32 / 34
32 サプライズ
しおりを挟む
「どうなるかと思ったけど、さすがリセだったね~! かんぱーい!」
紡生さんはコーヒーで乾杯をした。
ショーを終えてから、ずっとこの調子である。
すでに何度も見た乾杯に、相方の恩未さんでさえ、ツッコミを入れなくなっていた。
ショーが終わってからの『Fill』は、ますます忙しくなった。
展示会が終わったら、百貨店の初売りに出す福袋を考え、店舗へ打ち合わせにいく。
そして、次は来年の秋冬コレクション――秋冬のデザイン画を提出して、一枚でも多く採用されるのが、私の目標だ。
「来年には、海外に『Fill』の店舗を出すって、信じられないなぁ~」
「さすが麻王グループよね。動きが早いわ」
リセが久しぶりにショーへ出演したこともあり、話題性も高く、ショーの様子は動画にもなって『Fill』の服は、海外の人たちの目にもとまった。
すでに、海外からの注文が入っていることを考えたら、ショーは理世の狙いどおり大成功だったといえる。
最初は『Lorelei』のオマケだったけど、終わってみたら、『Fill』は海外のファッション雑誌にもとりあげられ、家族全員で着るのにサイズ展開をもっと増やしてほしいとか、繊維会社と共同で着心地のいい服を研究しようなど――
「おかげで道が拓けたよね」
紡生さんは鬱屈とした雰囲気はなくなって、明るくさっぱりとした口調で、私たちに言った。
「これからですよ。紡生さん」
「わかってるって。でも、海外の新店舗は琉永ちゃんに任せるからね! 注目されたのは、琉永ちゃんがデザインした服だから、そのセンスに、私は委ねる!」
「ありがとうございます。頑張ります」
海外だけでなく、国内でも新店舗を立ち上げるため、毎日が忙しく、結婚式どころではなくなってしまった。
「新婚なのに悪いわね」
「いえ、そんな。今が大事な時なのは、わかっていますから。それに、理世も落ち着いてから結婚式をやりたいって言ってくれてるので、まだやらなくてもいいかなって」
時間ができてから、二人で式を挙げればいい――そんな風に思っていた。
「大丈夫なわけないでしょ!」
恩未さんはさっきまで真剣に服の縫い目を確認していたのに、バッと顔をあげた。
「結婚式はしなきゃ! っていうか、して!」
「え? でも、今は仕事が楽しくて……」
指で頬を突き刺さされた。
私のぷにぷにした頬を突き刺したのは、ニマニマ笑っている紡生さんだった。
「なにするんですか」
「琉永ちゃん。これを見てもそんなこと言えるかなぁ~?」
「これ?」
最近、紡生さんの机の周りにできたカーテン。
机を取り囲んだカーテンは、試着室くらいの大きさのもので、中の作業がまったく見えない。
演技がかった仕草は、手品の練習をしているのかもと、私に思わせた。
「もしかして、けん玉の次は手品師ですか?」
「違うっ! 今の私はデザイナーだよ」
「紡生さんは前からデザイナーですよ」
「……そうだね。まあ、見て!」
言われるがままにカーテンのそばまで来ると、紡生さんはシャッとカーテンを引いた。
「じゃーん!」
カーテンの中からオートクチュールの白いドレスが現れた。
ただの白いドレスじゃない。
シルバーの刺繍が細かく縫われていて、上半身の首から上にかけて、レースは手縫い。
特にシルバーの刺繍が見事で、まるでシルバーアクセサリーを纏わせたようなドレスになっている。
宝石のような白銀のドレスだった。
「紡生さん。これ……」
「うん。結婚おめでとう!」
事務所内に拍手が起きた。
「こんな立派なドレスをどうして」
「事務所のみんなで作ったんだよ。結婚祝いにね!」
「なお、注文したのは麻生専務よ」
美しいドレスに涙がこぼれた。
ショーですごく忙しかったはずなのに、いつの間にこんなドレスを作っていたのだろうか。
みんなで。このドレスを完成させてくれたことが嬉しかった。
「とびっきりのオートクチュールドレスを作ってくれって頼まれてね」
「あの腹黒専務のことだから、次はオートクチュールコレクションを狙っているんでしょ。『Lorelei』はオートクチュールコレクションに出てるし、いずれは『Fill』もって、考えているのよ」
「まったく腹黒い男だよ!」
紡生さんと恩未さんが両側に立って、私の肩を叩いたその時――
「誰が腹黒だ」
「ぎゃっ!」
紡生さんは、カエルが潰れたみたいな声を出した。
現れた理世を見て、慌てて恩未さんの背中に隠れた。
「ちょっと、紡生! 私を魔王の生け贄にするつもり!?」
ぎゃっーと二人は争いながら、理世の前にお互いの体を押し合っていた。
「俺からのサプライズにするつもりだったのに、勝手に見せるなよ」
「流れだよ。な・が・れ!」
「そうそう。琉永ちゃんが結婚式をしないって言い出したから」
理世が私を見る。
「そうなのか?」
「私も理世も仕事が忙しいから、まだまだ先でもいいかなって」
「忙しくても、俺たちの結婚式は必ずやる」
「うん。結婚式の時。理世が着る衣装は、私がデザインしてもいい?」
「いいぞ。ただし、リセのほうでないならな」
理世にとって、一番のライバルはリセ。
私がリセの姿も好きなことに気づいている。
「もちろん。タキシードでね。理世。素敵なドレスをありがとう。すごく嬉しい」
「気に入ったならよかった」
「ずっと飾っておきたいくらい」
「うん? 飾る?」
「首から肩にかけての刺繍なんて職人技だし、それに美しい縫製! 私、このウェディングドレスを見て、もっと勉強するわ!」
「そうじゃない! 結婚式だろ?」
はっと私は我に返った。
つい、ドレスの素晴らしさに気を取られてしまった。
「今年の秋に結婚式をしようと思っている。琉永が俺の妻だとわからせてやらないといけないからな」
「え、ええー……?」
「本当なら、今すぐにでもやりたいくらいだ」
――なんだか言い方が、ものすごく不穏だったけど、私の気のせいよね?
いったい誰にわからせるといいうのだろうか。
「大丈夫! こんな立派なドレス着たら、琉永ちゃんのことを誰もけなしたりできないよ」
「そうよ。当日は私も一緒に行って、体にばっちり合わせあげる」
紡生さんと恩未さんがいるなら百人力――なんて言いたかったけど、騒がない紡生さんなんて想像できない。
「結婚式が終わったら、新婚旅行にも行く予定だ」
「新婚旅行も!? だから、最近、残業ばかりしていたの?」
理世は笑っていた。
いつもより忙しそうだって思っていたけど、新婚旅行のためだったなんて知らなかった。
本当に理世は、私をびっくりさせるのがうまい。
「新婚旅行もお楽しみに。そうだな。新婚旅行先は飛行機に乗るまで内緒にしておこう」
「教えてくれないの!?」
「秘密」
次はいったいなにをするというのだろう。
不安そうにしている私の唇に、理世は指をあて、秘密だよと言って、なにも教えてくれなかった。
紡生さんはコーヒーで乾杯をした。
ショーを終えてから、ずっとこの調子である。
すでに何度も見た乾杯に、相方の恩未さんでさえ、ツッコミを入れなくなっていた。
ショーが終わってからの『Fill』は、ますます忙しくなった。
展示会が終わったら、百貨店の初売りに出す福袋を考え、店舗へ打ち合わせにいく。
そして、次は来年の秋冬コレクション――秋冬のデザイン画を提出して、一枚でも多く採用されるのが、私の目標だ。
「来年には、海外に『Fill』の店舗を出すって、信じられないなぁ~」
「さすが麻王グループよね。動きが早いわ」
リセが久しぶりにショーへ出演したこともあり、話題性も高く、ショーの様子は動画にもなって『Fill』の服は、海外の人たちの目にもとまった。
すでに、海外からの注文が入っていることを考えたら、ショーは理世の狙いどおり大成功だったといえる。
最初は『Lorelei』のオマケだったけど、終わってみたら、『Fill』は海外のファッション雑誌にもとりあげられ、家族全員で着るのにサイズ展開をもっと増やしてほしいとか、繊維会社と共同で着心地のいい服を研究しようなど――
「おかげで道が拓けたよね」
紡生さんは鬱屈とした雰囲気はなくなって、明るくさっぱりとした口調で、私たちに言った。
「これからですよ。紡生さん」
「わかってるって。でも、海外の新店舗は琉永ちゃんに任せるからね! 注目されたのは、琉永ちゃんがデザインした服だから、そのセンスに、私は委ねる!」
「ありがとうございます。頑張ります」
海外だけでなく、国内でも新店舗を立ち上げるため、毎日が忙しく、結婚式どころではなくなってしまった。
「新婚なのに悪いわね」
「いえ、そんな。今が大事な時なのは、わかっていますから。それに、理世も落ち着いてから結婚式をやりたいって言ってくれてるので、まだやらなくてもいいかなって」
時間ができてから、二人で式を挙げればいい――そんな風に思っていた。
「大丈夫なわけないでしょ!」
恩未さんはさっきまで真剣に服の縫い目を確認していたのに、バッと顔をあげた。
「結婚式はしなきゃ! っていうか、して!」
「え? でも、今は仕事が楽しくて……」
指で頬を突き刺さされた。
私のぷにぷにした頬を突き刺したのは、ニマニマ笑っている紡生さんだった。
「なにするんですか」
「琉永ちゃん。これを見てもそんなこと言えるかなぁ~?」
「これ?」
最近、紡生さんの机の周りにできたカーテン。
机を取り囲んだカーテンは、試着室くらいの大きさのもので、中の作業がまったく見えない。
演技がかった仕草は、手品の練習をしているのかもと、私に思わせた。
「もしかして、けん玉の次は手品師ですか?」
「違うっ! 今の私はデザイナーだよ」
「紡生さんは前からデザイナーですよ」
「……そうだね。まあ、見て!」
言われるがままにカーテンのそばまで来ると、紡生さんはシャッとカーテンを引いた。
「じゃーん!」
カーテンの中からオートクチュールの白いドレスが現れた。
ただの白いドレスじゃない。
シルバーの刺繍が細かく縫われていて、上半身の首から上にかけて、レースは手縫い。
特にシルバーの刺繍が見事で、まるでシルバーアクセサリーを纏わせたようなドレスになっている。
宝石のような白銀のドレスだった。
「紡生さん。これ……」
「うん。結婚おめでとう!」
事務所内に拍手が起きた。
「こんな立派なドレスをどうして」
「事務所のみんなで作ったんだよ。結婚祝いにね!」
「なお、注文したのは麻生専務よ」
美しいドレスに涙がこぼれた。
ショーですごく忙しかったはずなのに、いつの間にこんなドレスを作っていたのだろうか。
みんなで。このドレスを完成させてくれたことが嬉しかった。
「とびっきりのオートクチュールドレスを作ってくれって頼まれてね」
「あの腹黒専務のことだから、次はオートクチュールコレクションを狙っているんでしょ。『Lorelei』はオートクチュールコレクションに出てるし、いずれは『Fill』もって、考えているのよ」
「まったく腹黒い男だよ!」
紡生さんと恩未さんが両側に立って、私の肩を叩いたその時――
「誰が腹黒だ」
「ぎゃっ!」
紡生さんは、カエルが潰れたみたいな声を出した。
現れた理世を見て、慌てて恩未さんの背中に隠れた。
「ちょっと、紡生! 私を魔王の生け贄にするつもり!?」
ぎゃっーと二人は争いながら、理世の前にお互いの体を押し合っていた。
「俺からのサプライズにするつもりだったのに、勝手に見せるなよ」
「流れだよ。な・が・れ!」
「そうそう。琉永ちゃんが結婚式をしないって言い出したから」
理世が私を見る。
「そうなのか?」
「私も理世も仕事が忙しいから、まだまだ先でもいいかなって」
「忙しくても、俺たちの結婚式は必ずやる」
「うん。結婚式の時。理世が着る衣装は、私がデザインしてもいい?」
「いいぞ。ただし、リセのほうでないならな」
理世にとって、一番のライバルはリセ。
私がリセの姿も好きなことに気づいている。
「もちろん。タキシードでね。理世。素敵なドレスをありがとう。すごく嬉しい」
「気に入ったならよかった」
「ずっと飾っておきたいくらい」
「うん? 飾る?」
「首から肩にかけての刺繍なんて職人技だし、それに美しい縫製! 私、このウェディングドレスを見て、もっと勉強するわ!」
「そうじゃない! 結婚式だろ?」
はっと私は我に返った。
つい、ドレスの素晴らしさに気を取られてしまった。
「今年の秋に結婚式をしようと思っている。琉永が俺の妻だとわからせてやらないといけないからな」
「え、ええー……?」
「本当なら、今すぐにでもやりたいくらいだ」
――なんだか言い方が、ものすごく不穏だったけど、私の気のせいよね?
いったい誰にわからせるといいうのだろうか。
「大丈夫! こんな立派なドレス着たら、琉永ちゃんのことを誰もけなしたりできないよ」
「そうよ。当日は私も一緒に行って、体にばっちり合わせあげる」
紡生さんと恩未さんがいるなら百人力――なんて言いたかったけど、騒がない紡生さんなんて想像できない。
「結婚式が終わったら、新婚旅行にも行く予定だ」
「新婚旅行も!? だから、最近、残業ばかりしていたの?」
理世は笑っていた。
いつもより忙しそうだって思っていたけど、新婚旅行のためだったなんて知らなかった。
本当に理世は、私をびっくりさせるのがうまい。
「新婚旅行もお楽しみに。そうだな。新婚旅行先は飛行機に乗るまで内緒にしておこう」
「教えてくれないの!?」
「秘密」
次はいったいなにをするというのだろう。
不安そうにしている私の唇に、理世は指をあて、秘密だよと言って、なにも教えてくれなかった。
34
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる
ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。
だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。
あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは……
幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!?
これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。
※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。
「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる