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33 再会【斗翔】
しおりを挟むその日、森崎建設に朝日奈建設からの来客があるとわかり、社内は騒然とした。
勘のいい人間なら、わかるはずだ。
なぜ朝日奈建設の人間がここにきたのか。
そして、風を切るようにエントランスを歩く二人は目立っていた。
他者を圧倒する雰囲気もそうだが、外見の良さから周囲は色めき立ち、遠巻きに二人を眺めていた。
特に女性社員はわざわざ足を止めて見ていた。
「こんにちは」
胡散臭い笑顔で高吉伶弥は笑った。
その隣にはにこりともしない男、納多を連れて。
二人の名刺を眺めると『経営顧問』と『社長秘書』とある。
「民宿よりは似合ってるよ」
「困るな。星名が悲しむ」
しらじらしいセリフだ。
自分も会うと言った優奈子の顔は蒼白だった。
事情は電話で聞いている。
夏永に小切手や誓約書を突き付けて破られたこともね。
それを聞いた時は嬉しくてつい顔の表情がゆるんでしまった。
夏永は俺を信じてくれていることがわかったから。
「またお会いしましたね」
「あ、あなたは朝日奈建設の人間だったの?」
優奈子の言葉に一緒にいた納多が代わりに答えた。
「伶弥さんは朝日奈建設社長の兄で経営顧問をされています」
「アドバイザーってとこかな」
そういう納多も社長秘書だ。
この男、やっぱりただ者じゃなかったな。
夏永はぼんやりしているところがあるから、危険すぎる。
俺と納多はなんとなく黙ったまま、お互いを見ていた。
探るように。
その隙に優奈子がサッと逃げようとしたのを納多が前に立ち、退路を塞いだ。
ひっと小さい悲鳴が聞こえた。
体のでかい納多に立ち塞がられては確かに恐怖だろうけど、それだけじゃないらしい。
「どうしました?自己紹介したらどうです?この間のようにね」
「なんのこと」
「妻が作った物を食べずにうちの娘に投げつけたことを忘れたのかな」
ひそひそと他の社員達が耳打ちしていた。
『朝日奈建設の偉い人に失礼があったらしいわよ』
『やると思った』
『謝らないのかしら』
―――という声に優奈子は押されるようにして小さい声で謝罪した。
「も、申し訳ありませんでした」
「なに?」
にっこりと微笑んだまま、伶弥はほらもう一度どうぞと目で合図した。
これはかなり悪い男だ。
納多もうなずいている。
「ちゃ、ちゃんと言ったじゃない」
「聞こえなかったら、言ってないことと同じだよ」
「そのとおりです」
納多は強い口調で賛同する。
この二人、森崎建設の将来の話より、妻と娘に失礼な真似をしたことの方が重要なのではないだろうかという勢いだった。
気持ちはわかる。
しばらく、黙って眺めていると、とうとう優奈子が大きい声で謝罪した。
「申し訳ありませんでした!これでいいでしょ!」
「そうだね。それを妻と娘の前でしてもらうよ」
「い、いやよ!もうあんな田舎には行かないわ!」
「それなら、朝日奈建設が共和銀行との取引をやめるまでだ」
「卑怯よ!お父様の仕事と私は関係ないでしょ!」
俺が笑うと優奈子がこっちを見た。
「どうして笑ったの!」
「相手は君と同じことをしただけだよ?」
笑ったことがないのではと思っていた納多も口の端をあげて笑った。
まあ、そうだよね。
こんな皮肉なことはない。
「森崎社長!これはどういうことですか!」
経営コンサルタントと銀行から出向してきた人間が集まってきた。
それを納多が手で制した。
「これから話し合いが行われるところです。社の権限を持つのは社長のはず。他の人間は遠慮していただきたい」
さすが社長秘書。
なれたもので、さっと名刺を渡すとなにか小声で話してやってきた人間を黙らせてしまった。
「じゃあ、俺達は行こうか」
「相当悪い人間だな」
「ほめ言葉をありがとう」
高吉伶弥はとんでもない男だった。
納多よりもきっとその腹の中は底知れない。
きっと優しいのは自分の妻にだけ。
「君も俺と同類だと思うけどね」
同類―――そう言われ、苦笑した。
俺はまだ優しい人間だと思うよ。
たぶんね。
「君も一緒にくる?」
エレベーターに向かおうとした伶弥は足を止め、優奈子に尋ねたけれど返事はなかった。
それを見て、悪魔のように笑った。
「これないか」
その場から動けずにいる優奈子を置き去りにし、エレベーターに乗った。
納多が優奈子の手に請求書をのせた。
「クリーニング代の請求書です。それでは失礼」
―――しっかりしている。
二人は涼しい顔でエレベーターに乗るとようやく本題を話しだした。
社員を守り、自由になるために出した答えを夏永は笑うだろうか。
それともほめてくれる?
きっと怒りはしないはず。
見えない胸元をそっと手のひらで覆って目を閉じ、うなずいた。
「これからお願いします」
待っていて。
夏永―――
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