御曹司社長は恋人を溺愛したい!【宮ノ入シリーズ③】

椿蛍

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第一章

7 妹は社長を誘惑する

「わぁー!シゲさん、タイ焼き買ってきてくれたんだ!」
茶色の紙袋を受け取った。
まだ、あたたかい。
「腰を痛めた時、約束していただろ?社長と食べな」
「ありがと!」
掃除スタッフのみんなは変わらず、仲良くしてくれて嬉しいなぁ。
たまに社内を歩いていると、お菓子をくれる。
いそいそとタイ焼きを抱えて戻ると社長室に凛々子りりこがいた。
なにをしているのかと、のぞくと、
「姉のことで話したいことがあるんです」
凛々子は可愛らしくうつむき、雅冬まさとさんの手を両手で包み込んだ。
「なんだ?」
「姉はずっと私の好きな人を奪ってきたんです。社長のこと、私が素敵な人だって言ったから、社長に近づいてっ」 
は、はあー!?なにを言ってるの?
目をうるませ、手を自分の頬にあてた。
雅冬さんはちょっとも動じず、不思議そうに首を傾げて、うーんとうなっていた。
「おかしいな。菜々子ななこと会ったのは沖重おきしげにくる前だったはずなんだけどな?」
「えっ」
「古い名刺渡したから、あいつ、ずっと俺を宮ノ入みやのいりの部長だと勘違いしていたからな。社長とわかったときの間抜けづらときたら」
ぷっと思い出し笑いされた。
くっ!だれが間抜けだ!
いないと、思って。
「社長。姉のこと、好きなんですか」
「ああ」
なんでもないことのようにうなずいた。
あまりの素直さにこっちが赤面してしまう。
「私じゃ、だめですか?」
凛々子は雅冬さんの体に身を寄せ、もたれかかった。
「だめだな」
即答され、凛々子はむっとしていた。
「そっくりじゃないですか!」
「はあ!?どこがだ?仕事の邪魔だ。もう出ていけ」
どんっと突き飛ばされ、凛々子は悔しそうな顔をし、出て行った。
鉢合わせるのが嫌で秘書室に慌てて入って、隠れた。
凛々子が出ていくと、なに食わぬ顔で雅冬さんの前に出ていき、緑茶とタイ焼きを出した。
「盗み聞きか?」
「そんなことしてません」
「タイ焼き、冷たくなっているけど」
ハッとして、タイ焼きを見てしまった。
「やっぱり聞いてたか」
震えながら、笑いをこらえていた。
「いいですよ。大笑いしても」
「違う」
笑いながら、腕を掴んだ。
「聞いてたなら、わかっただろ」
耳元で低い声がささやいた。
「しっ、仕事中ですから」
「答えは?」
目を細め、腕を掴んだまま、答えるまで離してくれそうにない。
「嫌いではないです」
「お前!もっと言いようがあるだろ!」
「仕事中はちょっと」
「仕事中じゃなかったら、よかったのか」
雅冬さんはブツブツ言いながら、タイ焼きの尻尾をかじった。
「タイ焼き、初めて食べたけど、うまいな」
こっちの気も知らないで、雅冬さんときたら、気楽なものだ。
凛々子は絶対になにか仕掛けてくる。
タイ焼きをのんきに食べてる場合じゃないよね。ほんと。
鬱々とした気持ちでタイ焼きの頭をかじったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


仕事が終わると、運転手さんが家まで送ってくれた。
雅冬さんは残業らしい。
なので、自分の部屋で、一人作戦会議を開いた。
どう考えても、明らかにこっちが不利よね。
凛々子は身だしなみには気を付けてるし、お洒落だし、男の人を手玉にとるだけあって、二股してたり、本当かどうかは知らないけど、合コンに行ったら、必ず一人はおとすって、自慢げに言っていたし。
雅冬さんをつなぎとめる?って、そもそもどうしたら、いいかさえ、わからない。
色仕掛け?
どうやるんだろう。
一人作戦会議は早々に終了してしまった。
「はあ」
このまま、今までみたいに凛々子にとられちゃうのかな。
まるで作戦会議にならない。
あまりに恋愛スキルが低すぎて。
ゴロゴロとベッドに転がっていると、部屋のドアが開いた。
凛々子が立っていた。
なんだ、なんだ!
驚いて起き上がり、身構えた。
突然の敵の襲来に心の準備はまったくできていない。
「菜々子。社長は菜々子のこと、好きみたいね」
「う、うん」
「おめでとう、菜々子。よかったわね」
にっこりと凛々子は微笑み、手を握った。
え?なに?この展開。
「まあ、がんばってね」
宣戦布告のように言うと、凛々子は部屋を出て行ってしまった。
嫌な予感しかしなかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


次の日の朝、起きると、凛々子はもういなかった。
早いなあ。
ふあ、と欠伸あくびをしてクローゼットを開けるとスーツが一着足りない。
「あれ?」
なんで?
不思議に思っていたけれど、会社に着き、凛々子を見ると、その疑問は一気に解決した。
受付に私と同じメイクをし、髪型にし、勝手に私のスーツを着て座っていた。
さすがの雅冬さんも驚いていた。
「似てるな」
「双子ですからね」
凛々子が私の真似をしたこと以外は特になにもなく、午後になり、終業時間になった。
いつものようにファイルに書類を片付けていると、内線が鳴った。
「はい、社長室です」
「営業だけど、会議用の書類をとりにきてくれるかな?急ぎなんだ」
「わかりました」
珍しいと思ったけれど、急ぎなら仕方ないかと席を立ち、営業部の方へ向かった。
営業に急いでいったのになかなか書類を出してくれず、ずっと待っていると、そんなものはないと言われた。
「え!?」
嫌な予感がして、慌てて、社長室に戻ると、案の定、凛々子がいた。
そして―――
「社長、私じゃダメですか?」
雅冬さんに迫っていた。

   

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