一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍

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26 挑戦

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 無事、秋冬の展示会が終わり、春夏の準備が始まった。
 年末セール、年始の売り出しと、秋から冬にかけて忙しくなってくる。
 
琉永るなちゃんが新婚旅行へ行かなかったのって、忙しかったせいよね?」

 恩未めぐみさんは申し訳なさそうに、私に聞いてきた。

「いえ。妹の手術もありましたし、理世とは落ち着いたら、新婚旅行に行きたいねって話になったんです」

 お互い忙しいのはわかっていた。
 理世は『Fillフィル』の今後の戦略を考え、新しい店舗やショーへの参加など、普段の仕事に加え、それをやっている。
 私は千歳の手術が終わり、様子を見るため、ほとんど毎日、病院に通っていた。
 退院後は私たちの家で過ごす予定だ。

「時期をみて、お休みをいただきます」
「こっちは助かるけど、結婚式もまだでしょ?」
「はい。それも、時間ができたらでいいんです。恋人期間がなかったから、毎日が新鮮ですし、結婚したというより、恋人っていうか……その……すみません」
「うん。ノロケはいいわよ、ノロケは」

 恩未さんの目が冷たいことに気づいて、途中で止めた。
 それは正解だったようだ。

「仕事が忙しいのは、順調ってことだから、悪いことじゃないよ!」

 私と恩未さんの会話を聞いていた紡生つむぎさんが、描いたばかりのデザイン画を眺めながら言った。

「魔王だけあって、『Fillフィル』のブランドイメージを変えて、客層も増やした」

 紡生さんが言うように、理世の手腕は確かだった。
 麻王あさおグループのアパレル部門に入った『Fillフィル』は、着実に売り上げを伸ばしていた。
 百貨店にも展開し、麻王家が懇意にしている人たちに、外商たちがホームウエアとして、『Fillフィル』の商品を勧めている。
Fillフィル』の服は、客層を広げつつ、新たにユニセックスな服を売り出した。
 店舗によって、取り扱い量を変え、ニーズに応じた服を取り揃えることができているのは、麻王グループのアパレル部門に加わったおかげである。
 
「男女兼用ブランドのイメージがついてきて、客層も広がったのはよかったわよね」
「うん。百貨店のお客様は、目が肥えてるし、品質のいいものに敏感だ。普段着として、人気があるのは嬉しいね」

 恩未さんと紡生さんは、経営を麻王グループへ任せることができ、自分たちの仕事に集中しているせいか、大きなショーへ参加を決めたようだ。
 それだけでも、二人が今まで手一杯だったのだとわかる。
 これからは、カジュアルなものだけでなく、フォーマルな服も作っていくようだ。
 スーツが大好きな恩未さんが、大喜びしたことは、言うまでもない。

「スランプだったデザイン画も、最近はたくさん描けちゃうし。いやぁ、魔王さまさまだよ~!」

 いえーいっと紡生さんが栄養ドリンクを片手に持ちながら、ピースをした。
 ノリノリな紡生さんだけど、その背後には――

「これくらいで喜んでもらっては困る」
「ひっ! 魔王!」

 ――理世がいた。

「誰が魔王だ」

 現れた理世の手には、先日、提出したデザイン画があり、採用分とボツにわけられていた。
 デザイン画を事務所の中央にある広いテーブルに置く。

「ぐっ!? ショーのデザイン画が、ほとんどボツになってる……」
「シンプルが悪いとは言わないが、ショーにしては地味に見える」

 理世はボツのデザイン画を並べ、その横に今までのショーで使った『Loreleiローレライ』のデザイン画を置く。

 ――目を引くような華がない。

 全員、同じ気持ちになったようで、それを見て唸った。
 私達はショーを意識するデザインを描くように理世から言われ、何枚も描いたけれど、『Loreleiローレライ』に負けてしまっている。

「『Loreleiローレライ』と同じショーに参加するって、わかってるよな?」

 厳しい理世の言葉だけど、今のままでは、差がついてしまう。
 同じ麻王グループのアパレル部門であり、『Fillフィル』がどんなものを出してくるか、悠世ゆうせいさんだって、期待しているはずだ。

「できがよければ、春夏のショーに数点ねじこむつもりでいたが、今のままだと出せない」

 黙り込んだ紡生さんと恩未さんに、理世は不思議そうな顔をした。

「ん? どうかしたか? もっと自信持てよ。前はもっと不遜で生意気な態度だっただろ?」

 理世の言葉に、紡生さんと恩未さんは強く反発してきた。

「私たちをこき下ろしておいて、よく言うわ!」
「ダメだしとボツの山をくらわせて、そのセリフ。自信を根こそぎ吹き飛ばしてからの無害アピールっ!」
「仕方ないだろう。俺は正直な人間なんだよ」

 理世はため息をついた。

「それで、ショーに参加するのかしないのか、どっちだよ。無理そうなら、春夏は諦める」
「紡生さん。挑戦しますよね?」

 私は学生時代のショーを思い出していた。
 紡生さんだって覚えているはずだ。

「私はショーをやりたいです」
「琉永ちゃん……」

 私がそう言うと、紡生さんは私の手をがしっと握りしめた。

「もちろんだよ! 私たちはあの夕陽に向かって走るんだ!」
「え? 夕陽?」

 夕陽にはまだ早い時間だった。
 紡生さんは私の肩を抱き、すっと壁を指さした。
 もちろん、太陽はない。
 目の前は壁だ。
 行き止まり。
 走れない。

「……のってよ。琉永ちゃん」
「紡生は放置でいいわよ」

 恩未さんは呆れた顔で、紡生さんを見ていた。

「琉永。がんばれよ」
「うん。理世、ありがとう」

 私は微笑み、そして言った。

「デザイン画に集中したいから、理世は先に帰ってね」
「先に!?」
「今すぐ描きたいの」

 理世から離れて、自分の机に戻った。
 ショーに出す服を考え始めると、頭がいっぱいになってドキドキした。
 学生のファッションショーじゃなくて、今度は本格的なファッションショー。
 プロのモデルさんが着て、ランウェイを歩いてくれる。
 それを想像しただけで、わくわくした。

「魔王をしょげさせる琉永ちゃん。琉永ちゃん最強説ここに爆誕」
「妻には弱い魔王」

 そんなふざけたことを言いながら、紡生さんも自分の机に座った。

「琉永。帰りは迎えにくる」

 優しい理世を見つめる。

 ――理世はリセでもある。

 パリで堂々とランウェイを歩くモデルのリセ。

 ――リセに着てもらうなら、どんな服を作る?

 そう考えただけで、真っ白な紙にその姿が浮かんでくるような気がした。
 目を閉じて、リセの姿を思い出す。
 そして、ゆっくりと目を開け、紙の上に鉛筆を走らせた。
 ミニスカートにアンブレラプリーツを入れて、黒のパンツをはく。
 それから、スリット入り黒のロングスカート、ごつめのブーツ。

「こういうのもいいかも」

 袴のようなスカートにすれば、男っぽさがでるし、ふわっとしていてもロングでもいけるかもしれない。
 動きが自由な服。
 時間を忘れて何枚も描いた。
 それこそ夕陽が見えても、外が真っ暗になっても――一人になったことも忘れて。

「琉永」

 私を呼ぶ声がしたけど、眠くて目が開けられなかった。
 描いているうちに眠ってしまったらしい。

「サイン、三日月から満月になったんだな」

 その声は理世だった。
 私は理世に会って、満たされた。
 そう思ったから、満月にサインを変えた。
 欠けたままではおかしい気がして。
 そんなふうに思わせてくれたのは理世なのよ、と目を開けて言いたかったけれど、私の頭をなでる理世の手が心地よくて、また眠ったままでいたかった。

「琉永」

 私の頬に触れる柔らかな唇の感触。
 そのキスで、私の目蓋がわずかに動いたのを理世は見逃さなかった。

「起きているんだろ?」

 私がタヌキ寝入りをしていたことは、すでにお見通しだったようだ。

「……気づいてたの?」
「もちろん。琉永がキスしてほしいこともね」

 そんなこと考えてなかった――と思う。

「家に帰ろう」

 理世がそう言ってくれたことが嬉しくて微笑んだ。
 私は理世の差し出した手をとる。
 
 ――同じ家へ帰るために。
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