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番外編
女の勘
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冬悟さんからおめでたい知らせを聞いて、私はお祝いに焼き印入りのお饅頭を用意しておいた。
紅白の昔ながらのお饅頭。
百花は『小学校の入学式みたいじゃない?花の方がいいんじゃない?』と心配そうに言っていたけど、『柳屋』のお饅頭はおいしいから、きっと喜んでくれるはずだと思う。
たぶん……
「仙崎さん。ご結婚おめでとうございます」
箱に詰めた焼き印入り饅頭。
それを恭しく仙崎さんは受け取った。
「ありがとうございます。羽花さんにも日を改めてご紹介させていただきます」
「はいっ!楽しみにしてますね!」
冬悟さんもどことなく嬉しそうだ。
竹のベンチに座って、冬悟さんは『青紅葉』の練り切をお抹茶と一緒に食べていた。
『青紅葉』を見ると温泉旅行を思い出して、思わずにっこりしてしまう。
きっとこの『青紅葉』の期間中はずっとそんなかんじかもしれない。
「温泉旅行、また行きたい」
「そんなに楽しかったの?」
「うん。百花も行くといいよ」
「そう……そうね」
百花も温泉旅行に心がグラついているようだった。
ご当地キャラのキーホルダーをお土産にあげた時、目をキラキラさせていたのをお姉ちゃんは見逃さなかったよ!
「百花、お店のことは心配しなくても二日間くらい私一人でやれるから大丈夫。だから、彼氏と温泉に行ってきて」
「かっ……彼氏なんて」
否定しようとしていたけど、百花の目が泳いでいた。
やっぱりこれはいますね。
彼氏が!!
人妻となった私の女の勘が発動中ですよ。
そんな私の旦那様である冬悟さんは私の仕事が終わるのを待ってくれている。
仕事帰りの冬悟さん。
スーツを着ていて、いつもどおりなのに冬悟さんが座っている空間だけ茶室に見える。
なんて優雅なんだろう、ずっと眺めていたいなって―――待たせているのに見惚れている場合じゃなかった。
『柳屋』では今、さびらきのぼた餅を注文を受けて販売している。
さびらきは田植えを始める時のことをいう。
ぼた餅を田植えの時に持ち寄ったり、お供えをするのに購入される方がいて、『柳屋』ではぼた餅を期間限定で販売していた。
期間限定ということもあって、注文される方が多い。
だから、『柳屋』は普段より忙しい。
「すみません。冬悟さん。もう少し待ってくださいね」
「ああ。ゆっくりでいいぞ」
今日、受けた注文書を揃えながら、冬悟さんに尋ねた。
「冬悟さん。仙崎さんのお相手はどんな人なんですか?」
「小料理屋の女将で落ち着いた人だ」
「小料理屋!女将!?着物姿の?」
「そうだ」
「しっとり大人の雰囲気で……」
「まあそうだな」
「私の女の勘も捨てたもんじゃないですね」
冬悟さんが『えっ!?』と、私の方を振り返った。
なぜか物凄く戸惑っていたけど、私は気にしない。
やっぱり人妻になっただけあって、私の勘はかなり鋭くなっているみたいだった。
「仙崎さんもとうとう結婚かぁー」
「竜江さん。今日は仕事がお休みって言ってたなかったですか?彼女とデートだって張り切っていましたよね?」
「あー、あれねー。彼女が忙しくてなくなった」
「残念でしたね」
「うん、かなり」
私が慰めると、竜江さんはチラッと百花を見ていた。
百花は箱を数え、どこの分の注文なのか付箋に名前を書いてはりつけていた。
明日の準備をする百花の手元のボールペンがいつもより派手めの明るい色だということに気が付いた。
ただの事務用黒ボールペンではない。
「あれは……!」
付箋に字を書く百花の手にはご当地キャラのボールペンが握られている。
私が見間違えるわけがない。
まさか、竜江さんの黒い策略の相手は百花!?
そうかもしれない。
私の人妻の勘がピンときている。
「百花、あの―――」
「お姉ちゃん、ごめん。数をかぞえてるから、静かにして」
叱られてしまった。
「あ、うん」
「あー、怒られたなー」
なぜか竜江さんが嬉しそうだった。
いつも自分が怒られているせいだろうか。
「お姉ちゃん。もう私だけで大丈夫、ありがとう」
「えっ!でもっ!」
「冬悟さんを待たせているから、申し訳ないでしょ」
それはそうなんだけど、ボールペン……
そのボールペンが気になってしかたない。
「終わったのか」
「あ……はい。お待たせしてすみません」
百花と竜江さんを交互に見たけど、特に変なところはない。
特別な会話もないし、竜江さんはいつもの週刊誌を熱心に読んでいて、百花は箱を数えている。
私の気のせい?
それとも、竜江さんの黒い策略に百花が狙われているだけ?
「竜江さんっ!」
「ん?」
「この間買っていたご当地キャラのお土産は誰にあげたんですか?」
「え?百花ちゃんあげたよ」
普通に返された。
黒い策略はただのお土産感覚だったの?
私が深読みしたせい?
「羽花。また買いに行こう」
冬悟さんは私がご当地キャラグッズがまだ欲しいのだと思ったらしく、そんなことを言った。
ちがう、ちがうんですよっー!
でも、私の勘違いだったら?
大笑いされるに決まってる。
人妻の勘よ!!
今、ここでピコンッときて!
「なにしてるの?お姉ちゃん、帰らないの?」
「冬悟さんを待たせるなよー!」
百花も竜江さんも自動ドアを開けたまま、突っ立っていた私にそんなことを言った。
「なにかあったか?羽花?」
「なんでもないです……」
冬悟さんに『百花が竜江さんにもてあそばれてます!』なんて言えない。
それこそ竜江さんの命の危機だよ。
私は胸の内にとどめた。
竜江さんの命を救うため―――
けれど、百花は?
気になりつつも『柳屋』をあとにしたのだった。
紅白の昔ながらのお饅頭。
百花は『小学校の入学式みたいじゃない?花の方がいいんじゃない?』と心配そうに言っていたけど、『柳屋』のお饅頭はおいしいから、きっと喜んでくれるはずだと思う。
たぶん……
「仙崎さん。ご結婚おめでとうございます」
箱に詰めた焼き印入り饅頭。
それを恭しく仙崎さんは受け取った。
「ありがとうございます。羽花さんにも日を改めてご紹介させていただきます」
「はいっ!楽しみにしてますね!」
冬悟さんもどことなく嬉しそうだ。
竹のベンチに座って、冬悟さんは『青紅葉』の練り切をお抹茶と一緒に食べていた。
『青紅葉』を見ると温泉旅行を思い出して、思わずにっこりしてしまう。
きっとこの『青紅葉』の期間中はずっとそんなかんじかもしれない。
「温泉旅行、また行きたい」
「そんなに楽しかったの?」
「うん。百花も行くといいよ」
「そう……そうね」
百花も温泉旅行に心がグラついているようだった。
ご当地キャラのキーホルダーをお土産にあげた時、目をキラキラさせていたのをお姉ちゃんは見逃さなかったよ!
「百花、お店のことは心配しなくても二日間くらい私一人でやれるから大丈夫。だから、彼氏と温泉に行ってきて」
「かっ……彼氏なんて」
否定しようとしていたけど、百花の目が泳いでいた。
やっぱりこれはいますね。
彼氏が!!
人妻となった私の女の勘が発動中ですよ。
そんな私の旦那様である冬悟さんは私の仕事が終わるのを待ってくれている。
仕事帰りの冬悟さん。
スーツを着ていて、いつもどおりなのに冬悟さんが座っている空間だけ茶室に見える。
なんて優雅なんだろう、ずっと眺めていたいなって―――待たせているのに見惚れている場合じゃなかった。
『柳屋』では今、さびらきのぼた餅を注文を受けて販売している。
さびらきは田植えを始める時のことをいう。
ぼた餅を田植えの時に持ち寄ったり、お供えをするのに購入される方がいて、『柳屋』ではぼた餅を期間限定で販売していた。
期間限定ということもあって、注文される方が多い。
だから、『柳屋』は普段より忙しい。
「すみません。冬悟さん。もう少し待ってくださいね」
「ああ。ゆっくりでいいぞ」
今日、受けた注文書を揃えながら、冬悟さんに尋ねた。
「冬悟さん。仙崎さんのお相手はどんな人なんですか?」
「小料理屋の女将で落ち着いた人だ」
「小料理屋!女将!?着物姿の?」
「そうだ」
「しっとり大人の雰囲気で……」
「まあそうだな」
「私の女の勘も捨てたもんじゃないですね」
冬悟さんが『えっ!?』と、私の方を振り返った。
なぜか物凄く戸惑っていたけど、私は気にしない。
やっぱり人妻になっただけあって、私の勘はかなり鋭くなっているみたいだった。
「仙崎さんもとうとう結婚かぁー」
「竜江さん。今日は仕事がお休みって言ってたなかったですか?彼女とデートだって張り切っていましたよね?」
「あー、あれねー。彼女が忙しくてなくなった」
「残念でしたね」
「うん、かなり」
私が慰めると、竜江さんはチラッと百花を見ていた。
百花は箱を数え、どこの分の注文なのか付箋に名前を書いてはりつけていた。
明日の準備をする百花の手元のボールペンがいつもより派手めの明るい色だということに気が付いた。
ただの事務用黒ボールペンではない。
「あれは……!」
付箋に字を書く百花の手にはご当地キャラのボールペンが握られている。
私が見間違えるわけがない。
まさか、竜江さんの黒い策略の相手は百花!?
そうかもしれない。
私の人妻の勘がピンときている。
「百花、あの―――」
「お姉ちゃん、ごめん。数をかぞえてるから、静かにして」
叱られてしまった。
「あ、うん」
「あー、怒られたなー」
なぜか竜江さんが嬉しそうだった。
いつも自分が怒られているせいだろうか。
「お姉ちゃん。もう私だけで大丈夫、ありがとう」
「えっ!でもっ!」
「冬悟さんを待たせているから、申し訳ないでしょ」
それはそうなんだけど、ボールペン……
そのボールペンが気になってしかたない。
「終わったのか」
「あ……はい。お待たせしてすみません」
百花と竜江さんを交互に見たけど、特に変なところはない。
特別な会話もないし、竜江さんはいつもの週刊誌を熱心に読んでいて、百花は箱を数えている。
私の気のせい?
それとも、竜江さんの黒い策略に百花が狙われているだけ?
「竜江さんっ!」
「ん?」
「この間買っていたご当地キャラのお土産は誰にあげたんですか?」
「え?百花ちゃんあげたよ」
普通に返された。
黒い策略はただのお土産感覚だったの?
私が深読みしたせい?
「羽花。また買いに行こう」
冬悟さんは私がご当地キャラグッズがまだ欲しいのだと思ったらしく、そんなことを言った。
ちがう、ちがうんですよっー!
でも、私の勘違いだったら?
大笑いされるに決まってる。
人妻の勘よ!!
今、ここでピコンッときて!
「なにしてるの?お姉ちゃん、帰らないの?」
「冬悟さんを待たせるなよー!」
百花も竜江さんも自動ドアを開けたまま、突っ立っていた私にそんなことを言った。
「なにかあったか?羽花?」
「なんでもないです……」
冬悟さんに『百花が竜江さんにもてあそばれてます!』なんて言えない。
それこそ竜江さんの命の危機だよ。
私は胸の内にとどめた。
竜江さんの命を救うため―――
けれど、百花は?
気になりつつも『柳屋』をあとにしたのだった。
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