上 下
7 / 22

7,菜の花の咲く隣の国の村

しおりを挟む

  

 そっと抜け出して、アルを置いて出て来てしまった。
途中で乗り合い馬車に乗り、隣国へ着いた。
ここは菜の花が咲き乱れる、のんびりとした田舎の村。主に農業・畜産で成り立っている。ここなら働き口がたくさんあるだろうと思い、やって来た。

 アル……。ごめん。
君なら、あの可愛い頭にある猫耳としっぽを隠してうまく生活出来ると思う。置いてきたお金が尽きる前にここで働いて得たお金を送ろうと思う。
きっと子供の姿なら近所の人が面倒見てくれる筈。……でもやっぱり心配だ。

 菜の花が風で揺れている。黄色い花がどこまでも続いていてとても綺麗だ。青い空と黄色い花。舗装されてない長く続く道。気持ちの良い風が吹いている。アルにも見せたかったな……。


「こんにちは!」
「こんにちは、ようこそ」
たぶん、村の一番賑わっている広場に着いた。小さいけれど中央に噴水があり、周りにはたくさんの花が飾られていた。村の人や旅人の憩いの場の様だ。小さい村だから、よそから来た私に気づき村人が挨拶してくれた。

「こんにちは。お天気が良いですね」
私は返事をした。
気の良さそうなおばさんがにっこり笑って
「ああ。良い天気だね!隣の国から来たのかい?旅行?」とたずねてきた。

 こういう時は、変に誤魔化しても駄目だ。
「ええ。菜の花が綺麗ですね」と言うと、
「菜の花はこの村の名物だよ!新婚旅行にくる人達が多いのさ」
新婚旅行か……。
「良いですね」
「お兄さんもいい人いて結婚したら新婚旅行においで!」
バン!と背中を叩かれた。
「イタタ……」思わず声が出た。

「ああ!ごめんよ!つい……。美人さんだったから!」
美人さん??
「大丈夫です。気になさらずに」
「あんた良い人だね!」
おばさん以外の声が聞こえた。気が付けば、村人が集まって来た。
「セシルおばさん、また力を入れすぎたの?仕方がないわねぇ!」
おませそうな女の子が話しかけてきた。

 「良かったらどうぞ」
そう言い女の子は私に林檎を渡してきた。
「もらっていいの?」
女の子コクリと頷いた。
「ありがとう」と私は礼を言い、林檎をかじった。甘く、酸味が程よくあり、とても美味しい。

 私は林檎の美味しさにびっくりしながら
「今まで食べた中で一番美味しい林檎だ」と思わず声が出た。
「うふふ!良かった」
女の子は笑い母親らしき人のスカートの影に隠れた。
 私はもらった林檎を全部食べた。


 「そう言えば、王都で獣人が暴れて捕まったらしいねー?アンタも気を付けなさいね!」
「……獣人?」
気の良さそうなおばさんが心配して教えてくれた。
「それはいつの話です?」
おばさんの両肩を掴み、聞いた。
「えっ!?ああ、昨日の話らしいわよ?朝に王都から来た商人から聞いたの」

 昨日?
じゃあ、私が出たあと外に出て捕まってしまったのか!?アル!?
「……帰らないと!」
「え、まだこの村に着いたばかりじゃ……?」
「駄目だ。何て事……」
中央にある噴水の縁にフラフラと座りこんだ。
頭を抱え込み唇を噛んだ。
「ちょっと!お兄さん、顔色悪いわよ?大丈夫?」

 村人が心配そうに私を見ている。
「……帰らないと」
そう言うと村人達は顔を見合わせた。
「……よっぽどの事なんだな?いいよ、連れて行ってあげるぜ!」
村の青年が私の前に立ち、そう話しかけてきた。
「……え?本当に?」
見ると人の良さそうな、くりくりっとした髪の青年が笑顔で私を見ている。

 「王都行きの馬車は明日の朝までないよ。だから俺が連れて行ってあげるぜ」
私は青年の顔をじっと見た。
「良いのですか?」
そう言うと青年は顔を真っ赤にした。そわそわと落ち着きがない。
「そんなに綺麗な顔で俺を見つめないでくれ!ああ。連れて行ってやるよ!」
「ジョン兄ちゃん、顔真っ赤!」
「こら」
ハハハッ!っと村人達は笑った。

「急ぐだろう?馬車持って来るから待っていろ?」
そう言いジョン兄ちゃんと呼ばれた青年は駆けだして行った。
私はポカンと、呆けていた。その時に人の良さそうなおばさんが「さあ、お水と食べ物を持ってお行き」と言って袋を渡してくれた。
「中に入っているからね。途中でジョンと食べて。気をつけて帰るんだよ?」
そう話して私の手を握った。

「問題が解決したら、また旅行に来ておくれ!」「新婚旅行でもいいぞ!」「今度は泊まりに来てね!」
他の村人達からも声をかけられた。

 ガラガラガラ……と、ジョン兄さんが馬車を引いて来た。
「さあ乗りな!」
私はもらった袋を抱え、馬車に飛び乗った。
「気をつけて!」
口々に村人達が話しかける。
「行くぜ!」
パンっと馬を叩き走り出す馬車。
私は世話になった村人達に大声で言った。
「皆さん、ありがとう御座います!!」

「また来いよ~!」
親切な村人達の送る言葉を聞きながら、村を後にした。


 『アルは無事だろうか?』
風に揺れる黄色い菜の花を目の端で見ながら考えた。力を入れすぎたのか、手が白く血の気が無かった。無事でいてくれ……アル。
気持ちだけが焦り後悔ばかりしてしまう。置いて来るんじゃ無かった。まだ小さい少年なのに。

 馬車はガラガラと音を立て、王都へと向かった。






しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ある幸せな家庭ができるまで

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:2,746

BL 生徒会長が怖い

BL / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:1,044

幼馴染はとても病院嫌い!

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:8

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:160

あの空の向こう

青春 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:17

DR.清白の診察室 Ⅴ~義兄弟

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:56

4人の王子に囲まれて

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:207

捨てられた僕を飼うけだものは

BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:235

処理中です...