獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第一章

34 祭りのあと

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波乱と混乱の体育祭が終わったけれど、新聞や週刊誌はいまだマリアステラ学園のスキャンダルを取り上げていて、騒ぎが収まるどころか豹路家ひょうじけ一乗寺いちじょうじ財閥にマスコミが押し寄せていて、今回の虐めの真相を追及されているらしい。

『マリアステラ学園内部で虐めか!?』
『一乗寺財閥の隠された闇の手口』
『コネで一部女子生徒を優遇!』
『名門豹路家の権威失墜!』

―――など激しく叩かれることとなった。
綾子さん達は退学をなんとか免れたものの在学中はBクラス扱いの処罰を受けた。

「これで一乗寺財閥も豹路家もしばらくはおとなしくなるわね」

希和きわはふんっと鼻先で笑った。
そして、眼鏡をかけ直す。
視力がいい希和の眼鏡は度が入っていない。
眼鏡をかけているのはフレーム部分に隠しカメラを仕込んであるためだ。

「おとなしくなればいいけど」

「珍しいわね。佳穂かほが不安になるなんて」

「私がBクラスになった時はもう失うものはないって思ったんだよね……。だから、同じように綾子さん達がそう考えないかなって」

「そうね。用心するに越したことはないわ」

「うん」

「一応、今回の体育祭のことも報告書を作成して外部に報告してあるわ」

希和は仕事が早い。
コンビニ行った時に連絡をとれただけの私と大違い。
SSクラスになった希和は両親とメールで連絡をとることを許可してもらった。
それにより、外部へ自由にデータを送れるようになったのだ。
今までの全ての映像データはすでに外部に持ちだされている。
外では一乗寺、豹路を初めとする獅央家しおうけに従属する者達の不正を暴き始めていた。
獅央家も心穏やかではいられないはずだ。

「希和。そろそろ大ボスが出てくるかもね」

獅央家の総裁である高也のお父さん。
女子高校生相手にここまでやられて黙っているタイプとは思えない。

「佳穂。わかっていると思うけど、生半可な相手じゃないわよ」

「うん」

「なんの話だ?」

「大ボスってゲーム?」

高也と鷹我おうがさんが一緒に現れ、夕食のステーキをぼとっと皿の上に落としてしまった。

「佳穂。肉ばかり食ってないで野菜もちゃんと食えよ」

「わ、わかってるよ!」

「ゲームしたりマンガばかり読んでゴロゴロしているんじゃないだろうな?」

「違うよっ! 小学生の頃の私と一緒にしないでよねー! もー、高也って口うるさいお父さんみたい」

「誰がお父さんだ!」

なんとか誤魔化せたけど、高也はお父さん呼びが気に入らなかったらしく、軽くにらんできた。
ふ、ふーん!
怖くないし!

「キングがお父さんになっちゃうのは佳穂ちゃんに色気がないせいだよね」

「えっ!? 私に色気がない!?」

鷹我さんの聞き捨てならないセリフにステーキを食べていた手を止めた。

「佳穂。なに驚いてるのよ」

「希和は俺が虜だけあって、色気があるよ」

古柴君が夕食の注文を終えて希和の隣に座った。
あの体育祭以来、古柴君は周りから一目置かれるようになった。
クイーンに一撃を与え、(ただしくは二か所)無傷で生還したのは獣人達の中では初めてだったらしい。
高也達がどれだけ強いかわかるエピソードなんだけど、古柴君という小さな存在が奮闘したのが勇気を与えたとかなんとか―――古柴君はいい。
私の色気ゼロ問題だよ。

「高也。ちょっと座って」

「ああ」

素直に高也が座った。

「なんだ。佳穂からキスでもしてくれるのか」

「す、す、するわけないでしょ!」

顔を赤くして怒る私にふっと高也が笑った。

「佳穂のことを好きになるのは俺だけでいい」

「……うん」

その一言で私の色気ゼロ問題はどうでもよくなった。
安心したところでステーキをもぐもぐと食べ始めると高也が私に言った。

「おい。それでなんだったんだ」

「あっ!? そうだった。来週から高也は修学旅行だよね?」

「行くつもりはないけどな」

「駄目だよ。学校の行事なんだし、学生時代のいい思い出だよ。枕投げとか恋バナとかしちゃうでしょ?」

高也が注文した夕食が運ばれてきて、私がなにも言わないのに自分の皿から私の皿にデザートのイチゴをころんと入れてくれた。
なんでわかるんだろう。
イチゴが好きだって……って違う!
そうじゃない!

「修学旅行といえば、友達との思い出作りだよっ!」

「友達ねぇ……」

希和が鷹我さんを見る。
そして、ここにはいない豹路さんを思い浮かべた。
殺伐とした空気で同じ部屋で安眠は難しそうな気がする。

「俺がいなくなると学内の秩序が乱れる。特に今は佳穂になにか危険が及ぶかもしれないからな」

「大丈夫だって! 古柴君もいるし、希和もいるし。部屋だってSクラスのセキュリティ万全な場所にあるんだから心配しないで行ってきて」

やっぱりそうだった。
高也が修学旅行に行かないって言い出すのは私が原因じゃないかって疑っていた。

「わかった。けど、行く前にマーキングはするからな」

「えっ……!」

「色気がないと思ってるのは俺以外の男だけだ」

高也が悪い顔をして私に微笑んだ。
誰に言われなくても高也がそう言ってくれるだけでいい。
鷹我さんに勝ち誇った顔をすると笑われてしまった。
もしかして、こうなることは想定済み!?
修学旅行前に高也が私といたいと思っていることを鷹我さんが察していたのかもしれない。
鷹我さんは何も言わずに少し離れた席に移動して夕食を注文していた。
羽竜さんや大熊さん、狼谷さんもカフェテリアにやってきたけれど、体育祭からずっと豹路さんだけカフェテリアに姿を見せず、そのことを気にかけていたものの何も聞かずにいたことは失敗だったと後から思ったのだった―――
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