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28 呼び出し【理世】
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――乾井のやることだ。
週刊誌のことは、発売前から知っていたが、それは父も同じ。
俺が止めると思ったのだろうが、止めなかったから、父は俺を本邸に呼んだ。
「理世。来たか」
麻王本邸では、週刊誌を手にした父が待ち構えていた。
朝から、不機嫌な声で電話をかけてきた父。
俺を呼んだ理由もわかっていたが、仕事の話だと俺に嘘をついてまで、本邸に足を運ばせるようなことでもないと思っていた。
そして、話す内容は週刊誌のネタ。
――暇なんだな。
思わず、ため息をついてしまった。
「理世。お前らしくない失敗をしたな」
「なにが?」
「これだ。お前も読んだだろう」
リビングのテーブルに週刊紙を放り投げる。
「読んだよ」
「なぜ、対処しなかった」
INUIグループから、なにか嫌がらせを受けるだろうと思っていた。
だから、これは想定内。
「対処する必要がないと判断したからですが?」
「父さん。理世は彼女と結婚したという事実を世間に公表し、イチャイチャ二人で歩いているところを見せつけたかっただけじゃないかな」
「馬鹿者! お前と理世は違うっ!」
なぜか、悠世までいる。
――呼ばれてもいないのに、わざわざ来たのは、父さんをからかうためか?
悠世はソファーに座り、コーヒーを飲む。
母に『これ、どこの豆?』と聞いて、母とコーヒーの話をし、興味もなさそうだ。
コーヒを飲みに来ただけかもしれない。
そう思っていると、悠世から俺に聞いてきた。
「理世。INUIグループから恨みを買いすぎたみたいだね。執念深い男だって聞いてるけど、どうするんだ?」
「適当に相手をするくらいかな。たいした痛手でもないし、騒いでいるのは、麻王家くらいだ」
「ふーん? 『Lorelei』は別にいいけど、『Fill』の新店舗のオープンと重なるタイミングを狙ってやられたなと、俺は思ってたけどね」
『麻王グループ御曹司、モデル〇〇と破局! 次のお相手はデザイナーの〇〇?』
『貧乏な暮らしから一転! 玉の輿狙いか?』
などと書かれた週刊誌を悠世はパラパラとめくる。
記事を読み、悠世が笑っていると、父が激昂した。
「悠世! 笑い事ではない!」
「あー、父さん、落ち着いて。血圧が高いんだから、そんなに怒るとポックリ逝っちゃうよ」
父を一番煽っているのは、悠世なのだが、父の怒りの矛先が分散されてくれて助かった。
スマホを触り、琉永にメッセージを送った。
琉永がこれを見て、傷ついていなければいいが。
メッセージを送り終わると、週刊誌をゴミ箱へ投げ捨てた。
「ご心配なく。この程度のスキャンダルで、俺をどうこうできるとでも?」
「うむ……」
「父さん。まずは冷静になったほうがいい。たかが、INUIグループ程度にうろたえて大騒ぎするほうがおかしい」
麻王グループがみっともなく、慌てる様子を見せたら、喜ぶのは向こうだ。
「そうだな。この件はお前に任せる」
明らかにパワーダウンした声だった。
俺がいないと、麻王グループの経営が成り立たないことをようやく思い出したらしい。
祖父は父と違って、それがわかっているから俺を呼ばない。
INUIグループからの嫌がらせは、祖父にとって蚊に刺された程度。
俺がどう解決するのか高みの見物というところか。
――父の話は終わったようだな。
コーヒーを飲むヒマもなく、ソファーから立ち上がった。
「次の予定があるので、これで」
「理世。お前は女に騙されたわけじゃないよな?」
――週刊誌を熟読し、そんな感想を述べた父は、俺より素直で善良な人間だ。
「俺を騙したというのなら、永遠に騙されていたい。そう思ってるよ」
まあ、ロマンチックと、母がうっとりしていた。
「理世さん。今度、連れていらっしゃいな。理世さんを騙す女性なら、とても素敵な方でしょうから」
「理世を騙せる人間がいるなら、むしろ見てみたい」
父は母と悠世の言葉に納得したらしく、それもそうだなとつぶやいた。
「近いうちに、紹介するよ」
そう言って、リビングを出ると、さりげなく悠世が、俺の後ろを追ってきた。
「理世。待て」
「悠世?」
「今度のショーに『Fill』も出るらしいね」
「兄さんが気にするなんて珍しいな」
「『Lorelei』に比べたら、まだまだだけど、興味はある」
興味を持たれただけでも、『Fill』にとって、大きな意味を持つ。
悠世は自分の興味がないものに対して冷たい。
それは『Lorelei』で働くデザイナーやパタンナー達に対してもそうだった。
それだけ、自分のイメージが決まっているということだろうが、悠世が興味を持ち、気に入る人間を探すのは一苦労だ。
「お前の妻になった清中琉永がどんな服を作るか、楽しみにしているよ」
「プレッシャーをかけるな」
「お前の妻になるからには、父と祖父を納得させるくらいのなにかがないと困る。今はうまく誤魔化せても、数年後、傷つくのは彼女だ」
悠世なりに心配してくれていたようだ。
俺の妻になれば、いずれは麻王グループの社長夫人だ。
「悠世。『Fill』は『Lorelei』に負けないブランドになる。これは誤魔化しでもなんでもない。油断していると、危ないぞ」
「ふーん。理世がそこまで言うなら、俺もこの先が楽しみになってきたな」
「それと、兄さん。清中琉永ではなく、麻王琉永だ」
「こだわるな」
「大事なことだ」
俺の気持ちがわかるのか、悠世は近づいて小声で言った。
「お前に好きな女ができてよかった。俺が麻王グループを継がず、お前に押し付けたことを悪く思ってる。こんな俺でもね」
「悠世でもたまには悪いと思うこともあるんだな」
「まあ、人生に数回くらいね。で、記者会見するんだろう?」
「琉永の件での記者会見じゃない。新事業の報告の場だ」
悠世は残念そうな顔をした。
――なんの期待だよ。
「モデルの姿で会見してもいいんだぞ?」
「するか! 誰のせいで女モデルに変装させられたと思ってるんだ」
「お前もノリノリだったじゃないか」
――悪いが、最初はまったくノリノリではなかった。
俺が『Lorelei』に連れてくるモデルにダメ出ししたのは悠世だ。
けど、今は嫌々やっていたモデルの仕事もありがたく思う。
――琉永が俺を見てくれたのだから。
麻王理世と琉永の接点はない。
それに、琉永がリセほど興味を持ってくれたかどうかも怪しい。
「そうだな。理世とリセで、誘惑して騙したのは、俺のほうだ」
「悪い男だ」
悠世の褒め言葉に、俺は笑い、麻王の本邸を後にした。
善人が麻王グループののトップに立てるわけがない――そうだろう?
週刊誌のことは、発売前から知っていたが、それは父も同じ。
俺が止めると思ったのだろうが、止めなかったから、父は俺を本邸に呼んだ。
「理世。来たか」
麻王本邸では、週刊誌を手にした父が待ち構えていた。
朝から、不機嫌な声で電話をかけてきた父。
俺を呼んだ理由もわかっていたが、仕事の話だと俺に嘘をついてまで、本邸に足を運ばせるようなことでもないと思っていた。
そして、話す内容は週刊誌のネタ。
――暇なんだな。
思わず、ため息をついてしまった。
「理世。お前らしくない失敗をしたな」
「なにが?」
「これだ。お前も読んだだろう」
リビングのテーブルに週刊紙を放り投げる。
「読んだよ」
「なぜ、対処しなかった」
INUIグループから、なにか嫌がらせを受けるだろうと思っていた。
だから、これは想定内。
「対処する必要がないと判断したからですが?」
「父さん。理世は彼女と結婚したという事実を世間に公表し、イチャイチャ二人で歩いているところを見せつけたかっただけじゃないかな」
「馬鹿者! お前と理世は違うっ!」
なぜか、悠世までいる。
――呼ばれてもいないのに、わざわざ来たのは、父さんをからかうためか?
悠世はソファーに座り、コーヒーを飲む。
母に『これ、どこの豆?』と聞いて、母とコーヒーの話をし、興味もなさそうだ。
コーヒを飲みに来ただけかもしれない。
そう思っていると、悠世から俺に聞いてきた。
「理世。INUIグループから恨みを買いすぎたみたいだね。執念深い男だって聞いてるけど、どうするんだ?」
「適当に相手をするくらいかな。たいした痛手でもないし、騒いでいるのは、麻王家くらいだ」
「ふーん? 『Lorelei』は別にいいけど、『Fill』の新店舗のオープンと重なるタイミングを狙ってやられたなと、俺は思ってたけどね」
『麻王グループ御曹司、モデル〇〇と破局! 次のお相手はデザイナーの〇〇?』
『貧乏な暮らしから一転! 玉の輿狙いか?』
などと書かれた週刊誌を悠世はパラパラとめくる。
記事を読み、悠世が笑っていると、父が激昂した。
「悠世! 笑い事ではない!」
「あー、父さん、落ち着いて。血圧が高いんだから、そんなに怒るとポックリ逝っちゃうよ」
父を一番煽っているのは、悠世なのだが、父の怒りの矛先が分散されてくれて助かった。
スマホを触り、琉永にメッセージを送った。
琉永がこれを見て、傷ついていなければいいが。
メッセージを送り終わると、週刊誌をゴミ箱へ投げ捨てた。
「ご心配なく。この程度のスキャンダルで、俺をどうこうできるとでも?」
「うむ……」
「父さん。まずは冷静になったほうがいい。たかが、INUIグループ程度にうろたえて大騒ぎするほうがおかしい」
麻王グループがみっともなく、慌てる様子を見せたら、喜ぶのは向こうだ。
「そうだな。この件はお前に任せる」
明らかにパワーダウンした声だった。
俺がいないと、麻王グループの経営が成り立たないことをようやく思い出したらしい。
祖父は父と違って、それがわかっているから俺を呼ばない。
INUIグループからの嫌がらせは、祖父にとって蚊に刺された程度。
俺がどう解決するのか高みの見物というところか。
――父の話は終わったようだな。
コーヒーを飲むヒマもなく、ソファーから立ち上がった。
「次の予定があるので、これで」
「理世。お前は女に騙されたわけじゃないよな?」
――週刊誌を熟読し、そんな感想を述べた父は、俺より素直で善良な人間だ。
「俺を騙したというのなら、永遠に騙されていたい。そう思ってるよ」
まあ、ロマンチックと、母がうっとりしていた。
「理世さん。今度、連れていらっしゃいな。理世さんを騙す女性なら、とても素敵な方でしょうから」
「理世を騙せる人間がいるなら、むしろ見てみたい」
父は母と悠世の言葉に納得したらしく、それもそうだなとつぶやいた。
「近いうちに、紹介するよ」
そう言って、リビングを出ると、さりげなく悠世が、俺の後ろを追ってきた。
「理世。待て」
「悠世?」
「今度のショーに『Fill』も出るらしいね」
「兄さんが気にするなんて珍しいな」
「『Lorelei』に比べたら、まだまだだけど、興味はある」
興味を持たれただけでも、『Fill』にとって、大きな意味を持つ。
悠世は自分の興味がないものに対して冷たい。
それは『Lorelei』で働くデザイナーやパタンナー達に対してもそうだった。
それだけ、自分のイメージが決まっているということだろうが、悠世が興味を持ち、気に入る人間を探すのは一苦労だ。
「お前の妻になった清中琉永がどんな服を作るか、楽しみにしているよ」
「プレッシャーをかけるな」
「お前の妻になるからには、父と祖父を納得させるくらいのなにかがないと困る。今はうまく誤魔化せても、数年後、傷つくのは彼女だ」
悠世なりに心配してくれていたようだ。
俺の妻になれば、いずれは麻王グループの社長夫人だ。
「悠世。『Fill』は『Lorelei』に負けないブランドになる。これは誤魔化しでもなんでもない。油断していると、危ないぞ」
「ふーん。理世がそこまで言うなら、俺もこの先が楽しみになってきたな」
「それと、兄さん。清中琉永ではなく、麻王琉永だ」
「こだわるな」
「大事なことだ」
俺の気持ちがわかるのか、悠世は近づいて小声で言った。
「お前に好きな女ができてよかった。俺が麻王グループを継がず、お前に押し付けたことを悪く思ってる。こんな俺でもね」
「悠世でもたまには悪いと思うこともあるんだな」
「まあ、人生に数回くらいね。で、記者会見するんだろう?」
「琉永の件での記者会見じゃない。新事業の報告の場だ」
悠世は残念そうな顔をした。
――なんの期待だよ。
「モデルの姿で会見してもいいんだぞ?」
「するか! 誰のせいで女モデルに変装させられたと思ってるんだ」
「お前もノリノリだったじゃないか」
――悪いが、最初はまったくノリノリではなかった。
俺が『Lorelei』に連れてくるモデルにダメ出ししたのは悠世だ。
けど、今は嫌々やっていたモデルの仕事もありがたく思う。
――琉永が俺を見てくれたのだから。
麻王理世と琉永の接点はない。
それに、琉永がリセほど興味を持ってくれたかどうかも怪しい。
「そうだな。理世とリセで、誘惑して騙したのは、俺のほうだ」
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