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9 飲み会
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「佐藤君、こなくなったわね」
住吉さんが残念そうに言った。
夏向のおかげでミツバ電機のセキュリティは万全だった。
夏向の腕を間近で見た社長は時任グループのセキュリティサービスと契約した。
頑張っていたのに佐藤君は営業先を一つ失ってしまった。
大人気ない夏向のせいで。
「従兄は元気なの?」
「はあ、まあ」
「なに?その返事」
なんか、最近おかしいんだよね。
寂しいのか、ひっついてくるし。
距離が近いっていうか。
それとも私が夏向のことを意識しすぎなの!?
いやいや、まさか!
「ちょっと島田さん。赤くなったり、青くなったりしているけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
炊飯器の炊き上がりのデータを紙に書いた。
「前から思っていたけど、島田さんがパソコンに打ち込まないで、全部紙で保管して連絡はメールじゃなく、FAXなのって従兄のせい?」
「気づきました?」
はあ、と溜め息をついた。
「安心できないんです」
「あんなすごい従兄がいたら、仕方ないかもね。時任の副社長なら、就活の時に口を聞いてもらって、時任グループに入社すればよかったんじゃないの?」
「いえ。私は炊飯器を作りたかったので。それで大学も工学部に入ったんです」
思わず、開発中の炊飯器に頬ずりした。
それを見た住吉さんにドン引きされたけど、仕方ない。
自分が開発中の炊飯器だよ?
もう我が子同然!
母親のような気持ちだよ。
「大手だとなかなか難しいじゃないですか。すぐに関わらせてもらえないし。でも、そんな中でもミツバ電機の社長だけが、承諾してくれて」
「そんなに炊飯器が好きなの?」
「好きというか。昔、なかなか新しい炊飯器を買ってもらえなくて、ようやく買ってもらえた新しい炊飯器でご飯を炊いた時、すっごくおいしかったんです。同じお米なのに!」
「貧乏なうちの子なの?」
「あー、まあ、そんなかんじです」
「そっか。でも、そういう感動はいいわよね。わかるわ」
「ですよね!」
「感動してもらえる物を作れたら、最高よね」
そんなことを住吉さんと話していると、住吉さんのスマホの着信音が鳴った。
「佐藤くんから!」
「住吉さん、仕事中ですよ」
「こんなチャンス、めったにないわよっ」
えええっ!
さっきまでのいい話が台無しなんですけど。
「もしもしっ、えっ!?飲み会?今日?聞いてみますね」
住吉さんはにやにやと笑いながら、私に小さい声で耳打ちした。
「佐藤君がお花見を兼ねて、お食事をどうですかって。空いてる?」
「今日は空いています」
夏向が仕事の集まりで夕飯をいらないと言っていたのを思いだした。
たまには私も夏向と離れないとね。
「島田さんも行きまーす。場所と時間、メモしますねー」
あのトースター事件以来、元気がなかった住吉さんが嬉しそうに笑っているのを見て、ホッとした。
会社を辞めてしまうんじゃないかと思っていたから、心配だったのだ―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
佐藤君が選んだのは桜の花が見える素敵なイタリアンレストランで飲み物の種類も多く、店内にピザ窯があり、ピザ職人がかっこよくピザを出したり、生地を伸ばしたりなどのダイナミックな実演を見ることができる面白いお店った。
窓の外は青くライトアップされた桜が散り始めて、コンクリートの地面を花びらが埋めていた。
もう桜の季節は終わりに近づいていた。
散り際が一番、綺麗だと私は思う―――食事をしながら、それを眺めることが出来るなんて贅沢だよね。
さすが、営業の人はいいお店を知ってる。
「島田さんは時任の副社長といとこ同士なんだって?」
「はい」
いとこじゃないけど、説明がめんどうだったので、そういうことにしておいた。
佐藤君の先輩は四人もいて、佐藤君を含めると五人。
こっちは二人。
人数は合わせるべきだったわよね。
今さら、遅いけど。
夏向達と同じようなネットサービスの仕事をしているらしいけど、雰囲気がまったく違っていた。
全員、華やかな感じでスーツもイタリア製のものを着て、靴も高級そうな皮靴だし、時計も高そう。
もしかして、ロレックス?
見ただけじゃ、ブランド名まで、わからないけど、物がいいのはみてとれた。
住吉さんは楽しそうに話してるけど、私としてはこんな華やかな人達と一緒に食事をするとは思っていなかったから、地味で安いスーツを着ていた。
そんな私と食事なんて申し訳ない気持ちになる。
「時任のさ、副社長って普段はどんなかんじなのかな」
一番偉そうな人が話しかけてきた。
「ずっと寝てますね」
「勉強したりとか」
「勤勉な姿をみたことがないです」
「なにか特別なことって」
「甘党なこと……?」
あの大量にとる糖分は真似できない。(したくないけど)
生活している姿は面倒臭がりでだらしないから、特別どころか、普通より悪いかも。
ぱりぱりの生地に新鮮なトマトとバジル、チーズがのったピザが出てきて、パパッとタバスコをかけた。
私は辛いものも本当は好きなんだよね。
普段は夏向に合わせてカレーも甘口にしているから、今こそ辛いものを食べたい。
「島田さんの名前ってなんていうの?」
「桜帆です、桜の花の桜に船の帆の帆ですね」
「へえー。じゃあ、今頃が誕生日?」
「いいえ。誕生日は春じゃないです」
「そうなんだ。冬生まれなのに桜の字を使うなんて変わってるね」
「彼氏はいるの?この中で好みの人いない?」
「はあ」
ピザを食べながら、曖昧に返事をした。
そもそも、名前も覚えてない。
気がつくと佐藤君しかわからなかった。
「じゃあさ――」
「あれっー!?桜帆ちゃん?どうしてここに?」
隣の予約席になっていたテーブルにやってきたのは時任の重役グループと秘書室の女の子達だった。
この間、お茶をだしてくれた須山さんもいた。
秘書室の女の子達は可愛くて、メイクも上手でキラキラしている。
これが大企業の秘書達の姿……。
毎日、作業服の私には、無縁だけどね。
「皆さん、奇遇ですね。会社の飲み会なんです」
専務の真辺さん、常務の倉本さんに続き、後ろから他の三人が店に入ってくる。
引きずるようにして、メカニック担当で参与の宮北さんが夏向を連れ、逃げないように本部長の備中さんが退路を塞いでいた。
なんの戦いよ。
あのぼんやりして、眠そうな顔をしているのは紛れもなく夏向だ―――気まずくて目を逸らし、真辺さん達を見た。
「俺達は今日、秘書室と親睦会なんだよっ」
住吉さんがガッと私の肩を掴んだ。
「ちょっと!島田さん、このメンバーやばすぎない!?」
「な、なにが?」
「だって、あの時任グループの重役でしょ?雲の上のような人達じゃない!」
「そうね…」
身近すぎて、そのすごさを理解していなかったかもしれない。
世間一般では確かに雲の上の人なのかも。
夏向のせいでイメージダウンしていることは否めない。
「どうせなら、一緒に飲みませんか?」
住吉さんの言葉に須山さんの隣にいた女の人が顔色を変えて、さっと口を挟んだ。
「ごめんなさい。今日は時任グループの会社の集まりなのでご遠慮させて頂けますか?」
「あ、そ、そう」
「またの機会にね」
にこっと真辺さんが微笑むと空気が和らいだ。
さすが、重役メンバーの緩和剤。
和ませるの上手だなぁ。
それに比べて、夏向はなぜか、こっちを睨んでいたのだった―――なんでよっ!?
住吉さんが残念そうに言った。
夏向のおかげでミツバ電機のセキュリティは万全だった。
夏向の腕を間近で見た社長は時任グループのセキュリティサービスと契約した。
頑張っていたのに佐藤君は営業先を一つ失ってしまった。
大人気ない夏向のせいで。
「従兄は元気なの?」
「はあ、まあ」
「なに?その返事」
なんか、最近おかしいんだよね。
寂しいのか、ひっついてくるし。
距離が近いっていうか。
それとも私が夏向のことを意識しすぎなの!?
いやいや、まさか!
「ちょっと島田さん。赤くなったり、青くなったりしているけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
炊飯器の炊き上がりのデータを紙に書いた。
「前から思っていたけど、島田さんがパソコンに打ち込まないで、全部紙で保管して連絡はメールじゃなく、FAXなのって従兄のせい?」
「気づきました?」
はあ、と溜め息をついた。
「安心できないんです」
「あんなすごい従兄がいたら、仕方ないかもね。時任の副社長なら、就活の時に口を聞いてもらって、時任グループに入社すればよかったんじゃないの?」
「いえ。私は炊飯器を作りたかったので。それで大学も工学部に入ったんです」
思わず、開発中の炊飯器に頬ずりした。
それを見た住吉さんにドン引きされたけど、仕方ない。
自分が開発中の炊飯器だよ?
もう我が子同然!
母親のような気持ちだよ。
「大手だとなかなか難しいじゃないですか。すぐに関わらせてもらえないし。でも、そんな中でもミツバ電機の社長だけが、承諾してくれて」
「そんなに炊飯器が好きなの?」
「好きというか。昔、なかなか新しい炊飯器を買ってもらえなくて、ようやく買ってもらえた新しい炊飯器でご飯を炊いた時、すっごくおいしかったんです。同じお米なのに!」
「貧乏なうちの子なの?」
「あー、まあ、そんなかんじです」
「そっか。でも、そういう感動はいいわよね。わかるわ」
「ですよね!」
「感動してもらえる物を作れたら、最高よね」
そんなことを住吉さんと話していると、住吉さんのスマホの着信音が鳴った。
「佐藤くんから!」
「住吉さん、仕事中ですよ」
「こんなチャンス、めったにないわよっ」
えええっ!
さっきまでのいい話が台無しなんですけど。
「もしもしっ、えっ!?飲み会?今日?聞いてみますね」
住吉さんはにやにやと笑いながら、私に小さい声で耳打ちした。
「佐藤君がお花見を兼ねて、お食事をどうですかって。空いてる?」
「今日は空いています」
夏向が仕事の集まりで夕飯をいらないと言っていたのを思いだした。
たまには私も夏向と離れないとね。
「島田さんも行きまーす。場所と時間、メモしますねー」
あのトースター事件以来、元気がなかった住吉さんが嬉しそうに笑っているのを見て、ホッとした。
会社を辞めてしまうんじゃないかと思っていたから、心配だったのだ―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
佐藤君が選んだのは桜の花が見える素敵なイタリアンレストランで飲み物の種類も多く、店内にピザ窯があり、ピザ職人がかっこよくピザを出したり、生地を伸ばしたりなどのダイナミックな実演を見ることができる面白いお店った。
窓の外は青くライトアップされた桜が散り始めて、コンクリートの地面を花びらが埋めていた。
もう桜の季節は終わりに近づいていた。
散り際が一番、綺麗だと私は思う―――食事をしながら、それを眺めることが出来るなんて贅沢だよね。
さすが、営業の人はいいお店を知ってる。
「島田さんは時任の副社長といとこ同士なんだって?」
「はい」
いとこじゃないけど、説明がめんどうだったので、そういうことにしておいた。
佐藤君の先輩は四人もいて、佐藤君を含めると五人。
こっちは二人。
人数は合わせるべきだったわよね。
今さら、遅いけど。
夏向達と同じようなネットサービスの仕事をしているらしいけど、雰囲気がまったく違っていた。
全員、華やかな感じでスーツもイタリア製のものを着て、靴も高級そうな皮靴だし、時計も高そう。
もしかして、ロレックス?
見ただけじゃ、ブランド名まで、わからないけど、物がいいのはみてとれた。
住吉さんは楽しそうに話してるけど、私としてはこんな華やかな人達と一緒に食事をするとは思っていなかったから、地味で安いスーツを着ていた。
そんな私と食事なんて申し訳ない気持ちになる。
「時任のさ、副社長って普段はどんなかんじなのかな」
一番偉そうな人が話しかけてきた。
「ずっと寝てますね」
「勉強したりとか」
「勤勉な姿をみたことがないです」
「なにか特別なことって」
「甘党なこと……?」
あの大量にとる糖分は真似できない。(したくないけど)
生活している姿は面倒臭がりでだらしないから、特別どころか、普通より悪いかも。
ぱりぱりの生地に新鮮なトマトとバジル、チーズがのったピザが出てきて、パパッとタバスコをかけた。
私は辛いものも本当は好きなんだよね。
普段は夏向に合わせてカレーも甘口にしているから、今こそ辛いものを食べたい。
「島田さんの名前ってなんていうの?」
「桜帆です、桜の花の桜に船の帆の帆ですね」
「へえー。じゃあ、今頃が誕生日?」
「いいえ。誕生日は春じゃないです」
「そうなんだ。冬生まれなのに桜の字を使うなんて変わってるね」
「彼氏はいるの?この中で好みの人いない?」
「はあ」
ピザを食べながら、曖昧に返事をした。
そもそも、名前も覚えてない。
気がつくと佐藤君しかわからなかった。
「じゃあさ――」
「あれっー!?桜帆ちゃん?どうしてここに?」
隣の予約席になっていたテーブルにやってきたのは時任の重役グループと秘書室の女の子達だった。
この間、お茶をだしてくれた須山さんもいた。
秘書室の女の子達は可愛くて、メイクも上手でキラキラしている。
これが大企業の秘書達の姿……。
毎日、作業服の私には、無縁だけどね。
「皆さん、奇遇ですね。会社の飲み会なんです」
専務の真辺さん、常務の倉本さんに続き、後ろから他の三人が店に入ってくる。
引きずるようにして、メカニック担当で参与の宮北さんが夏向を連れ、逃げないように本部長の備中さんが退路を塞いでいた。
なんの戦いよ。
あのぼんやりして、眠そうな顔をしているのは紛れもなく夏向だ―――気まずくて目を逸らし、真辺さん達を見た。
「俺達は今日、秘書室と親睦会なんだよっ」
住吉さんがガッと私の肩を掴んだ。
「ちょっと!島田さん、このメンバーやばすぎない!?」
「な、なにが?」
「だって、あの時任グループの重役でしょ?雲の上のような人達じゃない!」
「そうね…」
身近すぎて、そのすごさを理解していなかったかもしれない。
世間一般では確かに雲の上の人なのかも。
夏向のせいでイメージダウンしていることは否めない。
「どうせなら、一緒に飲みませんか?」
住吉さんの言葉に須山さんの隣にいた女の人が顔色を変えて、さっと口を挟んだ。
「ごめんなさい。今日は時任グループの会社の集まりなのでご遠慮させて頂けますか?」
「あ、そ、そう」
「またの機会にね」
にこっと真辺さんが微笑むと空気が和らいだ。
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