御曹司社長は恋人を溺愛したい!【宮ノ入シリーズ③】

椿蛍

文字の大きさ
32 / 41
コミカライズ記念 特別番外編【宮ノ入シリーズ①:恋人編】

3 呼び戻されたライバル(3)※綾香視点

「ねえ、雅冬。あの顔見た? 妻気取りしてるって聖子おば様から聞いたけど、私たちのことさえ知らないみたい。大したことないわね」

 海外事業部があるフロアを歩く。
 私と雅冬が戻ってきたことで、空気が張り詰めた。
 会長の意向で、宮ノ入へ入社する親族は『勉強してこい』と、必ず数年は海外支店に勤務することになっている。
 そこで結果を出せなければ、本社へ戻ることはない。
 瑞生さんは大学卒業前から海外と日本を頻繁に行き来し、会長を補佐していた化け物。
 その化け物につき従っているのが、直真。

 ――右腕である直真を沖重の再建に使うなんて思わなかったわ。瑞生さんなら、さっさと潰してしまうかと思っていたのに。

「綾香、自分が優位にいると思って、油断していると足元を掬われるぞ」
「そうかしら? 生まれも育ちも劣る沖重の娘に、宮ノ入の血を引く私が負けると思えないわ」

 私と雅冬が並んでいると、周囲の人間は気圧され、そばにやってこない。
 昔からそうだった。
 この私の夫に相応しいのは、瑞生さんか雅冬。
 今更、他の男なんて冗談じゃないわ。
 そして、私が狙っているのは『社長夫人』の立場。
 社長になったのは瑞生さんだけど、まだ就任してまもない。
 雅冬の父親の常務が、虎視眈々と自分の息子を社長にしようと狙っているのが現状。

「少なくとも、気に入っているのは事実として認めろよ。瑞生が好きでもない女を身近に置くとは思えないからな」

 雅冬は品のいい獣。
 彼は鋭い視線を向けながら、口元に笑みを作り、同僚たちに手を上げ挨拶をした。
 瑞生さんと違って社交的な雅冬は、人が周りに集まりやすい。
 まだ情がある。
 
 ――だから、私も雅冬を恋人に選んだけど、あくまで私たちの関係は、『利用できる関係』なのよね。

「雅冬はどちらの味方? 瑞生さんの恋人を認めるとは言わないわよね?」
「認められない。会長は俺たちを本社に戻した。俺たちに瑞生の恋人をどうにかしろってことだろう」
「そうでしょうね。ねえ、雅冬? 瑞生さんが私に靡いて、あなたと別れることになったら、ごめんなさいね?」

 ――押し倒してでも、私は瑞生さんをものにしないとね。あんな女が瑞生さんの妻になるなんて、宮ノ入家の恥だわ。
 
 雅冬は冷たい目をし、ふっと笑った。
 瑞生さんにどことなく似ている。

「別に構わない。宮ノ入に弱い人間はいらない。俺より瑞生がいいなら、あいつを選べよ」
「そう? ありがと、雅冬」
 
 肩に手を置き、キスをしようとすると、雅冬が手で制した。

「やめろ。俺とお前が恋人として振る舞うのは、プライベートな時間だけだ」
「……そうだったわね」

 お互いの立場が似ているから、私たちは一緒にいても問題が起きない。
 でも、そこに愛情があるかどうかは別。

 ――宮ノ入に生まれた男はどこか心が壊れているわ。瑞生さんだけでなく、直真も雅冬も。心から女性を愛することができるのかしら?

 溶けない氷が胸の奥にあって、抱かれていても冷たく感じる。
 それでも、私は欲しい。
 
 ――宮ノ入の社長夫人の座が!

 人間嫌いな瑞生さんが、まさか私の不在の間に恋人を作ったのは大誤算。
 私はこの帰国で、どちらの妻になるべきか見極める必要がある。
 瑞生さんか雅冬か。
 
 ――それとも、両方? なんてね?

「じゃあ、雅冬。夜に会いましょ。私のマンションなんてどう? 宮ノ入のマンションなんて、息が詰まるでしょ?」
「気が向けば行く」

 冷たい返事をして、雅冬は私から離れ、同僚たちの元へ歩いて言った。
 人の輪の中にいる雅冬は生き生きとしていて、楽しそうに見える。

 ――まだ瑞生さんより、雅冬のほうがマシよね。まだ人間味があるわ。

 正式な異動ではないため、帰国中は海外事業部で勤務する。
 私と雅冬はそれぞれ小さいながら専用のワーキングスペースが与えられている。
 私たちの拠点は海外で、本社会議にはオンラインで参加していた。
 オンラインでは感じることのない本社の空気。
 出世を狙う社員が多いからか、ほどよい緊張感が漂っている。

「綾香さんだ。あいかわらず、美人だな」
「何ヶ国語も話せるそうだな。海外支店の同期がさすが宮ノ入だと感心していたぞ」
「取引先にお茶を点ててもてなして、好評だったらしい」

 ――ほら、優秀な私たちは大歓迎されてるわ。瑞生さんが選んだ女性よりも……ね?

 羨望の眼差しを一身に受けながら、堂々とした態度で彼らのほうへ歩み寄る。
 女王様のように私は振舞う。
 宮ノ入の名前を持つ私には、それが許される。
 
 ――瑞生さんの恋人には絶対、真似できないでしょうけどね?

 平凡な秘書の姿を思い出して、くすりと笑った。

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味