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15 令嬢のお願い
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レクスの一言は絶大な効果をもたらした。
毎朝、美しい花が届けられ、食事の内容はがらりと変わって種類も量も豊富になった。
でも、食事は別だし、お茶の時間を一緒に過ごすこともない。
――待遇がよくなるのはいいけど、家族の関係は変わらないわね。
そう思いながら、今日はレクスからもらった鍵を手に、図書室へやってきた。
ルスキニア皇宮図書室――目の前に広がる本、本、本。
その素晴らしい蔵書の数々に、うっかりレクスを褒め称えたくなった。
――ダメダメ。レクスは悪逆皇帝(将来)なんだから、万歳なんて間違っても言ってはいけないわ。
「うわっ! これ、私でさえ見たことない魔法書! こんなのが読めるなんて、ルスキニア帝国万歳!」
「ばんじゃい」
「ばんじゃーい」
アーレントとフィンセントの声で、ハッと我に返った。
二人は読めているのかいないのか、私の真似をして難しい本を読んでいる。
「アーレントとフィンセントは魔法書を理解して読んでいるの?」
「んーと」
「ちゅこし」
――少しでもわかるなんて、もしや天才?
そういえば、未来のアーレントとフィンセントが、私の弟子たちと戦った時、剣に魔法を付与して対等に戦っていた。
レクスもだけど、子供たちも力の使い方がうまく、戦闘の才能がある。
――子供たちを強くするって決めたけど、間違った方向にいかないよう導かないとね。
今まで多くの弟子たちに魔法を教えてきた私、大魔女。
教えた魔法を悪事に使った場合、私が直々にぶん殴りに……もとい、正しにいくと伝えてあるからか、暴走した弟子は今のところいない。
子供たちが強くなるのも大事だけど、私も今以上に強くならなければならない。
――そう思ったから、レクスに頼んでルスキニア皇宮の図書室を使わせてもらったのよね。
知識に魔力を加え、形にしたものが魔法である。
知識がなければ、魔力だけあっても魔法を構築できないのだ。
ルスキニア帝国には、レクスが支配した国々に保管されていた貴重な文献や魔法書の数々がある。
これによって、私はさらに強くなれるというわけだ。
「アーレント、フィンセント。魔法を使う時は慎重に、よく考えてから使うのよ。特に二人は皇子なんだから、人のために使うこと。いいわね?」
まだわからないかもしれないけど、言い聞かせておこうと思った。
「さすが皇妃様。そのとおりです」
私が二人に語りかけるのを聞いていたエルナンドが、遠い場所からうなずいた。
「アーレント様とフィンセント様は、皇帝陛下に似て優秀でいらっしゃいます。民に慈悲をもって接すれば、ルスキニア帝国史に残る皇帝となられるはずです」
――残虐で冷酷な皇子じゃなく、素晴らしい皇帝として名を残す。
そうであってほしいと願うのは、私だけでなく、エルナンドも同じだった。
「あの……エルナンド様? もう少し近づいても構いませんよ?」
レクスに私の護衛を命じられたエルナンドは、図書室の出入り口に控えている。
私が信用できないと言ったため、レクスが一番信用しているエルナンドを寄越したのだ。
それはいいけど、私たちがいる場所とエルナンドがいる場所は、もはや別室かなというくらい距離があった。
「皇帝陛下からの命令です。必要以上に近づくなと言われております」
「そ、そう?」
それはいいけど、声が遠い。
「ご自分が忙しくて、皇妃様やアーレント様たちに構えないから、私に嫉妬してるんですよ」
「そんなことはないと思うけど……」
「ありますよ。案外、子供っぽい性格をなさってます」
身近にいるエルナンドだから許される言葉だ。
レクスの部屋に入り、意外な一面があると知った今、エルナンドの言葉を否定できなかった。
「本もよろしいですが、そろそろ剣の練習をしなくてはなりませんね」
「もう!? 歩くのもやっとなのに早いわ!」
「あーれ、つよい」
「ふぃんも! おかーしゃま、守る」
子供たちの言葉に感動しつつも、そうはいかないと首を横に振る。
「二人を守るのは、お母様の役目よ。今は魔法の基礎を練習しましょう」
「えー」
「けん、ざくー!」
「二人が転ばないで走れるようになったら、剣の稽古を始めていいわ」
残念そうな子供たちとエルナンド。
戦闘狂すぎる三人――レクスを入れたら四人は、ちょっとでも早く武器を使いたいようだ。
「むぅ。あーれ、ちゅよい」
「ざくぅ! ばしぃ!」
「駄目。まだ早いわ」
アーレントとフィンセントの膨らんだ頬を指で、ぷすっと突き刺し、へこませる。
「この本を読めるようになったらね」
どれだけ剣を習いたいのか、なんとか読もうとする二人。
これでしばらく静かになるだろう。
やれやれと思いながら、魔法書をめくる。
「……願いを叶える魔女のおまじない? かなり古いものみたいね」
古い本に書いてあったのは、魔女を呼び出すおまじないだった。
おまじないと侮ることなかれ。
古い時代の言い伝えやおまじないは、実際に効果があるものが残っていたりする。
「なんですか? それ?」
「魔女を呼び出して、願いを叶えることができるらしいわ。でも、代償は自分自身よ」
興味がわいたのか、エルナンドは近づき、魔法書を覗き込む。
「それはおかしいですね。願いの代償に自分が死んだら、願いを叶えても意味がないのでは?」
エルナンドは首をかしげた。
自分の願いが叶ったかどうか見届けることもできない。
「神殿の管理下にない古い本は、おまじないといえど、危険な場合もあるわ。この本は神殿に預けて調べてもらいましょう」
神殿は大勢の神官を束ねる組織で、古代の魔法についての研究も熱心である。
「わかりました。この本は神殿に預けて調べさせます」
エルナンドに本を渡す。
「もし、これが本物で、魔女を召喚するおまじないとして、知られているものなら、禁止しなくてはいけないわ」
「皇妃様は魔法に詳しいですね」
エルナンドの言葉に深い意味はないはずだけど、私の正体は大魔女。
バレたかと思い、少し動揺してしまった。
「えっ!? そ、そうね。最近、興味が出て……」
「アーレント様とフィンセント様が魔法を使えるようになったからですよね」
「そ、そうそう!」
「皇妃様は教育熱心でいらっしゃいます」
エルナンドは私に尊敬の眼差しを向ける。
「皇妃様が皇帝陛下と皇子を大切に思ってくださり、本当に嬉しい限りです」
「家族が大切なのは当たり前でしょう?」
「はい。でも、以前はアーレント様とフィンセント様に声をかけられたり、皇帝陛下と会話することも、ほとんどなかったので心配だったのですよ」
愛されない皇妃ユリアナ。
でも、愛されなかったのはユリアナだけだったのだろうか。
レクスもまたユリアナから、愛されていなかったとしたら……
――レクスの心の隙。
部屋に飾られた私と子供たちの手紙と絵が頭に浮かんだ。
レクスが手に入れたかったのは、世界なんかじゃなく、ささやかな幸せだったのでは?
幼い頃から、手に入れようと思っても手に入れられなかったもの。
それは家族。
「そういうことね」
レクスの心に隙がなくなれば、【魅了】魔法をどうにかできるかも――
「なにがだ?」
「レクス……様っ!」
突然現れたレクスを危うく呼び捨てにするところだった。
「そんなに驚かなくてもいいだろう?」
「おとーしゃま、だっこ!」
「だっこ!」
レクスは子供たちを抱き上げる。
――心臓が飛び出るかと思った!
レクスのことを考えてなかったら、きっとここまで驚かなかった。
最近の私はおかしい。
レクスの【魅了】を解くことばかり考えているような気がする。
長期間、かけられていた【魅了】は簡単に解けないとわかっているのに。
「あら、皇妃様もこちらにご用事があったのですね」
「クリスティナ……」
レクスと一緒に図書室へやってきたのか、クリスティナもいた。
「皇帝陛下は皇妃様がここにいると知っていて、会いに来たんですよね!」
エルナンドが満面の笑顔で言ったけど、レクスは迷惑そうな顔をした。
――図書室に用事があっただけじゃないのかしら?
「恥ずかしがり屋ですからねぇ~」
「エルナンド。お前はしゃべりすぎだ」
「誤解されやすい皇帝陛下の代わりに、私が説明しているだけです。皇帝の補佐官ですので」
得意げにエルナンドは言ったけど、クリスティナは暗い表情をしていた。
――また【魅了】魔法を使わなければいいけど。
レクスにかけた守護魔法に気づかずに、また【魅了】を使ったら、クリスティナはふたたび傷を負うだろう。
「皇帝陛下は皇妃様に会いたかったのですか?」
悲しげな表情を浮かべたクリスティナは、恋に苦しむ乙女そのものだった。
その姿は支えてあげたいと思わせ、【魅了】されてなくても心が揺らぐ。
「会いたくないなら、ここへはこない」
レクスは頭痛がするのか、額に汗がにじんでいる。
「そうですよね。皇妃様は皇帝陛下の大切な方ですもの……」
目を潤ませ、泣きそうになるクリスティナ。
気まずい顔をしているエルナンドは、クリスティナの恋の相談を受けているらしく、すべて察しているようだ。
――エルナンドはいい人だけど、気をつけないと。クリスティナに【魅了】されて、好意を持ってるはずだし。
先日、筋肉を眺めるマニアックなデートをした二人。
作られた好意とはいえ、クリスティナはエルナンドの好意を利用できる立場だ。
――このまま、クリスティナを皇宮に滞在させるのは危険だわ。
レクスの頭痛を減らし、クリスティナの影響を薄めて【魅了】を解く。
それには、クリスティナを遠ざける必要がある。
すでに、クリスティナの傷は綺麗に消え、皇宮に滞在する理由もなくなった。
傷が癒えても、クリスティナが皇宮にいるのは、レクスとエルナンドが滞在を許しているからだ。
「クリスティナ。そろそろ伯爵家へ戻られたほうがよろしいのではなくて? ご両親も待っていることでしょう」
「皇妃様は私がお邪魔ですか?」
「そういうわけではないけど……」
クリスティナはレクスを見つめる。
滞在を引き伸ばすつもりだとわかった。
「皇帝陛下。私は皇妃様のお友達になりたいと思ってます。ですから、私を皇妃様の話し相手として、皇宮に残していただけませんか?」
なにを言い出すのか、クリスティナはレクスに滞在の延長――それも、期限なしの滞在を要求したのだった。
毎朝、美しい花が届けられ、食事の内容はがらりと変わって種類も量も豊富になった。
でも、食事は別だし、お茶の時間を一緒に過ごすこともない。
――待遇がよくなるのはいいけど、家族の関係は変わらないわね。
そう思いながら、今日はレクスからもらった鍵を手に、図書室へやってきた。
ルスキニア皇宮図書室――目の前に広がる本、本、本。
その素晴らしい蔵書の数々に、うっかりレクスを褒め称えたくなった。
――ダメダメ。レクスは悪逆皇帝(将来)なんだから、万歳なんて間違っても言ってはいけないわ。
「うわっ! これ、私でさえ見たことない魔法書! こんなのが読めるなんて、ルスキニア帝国万歳!」
「ばんじゃい」
「ばんじゃーい」
アーレントとフィンセントの声で、ハッと我に返った。
二人は読めているのかいないのか、私の真似をして難しい本を読んでいる。
「アーレントとフィンセントは魔法書を理解して読んでいるの?」
「んーと」
「ちゅこし」
――少しでもわかるなんて、もしや天才?
そういえば、未来のアーレントとフィンセントが、私の弟子たちと戦った時、剣に魔法を付与して対等に戦っていた。
レクスもだけど、子供たちも力の使い方がうまく、戦闘の才能がある。
――子供たちを強くするって決めたけど、間違った方向にいかないよう導かないとね。
今まで多くの弟子たちに魔法を教えてきた私、大魔女。
教えた魔法を悪事に使った場合、私が直々にぶん殴りに……もとい、正しにいくと伝えてあるからか、暴走した弟子は今のところいない。
子供たちが強くなるのも大事だけど、私も今以上に強くならなければならない。
――そう思ったから、レクスに頼んでルスキニア皇宮の図書室を使わせてもらったのよね。
知識に魔力を加え、形にしたものが魔法である。
知識がなければ、魔力だけあっても魔法を構築できないのだ。
ルスキニア帝国には、レクスが支配した国々に保管されていた貴重な文献や魔法書の数々がある。
これによって、私はさらに強くなれるというわけだ。
「アーレント、フィンセント。魔法を使う時は慎重に、よく考えてから使うのよ。特に二人は皇子なんだから、人のために使うこと。いいわね?」
まだわからないかもしれないけど、言い聞かせておこうと思った。
「さすが皇妃様。そのとおりです」
私が二人に語りかけるのを聞いていたエルナンドが、遠い場所からうなずいた。
「アーレント様とフィンセント様は、皇帝陛下に似て優秀でいらっしゃいます。民に慈悲をもって接すれば、ルスキニア帝国史に残る皇帝となられるはずです」
――残虐で冷酷な皇子じゃなく、素晴らしい皇帝として名を残す。
そうであってほしいと願うのは、私だけでなく、エルナンドも同じだった。
「あの……エルナンド様? もう少し近づいても構いませんよ?」
レクスに私の護衛を命じられたエルナンドは、図書室の出入り口に控えている。
私が信用できないと言ったため、レクスが一番信用しているエルナンドを寄越したのだ。
それはいいけど、私たちがいる場所とエルナンドがいる場所は、もはや別室かなというくらい距離があった。
「皇帝陛下からの命令です。必要以上に近づくなと言われております」
「そ、そう?」
それはいいけど、声が遠い。
「ご自分が忙しくて、皇妃様やアーレント様たちに構えないから、私に嫉妬してるんですよ」
「そんなことはないと思うけど……」
「ありますよ。案外、子供っぽい性格をなさってます」
身近にいるエルナンドだから許される言葉だ。
レクスの部屋に入り、意外な一面があると知った今、エルナンドの言葉を否定できなかった。
「本もよろしいですが、そろそろ剣の練習をしなくてはなりませんね」
「もう!? 歩くのもやっとなのに早いわ!」
「あーれ、つよい」
「ふぃんも! おかーしゃま、守る」
子供たちの言葉に感動しつつも、そうはいかないと首を横に振る。
「二人を守るのは、お母様の役目よ。今は魔法の基礎を練習しましょう」
「えー」
「けん、ざくー!」
「二人が転ばないで走れるようになったら、剣の稽古を始めていいわ」
残念そうな子供たちとエルナンド。
戦闘狂すぎる三人――レクスを入れたら四人は、ちょっとでも早く武器を使いたいようだ。
「むぅ。あーれ、ちゅよい」
「ざくぅ! ばしぃ!」
「駄目。まだ早いわ」
アーレントとフィンセントの膨らんだ頬を指で、ぷすっと突き刺し、へこませる。
「この本を読めるようになったらね」
どれだけ剣を習いたいのか、なんとか読もうとする二人。
これでしばらく静かになるだろう。
やれやれと思いながら、魔法書をめくる。
「……願いを叶える魔女のおまじない? かなり古いものみたいね」
古い本に書いてあったのは、魔女を呼び出すおまじないだった。
おまじないと侮ることなかれ。
古い時代の言い伝えやおまじないは、実際に効果があるものが残っていたりする。
「なんですか? それ?」
「魔女を呼び出して、願いを叶えることができるらしいわ。でも、代償は自分自身よ」
興味がわいたのか、エルナンドは近づき、魔法書を覗き込む。
「それはおかしいですね。願いの代償に自分が死んだら、願いを叶えても意味がないのでは?」
エルナンドは首をかしげた。
自分の願いが叶ったかどうか見届けることもできない。
「神殿の管理下にない古い本は、おまじないといえど、危険な場合もあるわ。この本は神殿に預けて調べてもらいましょう」
神殿は大勢の神官を束ねる組織で、古代の魔法についての研究も熱心である。
「わかりました。この本は神殿に預けて調べさせます」
エルナンドに本を渡す。
「もし、これが本物で、魔女を召喚するおまじないとして、知られているものなら、禁止しなくてはいけないわ」
「皇妃様は魔法に詳しいですね」
エルナンドの言葉に深い意味はないはずだけど、私の正体は大魔女。
バレたかと思い、少し動揺してしまった。
「えっ!? そ、そうね。最近、興味が出て……」
「アーレント様とフィンセント様が魔法を使えるようになったからですよね」
「そ、そうそう!」
「皇妃様は教育熱心でいらっしゃいます」
エルナンドは私に尊敬の眼差しを向ける。
「皇妃様が皇帝陛下と皇子を大切に思ってくださり、本当に嬉しい限りです」
「家族が大切なのは当たり前でしょう?」
「はい。でも、以前はアーレント様とフィンセント様に声をかけられたり、皇帝陛下と会話することも、ほとんどなかったので心配だったのですよ」
愛されない皇妃ユリアナ。
でも、愛されなかったのはユリアナだけだったのだろうか。
レクスもまたユリアナから、愛されていなかったとしたら……
――レクスの心の隙。
部屋に飾られた私と子供たちの手紙と絵が頭に浮かんだ。
レクスが手に入れたかったのは、世界なんかじゃなく、ささやかな幸せだったのでは?
幼い頃から、手に入れようと思っても手に入れられなかったもの。
それは家族。
「そういうことね」
レクスの心に隙がなくなれば、【魅了】魔法をどうにかできるかも――
「なにがだ?」
「レクス……様っ!」
突然現れたレクスを危うく呼び捨てにするところだった。
「そんなに驚かなくてもいいだろう?」
「おとーしゃま、だっこ!」
「だっこ!」
レクスは子供たちを抱き上げる。
――心臓が飛び出るかと思った!
レクスのことを考えてなかったら、きっとここまで驚かなかった。
最近の私はおかしい。
レクスの【魅了】を解くことばかり考えているような気がする。
長期間、かけられていた【魅了】は簡単に解けないとわかっているのに。
「あら、皇妃様もこちらにご用事があったのですね」
「クリスティナ……」
レクスと一緒に図書室へやってきたのか、クリスティナもいた。
「皇帝陛下は皇妃様がここにいると知っていて、会いに来たんですよね!」
エルナンドが満面の笑顔で言ったけど、レクスは迷惑そうな顔をした。
――図書室に用事があっただけじゃないのかしら?
「恥ずかしがり屋ですからねぇ~」
「エルナンド。お前はしゃべりすぎだ」
「誤解されやすい皇帝陛下の代わりに、私が説明しているだけです。皇帝の補佐官ですので」
得意げにエルナンドは言ったけど、クリスティナは暗い表情をしていた。
――また【魅了】魔法を使わなければいいけど。
レクスにかけた守護魔法に気づかずに、また【魅了】を使ったら、クリスティナはふたたび傷を負うだろう。
「皇帝陛下は皇妃様に会いたかったのですか?」
悲しげな表情を浮かべたクリスティナは、恋に苦しむ乙女そのものだった。
その姿は支えてあげたいと思わせ、【魅了】されてなくても心が揺らぐ。
「会いたくないなら、ここへはこない」
レクスは頭痛がするのか、額に汗がにじんでいる。
「そうですよね。皇妃様は皇帝陛下の大切な方ですもの……」
目を潤ませ、泣きそうになるクリスティナ。
気まずい顔をしているエルナンドは、クリスティナの恋の相談を受けているらしく、すべて察しているようだ。
――エルナンドはいい人だけど、気をつけないと。クリスティナに【魅了】されて、好意を持ってるはずだし。
先日、筋肉を眺めるマニアックなデートをした二人。
作られた好意とはいえ、クリスティナはエルナンドの好意を利用できる立場だ。
――このまま、クリスティナを皇宮に滞在させるのは危険だわ。
レクスの頭痛を減らし、クリスティナの影響を薄めて【魅了】を解く。
それには、クリスティナを遠ざける必要がある。
すでに、クリスティナの傷は綺麗に消え、皇宮に滞在する理由もなくなった。
傷が癒えても、クリスティナが皇宮にいるのは、レクスとエルナンドが滞在を許しているからだ。
「クリスティナ。そろそろ伯爵家へ戻られたほうがよろしいのではなくて? ご両親も待っていることでしょう」
「皇妃様は私がお邪魔ですか?」
「そういうわけではないけど……」
クリスティナはレクスを見つめる。
滞在を引き伸ばすつもりだとわかった。
「皇帝陛下。私は皇妃様のお友達になりたいと思ってます。ですから、私を皇妃様の話し相手として、皇宮に残していただけませんか?」
なにを言い出すのか、クリスティナはレクスに滞在の延長――それも、期限なしの滞在を要求したのだった。
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