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22 ただいま
しおりを挟む数ヵ月後ーーー恭士さんが社長になり、小さな結婚式をし、落ち着いた頃、再び本宅へ帰ることになった。
高辻の本宅に帰ると、奥様と豊子さん、祥枝さんが玄関で出迎えてくれた。
「おかえり!夏乃子ちゃん!」
「みんなー!ただいまー!」
少し離れていただけなのに懐かしく感じた。
「もう高辻の奥様と呼ばないとね」
「まあ、そうしたら、私は大奥様かしら」
奥様はしゅん、として言った。
「おばあちゃんみたいだわ」
「みたいじゃなくて、おばあちゃんになるからな」
「まあ!恭士さん!まさか!」
「じ、実はその、子供ができて。その」
恥ずかしすぎる。
「夏乃子がここで子供を産んで育てたいと言うんだ」
奥様は嬉しそうな顔した。
「まあまあ!何を用意すればいいかしら」
奥様は右往左往した。
「奥様、落ち着いてください!」
「夏乃子さん、奥様じゃありませんよ。お義母様でしょう?」
「あ、そうですよね」
なれるまで、時間がかかりそう。
「とりあえず、中に入ろう。体に障るだろう」
「立ち話くらい大丈夫ですよ」
恭士さんはずっとこの調子で、仕舞いにご飯茶碗すら持つなと言いそうだと思っていた。
中は変わらず、以前通りでホッとした。
自分の家じゃなかったのに不思議だ。
「夏乃子。少し休め。最近、引っ越しの準備で忙しかっただろう」
「大丈夫」
「ダメだ」
恐ろしいまでに過保護だった。
「わかったわ」
仕方ない。
一階に用意された私と恭士さんの部屋に入り、服をルームウェアに着替えて横になった。
天井を見上げると、プールに落ちた時、この部屋にいたんだと気付いた。
「懐かしい」
後で知ったのだが、恭士さんと妹の咲妃さんの実の母親は宮竹の家政婦だったそうだ。
だから、奥様は家政婦に対して、神経過敏になり、嫌がらせを受けても事情を知っている豊子さん達はなにも言わない理由がわかった。
旦那様は宮竹をすぐに辞めさせ、愛人にし、結婚はしかるべき家柄の奥様を妻とした。
はあ、とため息をつき、目を閉じた。
愛人になるか、別れるか、平気で聞いてくるくらいだから、きっとそれが悪いと思ってないんだよね。
恭士さんがそんな人じゃなくてよかった。
うとうととしていると、恭士さんの髪が頬にかかった。
香りですぐにわかる。
「なにを笑っている」
「寝込みを襲わないで下さい」
「起きていただろう」
恭士さんは目を細め、嘘をついた罰なのか、深いキスをし、舌を絡ませ、何度もキスを繰り返した。
息を乱し、力の抜けた私の頬を愛おしげに撫でると、耳元で囁いた。
「初恋は実らないと、夏乃子は言ったが、違っていたな」
「こんな危険な人、恋は一度だけでいいんです」
私はそう言って、悪人面をした恭士さんにキスをした。
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