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27 傷
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―――とうとう、いたしてしまった。
朝の光がカーテンの隙間から、射し込んでいる。
もう起きないといけないのに天清さんの腕の中に抱き締められていて、下手に動けない。
二人で遅刻なんてしたら、いかにもじゃない!?
ど、ど、どうしたらいいのー!
神様、教えて!
と、経験乏しい私の頭にピコンと選択肢が浮かんだ。
▶️【遅刻なんて気にしないっ!】
【彼を優しく起こす】
乙女ゲームのエキスパートたる私も事後の選択肢はどちらが正解なのか、悩ましくて選べない。
そもそも優しく起こすって、どうすれば?
まさか、私からき、き、キス!?
そんなー!
レベルが高すぎるよー!神様ー!
ぶんぶんっと頭を横に振った。
「なに唸って……月子?……もう朝?」
「は、はい」
悩みすぎて唸っていたらしい。
二人が初めて結ばれた日の目覚めが唸り声って、どうなんだろうと複雑な気持ちになりながら、起きようとすると天清さんがふざけて腕をつかんで、笑いながらボフッと布団に引き戻した。
「な、なにするんですか。遅刻しますよ」
「遅刻しようか?二人で」
そんな冗談に思わず、にっこり微笑み合ったけど―――
「仕事頑張りますよ」
「起きたくないなー」
けっこう本気だったらしい。
天清さんは名残惜しげにぽすっと胸に顔を埋めた。
「っ―――!!?」
ずさっと体を離した私に驚いて天清さんは腕をつかんだ。
「ええっ!?月子?どうかした?」
「は、は、恥ずかしすぎます!」
「えっー!?」
「明るいですし」
「そんなー」
すすすっと腕から抜け出て離れ、シーツで体を隠した。
「仕事に行きますよ」
「……まあ、少しずつだよね」
ちょっと拗ねたように天清さんは言って、がっくりと枕に顔を伏せていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午前は天清さんも遠堂さんもやることがあったみたいで、出社していたけど、午後からは出張と言っていなくなった。
私はというと、詩理さんと二人でフェアの試作に取りかかっていた。
「月子お姉様、気合い入ってますね」
「そ、そう!?」
昨日の私とは違うっていうか、滲み出る色気?
きっと隠そうとしても隠しきれない大人の女性としての魅力が―――
「あの……ハンバーグ、お煎餅くらいにまで薄くなってますよ」
―――しまった。
苦笑気味にハンバーグに厚みを戻した。
まずはベーシックにハンバーグを焼く。
じゅーっとフライパンの上でいい音をたてた。
ハンバーグはソースに絡めるパターンとソースに煮込むパターンの二つをまずは試作する。
「うわあ。おいしそう!いい香りですね」
出来上がったものを詩理さんと私でわけあい、試食した。
「玉ねぎの食感は絡めた方が残りますね。しっかり焼き目はあったほうがいいかなあ……。詩理さんはどちらがお好みですか?焼き目は薄めかしっかりか―――詩理さん?」
ハンバーグを食べながら、詩理さんは泣きそうな顔をしていた。
「どっ、どうしました!?私、なにか失礼なことをしてしまいましたか!?」
「いえ。違うんです。お兄様の結婚相手が月子お姉様でよかったと思って」
「そんな!私なんて未熟者な上に天清さんにっ……」
我慢をと言いかけて、手で口を塞いだ。
あ、危ない。
何を言おうとしたの?
私は。
「月子お姉様、気づいていらっしゃると思うんですけど」
「えっ!?も、もちろんですよ!」
わからなかったけど、頷いた。
「お兄様の体に傷があったでしょう。あれは他の人を庇ってついたものなんです」
「庇って?」
「私のもう一人の兄がいたでしょう?」
「家から追い出されてましたね」
「昔から父に叱られると、その腹いせに遠堂を殴ったり蹴ったりしていたんです。他の人達と」
「遠堂さんが!?」
あんな不遜な態度の遠堂さんが黙って殴られるなんて信じられない。
「遠堂は新崎で親が働いていて、逆らえなかったのでしょうね。殴り返せば、クビになると思って」
「そんな……」
「お兄様はそんな遠堂に気づいて、よく庇われてました」
だから、遠堂さんは天清さんに絶対の忠誠心を持っていたんだ。
「天清さんらしいです」
「私、天清お兄様には幸せになって欲しいんです」
「もちろんです!」
「月子お姉様。お父様が何を考えているかわかりませんが、天清お兄様を信じて下さい。お兄様はお父様に絶対に負けませんから」
「うっ……!は、はい。なんとか」
さすがにラスボス相手に『任せてください!』とは即答できなかった。
詩理さんが私にどうして、こんなことを言ったか、まだこの時はわからなかった。
けれど、何があっても私からは離れない。
そう心に決めていた―――
朝の光がカーテンの隙間から、射し込んでいる。
もう起きないといけないのに天清さんの腕の中に抱き締められていて、下手に動けない。
二人で遅刻なんてしたら、いかにもじゃない!?
ど、ど、どうしたらいいのー!
神様、教えて!
と、経験乏しい私の頭にピコンと選択肢が浮かんだ。
▶️【遅刻なんて気にしないっ!】
【彼を優しく起こす】
乙女ゲームのエキスパートたる私も事後の選択肢はどちらが正解なのか、悩ましくて選べない。
そもそも優しく起こすって、どうすれば?
まさか、私からき、き、キス!?
そんなー!
レベルが高すぎるよー!神様ー!
ぶんぶんっと頭を横に振った。
「なに唸って……月子?……もう朝?」
「は、はい」
悩みすぎて唸っていたらしい。
二人が初めて結ばれた日の目覚めが唸り声って、どうなんだろうと複雑な気持ちになりながら、起きようとすると天清さんがふざけて腕をつかんで、笑いながらボフッと布団に引き戻した。
「な、なにするんですか。遅刻しますよ」
「遅刻しようか?二人で」
そんな冗談に思わず、にっこり微笑み合ったけど―――
「仕事頑張りますよ」
「起きたくないなー」
けっこう本気だったらしい。
天清さんは名残惜しげにぽすっと胸に顔を埋めた。
「っ―――!!?」
ずさっと体を離した私に驚いて天清さんは腕をつかんだ。
「ええっ!?月子?どうかした?」
「は、は、恥ずかしすぎます!」
「えっー!?」
「明るいですし」
「そんなー」
すすすっと腕から抜け出て離れ、シーツで体を隠した。
「仕事に行きますよ」
「……まあ、少しずつだよね」
ちょっと拗ねたように天清さんは言って、がっくりと枕に顔を伏せていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午前は天清さんも遠堂さんもやることがあったみたいで、出社していたけど、午後からは出張と言っていなくなった。
私はというと、詩理さんと二人でフェアの試作に取りかかっていた。
「月子お姉様、気合い入ってますね」
「そ、そう!?」
昨日の私とは違うっていうか、滲み出る色気?
きっと隠そうとしても隠しきれない大人の女性としての魅力が―――
「あの……ハンバーグ、お煎餅くらいにまで薄くなってますよ」
―――しまった。
苦笑気味にハンバーグに厚みを戻した。
まずはベーシックにハンバーグを焼く。
じゅーっとフライパンの上でいい音をたてた。
ハンバーグはソースに絡めるパターンとソースに煮込むパターンの二つをまずは試作する。
「うわあ。おいしそう!いい香りですね」
出来上がったものを詩理さんと私でわけあい、試食した。
「玉ねぎの食感は絡めた方が残りますね。しっかり焼き目はあったほうがいいかなあ……。詩理さんはどちらがお好みですか?焼き目は薄めかしっかりか―――詩理さん?」
ハンバーグを食べながら、詩理さんは泣きそうな顔をしていた。
「どっ、どうしました!?私、なにか失礼なことをしてしまいましたか!?」
「いえ。違うんです。お兄様の結婚相手が月子お姉様でよかったと思って」
「そんな!私なんて未熟者な上に天清さんにっ……」
我慢をと言いかけて、手で口を塞いだ。
あ、危ない。
何を言おうとしたの?
私は。
「月子お姉様、気づいていらっしゃると思うんですけど」
「えっ!?も、もちろんですよ!」
わからなかったけど、頷いた。
「お兄様の体に傷があったでしょう。あれは他の人を庇ってついたものなんです」
「庇って?」
「私のもう一人の兄がいたでしょう?」
「家から追い出されてましたね」
「昔から父に叱られると、その腹いせに遠堂を殴ったり蹴ったりしていたんです。他の人達と」
「遠堂さんが!?」
あんな不遜な態度の遠堂さんが黙って殴られるなんて信じられない。
「遠堂は新崎で親が働いていて、逆らえなかったのでしょうね。殴り返せば、クビになると思って」
「そんな……」
「お兄様はそんな遠堂に気づいて、よく庇われてました」
だから、遠堂さんは天清さんに絶対の忠誠心を持っていたんだ。
「天清さんらしいです」
「私、天清お兄様には幸せになって欲しいんです」
「もちろんです!」
「月子お姉様。お父様が何を考えているかわかりませんが、天清お兄様を信じて下さい。お兄様はお父様に絶対に負けませんから」
「うっ……!は、はい。なんとか」
さすがにラスボス相手に『任せてください!』とは即答できなかった。
詩理さんが私にどうして、こんなことを言ったか、まだこの時はわからなかった。
けれど、何があっても私からは離れない。
そう心に決めていた―――
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