私はお世話係じゃありません!【時任シリーズ②】

椿蛍

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27 呼び出し【姫凪 視点】

自宅待機と言われたけれど、自宅にいられるわけない。
親が何て思うか。
時任ときとうグループに入社した自慢の娘がまさかクビになるかもしれないとわかったら、冷静ではきっといられない。
スマホの着信音がなり、画面をみると麻友子まゆこだった。
『聞いて!姫凪ひな。佐藤君、酷いのよ!他に女がいたの。問い詰めたら、別れようって』
麻友子は泣いていた。
やっぱりそうなっちゃったのね。
当然、こうなるだろうってわかっていた。
麻友子が可哀想で言えなかっただけ。
「そうなの?でも、仕方ないわ。佐藤君がそんな人だなんて知らなかったんだもの。麻友子。もっといい人がきっといるわ。元気だして」
『無理よ。時任をクビになったのよ!』
「クビ!?」
『今、姫凪、どこにいるの?自宅に弁護士さんがきて、訴訟も検討しているって言われたの。私と佐藤君のスマホでやりとりしたものがつつぬけで』
ゾッとした。
まさか、副社長が?
『佐藤君が言うには佐藤君のスマホに副社長が侵入したんじゃないかって。佐藤君がミツバ電機に出入りしていた時に仕掛けられたっていうの。でも、副社長がやった証拠が見つからなくて』
背筋が寒くなった。
副社長がミツバ電機に行ったのはかなり前で、そんな時から諏訪部すわべさんをマークしていた!?
こうなることを全てよんでいた?
まさか!
もしかして、想像以上に副社長は怖い人かもしれない。
『佐藤君も動揺していて、私のことをうるさいって怒鳴ったのよ』
「そうね。麻友子は少し落ち着いた方がいいわ」
そういう私も手に汗をかいていた。
副社長が怖いーーーまさか、そう思う日がくるなんて想像していなかった。
姫凪ひなさん。待ったかしら」
「く、倉永くらながの奥様」
声がうわずった。
「どうかされて?」
「い、いいえ」
レトロな喫茶店で上京した倉永夫妻と会うことになっていた。
自分の汗ばんだ手をおしぼりでふいた。
「不慣れなもので悪いね。コーヒーを三つ。ホットで」
座るなり、ホットコーヒーをすぐに注文した。
私の好みなんて一切聞く気はないようだった。
「話というのは?」
「私達に話があるそうね?いいお話なのかしら」
「もうしばらくお待ちください」
私は桜帆さほさんを呼び出した。
副社長の親戚である叔父夫婦に会えば、自分がいかに副社長にはふさわしくないか、わかるだろうと踏んだからだ。
「ごめんなさい。待った?須山すやまさん?」
仕事帰りの桜帆さほさんが息を切らせて現れた。
「君は夏向かなた君と暮らしている!」
「まあ!」
桜帆さんは二人を見て驚いていた。
「夏向の叔父さん?須山さん、どういうこと?」
「あの、私、桜帆さんの口からお二人に言ったほうがいいと思って。副社長との関係を説明してあげてほしいんです」
桜帆さんは副社長と結婚なんかできるわけない。
私の前ではっきりと『付き合っていません。結婚できません』と、言ってもらうつもりだった。
それを私が副社長に言えばーーー
「そうですね。私から伝えようって思っていました」
桜帆さんの指にはキラキラ光るダイヤがついた指輪があった。
「実は夏向と入籍しました」
「ど、どういうことだね!?」
「なんですって」
入籍!?
付き合っているわけでも婚約でもなくて?
ちょ、ちょっとどういうこと?
いくらなんでも段階を飛ばしすぎでしょ!
あまりの動揺にコップの水がこぼれた。
「夏向から叔父夫婦と縁を切ったと聞きました」
「こっちはそんなつもりはない!」
「この先、夏向には近づかないでください」
「な、なんですって」
桜帆さんは凛とした横顔をし、はっきりと言った。
「私も迷いました。夏向の唯一の肉親を捨てさせていいのか。けれど、夏向はまだあなた達と暮らした時の傷を負ったままだった。何をしたかは知りませんが、私はそれが許せない」
「な、生意気な」
「だから、私がこれからは夏向の家族になろうと決めたんです。傷を埋めてあげたい。それで私は夏向のプロポーズを受けました。お話は以上です。それでは、失礼します」
一礼すると、すっと桜帆さんは立ち上がった。
「須山さん、ありがとう。あなたがいなかったら、私と夏向はずっとあのままだった」
「は?」
「夏向が私にとってどれだけ大切か、気付いていなかったの」
にっこりと桜帆さんは笑っていた。
「須山さんなら、夏向より素敵な男の人と付き合えるわ。それじゃあね」
すっきりした顔で桜帆さんは去って行った。
「君からの話とはこれかね!」
「なんて、気分の悪い!」
恥をかかされたと思ったのか、二人は顔を赤くし、バンッとテーブルを叩き、立ち上がると店から出ていった。
私に残されたのは三人分のホットコーヒーとお会計だけだったーーー

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