獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第一章

8 獣の本性

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お風呂から出ると、さすがの私も一日の疲れで眠くなってきた。
ふらふらと寝室を探してドアを開けるとそこには大きなベッドがあった。

「うわー! ベッドが大きい! 王様みたーいっ!」

さっきまでの眠気はどこへやら。
助走をつけて、ベッドにダイビングした。
軽く前転してみる。
余裕だった。
枕も一個だけじゃなくて、四個もある。

「もしや……これは枕投げができる?」

お風呂は広いし、ベッドも大きいし。
至れり尽くせりの環境だった。
というより、高級なホテルってこんなかんじなのかな。
ただ部屋の中はシンプル。
生活に必要なもの以外は高也は何も置いてなかった。
だから、ちょっと驚いた。
執着するものがないっていうか……
私なんてお風呂に浮かべるアヒルちゃんまで持ってきたのに高也の趣味も嗜好も部屋からは一切わからなかった。

「お気に入りのものとかないのかなー」

ごろごろと転がった。
なんだか、落ち着かない気分なのはきっと私が着ているパジャマのせい。
家から持ってきたTシャツと七分丈ジャージを着ようとしたら、高也たかやに没収された。
私のユニフォームともいえる中学校時代からの定番服なのに。
しかも、落ち着く。
代わりに渡されたパジャマはリボンとフリル付の襟と袖がついたヒラヒラのやつ。
ワンピースじゃないから、まだいいけど、こんなの可愛すぎだし。
高也はこういうのが趣味なのかな……
うーむと腕を組んで考えていると、タオルで髪を拭きながら高也が寝室に入ってきた。
う、うわあ。上半身裸だよ。
筋肉質だなあって、ちっがーう!

「たっ、高也っ! 上っ! 上をちゃんと着てよっー!」

目を閉じて早くっと私が手でパタパタしていると高也がようやく気づいてくれた。

「ああ、そうか」

「そうかじゃないよっ! それに高也はリビングで寝るって言ってたでしょ!?」

枕を盾に叫んだ。
心臓に悪すぎる。この環境。

「上だけでそんな慌ててどうするんだ。獣の姿になったら裸だぞ」

「それはそうだけど。獣の姿になれるの?」

「当り前だろ。佳穂かほも一度見ている。覚えてないか」

ベッドの端に座って屈託なく高也が笑う。

「そんなことあった? 覚えてないよ」

「お前は俺の獣の姿を猫って言ってたからな」

「えー?」

ふ、と首に指が触れた。
首にはネックレスがある。
七年前、高也がくれた赤い石のネックレス。
それを懐かしそうに眼を細めて高也は見た。

「佳穂。ずっとネックレスつけていたのか」

「うん。高也と約束したからね!」

「そうか」

ぼすっと肩に高也の頭がのった。
―――泣いてる?
まさかね?

「ねえ、高也。この赤い石って何?」

他の獣人達が私から高也の匂いがするって言っていたけど、この赤い石からじゃないかと思っていた。
私を守るためにこれをくれたんじゃないかって、ずっと気になっていた。

「俺の血を特殊な技術で石にしてもらった」

「血!?」

ネックレスを指で持ちあげ、高也は微笑んだ。

「安心した」

「安心?」

「ああ」

高也にも不安なことってあるのかな。
綺麗で強くて、賢い高也。
なんでもできてしまうのに――――そんな高也は私の肩に頭をのせ、しばらく黙ったまま動かなかった。

「高也。悩みがあるなら私に話してね」

その言葉に高也がわずかに動いた。

「頼りないかもしれないけど、私がこの学園にきたのは高也に会うためだけじゃなくて、力になるためにきたの」

高也の両頬を手で包み込んだ。

「俺の力に?」

「そうだよ。二度と高也を誘拐されないように強くなってここに来たの」

鋭い目をしていた金色の瞳が揺らいで私の体を高也は抱きしめた。
痛いほどにきつく。

「佳穂」

「うん」

「マーキングしてもいいか?」

「マーキング? いいよ」

頬にキスくらいなら、まあ。
ドキドキするけど、許容範囲だよね。
挨拶と変わらないと自分に言い聞かせた。
それなのに体をベッドに押し倒されて、大きな体がのしかかった。
え、えっー!?

「た、高也……んっ……!?」

唇が重なり、なにか言おうとしても唇を塞がれていて何も言えない。
私のファーストキスじゃない!?
これは?
記念すべきファーストキスって、そんな記念している場合じゃない。

「んんっ?」

舌が中をなぞり、絡めとられた。
少女漫画でみたいな軽いキスじゃない。
まるで、獣が獲物を喰らい尽くすようなキス。
肩からするりとパジャマが容易く脱がされたのがわかった。
まさか、マーキングって!?

「まっ……待っ……」

飢えたような激しいキスの雨にどうしていいかわからない。
胸を大きな手が包み込みこんだ。
直にふれる肌と肌の感触。

「やっ、やめっ……」

唇が離れて舌がうなじから胸元をなぞり、赤い痕を残していく。
赤い痕が体につけられるたび、その部分が熱を持ち、熱い。
太股に手がかかった瞬間、声をあげた。

「待った! 待ったあああ! これ以上はダメっ!」

ぴたりと手を止め、高也が私の顔を覗きこんだ。
なにその不満そうな顔は!

「だ、だめ!」

大事なことだから二回言いました!
ぎろりと高也をにらみつけた。

「これからだろ」

「これ以上したら、出ていくからねっ」

「わかった。しない」

その言葉にホッとして、ぐしっと涙を拭いた。
なにこれ、大人すぎる。
私が涙目になっていることに気づき、高也は心配そうに聞いてきた。

「怖かったか?」

「高也が怖いわけじゃないけど」

「まだ佳穂には早すぎるか」

「そういうことです……」

ふ、と高也が笑う。
一緒に眠れる気がまったくしない。

「私が知っている高也は子供のままだもん」

リビングで寝よう。
もう半泣きだった……
枕を持った私を見て高也の手が止めた。

「待て」

「待たないよ! こ、こんな大人なキスされて一緒に眠れるわけないでしょ!」

「じゃあ。こうしよう」

そう言うと体が一瞬で変化し、金色のライオンになった。
光の粒がこぼれてキラキラしていた。
すごい―――綺麗。

「ライオン!」

「どうだ」 

「うわー! すごいね、高也、綺麗!」

思わず、拍手した。

「そんなに喜ばれると複雑な気持ちになるな」 

ぎゅっと首にしがみつく。
毛並みが上等の絨毯みたいに気持ちいい。
それに暖かくて、なんだか安心する。

「眠れそうか」

高也の声は心なしか弾んでいた。   

「うん!」
  
ふさふさとした尻尾も可愛いし、ふわふわした毛が気持ちいい。
包まれるとウトウトしてきて、睡魔が襲ってきた。
色々あってなかなか寝付けないかと思っていたのにふかふかとした毛並みに包まれると暖かくて、すぐに眠ってしまった。  
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