ダンジョン配信で有名になって美少女と結婚したい!

ツキナミ

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第一章: 明けない夜が明けるまで

第9話 大バズり

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 愛花を下ろすと残念そうな反応をされるが、俺がちゃんと嫌がっていることを察すると、伊達メガネを掛けてくれた。これでも気付く人は気付くだろうが、それでもさっきよりはある程度マシだろう。

 こんなに注目を集めるとは全く思っていなかったので、もちろん俺は変装道具なんてない。今まではダンジョン配信に興味がある人ですら知らない人のほうが多かったような存在が、一夜にしてこんなことになるなんて、誰が考えられるだろうか。

「とりあえず、未来にLINKしとかないとな……」

 ポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリのLINKを起動すると、物凄い数のメッセージが来ていることが通知されていた。未来からは、交換して以降何も来ていないようだった。

『めちゃくちゃ燃えてるけど、そっちは大丈夫か? 次の探索の日はちょっと時間を開けた方がいいかもしれない』

「朝が弱いって言ってたし、すぐ返信はこないか」

「ちゃっかりLINKまで交換してたんだ。ふ~ん」

「パーティメンバーと連絡取れなかったら大変だろうが」

「はいはい」

 同じように俺たちの目的地、月見ヶ峰つきみがみね高校は、三学年合わせた生徒数が千人ほどで、そこそこの学力の高校だ。月見ヶ峰という名前の通り、夜に屋上から見上げる月は格別らしい。見たことないけど。

 学校へと向かうたくさんの生徒の中を登校しているので、変に警戒する必要がなくなった俺たちは、気楽に足を進めていく。

「よし、これでもう大丈夫か」

「どうだろうね~?」

「え、なんだよ」

「はい、これ」

 愛花から見せられたスマホには、あるZへの投稿が映っていた。

 そこにあったのは、男の腕に嬉しそうに抱き着いて、上目遣いで顔を見上げながら幸せそうに笑っている愛花と、戸惑いながらも受け入れている男のツーショット写真。それとともに『愛花ちゃん、好きな人とうまくいったんだね、おめでとう!』という文が。この男、俺やん。 

 これはいいファンなのか悪いファンなのか……? これ。ただ俺からしたら間違いなく悪いファンだな。

 その投稿は、まだ十分ほどしか経っていないにもかかわらず、インプレッション数は既に100万を超えていた。大バズりである。

「があああああああああ! やばいってこれ!!!」

「あははははは! レオくん、頑張って! 望んでた通り、もう超有名人だよ! モテモテだよ!」

「やばいってマジで! どーすんだよこれ! 思いっきり顔映ってるって!」

 大爆笑している策略家幼馴染を尻目に、自分のスマホで急いでその投稿を確認し、ついているコメントや反応を確認していく。たくさんの愛花の女性ファンが、リテラシーを注意しながらも祝福しているようだった。

 ファンの層が違うから、俺のことだとはバレていないことを確認し、一息つく。

「ありゃりゃ~、間違えちゃった♡」

「はい……?」

「あ! ボタン間違えちゃうかも! ごめーんね♡?」

 再び俺に見せつけてきたスマホには、恐ろしいものが映っていた。

『この人は私の幼馴染のレオくんだよ! まだ付き合えてはないんだ! みんな誤解させちゃってごめんね!』

 という文に、さらに今朝の俺の寝顔を添えて、バズったその投稿をさらに引用しようとしているところだった。
 
「やめてくださいお願いしますうううううううう!」

「あ~! ごめ~ん、間違えちゃった!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」

 悪魔は、俺が見てきた中で一番悪い笑顔でボタンを押した。

「ごめんね~?」

「これ、おれ、しぬ」

 あまりの危機感と恐怖に真っ白に燃え尽きた俺は、教室に行くまでの記憶が全くなかった。新に後から聞くと、ウキウキした愛花に、恋人繋ぎで手を引かれながら連れてこられたらしい。嫉妬に狂う男子すら二股疑惑裁判を行う気になれないほど、俺の顔は死んでいたそうだ。





 気づいたときには授業は終わっていた。

「怜央ー、大丈夫かー?」

「あ、新か、おはよう」

「お前……もう昼休みだぞ。よっぽどビビったんだな」

「マジか……俺、どうなってる?」

「今日のトレンド一位だな。配信チャンネルの登録者、二万人くらい増えてるんじゃないか? おめでとう、お前は有名人になったんだ!」

「こんな形でなりたくねーよ……!」

「二股野郎、愛花ちゃんとどっちが本命なんですか、ハーレム野郎くたばれ、俺も探索者になって可愛い子と付き合いたい、ヤリチン、可愛い幼馴染ってどこで売ってますか、レオ自分から何もしてないのに大爆発で草、などなど……とにかく今一番熱い男だな」

 強い! 凄い! かっこいい! な少年漫画の主人公みたいになりたかったのに……叶わぬ夢だったようだ。

「次の配信は大変そうだなあ、お前。どうすんの?」

 二人で昼食を取り始める。新は今日もコンビニのおにぎりとパンだけみたいだ。

「……どうしよう?」

「はあ……。とにかく二股疑惑みたいなのは晴らした方がいいんじゃないか? お前のファンなら、お前が幼馴染がいるって言ってたのは知ってるだろうし、未来ちゃんの方も貰い事故みたいなもんだろ。未来ちゃんがちゃんと話せば丸く収まるさ」

「新……!」

「なんだよ、そんな目で見るな、照れくさい」

「お前、俺のファンだったのか……!」

「違うわ!」

 だって俺の配信めっちゃ見てないとわからんだろうそれ……。

 未来からのLINKの返信はまだ来ていない。もしかしたら、全くSNSを見ないタイプなのかもしれない。

「愛花は燃えてないのか?」

「もうあの子怖いよ、俺。全然燃えてない。ライバルいるけど頑張ってねとか、他の子といちゃついてるけど大丈夫なの? とか心配されてるくらい。一部のにわかファンがちょっとだけ騒いでたみたいだけど、前々から話してたってのがかなり大きいみたいだな」

「あいつホントに賢いな……。本気ってこれのことかよ……」

「もうどっちも選んじゃえばいいのに。S級探索者なら、何人かリアルハーレム作ってる人いるし。海外が多いけど」

「いや、そういう不誠実のはよくないだろ……そもそも俺は別に二人のことが異性として好きってわけでもないのに」

「はあ……お前の恋愛感情どこにあるんだよ」

 その時、俺たちの方に暑苦しい男たちが何人も押しかけてきた。

「これより、被告人、響怜央の裁判を始める。お前ら、囲め!」

「かかれーーー!!!」


「ちょっ! 何だよ急に!?」

 俺はラグビー部のムキムキマッチョに羽交い絞めにされ、抵抗する間もなく無力化された。新はなぜか一歩引いた位置でニヤニヤしている。

「お前! 裏切ったな!?」

「うるせえ! このハーレム野郎が! これより、尋問を始める! こいつは男の敵だ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

「モテたいとか言って実際にモテるなんて、万死に値する!」

「なんにも悪いことしてないだろ!」

「こちらが、特別ゲスト兼被害者の日南愛花さんだ! お忙しいところすみません!」

「ど~も~。お気遣いなく~?」

 むさくるしい男どもの後ろからあざとい笑顔で手を振りながら近づいてくる幼馴染。その後方には大量の野次馬がいた。これは逃げられない。

「獅子堂! 宮島! 離せ!」

「大人しくお縄につけ。今日がお前の命日だ!」

「お前らがドMでさらに既婚者でしか興奮できないことをばらしてもいいのか!?」

「やめろおおおおおおおおおおおおお!」

「うわぁ……」

 愛花の低い声でのドン引きが聞こえたのか、力がゆるんだところから、右腕の自由を取り戻す。

「宮島! お前はなんでダメージがないんだ……」

「はっ……。この程度、ご褒美だろ? 俺はあらゆる性癖を持ち、あらゆる女性を愛している。大人しく諦めるんだな」

「くそ……こいつ……」

「あきらめろ怜央。そいつは変態界隈にランク付けがあればS級だ
。お前が敵う相手じゃない」

「うるせえ! この裏切り者ロリコンが!」

「えぇ……」

「ぐはっ!? お前! この王道いちゃらぶ至上主義の分際で……! 実は小悪魔っ子が大好きなこと、知ってるんだからな!」

「へー、そうなんだ……?」

「ぐっ……これくらいただの致命傷……!」

 騒ぐだけ騒いで、大半の男衆が倒れ伏した教室は、まさに混沌という言葉でしか表せないような空間となっている。

「で、結局愛花ちゃんとはどういう関係なの? 幼馴染なのは知ってたけど、寝顔写真Zに上げるくらいって相当じゃない? ぶっちゃけ付き合ってんの?」

 尋問するはずだった男たちが次々と倒れ、痺れを切らした女子から聞かれる。

「ほんとにただの幼馴染だよ。一緒によく晩御飯食べるくらいなだけだ」

「今朝は一緒のベッドにいたけどね~?」

「はい有罪」

「怜央ぉおおおおおおおおお!」

 地獄の底から聞こえてくるかのような声が、下の方から響いてきた。実際倒れたバカたちが発狂している。

「違います! 起きたら愛花が入ってきてただけだから! 俺は何もしてない! 被害者!」

「信じると思う?」

「さいてー」

「fdskgjsだklghpgさdg;sdgkぁえぎあh」

「今なら俺、こいつを呪えそうだ」

「言葉になってないぞ」

「それもほんとだよー、私がずーーーーっと怜央くんに片思いしてるだけ~」

 えっ、という声が教室中に広がる。

「ほんとに付き合ってないんだ」

「こんなうらやまけしからん状況で、更に未来ちゃんに手を出すとは……恐れ入るぜ」

「よし……」

 これでようやく落ち着けるぜ……。

「でも、じゃあ未来ちゃんはどうなの?」

「そうだそうだ!」

「昨日初めて会ったんだから、付き合ってるとか好きとか、そういうのになるわけないだろ」

「じゃあなんでハグしてたの?」

「くんからいきなり呼び捨てになってたよね」

「普通に怪しい」

「ほんとにどっちともそういうのじゃないから! ばいばい!」

 拘束が完全になくなり、事情の説明も最低限できたので、軽く身体強化をして三階の窓から飛び降りて逃げた。

「逃げるな!!!」

 俺は教室の窓から顔を出す同級生たちを無視して、人のいなそうな場所へ逃げて、何とかやり過ごした。







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