むう。フリアンよ。ルナリアに任せてよいのか?」
お父様はルナリアのそばにいるフリアン様に尋ねた。
フリアン様はどこか元気がなく、目を伏せてうなずいた。
「……その方法しかないかと」
「ふむ。ならば、ルナリアに任せよう」
シモンはルナリアを信用しているからか、なにも聞かなかった。
ルナリアよりフリアン様を待っていたのか、なにか二人で話している。
あの二人は、ルオン様たちのことではなく、今回の視察結果について話していた。
港に魚の加工場がいるとか、輸送手段として保存をどうするとか――そんなのどうでもいいわ。
私が知りたいのは、今後の産業じゃなくて、ルナリアがなにをするかだけ。
少し探りをいれてみる。
「ルナリア。とんでもないことをしたわね」
「なにがですか?」
「なにがって、アギラカリサの巫女は王宮から出てはいけないのよ?」
「知っています。ティア。ルオン様とスサナ様を部屋へお連れして。それから、食事と着替えを!」
ルナリアは厄介者たちをもてなすつもりでいる。
「アギラカリサの追手が、レジェス様だから平気だと思っているの? ルナリアはレジェス様に色仕掛けするつもりかしら?」
「いいえ。レジェス様相手に色仕掛けなど、通用しませんわ」
命の危険があるというのに、ルオン様はレジェス様を思い出してか、笑っていた。
「色仕掛けでどうこうできる男なら、今頃、生きてはいまい」
その言葉に、ルオン様とレジェス様の信頼の深さが推し量れた。
「お前がルナリアの姉で、光の巫女のセレステ王女か」
「はじめまして。ルオン様」
『ルナリアより私のほうが美しい』と、言うに決まっている。
そう思っていたら、ルオン様は言わなかった。
「光の巫女の口から、色仕掛けという言葉が出るとは意外だった」
「ルナリアなら、やりかねないと思ったからですわ」
「そうか。お前とは意見が合わないようだ。スサナ、行こう」
レジェス様にどこか似ているルオン様――そういえば、二人は友人であるとか。
フリアン様が私の前に立つ。
優しいフリアン様なら、きっと私を慰めてくれる。
「王位継承権を放棄したとはいえ、あなたが王女であることには変わりありません。発言には気をつけてください」
――フリアン様が私に注意した?
王女であり、光の巫女である私に対し、敬意をまったく感じられなかった。
怒りで手が震えた。
王位継承権を放棄したせいか、フリアン様はますます冷たくなった気がする。
私を軽んじた態度を改めさせようと、フリアン様に詰め寄った瞬間、馬の足音が近づいてくるのがわかった。
「ああ、レジェスがきたか」
ルオン様は王宮の中へ向かわず、足を止め、自分を殺すであろう友人を向かえた。
「レジェス。思ったより遅かったな。少しでも俺がスサナといられるように時間を引き延ばしたのは、お前の優しさか?」
黒髪に紫色の瞳をしたアギラカリサの末の王子。
いつもなら、明るい笑みを浮かべて登場するレジェス様。
今日は笑っていなかった。
「ルオン……。なぜ、相談しなかった」
「相談したところで、アギラカリサの巫女を俺の妻にはできなかっただろう? お前はまだ王子だ。王ではない」
レジェス様がアギラカリサ王の命令によって、ルオン様とスサナ様を捕まえにきたのだとわかった。
――ルナリアはどうするつもりかしら?
追手がレジェス様と知れば、二人を殺さないでと懇願するか、媚びてすがるか……
「レジェス様。遠路はるばる馬を駆けてこられて、お疲れでしょう」
「ルナリア。ルオンとスサナを連れにきた」
「わかっています。でも、レジェス様は少しお休みになったほうがよろしいですわ」
ルナリアはレジェス様よりも落ち着いていた。
レジェス様はそこで冷静になったのか、ルオン様とスサナ様、フリアン様とシモンの顔を見る。
全員がルナリアを信じ、レジェス様が来ても動じなかった。
「レジェス様。ルオン様に私が巫女をお連れしてほしいとお願いしたのです」
「なにを言ってる? 罪をかぶるつもりか?」
二人に同情し、ルナリアは自分が犠牲になるつもりなのか、そんなことを言い出した。
「いいえ。レジェス様。まずは、私の話を聞いてくださいませんか?」
「それは構わんが……」
ルナリアに罪が及ぶのを恐れたレジェス様が、ちらりとルオン様を見る。
「俺は逃げない。どうせ、スサナと逃げても、レジェスが見つけるだろう?」
「レジェス様は私とルオン様が、船旅をするだけの時間稼ぎをしてくださいました。感謝しております」
レジェス様は今まで見せたことのない苦渋の表情を浮かべた。
「ルオン! 軽率な真似を……!」
「もう待てなかったのだ。俺が族長になれば、父は大勢の妻を俺にあてがう。俺の妻はスサナだけと決めている。だから、迎えに行ったのだ」
馬を預けたレジェス様が、髪をかきむしり、イライラしていた。
なんとか友人を助けたいという気持ちが伝わってくる。
「レジェス様。こちらへ。私の話を聞いてから、これからどうするか決めていただけますか?」
「……わかった」
レジェス様は私には目もくれず、ルナリアとともに王宮の中へ消えていく。
――私がレジェス様の妻になるのよ! ルナリアなんかに奪わせてなるものですか!
二人の後を追いかけ、姿を探す。
レジェス様とルナリアが庭園の一角に座り、なにか話している。
「遠くて声が聞こえないわ」
草の上に座り、二人はまるで恋人同士のように見つめ合う。
そして、なにをするのかと思ったら、レジェス様はルナリアの膝の上に頭をのせた。
「な……なにをしてるの。やっぱり色仕掛けをしてるのね。ルナリアは嘘つきだわ!」
やめさせようと、二人に近づこうとした瞬間、ルナリアの手から影が作り出されるのが見えた。
眠るレジェス様に日陰を作る。
「闇を作った? あれは闇の巫女の力だわ!」
ルナリアに見つからないよう物陰に、サッと隠れた。
――やった、やったわ! ルナリアの弱点を手に入れたわ!
忌まわしい闇の巫女。
闇の巫女として、力が目覚めていたなんて知らなかった。
ルナリアが闇の巫女であることを全員の前で言いふらせば、誰もがルナリアを嫌う!
愛されるのは、一番目の姫の私だけでいいのよ。
「みんな、ルナリアが闇の巫女だと知れば、どんな顔をするかしら?」
今から、楽しみでしかたがない。
――せいぜい、レジェス様との短い幸せを味わうといいわ。
明日には、ルナリアは闇の巫女として、全員から嫌われるのだから。
私を苦しめる二番目の姫。
どれだけ私から、称賛と好意、周囲の人間を奪うの?
ルナリアがいなければ、すべて私のものだった!
「セレステを女王にするのが、わたくしの夢だったのに……」
そう言って、お母様は私に失望し、寝込んでいるけど、それは今だけ。
私はレジェス様の妃となって、アギラカリサの王妃になるの。
そうすれば、誰も私を殺せないわ。
――どれだけ有能な宰相であってもね。
あの日から、私のことをシモンがずっとにらんでいる気がしてならない。
憎悪と殺意、敵意を感じる。
「早くアギラカリサ王国へ行ってしまいたいわ」
光の巫女の務めを果たし、王宮へ戻ってくると、ちょうど王宮前に向かうお父様とシモンに出会った。
――会いたくなかったわ。
シモンは表情を変えず、お父様とともに私の横を素通りしていった。
お父様から声をかけられることもなく、シモンから挨拶もなかった。
こんな扱いは初めてだった。
「どういうこと?」
振り返り、お父様に私から声をかける。
「お父様!」
「うん? ああ、セレステ。セレステか……」
なにがあったのか、ひどく焦燥している。
シモンのほうも厳しい顔つきだった。
――なにがあったの?
王宮前が騒がしい。
侍女たちのはしゃぐ声が、ここまで聞こえてきた。
「ルナリア様がマーレア諸島のルオン様をお連れしたそうよ!」
「ルオン様って、すっごくお金持ちでエキゾチックなイケメンだって聞いてるわ。みたーい!」
「はしたないわよ!」
若い侍女を叱る声と客間の準備に追われる者たちで、王宮内の慌ただしさが増した。
「ルナリアから事前に連絡があったが、ルオン殿とともにアギラカリサの巫女が来た」
「巫女ですって!?」
お父様が動揺するのも無理はない。
光の巫女の私と違って、アギラカリサの巫女は王宮から出ることを許されない。
異民族の力を封じる役目を担うアギラカリサの巫女は、命を狙われる可能性が高く、その身を守るため、アギラカリサ王の監視下に置かれ、王宮の奥に閉じ込められている。
「ルオン様がさらってきたの?」
「うむ……。外交問題になるだろう」
「アギラカリサにルオン様を引き渡せば、マーレア諸島との関係が悪くなるでしょうし、ルオン様を逃がせば、アギラカリサ王から咎められるでしょうね」
シモンに言われ、お父様は額に手をあてた。
「困ったことになった。どうしたらよいのだ……」
小国のオルテンシア王国にとって、どちらも敵に回せない。
――オルテンシア王国のことなんて、私には関係ないわ。私はレジェス様に嫁ぐんだから!
二人がアギラカリサ側の追手に捕まるまで、放って置けばよかったのに、ルナリアはなにを考えているのかしら。
なぜ、王宮まで連れてきたのかわからない。
「陛下。ルナリア様には考えがあると思います。悩まれるのは、話を聞いてからでよろしいでしょう」
「そ、そうだな。たしかにそうだ! シモン、お前は頼りになる……」
そのシモンが頼りにし、信頼しているのはルナリア。
お父様とシモンは、私と話している場合ではないというように、背を向けた。
成り行きが気になり、私も二人の後を追った。
――ルナリアがシモンの信頼を裏切るところを見てやるのよ。
どうせ、シモンはああ言ったけど、解決策なんてないのだから。
ルナリアがどうするか見物だわ。
王宮前には、いつもより出迎えの人間が多く、侍女たちが浮わついている。
「オルテンシア王。突然、訪れてしまい申し訳ない」
あの方がマーレア諸島のルオン様。
褐色の肌に黒い髪、宝石がたっぷりついた豪奢なアクセサリーと美しい刺繍。
エキゾチックな魅力が溢れる男性だった。
――侍女たちが騒ぐのも当たり前だわ。
オルテンシア王国にはない不思議な空気が漂い、人々の目を惹く。
「お父様。こちらがアギラカリサの巫女、スサナ様です」
日に焼けてない白い肌、華奢な女性。
海のように青い髪と瞳が印象的で、二人が並ぶととてもお似合いだった。
「オルテンシア王国を巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「む……。いや、まずはルナリアの考えを聞こうと思っている」
ルオン様、スサナ様に謝罪されたお父様は強気にでれず、シモンが言った言葉を繰り返す。
お父様は完全にシモンの傀儡。
まるで、人形劇の人形のよう……なんて情けないの。
「お父様。アギラカリサからの追手は、レジェス様です。まもなくレジェス様が到着するでしょう。私からレジェス様に説明します」
「む、むう。フリアンよ。ルナリアに任せてよいのか?」
お父様はルナリアのそばにいるフリアン様に尋ねた。
フリアン様はどこか元気がなく、目を伏せてうなずいた。
「……その方法しかないかと」
「ふむ。ならば、ルナリアに任せよう」
シモンはルナリアを信用しているからか、なにも聞かなかった。
ルナリアよりフリアン様を待っていたのか、なにか二人で話している。
あの二人は、ルオン様たちのことではなく、今回の視察結果について話していた。
港に魚の加工場がいるとか、輸送手段として保存をどうするとか――そんなのどうでもいいわ。
私が知りたいのは、今後の産業じゃなくて、ルナリアがなにをするかだけ。
少し探りをいれてみる。
「ルナリア。とんでもないことをしたわね」
「なにがですか?」
「なにがって、アギラカリサの巫女は王宮から出てはいけないのよ?」
「知っています。ティア。ルオン様とスサナ様を部屋へお連れして。それから、食事と着替えを!」
ルナリアは厄介者たちをもてなすつもりでいる。
「アギラカリサの追手が、レジェス様だから平気だと思っているの? ルナリアはレジェス様に色仕掛けするつもりかしら?」
「いいえ。レジェス様相手に色仕掛けなど、通用しませんわ」
命の危険があるというのに、ルオン様はレジェス様を思い出してか、笑っていた。
「色仕掛けでどうこうできる男なら、今頃、生きてはいまい」
その言葉に、ルオン様とレジェス様の信頼の深さが推し量れた。
「お前がルナリアの姉で、光の巫女のセレステ王女か」
「はじめまして。ルオン様」
『ルナリアより私のほうが美しい』と、言うに決まっている。
そう思っていたら、ルオン様は言わなかった。
「光の巫女の口から、色仕掛けという言葉が出るとは意外だった」
「ルナリアなら、やりかねないと思ったからですわ」
「そうか。お前とは意見が合わないようだ。スサナ、行こう」
レジェス様にどこか似ているルオン様――そういえば、二人は友人であるとか。
フリアン様が私の前に立つ。
優しいフリアン様なら、きっと私を慰めてくれる。
「王位継承権を放棄したとはいえ、あなたが王女であることには変わりありません。発言には気をつけてください」
――フリアン様が私に注意した?
王女であり、光の巫女である私に対し、敬意をまったく感じられなかった。
怒りで手が震えた。
王位継承権を放棄したせいか、フリアン様はますます冷たくなった気がする。
私を軽んじた態度を改めさせようと、フリアン様に詰め寄った瞬間、馬の足音が近づいてくるのがわかった。
「ああ、レジェスがきたか」
ルオン様は王宮の中へ向かわず、足を止め、自分を殺すであろう友人を向かえた。
「レジェス。思ったより遅かったな。少しでも俺がスサナといられるように時間を引き延ばしたのは、お前の優しさか?」
黒髪に紫色の瞳をしたアギラカリサの末の王子。
いつもなら、明るい笑みを浮かべて登場するレジェス様。
今日は笑っていなかった。
「ルオン……。なぜ、相談しなかった」
「相談したところで、アギラカリサの巫女を俺の妻にはできなかっただろう? お前はまだ王子だ。王ではない」
レジェス様がアギラカリサ王の命令によって、ルオン様とスサナ様を捕まえにきたのだとわかった。
――ルナリアはどうするつもりかしら?
追手がレジェス様と知れば、二人を殺さないでと懇願するか、媚びてすがるか……
「レジェス様。遠路はるばる馬を駆けてこられて、お疲れでしょう」
「ルナリア。ルオンとスサナを連れにきた」
「わかっています。でも、レジェス様は少しお休みになったほうがよろしいですわ」
ルナリアはレジェス様よりも落ち着いていた。
レジェス様はそこで冷静になったのか、ルオン様とスサナ様、フリアン様とシモンの顔を見る。
全員がルナリアを信じ、レジェス様が来ても動じなかった。
「レジェス様。ルオン様に私が巫女をお連れしてほしいとお願いしたのです」
「なにを言ってる? 罪をかぶるつもりか?」
二人に同情し、ルナリアは自分が犠牲になるつもりなのか、そんなことを言い出した。
「いいえ。レジェス様。まずは、私の話を聞いてくださいませんか?」
「それは構わんが……」
ルナリアに罪が及ぶのを恐れたレジェス様が、ちらりとルオン様を見る。
「俺は逃げない。どうせ、スサナと逃げても、レジェスが見つけるだろう?」
「レジェス様は私とルオン様が、船旅をするだけの時間稼ぎをしてくださいました。感謝しております」
レジェス様は今まで見せたことのない苦渋の表情を浮かべた。
「ルオン! 軽率な真似を……!」
「もう待てなかったのだ。俺が族長になれば、父は大勢の妻を俺にあてがう。俺の妻はスサナだけと決めている。だから、迎えに行ったのだ」
馬を預けたレジェス様が、髪をかきむしり、イライラしていた。
なんとか友人を助けたいという気持ちが伝わってくる。
「レジェス様。こちらへ。私の話を聞いてから、これからどうするか決めていただけますか?」
「……わかった」
レジェス様は私には目もくれず、ルナリアとともに王宮の中へ消えていく。
――私がレジェス様の妻になるのよ! ルナリアなんかに奪わせてなるものですか!
二人の後を追いかけ、姿を探す。
レジェス様とルナリアが庭園の一角に座り、なにか話している。
「遠くて声が聞こえないわ」
草の上に座り、二人はまるで恋人同士のように見つめ合う。
そして、なにをするのかと思ったら、レジェス様はルナリアの膝の上に頭をのせた。
「な……なにをしてるの。やっぱり色仕掛けをしてるのね。ルナリアは嘘つきだわ!」
やめさせようと、二人に近づこうとした瞬間、ルナリアの手から影が作り出されるのが見えた。
眠るレジェス様に日陰を作る。
「闇を作った? あれは闇の巫女の力だわ!」
ルナリアに見つからないよう物陰に、サッと隠れた。
――やった、やったわ! ルナリアの弱点を手に入れたわ!
忌まわしい闇の巫女。
闇の巫女として、力が目覚めていたなんて知らなかった。
ルナリアが闇の巫女であることを全員の前で言いふらせば、誰もがルナリアを嫌う!
愛されるのは、一番目の姫の私だけでいいのよ。
「みんな、ルナリアが闇の巫女だと知れば、どんな顔をするかしら?」
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