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コミカライズ記念 特別番外編【宮ノ入シリーズ①:恋人編】
3 呼び戻されたライバル(3)※綾香視点
「ねえ、雅冬。あの顔見た? 妻気取りしてるって聖子おば様から聞いたけど、私たちのことさえ知らないみたい。大したことないわね」
海外事業部があるフロアを歩く。
私と雅冬が戻ってきたことで、空気が張り詰めた。
会長の意向で、宮ノ入へ入社する親族は『勉強してこい』と、必ず数年は海外支店に勤務することになっている。
そこで結果を出せなければ、本社へ戻ることはない。
瑞生さんは大学卒業前から海外と日本を頻繁に行き来し、会長を補佐していた化け物。
その化け物につき従っているのが、直真。
――右腕である直真を沖重の再建に使うなんて思わなかったわ。瑞生さんなら、さっさと潰してしまうかと思っていたのに。
「綾香、自分が優位にいると思って、油断していると足元を掬われるぞ」
「そうかしら? 生まれも育ちも劣る沖重の娘に、宮ノ入の血を引く私が負けると思えないわ」
私と雅冬が並んでいると、周囲の人間は気圧され、そばにやってこない。
昔からそうだった。
この私の夫に相応しいのは、瑞生さんか雅冬。
今更、他の男なんて冗談じゃないわ。
そして、私が狙っているのは『社長夫人』の立場。
社長になったのは瑞生さんだけど、まだ就任してまもない。
雅冬の父親の常務が、虎視眈々と自分の息子を社長にしようと狙っているのが現状。
「少なくとも、気に入っているのは事実として認めろよ。瑞生が好きでもない女を身近に置くとは思えないからな」
雅冬は品のいい獣。
彼は鋭い視線を向けながら、口元に笑みを作り、同僚たちに手を上げ挨拶をした。
瑞生さんと違って社交的な雅冬は、人が周りに集まりやすい。
まだ情がある。
――だから、私も雅冬を恋人に選んだけど、あくまで私たちの関係は、『利用できる関係』なのよね。
「雅冬はどちらの味方? 瑞生さんの恋人を認めるとは言わないわよね?」
「認められない。会長は俺たちを本社に戻した。俺たちに瑞生の恋人をどうにかしろってことだろう」
「そうでしょうね。ねえ、雅冬? 瑞生さんが私に靡いて、あなたと別れることになったら、ごめんなさいね?」
――押し倒してでも、私は瑞生さんをものにしないとね。あんな女が瑞生さんの妻になるなんて、宮ノ入家の恥だわ。
雅冬は冷たい目をし、ふっと笑った。
瑞生さんにどことなく似ている。
「別に構わない。宮ノ入に弱い人間はいらない。俺より瑞生がいいなら、あいつを選べよ」
「そう? ありがと、雅冬」
肩に手を置き、キスをしようとすると、雅冬が手で制した。
「やめろ。俺とお前が恋人として振る舞うのは、プライベートな時間だけだ」
「……そうだったわね」
お互いの立場が似ているから、私たちは一緒にいても問題が起きない。
でも、そこに愛情があるかどうかは別。
――宮ノ入に生まれた男はどこか心が壊れているわ。瑞生さんだけでなく、直真も雅冬も。心から女性を愛することができるのかしら?
溶けない氷が胸の奥にあって、抱かれていても冷たく感じる。
それでも、私は欲しい。
――宮ノ入の社長夫人の座が!
人間嫌いな瑞生さんが、まさか私の不在の間に恋人を作ったのは大誤算。
私はこの帰国で、どちらの妻になるべきか見極める必要がある。
瑞生さんか雅冬か。
――それとも、両方? なんてね?
「じゃあ、雅冬。夜に会いましょ。私のマンションなんてどう? 宮ノ入のマンションなんて、息が詰まるでしょ?」
「気が向けば行く」
冷たい返事をして、雅冬は私から離れ、同僚たちの元へ歩いて言った。
人の輪の中にいる雅冬は生き生きとしていて、楽しそうに見える。
――まだ瑞生さんより、雅冬のほうがマシよね。まだ人間味があるわ。
正式な異動ではないため、帰国中は海外事業部で勤務する。
私と雅冬はそれぞれ小さいながら専用のワーキングスペースが与えられている。
私たちの拠点は海外で、本社会議にはオンラインで参加していた。
オンラインでは感じることのない本社の空気。
出世を狙う社員が多いからか、ほどよい緊張感が漂っている。
「綾香さんだ。あいかわらず、美人だな」
「何ヶ国語も話せるそうだな。海外支店の同期がさすが宮ノ入だと感心していたぞ」
「取引先にお茶を点ててもてなして、好評だったらしい」
――ほら、優秀な私たちは大歓迎されてるわ。瑞生さんが選んだ女性よりも……ね?
羨望の眼差しを一身に受けながら、堂々とした態度で彼らのほうへ歩み寄る。
女王様のように私は振舞う。
宮ノ入の名前を持つ私には、それが許される。
――瑞生さんの恋人には絶対、真似できないでしょうけどね?
平凡な秘書の姿を思い出して、くすりと笑った。
海外事業部があるフロアを歩く。
私と雅冬が戻ってきたことで、空気が張り詰めた。
会長の意向で、宮ノ入へ入社する親族は『勉強してこい』と、必ず数年は海外支店に勤務することになっている。
そこで結果を出せなければ、本社へ戻ることはない。
瑞生さんは大学卒業前から海外と日本を頻繁に行き来し、会長を補佐していた化け物。
その化け物につき従っているのが、直真。
――右腕である直真を沖重の再建に使うなんて思わなかったわ。瑞生さんなら、さっさと潰してしまうかと思っていたのに。
「綾香、自分が優位にいると思って、油断していると足元を掬われるぞ」
「そうかしら? 生まれも育ちも劣る沖重の娘に、宮ノ入の血を引く私が負けると思えないわ」
私と雅冬が並んでいると、周囲の人間は気圧され、そばにやってこない。
昔からそうだった。
この私の夫に相応しいのは、瑞生さんか雅冬。
今更、他の男なんて冗談じゃないわ。
そして、私が狙っているのは『社長夫人』の立場。
社長になったのは瑞生さんだけど、まだ就任してまもない。
雅冬の父親の常務が、虎視眈々と自分の息子を社長にしようと狙っているのが現状。
「少なくとも、気に入っているのは事実として認めろよ。瑞生が好きでもない女を身近に置くとは思えないからな」
雅冬は品のいい獣。
彼は鋭い視線を向けながら、口元に笑みを作り、同僚たちに手を上げ挨拶をした。
瑞生さんと違って社交的な雅冬は、人が周りに集まりやすい。
まだ情がある。
――だから、私も雅冬を恋人に選んだけど、あくまで私たちの関係は、『利用できる関係』なのよね。
「雅冬はどちらの味方? 瑞生さんの恋人を認めるとは言わないわよね?」
「認められない。会長は俺たちを本社に戻した。俺たちに瑞生の恋人をどうにかしろってことだろう」
「そうでしょうね。ねえ、雅冬? 瑞生さんが私に靡いて、あなたと別れることになったら、ごめんなさいね?」
――押し倒してでも、私は瑞生さんをものにしないとね。あんな女が瑞生さんの妻になるなんて、宮ノ入家の恥だわ。
雅冬は冷たい目をし、ふっと笑った。
瑞生さんにどことなく似ている。
「別に構わない。宮ノ入に弱い人間はいらない。俺より瑞生がいいなら、あいつを選べよ」
「そう? ありがと、雅冬」
肩に手を置き、キスをしようとすると、雅冬が手で制した。
「やめろ。俺とお前が恋人として振る舞うのは、プライベートな時間だけだ」
「……そうだったわね」
お互いの立場が似ているから、私たちは一緒にいても問題が起きない。
でも、そこに愛情があるかどうかは別。
――宮ノ入に生まれた男はどこか心が壊れているわ。瑞生さんだけでなく、直真も雅冬も。心から女性を愛することができるのかしら?
溶けない氷が胸の奥にあって、抱かれていても冷たく感じる。
それでも、私は欲しい。
――宮ノ入の社長夫人の座が!
人間嫌いな瑞生さんが、まさか私の不在の間に恋人を作ったのは大誤算。
私はこの帰国で、どちらの妻になるべきか見極める必要がある。
瑞生さんか雅冬か。
――それとも、両方? なんてね?
「じゃあ、雅冬。夜に会いましょ。私のマンションなんてどう? 宮ノ入のマンションなんて、息が詰まるでしょ?」
「気が向けば行く」
冷たい返事をして、雅冬は私から離れ、同僚たちの元へ歩いて言った。
人の輪の中にいる雅冬は生き生きとしていて、楽しそうに見える。
――まだ瑞生さんより、雅冬のほうがマシよね。まだ人間味があるわ。
正式な異動ではないため、帰国中は海外事業部で勤務する。
私と雅冬はそれぞれ小さいながら専用のワーキングスペースが与えられている。
私たちの拠点は海外で、本社会議にはオンラインで参加していた。
オンラインでは感じることのない本社の空気。
出世を狙う社員が多いからか、ほどよい緊張感が漂っている。
「綾香さんだ。あいかわらず、美人だな」
「何ヶ国語も話せるそうだな。海外支店の同期がさすが宮ノ入だと感心していたぞ」
「取引先にお茶を点ててもてなして、好評だったらしい」
――ほら、優秀な私たちは大歓迎されてるわ。瑞生さんが選んだ女性よりも……ね?
羨望の眼差しを一身に受けながら、堂々とした態度で彼らのほうへ歩み寄る。
女王様のように私は振舞う。
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――瑞生さんの恋人には絶対、真似できないでしょうけどね?
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