21 / 34
21 私、結婚しました
しおりを挟む
冷たいと罵られ、戸惑う私を啓雅さんは追い詰めていく。
すかさず、スマホを取り出し、啓雅さんは『清中繊維』の番号を見せた。
「今頃、INUIグループから契約を切られ、冷たい娘を持ったと、恨んでいることだろう。親子の縁を切られたくなかったら、俺に謝罪したほうがいいぞ。今までの非礼を詫びて、これからは俺の言う通りに生きるというなら、赦してやる」
啓雅さんがそう言った瞬間、事務所のドアが開いた。
入口に立っていた啓雅さんの背中にドアがぶつかり、前のめりになった。
「おい。入口をふさぐな……って、なんだ。乾井のバカ息子が来てたのか。こんなところに立って、なにをしてるんだ?」
「誰がバカ息子だ!」
抗議した啓雅さんを無視して、事務所内に入ってきたのは理世だった。
理世が現れたことで、ギスギスしていた空気が和らいだ。
「理世……」
「琉永、どうした? なにがあった?」
泣きそうな私の顔に気づいて、理世は啓雅さんをにらんだ。
「なにを言ったのか、だいたい想像がつく。早朝なら、俺が現れないと思って、ここへ来たか」
「そ、それは……」
正解だったらしく、啓雅さんから、さっきまでの余裕がなくなった。
理世はスーツ姿で、リセの時とは違う迫力がある。
笑っただけで相手を圧倒するのは、理世だからこそできることだ。
「琉永、おはよう」
「お、おはよう?」
――さわやかな挨拶を交わしている場合じゃないと思うけど。
その笑顔は、朝に相応しいさわやかな笑顔だった。
さわやかな理世に『Fill』のみんながざわめいた。
「いやいや、さすがに差別がすぎるだろ」
「二人の世界で、俺たちまで眼中にない。乾井さんが気の毒になっちゃうよ」
私のそばに立った理世は、額に軽いキスを落とす。
映画のワンシーンみたいに、さりげなくて、かっこいい。
「朝の挨拶」
理世に見惚れている人たちと違って、啓雅さんは怒りだした。
「ふ、不貞か! 婚約者の不貞だぞ! 慰謝料を要求してやる!」
「なにを言ってるんだ? 琉永は俺の妻だ。朝のキスくらい当たり前だろ?」
「妻!?」
「私、理世と結婚しました」
そういえば、父に連絡していなかったことを思い出した。
引っ越しが済まないと、父と継母がアパートに怒鳴り込んでくるかもしれないと危惧したためだ。
「結婚したとは、どういうことだ?」
「籍をいれたので、私はもう清中じゃないんです。麻王琉永になりました」
「は?まさかお前が麻王グループの専務の妻ってことか?」
「え、ええ……まあ」
ちゃんと婚姻届けを見ていなかったのと、理世が専務だと知らなかった私は、ちょっと気まずい。
「そんなおかしいことがあってたまるか!」
「おかしい? なにが?」
怒りで顔を真っ赤にした啓雅さんに対して、理世は冷静だった。
「お見合いしただけで結婚? それも金をチラつかせ、脅迫まがいに結婚を要求していたところを俺は目撃している。レストランのスタッフが証人になってくれるだろう」
「麻王め……」
「呼び捨て? ああ、もしかして、麻王グループにINUIグループが宣戦布告とか?」
「いや、それはっ……」
さっきまで強気だった啓雅さんは、麻王グループの名前を聞いて勢いがなくなった。
青い顔をして、動きも挙動不審になり、理世から視線を逸らし、私を見て言った。
「覚えてろ。俺に恥をかかせたこと、後悔させてやるからな!」
啓雅さんはバッと背を向けて、逃げるようにして出ていった。
「うっわ、執念深そう」
「あの手の男はめんどうよ」
紡生さんと恩未さんは、やれやれとため息をついた。
「琉永ちゃん。心配しなくていいと思うよ。大魔王がいるし」
「そうそう。味方でいる限りは、心強くて頼りになる旦那(大魔王)がね!」
「え? は、はあ……」
――なんだろう。この空気。
みんなに『頑張って』というように、ぽんっと肩を叩かれたけど……?
「なんか腹立つな。まあ、いい。デザイン画はできているんだろうな?」
啓雅さんのこともあったけど、理世はデザイン画を見るために、出勤前に寄ってくれたのだと思う。
本気で理世は『Fill』を『Lorelei』と並ぶブランドにしようとしている。
それが伝わってきて、全員の顔つきが変わる。
「これです」
恩未さんが集めたデザイン画を理世に手渡す。
「ここから数点、すぐに商品化する。INUIグループが既存の商品を模倣して大量生産してくるだろうから、こっちはそれより前に、新しい服を出す」
「けど、そんなお金はまだ……」
恩未さんが言うと、理世が契約書を取り出した。
「麻王グループ傘下に入れば、麻王の力を使える」
「でも、理世。先輩たちは……」
ぽんっと私の肩を紡生さんが叩いた。
「気にしないでいいよ。琉永ちゃん。今、『Fill』は分岐点にいる。『Lorelei』のように世界的なブランドになるか、ファストファッションのINUIグループに負け、潰れるか」
いつもはふざけている紡生さんが真面目な顔をしていた。
順調に見えた『Fill』だけど、トップに立つ紡生さんは、この先を考え、ずっと迷っていたのだと知った。
目指す場所があっても、今の『Fill』では難しいと悟って――
「『Fill』らしい服を作り続けたいというのなら、道はたった一つ。世界に出るしかない」
「選ぶまでもないよ。私たちはもっと上にいく。このまま、おとなしく潰される気はないからね!」
誰一人として、INUIグループに加わる気はなく、『Fill』を守りたいと思う気持ちは、全員同じ。
今、『Fill』は今後を左右する大きな分岐点に立っている。
すかさず、スマホを取り出し、啓雅さんは『清中繊維』の番号を見せた。
「今頃、INUIグループから契約を切られ、冷たい娘を持ったと、恨んでいることだろう。親子の縁を切られたくなかったら、俺に謝罪したほうがいいぞ。今までの非礼を詫びて、これからは俺の言う通りに生きるというなら、赦してやる」
啓雅さんがそう言った瞬間、事務所のドアが開いた。
入口に立っていた啓雅さんの背中にドアがぶつかり、前のめりになった。
「おい。入口をふさぐな……って、なんだ。乾井のバカ息子が来てたのか。こんなところに立って、なにをしてるんだ?」
「誰がバカ息子だ!」
抗議した啓雅さんを無視して、事務所内に入ってきたのは理世だった。
理世が現れたことで、ギスギスしていた空気が和らいだ。
「理世……」
「琉永、どうした? なにがあった?」
泣きそうな私の顔に気づいて、理世は啓雅さんをにらんだ。
「なにを言ったのか、だいたい想像がつく。早朝なら、俺が現れないと思って、ここへ来たか」
「そ、それは……」
正解だったらしく、啓雅さんから、さっきまでの余裕がなくなった。
理世はスーツ姿で、リセの時とは違う迫力がある。
笑っただけで相手を圧倒するのは、理世だからこそできることだ。
「琉永、おはよう」
「お、おはよう?」
――さわやかな挨拶を交わしている場合じゃないと思うけど。
その笑顔は、朝に相応しいさわやかな笑顔だった。
さわやかな理世に『Fill』のみんながざわめいた。
「いやいや、さすがに差別がすぎるだろ」
「二人の世界で、俺たちまで眼中にない。乾井さんが気の毒になっちゃうよ」
私のそばに立った理世は、額に軽いキスを落とす。
映画のワンシーンみたいに、さりげなくて、かっこいい。
「朝の挨拶」
理世に見惚れている人たちと違って、啓雅さんは怒りだした。
「ふ、不貞か! 婚約者の不貞だぞ! 慰謝料を要求してやる!」
「なにを言ってるんだ? 琉永は俺の妻だ。朝のキスくらい当たり前だろ?」
「妻!?」
「私、理世と結婚しました」
そういえば、父に連絡していなかったことを思い出した。
引っ越しが済まないと、父と継母がアパートに怒鳴り込んでくるかもしれないと危惧したためだ。
「結婚したとは、どういうことだ?」
「籍をいれたので、私はもう清中じゃないんです。麻王琉永になりました」
「は?まさかお前が麻王グループの専務の妻ってことか?」
「え、ええ……まあ」
ちゃんと婚姻届けを見ていなかったのと、理世が専務だと知らなかった私は、ちょっと気まずい。
「そんなおかしいことがあってたまるか!」
「おかしい? なにが?」
怒りで顔を真っ赤にした啓雅さんに対して、理世は冷静だった。
「お見合いしただけで結婚? それも金をチラつかせ、脅迫まがいに結婚を要求していたところを俺は目撃している。レストランのスタッフが証人になってくれるだろう」
「麻王め……」
「呼び捨て? ああ、もしかして、麻王グループにINUIグループが宣戦布告とか?」
「いや、それはっ……」
さっきまで強気だった啓雅さんは、麻王グループの名前を聞いて勢いがなくなった。
青い顔をして、動きも挙動不審になり、理世から視線を逸らし、私を見て言った。
「覚えてろ。俺に恥をかかせたこと、後悔させてやるからな!」
啓雅さんはバッと背を向けて、逃げるようにして出ていった。
「うっわ、執念深そう」
「あの手の男はめんどうよ」
紡生さんと恩未さんは、やれやれとため息をついた。
「琉永ちゃん。心配しなくていいと思うよ。大魔王がいるし」
「そうそう。味方でいる限りは、心強くて頼りになる旦那(大魔王)がね!」
「え? は、はあ……」
――なんだろう。この空気。
みんなに『頑張って』というように、ぽんっと肩を叩かれたけど……?
「なんか腹立つな。まあ、いい。デザイン画はできているんだろうな?」
啓雅さんのこともあったけど、理世はデザイン画を見るために、出勤前に寄ってくれたのだと思う。
本気で理世は『Fill』を『Lorelei』と並ぶブランドにしようとしている。
それが伝わってきて、全員の顔つきが変わる。
「これです」
恩未さんが集めたデザイン画を理世に手渡す。
「ここから数点、すぐに商品化する。INUIグループが既存の商品を模倣して大量生産してくるだろうから、こっちはそれより前に、新しい服を出す」
「けど、そんなお金はまだ……」
恩未さんが言うと、理世が契約書を取り出した。
「麻王グループ傘下に入れば、麻王の力を使える」
「でも、理世。先輩たちは……」
ぽんっと私の肩を紡生さんが叩いた。
「気にしないでいいよ。琉永ちゃん。今、『Fill』は分岐点にいる。『Lorelei』のように世界的なブランドになるか、ファストファッションのINUIグループに負け、潰れるか」
いつもはふざけている紡生さんが真面目な顔をしていた。
順調に見えた『Fill』だけど、トップに立つ紡生さんは、この先を考え、ずっと迷っていたのだと知った。
目指す場所があっても、今の『Fill』では難しいと悟って――
「『Fill』らしい服を作り続けたいというのなら、道はたった一つ。世界に出るしかない」
「選ぶまでもないよ。私たちはもっと上にいく。このまま、おとなしく潰される気はないからね!」
誰一人として、INUIグループに加わる気はなく、『Fill』を守りたいと思う気持ちは、全員同じ。
今、『Fill』は今後を左右する大きな分岐点に立っている。
23
あなたにおすすめの小説
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」
上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。
御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。
清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。
……しかし。
清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。
それは。
大家族のド貧乏!
上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。
おっとりして頼りにならない義母。
そして父は常に行方不明。
そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。
とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。
子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。
しかも貧乏バラすと言われたら断れない。
どうなる、清子!?
河守清子
かわもりさやこ 25歳
LCCチェリーエアライン 社長付秘書
清楚なお嬢様風な見た目
会社でもそんな感じで振る舞っている
努力家で頑張り屋
自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている
甘えベタ
×
御子神彪夏
みこがみひゅうが 33歳
LCCチェリーエアライン 社長
日本二大航空会社桜花航空社長の息子
軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート
黒メタルツーポイント眼鏡
細身のイケメン
物腰が柔らかく好青年
実際は俺様
気に入った人間はとにかくかまい倒す
清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!?
※河守家※
父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない
母 真由 のんびり屋
長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味
次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標
三男 真(小五・10歳)サッカー少年
四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き
次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる