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12 いつものお休みがいい
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「帰った?」
ひょこっと自分の寝室から夏向は顔をのぞかせた。
「起きてたの?」
「眠れなかった」
慣れない人がいると、夏向は眠れない。
警戒心が強いのか、繊細なのか、わからないけど、落ち着かないみたいだった。
「ちょっと待ってね」
香りが残っているのが嫌なのか、ラグやテーブルの周りにも近づかないし。
はぁ……。よく社会生活やっていけるわよね。
正直、野生動物が都会で暮らしているようなものだった。
テーブルの上を片付けてラグを冬用のもこもこしていたものから、手織りのキリムのラグにすると嬉しそうに夏向は寝転がった。
まるで、猫か犬。
キリムの柄がよくて、手織りというところにひかれ、夏向のパソコンで見ていたけど、お値段もなかなかのもので買わずにいたら、次の日、見ていたラグが届いた。
まさか、私の行動すべてを把握してないでしょうね?
転がる夏向に疑惑のまなざしをむけてしまう。
「二日酔いは治った?」
「朝よりはマシ」
それならいいけど。
クッションのカバーもついでに麻のカバーにすると、クッションを抱えて嬉しそうにしている。
動物か……。
「なにか食べる?」
朝から、水は飲んでいるけど、固形物はゼリーしか食べていない。
「さすがに今日は食欲でない」
まだ調子は悪そうだった。
「そう……」
「桜帆」
「うん?」
「俺、桜帆のこと、お世話係なんて思ってない」
「そうなの!?」
逆にびっくりよ!!!
「……確かに面倒はかけてる」
「自覚はあるのね。よかったわ」
はー、驚かせるんじゃないわよ。
「なんでもできる男のほうがいい?」
「うーん、夏向は十分、仕事ができるからいいんじゃないの?なかなかこんな凄いマンションに住めないわよ」
「本当?」
「私はそれでいいと思うけど」
今更、しっかりできるとは思えないし。
それにしても、今日来た秘書の子。須山さんだっけ?
あの子、絶対に夏向のこと好きよね。
こんな手のかかる大変な男を好きとか、どんな物好きなの。
私なら、絶対に真辺専務や倉本常務よ!
あの社交性とクールで知的な大人の雰囲気。
レベルが高すぎて、私にしたら夏向くらいがちょうどいい―――って違う!
夏向は私の恋愛対象ではない。
断じてっ!
楽でいいっていう意味ね。
「一人で百面相?」
やかましいわっっっ!
誰のせいだと思ってるのよ。
「あのね、夏向。世の中は人と人で出来てるの」
「うん」
「私がいなくなったら、困るでしょ?」
「困る」
「だから、夏向もはやく彼女をつくるのよ?わかった?」
「わからない」
なんでよっっ!?
がっくりと膝をついた。
「あ、あのね。私もいずれ、誰かと結婚する日が来ると思うのよ。夏向も同じ。可愛い子と恋愛して結婚するのよ?これはわかるわね」
「嫌だ」
「いや、好みを聞いてるわけじゃないの」
「俺は桜帆と一緒にいたい」
「ありがとう。でもね、ずっとって、わけにはいかないでしょ?」
「桜帆に好きな人できた?佐藤?」
「珍しく名前を覚えているわね」
驚いた。滅多に人の顔も名前も覚えないのに。
「違うわよ。まだいないわよ」
「それならいいけど」
ぷいっと夏向はクッションを抱えて、顔を背けた。
「夏向、怒ってるの?」
「怒ってない」
もー……。子どもなんだから。
これじゃあ、いつになったら私は素敵な彼氏を作ることができるようになるのやら。
「夕飯はおかゆにしたからね」
「うん」
まだ拗ねてるのか、顔をこっちに向けない。
具合が悪いだけなのかもしれないけど。
「それじゃあ、明日は夏向の好きなものを作ってあげる。なにがいい?」
「ハンバーグ。ピーマン入れないやつ」
「また!?」
そう、と夏向は満足そうにうなずいたのだった。
どれだけ、ピーマンを敵視してるのよ。まったく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
月曜日になり、お弁当を作るかどうしようか悩んだけど、須山さんが失敗したり、作ってこなかった時のことを考えて、一応、お弁当は作った。
悩む……。
ここで、持たせて『意地悪な従妹』とか思われたくないし。
どうしたらいいんだろう。
お弁当を前に唸っていると、夏向がさっとお弁当を手にし、珍しく自分で蓋をしてお弁当バッグに入れた。
「えっ!?お弁当いるの?」
「いる」
「だって、秘書の女の子が作ってくれるって言ってたわよ?まあ、わからなかったから、作ったけど」
いつものようにバッグにお茶が入ったポットも入れた。
「俺は嫌だって言った」
駄々っ子か。
こうなると、夏向は私の言うことを聞かない。
「おやつ、いれたから、お腹空いて、動けなくなる前にちゃんと食べるのよ?」
「わかってる」
嬉しそうに微笑むと夏向はお弁当バッグを手に出て行った。
私の心配なんて気にも留めずに。
ひょこっと自分の寝室から夏向は顔をのぞかせた。
「起きてたの?」
「眠れなかった」
慣れない人がいると、夏向は眠れない。
警戒心が強いのか、繊細なのか、わからないけど、落ち着かないみたいだった。
「ちょっと待ってね」
香りが残っているのが嫌なのか、ラグやテーブルの周りにも近づかないし。
はぁ……。よく社会生活やっていけるわよね。
正直、野生動物が都会で暮らしているようなものだった。
テーブルの上を片付けてラグを冬用のもこもこしていたものから、手織りのキリムのラグにすると嬉しそうに夏向は寝転がった。
まるで、猫か犬。
キリムの柄がよくて、手織りというところにひかれ、夏向のパソコンで見ていたけど、お値段もなかなかのもので買わずにいたら、次の日、見ていたラグが届いた。
まさか、私の行動すべてを把握してないでしょうね?
転がる夏向に疑惑のまなざしをむけてしまう。
「二日酔いは治った?」
「朝よりはマシ」
それならいいけど。
クッションのカバーもついでに麻のカバーにすると、クッションを抱えて嬉しそうにしている。
動物か……。
「なにか食べる?」
朝から、水は飲んでいるけど、固形物はゼリーしか食べていない。
「さすがに今日は食欲でない」
まだ調子は悪そうだった。
「そう……」
「桜帆」
「うん?」
「俺、桜帆のこと、お世話係なんて思ってない」
「そうなの!?」
逆にびっくりよ!!!
「……確かに面倒はかけてる」
「自覚はあるのね。よかったわ」
はー、驚かせるんじゃないわよ。
「なんでもできる男のほうがいい?」
「うーん、夏向は十分、仕事ができるからいいんじゃないの?なかなかこんな凄いマンションに住めないわよ」
「本当?」
「私はそれでいいと思うけど」
今更、しっかりできるとは思えないし。
それにしても、今日来た秘書の子。須山さんだっけ?
あの子、絶対に夏向のこと好きよね。
こんな手のかかる大変な男を好きとか、どんな物好きなの。
私なら、絶対に真辺専務や倉本常務よ!
あの社交性とクールで知的な大人の雰囲気。
レベルが高すぎて、私にしたら夏向くらいがちょうどいい―――って違う!
夏向は私の恋愛対象ではない。
断じてっ!
楽でいいっていう意味ね。
「一人で百面相?」
やかましいわっっっ!
誰のせいだと思ってるのよ。
「あのね、夏向。世の中は人と人で出来てるの」
「うん」
「私がいなくなったら、困るでしょ?」
「困る」
「だから、夏向もはやく彼女をつくるのよ?わかった?」
「わからない」
なんでよっっ!?
がっくりと膝をついた。
「あ、あのね。私もいずれ、誰かと結婚する日が来ると思うのよ。夏向も同じ。可愛い子と恋愛して結婚するのよ?これはわかるわね」
「嫌だ」
「いや、好みを聞いてるわけじゃないの」
「俺は桜帆と一緒にいたい」
「ありがとう。でもね、ずっとって、わけにはいかないでしょ?」
「桜帆に好きな人できた?佐藤?」
「珍しく名前を覚えているわね」
驚いた。滅多に人の顔も名前も覚えないのに。
「違うわよ。まだいないわよ」
「それならいいけど」
ぷいっと夏向はクッションを抱えて、顔を背けた。
「夏向、怒ってるの?」
「怒ってない」
もー……。子どもなんだから。
これじゃあ、いつになったら私は素敵な彼氏を作ることができるようになるのやら。
「夕飯はおかゆにしたからね」
「うん」
まだ拗ねてるのか、顔をこっちに向けない。
具合が悪いだけなのかもしれないけど。
「それじゃあ、明日は夏向の好きなものを作ってあげる。なにがいい?」
「ハンバーグ。ピーマン入れないやつ」
「また!?」
そう、と夏向は満足そうにうなずいたのだった。
どれだけ、ピーマンを敵視してるのよ。まったく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
月曜日になり、お弁当を作るかどうしようか悩んだけど、須山さんが失敗したり、作ってこなかった時のことを考えて、一応、お弁当は作った。
悩む……。
ここで、持たせて『意地悪な従妹』とか思われたくないし。
どうしたらいいんだろう。
お弁当を前に唸っていると、夏向がさっとお弁当を手にし、珍しく自分で蓋をしてお弁当バッグに入れた。
「えっ!?お弁当いるの?」
「いる」
「だって、秘書の女の子が作ってくれるって言ってたわよ?まあ、わからなかったから、作ったけど」
いつものようにバッグにお茶が入ったポットも入れた。
「俺は嫌だって言った」
駄々っ子か。
こうなると、夏向は私の言うことを聞かない。
「おやつ、いれたから、お腹空いて、動けなくなる前にちゃんと食べるのよ?」
「わかってる」
嬉しそうに微笑むと夏向はお弁当バッグを手に出て行った。
私の心配なんて気にも留めずに。
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