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第一章
7 妹は社長を誘惑する
「わぁー!シゲさん、タイ焼き買ってきてくれたんだ!」
茶色の紙袋を受け取った。
まだ、あたたかい。
「腰を痛めた時、約束していただろ?社長と食べな」
「ありがと!」
掃除スタッフのみんなは変わらず、仲良くしてくれて嬉しいなぁ。
たまに社内を歩いていると、お菓子をくれる。
いそいそとタイ焼きを抱えて戻ると社長室に凛々子がいた。
なにをしているのかと、のぞくと、
「姉のことで話したいことがあるんです」
凛々子は可愛らしく俯き、雅冬さんの手を両手で包み込んだ。
「なんだ?」
「姉はずっと私の好きな人を奪ってきたんです。社長のこと、私が素敵な人だって言ったから、社長に近づいてっ」
は、はあー!?なにを言ってるの?
目を潤ませ、手を自分の頬にあてた。
雅冬さんはちょっとも動じず、不思議そうに首を傾げて、うーんと唸っていた。
「おかしいな。菜々子と会ったのは沖重にくる前だったはずなんだけどな?」
「えっ」
「古い名刺渡したから、あいつ、ずっと俺を宮ノ入の部長だと勘違いしていたからな。社長とわかったときの間抜けづらときたら」
ぷっと思い出し笑いされた。
くっ!だれが間抜けだ!
いないと、思って。
「社長。姉のこと、好きなんですか」
「ああ」
なんでもないことのようにうなずいた。
あまりの素直さにこっちが赤面してしまう。
「私じゃ、だめですか?」
凛々子は雅冬さんの体に身を寄せ、もたれかかった。
「だめだな」
即答され、凛々子はむっとしていた。
「そっくりじゃないですか!」
「はあ!?どこがだ?仕事の邪魔だ。もう出ていけ」
どんっと突き飛ばされ、凛々子は悔しそうな顔をし、出て行った。
鉢合わせるのが嫌で秘書室に慌てて入って、隠れた。
凛々子が出ていくと、なに食わぬ顔で雅冬さんの前に出ていき、緑茶とタイ焼きを出した。
「盗み聞きか?」
「そんなことしてません」
「タイ焼き、冷たくなっているけど」
ハッとして、タイ焼きを見てしまった。
「やっぱり聞いてたか」
震えながら、笑いをこらえていた。
「いいですよ。大笑いしても」
「違う」
笑いながら、腕を掴んだ。
「聞いてたなら、わかっただろ」
耳元で低い声が囁いた。
「しっ、仕事中ですから」
「答えは?」
目を細め、腕を掴んだまま、答えるまで離してくれそうにない。
「嫌いではないです」
「お前!もっと言いようがあるだろ!」
「仕事中はちょっと」
「仕事中じゃなかったら、よかったのか」
雅冬さんはブツブツ言いながら、タイ焼きの尻尾をかじった。
「タイ焼き、初めて食べたけど、うまいな」
こっちの気も知らないで、雅冬さんときたら、気楽なものだ。
凛々子は絶対になにか仕掛けてくる。
タイ焼きをのんきに食べてる場合じゃないよね。ほんと。
鬱々とした気持ちでタイ焼きの頭をかじったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
仕事が終わると、運転手さんが家まで送ってくれた。
雅冬さんは残業らしい。
なので、自分の部屋で、一人作戦会議を開いた。
どう考えても、明らかにこっちが不利よね。
凛々子は身だしなみには気を付けてるし、お洒落だし、男の人を手玉にとるだけあって、二股してたり、本当かどうかは知らないけど、合コンに行ったら、必ず一人はおとすって、自慢げに言っていたし。
雅冬さんをつなぎとめる?って、そもそもどうしたら、いいかさえ、わからない。
色仕掛け?
どうやるんだろう。
一人作戦会議は早々に終了してしまった。
「はあ」
このまま、今までみたいに凛々子にとられちゃうのかな。
まるで作戦会議にならない。
あまりに恋愛スキルが低すぎて。
ゴロゴロとベッドに転がっていると、部屋のドアが開いた。
凛々子が立っていた。
なんだ、なんだ!
驚いて起き上がり、身構えた。
突然の敵の襲来に心の準備はまったくできていない。
「菜々子。社長は菜々子のこと、好きみたいね」
「う、うん」
「おめでとう、菜々子。よかったわね」
にっこりと凛々子は微笑み、手を握った。
え?なに?この展開。
「まあ、がんばってね」
宣戦布告のように言うと、凛々子は部屋を出て行ってしまった。
嫌な予感しかしなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の朝、起きると、凛々子はもういなかった。
早いなあ。
ふあ、と欠伸をしてクローゼットを開けるとスーツが一着足りない。
「あれ?」
なんで?
不思議に思っていたけれど、会社に着き、凛々子を見ると、その疑問は一気に解決した。
受付に私と同じメイクをし、髪型にし、勝手に私のスーツを着て座っていた。
さすがの雅冬さんも驚いていた。
「似てるな」
「双子ですからね」
凛々子が私の真似をしたこと以外は特になにもなく、午後になり、終業時間になった。
いつものようにファイルに書類を片付けていると、内線が鳴った。
「はい、社長室です」
「営業だけど、会議用の書類をとりにきてくれるかな?急ぎなんだ」
「わかりました」
珍しいと思ったけれど、急ぎなら仕方ないかと席を立ち、営業部の方へ向かった。
営業に急いでいったのになかなか書類を出してくれず、ずっと待っていると、そんなものはないと言われた。
「え!?」
嫌な予感がして、慌てて、社長室に戻ると、案の定、凛々子がいた。
そして―――
「社長、私じゃダメですか?」
雅冬さんに迫っていた。
茶色の紙袋を受け取った。
まだ、あたたかい。
「腰を痛めた時、約束していただろ?社長と食べな」
「ありがと!」
掃除スタッフのみんなは変わらず、仲良くしてくれて嬉しいなぁ。
たまに社内を歩いていると、お菓子をくれる。
いそいそとタイ焼きを抱えて戻ると社長室に凛々子がいた。
なにをしているのかと、のぞくと、
「姉のことで話したいことがあるんです」
凛々子は可愛らしく俯き、雅冬さんの手を両手で包み込んだ。
「なんだ?」
「姉はずっと私の好きな人を奪ってきたんです。社長のこと、私が素敵な人だって言ったから、社長に近づいてっ」
は、はあー!?なにを言ってるの?
目を潤ませ、手を自分の頬にあてた。
雅冬さんはちょっとも動じず、不思議そうに首を傾げて、うーんと唸っていた。
「おかしいな。菜々子と会ったのは沖重にくる前だったはずなんだけどな?」
「えっ」
「古い名刺渡したから、あいつ、ずっと俺を宮ノ入の部長だと勘違いしていたからな。社長とわかったときの間抜けづらときたら」
ぷっと思い出し笑いされた。
くっ!だれが間抜けだ!
いないと、思って。
「社長。姉のこと、好きなんですか」
「ああ」
なんでもないことのようにうなずいた。
あまりの素直さにこっちが赤面してしまう。
「私じゃ、だめですか?」
凛々子は雅冬さんの体に身を寄せ、もたれかかった。
「だめだな」
即答され、凛々子はむっとしていた。
「そっくりじゃないですか!」
「はあ!?どこがだ?仕事の邪魔だ。もう出ていけ」
どんっと突き飛ばされ、凛々子は悔しそうな顔をし、出て行った。
鉢合わせるのが嫌で秘書室に慌てて入って、隠れた。
凛々子が出ていくと、なに食わぬ顔で雅冬さんの前に出ていき、緑茶とタイ焼きを出した。
「盗み聞きか?」
「そんなことしてません」
「タイ焼き、冷たくなっているけど」
ハッとして、タイ焼きを見てしまった。
「やっぱり聞いてたか」
震えながら、笑いをこらえていた。
「いいですよ。大笑いしても」
「違う」
笑いながら、腕を掴んだ。
「聞いてたなら、わかっただろ」
耳元で低い声が囁いた。
「しっ、仕事中ですから」
「答えは?」
目を細め、腕を掴んだまま、答えるまで離してくれそうにない。
「嫌いではないです」
「お前!もっと言いようがあるだろ!」
「仕事中はちょっと」
「仕事中じゃなかったら、よかったのか」
雅冬さんはブツブツ言いながら、タイ焼きの尻尾をかじった。
「タイ焼き、初めて食べたけど、うまいな」
こっちの気も知らないで、雅冬さんときたら、気楽なものだ。
凛々子は絶対になにか仕掛けてくる。
タイ焼きをのんきに食べてる場合じゃないよね。ほんと。
鬱々とした気持ちでタイ焼きの頭をかじったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
仕事が終わると、運転手さんが家まで送ってくれた。
雅冬さんは残業らしい。
なので、自分の部屋で、一人作戦会議を開いた。
どう考えても、明らかにこっちが不利よね。
凛々子は身だしなみには気を付けてるし、お洒落だし、男の人を手玉にとるだけあって、二股してたり、本当かどうかは知らないけど、合コンに行ったら、必ず一人はおとすって、自慢げに言っていたし。
雅冬さんをつなぎとめる?って、そもそもどうしたら、いいかさえ、わからない。
色仕掛け?
どうやるんだろう。
一人作戦会議は早々に終了してしまった。
「はあ」
このまま、今までみたいに凛々子にとられちゃうのかな。
まるで作戦会議にならない。
あまりに恋愛スキルが低すぎて。
ゴロゴロとベッドに転がっていると、部屋のドアが開いた。
凛々子が立っていた。
なんだ、なんだ!
驚いて起き上がり、身構えた。
突然の敵の襲来に心の準備はまったくできていない。
「菜々子。社長は菜々子のこと、好きみたいね」
「う、うん」
「おめでとう、菜々子。よかったわね」
にっこりと凛々子は微笑み、手を握った。
え?なに?この展開。
「まあ、がんばってね」
宣戦布告のように言うと、凛々子は部屋を出て行ってしまった。
嫌な予感しかしなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の朝、起きると、凛々子はもういなかった。
早いなあ。
ふあ、と欠伸をしてクローゼットを開けるとスーツが一着足りない。
「あれ?」
なんで?
不思議に思っていたけれど、会社に着き、凛々子を見ると、その疑問は一気に解決した。
受付に私と同じメイクをし、髪型にし、勝手に私のスーツを着て座っていた。
さすがの雅冬さんも驚いていた。
「似てるな」
「双子ですからね」
凛々子が私の真似をしたこと以外は特になにもなく、午後になり、終業時間になった。
いつものようにファイルに書類を片付けていると、内線が鳴った。
「はい、社長室です」
「営業だけど、会議用の書類をとりにきてくれるかな?急ぎなんだ」
「わかりました」
珍しいと思ったけれど、急ぎなら仕方ないかと席を立ち、営業部の方へ向かった。
営業に急いでいったのになかなか書類を出してくれず、ずっと待っていると、そんなものはないと言われた。
「え!?」
嫌な予感がして、慌てて、社長室に戻ると、案の定、凛々子がいた。
そして―――
「社長、私じゃダメですか?」
雅冬さんに迫っていた。
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