私達は結婚したのでもう手遅れです!

椿蛍

文字の大きさ
54 / 56
番外編

女の勘

しおりを挟む
冬悟さんからおめでたい知らせを聞いて、私はお祝いに焼き印入りのお饅頭を用意しておいた。
紅白の昔ながらのお饅頭。
百花は『小学校の入学式みたいじゃない?花の方がいいんじゃない?』と心配そうに言っていたけど、『柳屋』のお饅頭はおいしいから、きっと喜んでくれるはずだと思う。
たぶん……

「仙崎さん。ご結婚おめでとうございます」

箱に詰めた焼き印入り饅頭。
それを恭しく仙崎さんは受け取った。

「ありがとうございます。羽花さんにも日を改めてご紹介させていただきます」

「はいっ!楽しみにしてますね!」

冬悟さんもどことなく嬉しそうだ。
竹のベンチに座って、冬悟さんは『青紅葉』の練り切をお抹茶と一緒に食べていた。
『青紅葉』を見ると温泉旅行を思い出して、思わずにっこりしてしまう。
きっとこの『青紅葉』の期間中はずっとそんなかんじかもしれない。

「温泉旅行、また行きたい」

「そんなに楽しかったの?」

「うん。百花も行くといいよ」

「そう……そうね」

百花も温泉旅行に心がグラついているようだった。
ご当地キャラのキーホルダーをお土産にあげた時、目をキラキラさせていたのをお姉ちゃんは見逃さなかったよ!

「百花、お店のことは心配しなくても二日間くらい私一人でやれるから大丈夫。だから、彼氏と温泉に行ってきて」

「かっ……彼氏なんて」

否定しようとしていたけど、百花の目が泳いでいた。
やっぱりこれはいますね。
彼氏が!!
人妻となった私の女の勘が発動中ですよ。
そんな私の旦那様である冬悟さんは私の仕事が終わるのを待ってくれている。
仕事帰りの冬悟さん。
スーツを着ていて、いつもどおりなのに冬悟さんが座っている空間だけ茶室に見える。
なんて優雅なんだろう、ずっと眺めていたいなって―――待たせているのに見惚れている場合じゃなかった。
『柳屋』では今、さびらきのぼた餅を注文を受けて販売している。
さびらきは田植えを始める時のことをいう。
ぼた餅を田植えの時に持ち寄ったり、お供えをするのに購入される方がいて、『柳屋』ではぼた餅を期間限定で販売していた。
期間限定ということもあって、注文される方が多い。
だから、『柳屋』は普段より忙しい。

「すみません。冬悟さん。もう少し待ってくださいね」

「ああ。ゆっくりでいいぞ」

今日、受けた注文書を揃えながら、冬悟さんに尋ねた。

「冬悟さん。仙崎さんのお相手はどんな人なんですか?」

「小料理屋の女将で落ち着いた人だ」

「小料理屋!女将!?着物姿の?」

「そうだ」

「しっとり大人の雰囲気で……」

「まあそうだな」

「私の女の勘も捨てたもんじゃないですね」

冬悟さんが『えっ!?』と、私の方を振り返った。
なぜか物凄く戸惑っていたけど、私は気にしない。
やっぱり人妻になっただけあって、私の勘はかなり鋭くなっているみたいだった。

「仙崎さんもとうとう結婚かぁー」

「竜江さん。今日は仕事がお休みって言ってたなかったですか?彼女とデートだって張り切っていましたよね?」

「あー、あれねー。彼女が忙しくてなくなった」

「残念でしたね」

「うん、かなり」

私が慰めると、竜江さんはチラッと百花を見ていた。
百花は箱を数え、どこの分の注文なのか付箋に名前を書いてはりつけていた。
明日の準備をする百花の手元のボールペンがいつもより派手めの明るい色だということに気が付いた。
ただの事務用黒ボールペンではない。

「あれは……!」

付箋に字を書く百花の手にはご当地キャラのボールペンが握られている。
私が見間違えるわけがない。
まさか、竜江さんの黒い策略の相手は百花!?
そうかもしれない。
私の人妻の勘がピンときている。

「百花、あの―――」

「お姉ちゃん、ごめん。数をかぞえてるから、静かにして」

叱られてしまった。

「あ、うん」

「あー、怒られたなー」

なぜか竜江さんが嬉しそうだった。
いつも自分が怒られているせいだろうか。

「お姉ちゃん。もう私だけで大丈夫、ありがとう」

「えっ!でもっ!」

「冬悟さんを待たせているから、申し訳ないでしょ」

それはそうなんだけど、ボールペン……
そのボールペンが気になってしかたない。

「終わったのか」

「あ……はい。お待たせしてすみません」

百花と竜江さんを交互に見たけど、特に変なところはない。
特別な会話もないし、竜江さんはいつもの週刊誌を熱心に読んでいて、百花は箱を数えている。
私の気のせい?
それとも、竜江さんの黒い策略に百花が狙われているだけ?

「竜江さんっ!」

「ん?」

「この間買っていたご当地キャラのお土産は誰にあげたんですか?」

「え?百花ちゃんあげたよ」

普通に返された。
黒い策略はただのお土産感覚だったの?
私が深読みしたせい?

「羽花。また買いに行こう」

冬悟さんは私がご当地キャラグッズがまだ欲しいのだと思ったらしく、そんなことを言った。
ちがう、ちがうんですよっー!
でも、私の勘違いだったら?
大笑いされるに決まってる。
人妻の勘よ!!
今、ここでピコンッときて!

「なにしてるの?お姉ちゃん、帰らないの?」

「冬悟さんを待たせるなよー!」

百花も竜江さんも自動ドアを開けたまま、突っ立っていた私にそんなことを言った。

「なにかあったか?羽花?」

「なんでもないです……」

冬悟さんに『百花が竜江さんにもてあそばれてます!』なんて言えない。
それこそ竜江さんの命の危機だよ。
私は胸の内にとどめた。
竜江さんの命を救うため―――
けれど、百花は?
気になりつつも『柳屋』をあとにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...