41 / 72
4章 二つの指輪
41.ピクニック…
しおりを挟む「ん? なんだ? ルカ」
ジッと見ていたのがバレたみたい。僕は笑って、ジッと見ていたのをごまかした。
「取れました?」
「ああ」
アラン様の大きな手が離れて行った。
「そういえば。ニールが聞いたらしいが、ルカは夢中に仕事をして倒れたらしいな」
あっ! お肉屋さんの奥さんからの情報だ。
「気を付けてくれ」
「はい……」
あのことは僕も反省している。
「ルカと出かけたくて休暇を取ったのだから、体調を崩さないでくれ」
アラン様が休暇を取るために頑張っていたのを、ニールさんから聞いてるから本当に気を付けようと思う。
「はい」
「では、食事にしようか」
アラン様は近づいて僕の手を取り、握った。
「はい」
僕は大きな手を握り返して、幸せな気持ちになった。
――そしてアラン様の休日。
「雲1つない、良いお天気ですね!」
馬車でしばらく走って行くと、広々とした植物公園に着いた。王家が管理する一般庶民が入れない公園だった。
「晴れて良かった」
僕は走りだしてドーム状の温室前に着いた。アラン様は後からゆっくり歩いてきた。
「健康的なデートですね」
孤児院にいたときに、女の子達の話が聞こえてきて「大人になったら、お酒を飲んで楽しむデート」をしたいと、話をしていたのを思い出してアラン様に言ってみた。
アラン様はちょっと怖い顔をして立ち止まった。いや、何かを我慢してるような表情?
「ルカは、不健康なデートをしたかったのか?」
「えっ」
ああっ! 違います……。
「それとも、大人のデートを望むか?」
アラン様は、ふっ……と笑った。これは、からかわれてる?
「アラン様、からかっていますね?」
僕が隣に来たアラン様の袖の部分を摘まんで言うと、ハハ……と声を出して笑った。
「まあ……。大人のデートはそのうち、な」
そう言いながら植物園のドーム状の温室の扉を開けて入って行った。
アラン様と過ごす、大人のデートってどんなのか興味を持った。
「わぁ……。中は暖かいですね」
中に入って歩いていくと、珍しい草花がたくさん管理されていた。
「他の国の植物もあるから、面白いぞ」
たしかに、見たことのない植物達がたくさんだ。
「ルカは、植物を育てたり観たりするのが好きだろう?」
あれ? その通りだけど話したことがあったかな?
「はい。好きです」
しばらく歩いて行くと、実がなっている区画にたどり着いた。
「あ、これ! バナナが実っている」
「へえ……。こんな感じで実がなるのか」
アラン様とこんなふうに話すのが、とても楽しい。
「こっちはコーヒーの木だな」
「これがコーヒーに……」
歩きながら色々な植物を観て、話して進んだ。
温度が管理されていて、ここの気温は少し高い。
「少し気温が高いですね。上着を脱いでいいでしょうか?」
「ああ。こちらに」
アラン様は、僕が脱いだ上着を受け取ろうとした。
「そんな。自分で持ちます!」
アラン様は、ネネさんに預けられたお昼ご飯の入ったピクニックバスケットを持っていた。
これ以上、持ってもらうわけにはいけない。
僕はアラン様が、上着を受け取ろうとしたので背中に隠そうとした。
「ルカ!」
「え?」
急にアラン様が走って来て僕を引き寄せた。
何が起こったか僕にはわからなかった。
アラン様に抱きしめられて、顔だけ動かして見ると大勢の騎士達がズラリと並んでいた。
誰かを守っている?
「アラン団長!」
「アラン団長だ」
ざわざわと騒がしくなる。
「失礼いたします! いらっしゃってたのですね。申し訳御座いませんが、この先は行けません」
一人の騎士さんが前に出てきて、アラン様に話しかける。
「ニールのやつ、黙っていたな」
ボソリと呟く。
どうやら要人が来ているらしい。
「いえ、ニール副団長は関係ありません。強引に……、ゴホン! 急にこちらを見学したいと……」
そうか。どうやら予定外のことだったらしい。
「そうか。それなら仕方がない。ルカ、行こう」
アラン様に肩を抱かれて、引き返そうとした。
「我のせいで、すまない。よければ一緒に見学しないか?」
振り返る前に聞こえたのは、威厳のある声だった。肩にあったアラン様の手が、僕を掴んだ。
僕の目に映ったのは、トラの耳と尾を持つ獣人だった。
「こちらにいらっしゃるのは、明後日では?」
アラン様が、トラの獣人さんに返事をした。
「アラン。君に会いたくて、早く来た」
トラの獣人さんは、アラン様に親しい感じで話しかけた。知り合いなのだろうか?
はーっ、とため息を吐いてアラン様は、僕から離れてトラの獣人さんの方に歩きだした。
「予定日は守って欲しかったが。……歓迎する」
アラン様とトラの獣人さんは親しげに、握手をした。
「偶然だけど、会えて嬉しい」
トラの獣人さんはアラン様に笑いかけた。黄色い髪色と茶色い瞳に、アラン様と同じ位の高い身長。鍛えていそうな筋肉。二人並ぶと迫力がある。強そうだ。
「すまないが、今日は休みなんだ。明後日、また会おう」
そう言ってアラン様は、クルリと回って僕の方へ来ようとした。え、いいのかな。
「なんだ。我に紹介してくれないのか?」
トラの獣人さんが僕を見て、アラン様に言った。目が合うと初めて会った人だけど、何となく懐かしい気持ちになった。
「しない。ルカ、行くぞ」
「ええ!?」
しないって……。偉い人なんじゃないかな? いいの!?
トラの獣人さんを置いて、早足でその場を去った。
ハッハッハッハッ! と後ろから笑い声が聞こえた。トラの獣人さんだ。
仲が良い……はず、だよね。なんだか一波乱ありそうな気がする。
アラン様は黙って僕の肩を強く抱いて、歩いて植物園を後にした。
「邪魔されたが、次の場所へ移動しよう」
「は、い」
応援ありがとうございます!
23
お気に入りに追加
2,635
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる