一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍

文字の大きさ
15 / 34

15 大切な妹

しおりを挟む
 ――結婚してしまった。

「ほ、本当に結婚したの? 私っ!」

 朝になり、冷静になった私は、その事実に直面していた。

 ――リセのキスは危険すぎる。ううん、キスだけじゃない。目も指も全部。
 
 思い出しただけで、私を魅了するリセの存在。
 ろくに婚姻届も見ないで、サインして渡してしまった。

 ――その場の勢いもあったけど、それより問題なのは、『リセは私のどこがよかったんだろう』テーマはこれよっ!

 鏡を見ても、特徴らしい特徴のない普通の顔である。 
 こんな普通な私が、リセとキスするなんて、申し訳なさ120パーセント。
 まさかの100パーセント超え。
 リアルな唇の感触を思い出し、鏡の中の自分が、赤くなっているのがわかった。  

 ――それだけじゃない。私ったら、リセに会っただけで、デザイン画を何枚も描いてしまった。

 床に落ちているデザイン画をかき集めた。
 昨日、リセに会ってから、思い浮かんだアイデアの数々。
 一心不乱に描き続け、部屋には大量のデザイン画が散らばっていた。 

「こんな時なのに、私ったら、なにしてるのか……」

 考えるのはデザインじゃなくて、リセとの結婚である。

「そういえば、連絡先に名刺をもらったんだった」

 仕事にいくため、デザイン画をバッグに入れた。
 リセの名刺を一度確認しておこうと思い、名刺入れを探していると、スマホが鳴った。
 スマホ画面には、妹の千歳ちとせが入院している病院の名前が表示されている。

「病院から? まさか千歳になにか……」

 慌てて電話を取った。

『清中です』
『もしもし、清中きよなか琉永るなさんですか?』
「はい、そうです。千歳になにかありましたか!?」
『いいえ。千歳さんは発作もなく、元気ですよ』

 元気と聞いて、ホッと胸をなでおろした。

「あ……、そ、そうですか。よかった」

 ホッとしたのもつかの間――

『先月分のお支払いが、まだなんです。千歳さんのご両親に連絡したのですが、琉永さんに連絡するよう言われてまして……』

 気まずい空気が電話越しからでも伝わってくる。

 ――父はいったいなにを言ったのだろう。もしくは継母が私の悪口を言っていたのか。

 昨日、私が啓雅けいがさんの提示した契約書を拒み、サインをしなかった。
 それもあって、二人の私への怒りは凄まじいものだと想像できた。

「……ご迷惑をおかけしてすみません。出勤前に寄らせていただきます」

 父と継母は、病院の支払いに困った私が、啓雅さんと結婚すると思っているに違いない。

 ――千歳にひどいことはいわない。千歳は私を利用するために必要だから、大事な人質だ。

Fillフィル』の事務所に電話をかけた。

「おはようございます。清中ですけど……」
『おっはよーん!どうしたの?琉永ちゃん!』

 なぜこんな時に紡生つむぎさんが出てしまったのか。
 できたら、恩未めぐみさんがよかった。

「えーと、朝早いですね。恩未さんはいますか?」
『いるけど、今は忙しい!』

 どうして、あなたはヒマなんですかと聞きたかったけど、その言葉を呑み込んだ。

「妹の病院に寄ってから出勤するので遅刻します。遅刻した分は、残業するので、よろしくお願いします」
『いいよ。千歳ちゃん、発作が起きたの?』
「いいえ、その……」

 お金の支払いで呼ばれましたなんて、恥ずかしくて言えなかった。
 私が困っているのがわかったのか、紡生さんはそれ以上、追及しなかった。

『あー、いいよ、いいよ。千歳ちゃんの病院に寄ってあげて。ただし、遅れた分はきっーちり仕事してもらうからね?』
「ありがとうございます」
『いえいえ』

 私が千歳のことで病院へ行くのは、これが初めてではない。
 周りと気まずくならないよう紡生さんは、突然の休みや早退も快く対応してくれる。

 ――家庭の事情も言いたくないってわかってる。だから、私は『Fillフィル』が好きだし、働いていられる。

 優しさに泣きそうになりながら、電話を切り、貴重品が入っている机の引き出しを開けた。
 少ない貯金だけど、あるだけ持っていくしかない。
 今までのアルバイトで貯めたお金は、そんなに多くない。

「足りるといいけど……」

 千歳は心臓が弱く、手術をしたほうがいいと言われているけど、手術費は高額で、働きだしたばかりの私には、とても払えるような額ではなかった。
 父に頼んでも殴られて終わり、継母はそんな私を笑っていた。 

 ――私の学費を出してくれたのは、二年間だけ。それも啓雅さんに借金していたのかもしれない。

 昨日の三千万円という金額を思い出し、背筋が寒くなった。
 そういえば、学費がいらない特待生になった時、父は少しも喜んでくれなかった。
 私を二十歳で結婚させるつもりだったとしたら、あの態度も納得がいく。

「とりあわず、千歳の病院代を払わなきゃ……!」

 電車に乗り、バスに揺られて山の中にある静かな病院に着いた。
 郊外の小さな病院で、交通の便の悪さからか、外来患者は少なかった。
 受付の清算窓口をのぞくと、若い新人の女性事務員が座っていた。
 
「すみません。清中ですが、支払いにきました」
「お支払いですね。少々お待ちください」

 請求書を探し始め、他の人は不在のようで、これはしばらくかかりそうだと思った。

「先に妹に面会してもいいですか? 帰りに寄ります」

 そう答えると事務員の女性は助かったという顔してうなずいた。

 ――千歳に心配させないように、余裕たっぷりな私でいないとね!

 ペチペチ頬を叩き、消毒液の匂いがする廊下を歩いて、エレベーターに乗った。
 二階建てになっていて、病棟は西と東にわかれている。
 千歳が入院している西病棟へ向かった。
 部屋は四人部屋だけど、今は千歳だけで、同じくらいに入院した人たちは、他の病院へ転院していった。
 千歳は何度も同じ病室の子を見送っている。
 冬に大きな発作が起きて入院して以来、担当医の許可が出ず、今のところ退院の目処はたっていない。

「千歳。調子はどう?」

 ベッドを隠すカーテンの隙間から、そっと顔を出した。
 ベッドの上には青白い顔をした千歳が、高校の教科書を開き、課題をこなしていた。

「お姉ちゃん! 来てくれたの? 仕事は?」

 千歳は長い三つ編みを揺らし、笑顔を浮かべて私のほうを見た。
 元気そうな千歳の顔を見て、私も笑顔になった。

「今日は午前中が休みなの」
「本当?」
「本当、本当!」
「それならいいけど……。お姉ちゃんはずっと夢だったデザイナーになったんだから、忙しいでしょう? 私は平気だから、仕事を優先して」

 千歳から、私に迷惑をかけたくないという気持ちが伝わってくる。
 だからこそ、私は今日、病院に呼ばれた理由を絶対口に出せなかった。

「あのね、お姉ちゃん。私、大学受験は諦めようと思っているの」
「どうして!?」
「医学部はお金がかかるでしょう? それにこの体じゃ無理だし……」
「最近、発作もないし、先生は大丈夫って言ってたわよ? お金のことは心配しないで!」

 青白い千歳の手を握った。
 千歳には辛くても生きたいと思えるような夢が必要だ。
 手術だって、夢があるから、受けたいと思ってる。
 お母さんとの記憶がある私より、千歳のほうが辛く、寂しい日々を送ってきた。
 だから、せめて私がお母さんの代わりに、千歳の夢を守りたい。
 生活も――

「千歳は勉強だけじゃなくて、体力をもつけないとね。体力がついたら、手術をして千歳は元気になって大学に通うのよ。ちゃんと準備しておかないと駄目よ」
「でも……」
「大丈夫! 私が有名なデザイナーになって、千歳の手術代も学費も余裕で出せるようになる予定でしょ!」

 千歳に不安を悟られまいと、笑顔を浮かべ、明るく振る舞った。

「じゃあ、千歳。午後から仕事があるから行くわね。勉強、サボらないのよ」
「うん。来てくれてありがとう。お姉ちゃんも仕事、頑張ってね」

 また来るわねと言って、千歳に手を振った。
 そろそろ支払い金額がわかった頃だ。
 私の持っているお金で足りればいいけど……
 千歳には強がってみせた私も、一人になったら心細くて、不安な気持ちを抱え、廊下を歩いた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ワンナイトLOVEからの交際0日結婚❤︎

鳴宮鶉子
恋愛
ワンナイLOVEからの交際0日結婚。社長が相手で溺愛に翻弄されてます。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

ベンチャー社長の元彼のヤンデレが異常過ぎる件

鳴宮鶉子
恋愛
ベンチャー社長の元彼のヤンデレが異常過ぎる件

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

サイコパス社長の執着溺愛は異常です

鳴宮鶉子
恋愛
サイコパス社長の執着溺愛は異常です

何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来
恋愛
【幼馴染×シークレットベビー】 東京に戻ってきた私には、小さな宝物ができていた。

処理中です...