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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」
8 兄さまの屋敷へ
しおりを挟む「ルカ様、アラン様! お怪我はありませんか!」
やはりもみくちゃにされて護衛の人達が、私とアランを追ってやってきた。
「王は無事なのか?」
アランが護衛達に話しかけると「はい」と頷いた。
「護衛達に護られて無事に馬車へ」
「そうか」
アランはホッとした声で言った。
「あ! ゴールデン家のネスト様ですね!」
獣人国の護衛が、兄さまに気がついて話しかけた。ゴールデン家? ネスト様? 兄さまではないの? 僕は兄さまを呆然と見ていた。
「まだ騒ぎは収まらないのか」
兄さまは商店街の人々を確認して、護衛さん達に言った。
「は、はい」
「仕方が無い」
そう言い兄さまは空に魔法を放った。
「えっ!?」
ひゅるるるる……と、光が空に上がった。あれは?
パン!
「わあ――! 花火だ!」
泣いていた小さい子供が、母親にしがみつきながら言ったのが聞こえてきた。慌ただしく右往左往していた人々が、一斉に立ち止まった。
花火は明るい空でも光り輝いて、大輪の花を咲かせた。
「え、綺麗!」
ひゅるるるる……とまた花火が上がると、人々は空へ釘づけになって見ている。
「和平大使のルカ殿とアラン殿は、ひとまず我が家ゴールデン家に案内する。今から馬車まで戻るのは危険だ。お前達護衛は、その馬車にのって帰れ。報告はあとで」
ぶっきらぼうだけど、冷静な判断をして護衛さん達に指示をした。
「はいっ! ありがとう御座います!」
どうやら兄さんは、この国で顔を知られているようだ。それに地位も高そうだった。
花火が何発か上がると、人々は落ち着きを取り戻していた。
「ルカ様、アラン様。ゴールデン家、ネスト様は我が王と親しい間柄なお方です。安心してください。では」
護衛さん達は倒れていた男を持ち上げた。
僕とアランは顔を見合わせて、それから兄さまを見た。護衛さん達は兄さまの申し出に安心したのか、襲ってきた獣人を捕獲して行ってしまった。
「……家の者を助けてもらって感謝する。我が家へきたまえ」
そう言い、ケガをした男の子を抱き上げて歩いて行った。
「ルカ、俺達も行こう」
「アラン」
アランに肩を抱かれて、兄さまのあとについて行った。
少し離れた所に馬車がとまっていて、僕達は兄さまに促されてその馬車に乗った。
僕の座っている隣にはアラン。真正面には兄さま。兄さまの隣には男の子。しばらく無言のまま、馬車は進んだ。
「ゴールデン家のネスト様……、なの?」
僕は窓の外を見ていた兄さまに聞いた。こちらをまったく見ないので、続けて話しかけた。
「兄さま……。無事で良かった」
そう僕が言うと今度はこちらに振り向いた。黙って僕を見ている兄さま。馬車は急ぐ様子もなく進んでいる。
「俺が……、無事で良かったのか?」
兄さまは無表情のまま、僕に話しかけた。無事で良かったのか?
「もちろん! ずっと、探していました……」
あるつてを使って、兄さまをずっと探していた。もしかしたら……と、悪い考えもしてたけれどこうして会えて良かった。
馬車の中が静かになる。一緒に乗った男の子が気まずいのに我慢できなかったのか、そわそわしている。
「あ、あの! 助けて下さってありがとう御座いました」
男の子は僕にお礼を言った。
「いえ、助けたなんて……。早く手当しないとね」
僕が返事をすると男の子はニコッと笑った。この男の子は、耳としっぽを見るとトラの獣人の子だった。
「もうすぐ着く」
兄さまがぶっきらぼうに言うと、大きな屋敷が見えてきた。
兄さまは、何も話さないので不安になった。別人ではないにしろ、名前が違う。
「屋敷に着いたら、詳しく話をしてもらおうか」
アランが兄さまに言いながら睨んだ。ビクッ! と、トラの獣人の男の子がアランに怯えたのが見えたので「優しいお兄さんだから、大丈夫だよ」と言った。
「ぷっ!」
思わず……笑ったのは、兄さまだった。それにつられて男の子も「ふふっ!」と笑った。兄さまの笑いのツボに入ったのか、窓の方を向いて小刻みに震えている。笑いを耐えているようだ。
「失礼ですよ、兄さま」
僕がやんわりと注意すると「すまん」と目尻を拭いながら謝ってきた。
「優しいお兄さんに……見えないか?」
アランは獣人の男の子に苦笑いしながら聞いた。
「そんなことは……ないと思います、たぶん」
男の子は気を使って言ってくれたようだ。
あ――、もう。アランの気の許した笑顔は可愛いのにな……。
「ネスト様。到着しました」
「わかった」
兄さまの返事を聞くと、馬車の扉が開けられた。先に兄さまが降りて、獣人の男の子の、足裏とわきの下に手を入れて持ち上げて降ろした。
「ケガの手当をするので先に行く。案内を頼む」
馬車の近くに控えていた、執事さんに言って兄さまは屋敷の中に足早に入って行った。
「ようこそいらっしゃいませ。屋敷の中へどうぞ」
三毛猫獣人の若い執事さんだった。彼に案内されて、兄さまの屋敷の中へお邪魔した。
「私はゴールデン家のネスト様に仕える、タイロン……と申します。こちらへ」
お屋敷は豪華で広く、白色と金色の基調にした上品な感じのお屋敷だった。豪華な応接室に案内されて、僕とアランはふかふかのソファーに座った。
「お茶をお持ちいたします」
執事さんがメイドさんに目くばせした。
僕とアランは、落ち着かない感じで兄さまを待った。
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