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23 姉の罠
月曜日、午前中に役員会議があり、私一人で仕事をしていると杏美ちゃんが襲来して、私の前に座った。
「どうだったのよ!?吐きなさい!吐くのよ!」
「杏美ちゃん、く、苦しい」
会ったなり、胸倉をつかまれて、ぐらぐらと揺さぶられていた。
「な、なにもないよー!」
涙目になりながら言うと、杏美ちゃんは首を横に振った。
「そんなわけないでしょっっ!一夜をともにしてなにもない!?誰が信じるのよ」
「壱哉さんだよ!?あの壱哉さんがそんなっ」
「は?ドン子はこれだから。お兄様が優しいと思ってんのはあんただけよっっ!」
「またまたぁー」
ぽすぽすっと肩を叩くと、振り払われた。
ひどい。
「優しいだけの人間が尾鷹商事の専務にまでなれるわけないでしょ。しかも、年上の常務を差し置いて」
「ああ……杏美ちゃんの婚約者の」
「今は私の婚約者ってのを忘れなさいよっ!ドン子の話をしてんのっ」
「ご、ごめん」
もー。すぐ怒るんだから。
「でも、本当に何もなくて。壱哉さん、私のペースに合わせてくれるって言ってくれて。本当にカッコいいよねー」
両手を胸の前に組んで乙女ポーズをする私を冷ややかな目で杏美ちゃんは眺めていた。
「ドン子のペースに合わせていたら、いつまでたっても手をつなぐだけで終わりよ」
「ひ、ひどっ!そんなことないよ」
杏美ちゃんはそんな手をつなぐなんて私をバカにしてるけど、実はあの壱哉さんとまさかの―――
「キスで満足してるんじゃないわよ」
私の心を見透かしたのか、真顔で杏美ちゃんに言われた。
まだ何も言ってなかったのに。
微妙な顔をしている私に杏美ちゃんは首を横に振った。
「言ったでしょ!お兄様に残された時間は少ないの!とっとと子供でもなんでも作って、結婚を迫るのよ!」
「こっこどっ……!?何言ってるの!?」
杏美ちゃん、こ、怖すぎだからね……。
「わかったわね?」
「わ、私より、杏美ちゃん。本当に結婚するの?」
「え?」
「杏美ちゃん。その、安島常務のこと好きなの?」
「そんなの考えたことないわ。私に選ぶ権利はないのよ。優秀なお兄様と違って、私が尾鷹の家にできることなんて結婚くらいよ」
「杏美ちゃん」
「私の心配をしてる場合?ドン子はせいぜいお兄様に捨てられないようにがんばりなさい」
杏美ちゃんはまた言いたいことだけ言って、部屋から出て行った。
いなくなると、一人だけの部屋はしーんとしていて、嵐が去った後のようだった。
杏美ちゃんはそれでいいのかな。
別に好きな人がいるんじゃないの?
暗い気持ちになりながら、手元の書類に視線を落とした。
「仕事しよう」
書類を仕分けながら、付箋でどこに持っていくのものなのか、印をつける。
以前に杏美ちゃんが『尾鷹商事はお兄様あっての尾鷹商事』と言ったけれど、その通りで会社の重要な決定のすべては壱哉さんが担っているようなものだった。
だから、書類も多いし、仕事量も他の役員に比べると段違いに多い。
こんな忙しいのに私が秘書でいいのかなって思うくらいだ。
今園室長がフォローしてくれているおかげで手の遅い私でもなんとかやれている。
手土産や季節に送る品物を選んで今園室長に言うだけで手配してくれるし、お礼状の送付リストを作成して渡すとそれをすべて郵送してくれる。
あんな人になりたかったなぁ……。
そしたら、もっと壱哉さんの役に立てるのに。
そんなことを思っていると、スマホの着信音が鳴った。
「水和子お姉ちゃん?」
こんな仕事中になんだろう。
緊急の用事かもしれない。
「もしもし?どうしたの?」
『ちょっと用事があるの。非常階段まできて』
「え!?階段?」
どうして階段?
そう思いながら。水和子お姉ちゃんが会社で私を呼ぶなんて珍しいと思っていた。
「水和子お姉ちゃん?」
階段には誰もいない。
『日奈子は壱哉が好きなの?』
もしかして、壱哉さんが水和子お姉ちゃんに私と付き合っていると言ったのかな。
こんな早く?
色々、思い出していると返事をしないと思ったのか、水和子お姉ちゃんは笑った。
『もういいわ』
会話が終わり、一方的にきられた。
なんだったんだろう。
首を傾げながら、部屋に戻り、また書類整理にとりかかった。
まさか、水和子お姉ちゃんが私を罠にはめてまで、壱哉さん付きの秘書を辞めさせようとしているとは思いもよらず、壱哉さんと恋人になったことに浮かれて、水和子お姉ちゃんからの不自然な電話のことなんてすっかり忘れてしまっていた―――
「どうだったのよ!?吐きなさい!吐くのよ!」
「杏美ちゃん、く、苦しい」
会ったなり、胸倉をつかまれて、ぐらぐらと揺さぶられていた。
「な、なにもないよー!」
涙目になりながら言うと、杏美ちゃんは首を横に振った。
「そんなわけないでしょっっ!一夜をともにしてなにもない!?誰が信じるのよ」
「壱哉さんだよ!?あの壱哉さんがそんなっ」
「は?ドン子はこれだから。お兄様が優しいと思ってんのはあんただけよっっ!」
「またまたぁー」
ぽすぽすっと肩を叩くと、振り払われた。
ひどい。
「優しいだけの人間が尾鷹商事の専務にまでなれるわけないでしょ。しかも、年上の常務を差し置いて」
「ああ……杏美ちゃんの婚約者の」
「今は私の婚約者ってのを忘れなさいよっ!ドン子の話をしてんのっ」
「ご、ごめん」
もー。すぐ怒るんだから。
「でも、本当に何もなくて。壱哉さん、私のペースに合わせてくれるって言ってくれて。本当にカッコいいよねー」
両手を胸の前に組んで乙女ポーズをする私を冷ややかな目で杏美ちゃんは眺めていた。
「ドン子のペースに合わせていたら、いつまでたっても手をつなぐだけで終わりよ」
「ひ、ひどっ!そんなことないよ」
杏美ちゃんはそんな手をつなぐなんて私をバカにしてるけど、実はあの壱哉さんとまさかの―――
「キスで満足してるんじゃないわよ」
私の心を見透かしたのか、真顔で杏美ちゃんに言われた。
まだ何も言ってなかったのに。
微妙な顔をしている私に杏美ちゃんは首を横に振った。
「言ったでしょ!お兄様に残された時間は少ないの!とっとと子供でもなんでも作って、結婚を迫るのよ!」
「こっこどっ……!?何言ってるの!?」
杏美ちゃん、こ、怖すぎだからね……。
「わかったわね?」
「わ、私より、杏美ちゃん。本当に結婚するの?」
「え?」
「杏美ちゃん。その、安島常務のこと好きなの?」
「そんなの考えたことないわ。私に選ぶ権利はないのよ。優秀なお兄様と違って、私が尾鷹の家にできることなんて結婚くらいよ」
「杏美ちゃん」
「私の心配をしてる場合?ドン子はせいぜいお兄様に捨てられないようにがんばりなさい」
杏美ちゃんはまた言いたいことだけ言って、部屋から出て行った。
いなくなると、一人だけの部屋はしーんとしていて、嵐が去った後のようだった。
杏美ちゃんはそれでいいのかな。
別に好きな人がいるんじゃないの?
暗い気持ちになりながら、手元の書類に視線を落とした。
「仕事しよう」
書類を仕分けながら、付箋でどこに持っていくのものなのか、印をつける。
以前に杏美ちゃんが『尾鷹商事はお兄様あっての尾鷹商事』と言ったけれど、その通りで会社の重要な決定のすべては壱哉さんが担っているようなものだった。
だから、書類も多いし、仕事量も他の役員に比べると段違いに多い。
こんな忙しいのに私が秘書でいいのかなって思うくらいだ。
今園室長がフォローしてくれているおかげで手の遅い私でもなんとかやれている。
手土産や季節に送る品物を選んで今園室長に言うだけで手配してくれるし、お礼状の送付リストを作成して渡すとそれをすべて郵送してくれる。
あんな人になりたかったなぁ……。
そしたら、もっと壱哉さんの役に立てるのに。
そんなことを思っていると、スマホの着信音が鳴った。
「水和子お姉ちゃん?」
こんな仕事中になんだろう。
緊急の用事かもしれない。
「もしもし?どうしたの?」
『ちょっと用事があるの。非常階段まできて』
「え!?階段?」
どうして階段?
そう思いながら。水和子お姉ちゃんが会社で私を呼ぶなんて珍しいと思っていた。
「水和子お姉ちゃん?」
階段には誰もいない。
『日奈子は壱哉が好きなの?』
もしかして、壱哉さんが水和子お姉ちゃんに私と付き合っていると言ったのかな。
こんな早く?
色々、思い出していると返事をしないと思ったのか、水和子お姉ちゃんは笑った。
『もういいわ』
会話が終わり、一方的にきられた。
なんだったんだろう。
首を傾げながら、部屋に戻り、また書類整理にとりかかった。
まさか、水和子お姉ちゃんが私を罠にはめてまで、壱哉さん付きの秘書を辞めさせようとしているとは思いもよらず、壱哉さんと恋人になったことに浮かれて、水和子お姉ちゃんからの不自然な電話のことなんてすっかり忘れてしまっていた―――
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