ZODIAC~十二宮学園~

団長

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WORLD WAR

極東決戦編その20

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新聖歴五九三十九年
ウチが十四歳になった頃、世界情勢は大きく変わり世界大戦の足音が聞こえてきた。ウチの祖国では政権はクーデター未遂で投獄されていたはずのアミラル将軍が国家元首と首相を兼ねていた。隣国との国境線では偶発的な戦闘が起きていた。学園都市では反戦派、強硬保守派、急進左派、王室派など様々な学生運動が起きていた。沈静化するために白羊宮、金牛宮が毎日取り締まりや検問をおこなっている。学生達のある程度のガス抜きが終わるとウチは悪鬼やゴブリンになりそうな学生の記憶改竄をして学園から追放した。これがウチに与えられた使命だと思っている。やがてウチの魔法の噂に目を引く者達が学園都市以外にも現れ始めた。所詮は噂だと馬鹿にしていたがウチの魔法にも有効範囲がある。学園を追放された人が有向範囲外の実家に戻ったときには彼らや彼らの家族が驚くだろう。一人や二人ならば、まだしも、学園追放者は戦争の参戦国が拡大するにつれて増えていく一方である。


十二月二十三日
「んあ~、入学して四年経つけどずっとエレメンタルクラスに居るのもつらいな。」
魔法学部の教室でうな垂れていると同級生の二人が話しかけてきた。
「そう言うなよ~、ハンナ。」
「フナサカは魔法学部にいてつらくないの?」
「自分は祖国に帰ったら徴兵されるから学生でいられる今が幸せだよ~。」
「リュドミラは祖国のために戦いたい?ウチは絶対に嫌だよ。実家ないし・・・」
「ハンナちゃんは凄い魔法使いだもね。私は戦争に行けと言われれば行くわよ。風の魔法で遠くの敵兵を狙撃するのは得意だし。」
「んあ~、ルーデル先輩みたいなこと言うね。好きなの?」
「い、いや、いや。祖国は敵国同士の国だし。」
目が泳いでいる。ウチにかかれば心の中は丸見えなのだからそう想っていても、そう想わないで欲しい。一応、魔法学部の仲間を紹介する。ウチと同級生なのはフナサカという極東人とリュドミラというスラヴ人である。二人とも変わった魔法使いらしいがウチには教えてくれないしウチも彼と彼女の魔法を知りたいと思わない。心を読んでもウチの知らない言語で魔力演算子を組んでいるのでサッパリ分からない。
「んあ~、いよいよ世界大戦の様相だ。リュドミラ、ここだけの話だけどルーデル先輩は戦争に行くみたいだ。」
「え!」
「うろたえないで。いつもみたいの調子で話を聞いて。記憶を消すわよ。」
そう言うと、リュドミラはいつもの表情と姿勢に戻った。遠目から見ればウチ、フナサカ、リュドミラは普通に学生をしている。魔法なのか分からないが魔法学部の学生は学園内では監視されているようだ。何人もの先輩後輩が消えている。
「んあ~、今日の朝にルーデル先輩とすれ違ったときに心を読んでしまったよ。」
「ハンナちゃんは相変わらずゲスイ魔法使うね。まあ仕方ないかな~。」
「リュドミラもさりげなくひどいこと言っている。」
「自分が思うに、さりげなく想いをルーデル先輩に伝えてみてはどうか?」
「んあ~、フナサカは乙女心が分かっていないな。」
「あれ?私がルーデル先輩を好きなことは前提なの?」
「リュドミラ殿の想いは誰が見ても明らかです。鈍い自分にも分かります。」
「んあ~、だからっていきなり告白はハードル高いのだよ。」
「もう少し考えさせて・・・。」
リュドミラは寮に帰宅していった。しかし、ウチには何を考えているか丸わかりなのだ。フナサカに協力してもらってルーデル先輩を明日の夜に呼び出すことにした。


十二月二十四日
総宮棟の前にある巨大なクスノキに二人を呼び出すことに成功した。リュミドラの方はウチが無理矢理に説得させた。これが最後のチャンスだと。ウチとフナサカは総宮棟の柱から影ながら見守っていた。
「んあ~、ルーデル先輩は何で制服のままなの?」
「仕方ないのである。連れて来ただけでも評価して欲しいのである。」
「リュドミラが一人でオシャレしていておかしく見えない?」
二人がクスノキに近づき偶然出会ったかのように会話が始まった。
「リュドミラじゃないか。何だ、その格好は?」
「ルーデル先輩・・・ハンナと待ち合わせをしています。今日の外出日は・・・」
「いや、外出許可がおりているならばいいのだ。俺もフナサカと待ち合わせをしている。」
長い沈黙が続く。今日は十二宮学園の外出日なので学生は自由に往来しているし、クスノキで人を待っているカップルも多い。しかし、二人の間に若干の距離がある。
「んあ~、ルーデル先輩も鈍いわね。新しいブーツ、はやりの服、双子宮で支度したデート要素だらけなのに。」
「ハンナ殿がリュドミラの脳に直接会話内容を教えてはどうであろうか?」
「んあ~、それじゃあ意味が無いのよ。」
リュドミラに頑張れと念を送っていると総宮棟から水戸部シモンが出てきた。奴は一瞬こちらを見るとすぐに二人の元に歩を進めた。
「んあ~、待ってよ!」
すぐに水戸部シモンが考えていることが分かった。ウチの制止をいつもの睨みで振りほどいた。そして、二人の間に入って不気味な声で話し始めた。
「ハンス・ルーデル、リュドミラ・パヴリチェンコの両名に本国から令状が届いている。おっと、いつものようにそのままの体勢で聞き流せ。」
「私にも、ですか?」
「正式には両名に学園都市のスパイとして本国に潜入してもらう。もちろん二重スパイの形をとっても構わん。」
「俺たちが知っている学園都市の情報は戦況に影響を及ぼすほどのもでは無いと。」
「するどいな。貴様らは魔法というものが何なのかその本質すら理解していない。学園都市の情報に関しても然りだ。両名とも殺しすぎない程度に潜入しろ。後片付けはこっちでする。こそこそしていないで二人も出てこい。」
促されてウチとフナサカはルーデル先輩とリュドミラの前に現われた。
「お前ら・・・そういうことか。」
「ルーデル先輩違うのです。」
「んあ~、勘違いです。」
「いや。リュドミラ、合い言葉でも決めておこうか。戦場で鉢合わせたときにお互い殺さないように。」
この場でルーデル先輩がリュドミラに言える精一杯の返事がこれだったのだろう。こうして二人は本国行きが決まった。


新聖歴五九四一年
六月二十日
ウチとフナサカにも本国に潜入することとなった。ルーデル先輩、リュドミラ、フナサカはおそらく死なないだろう。それなりの魔法使いである。戦場において記憶操作などという魔法ではウチが一番弱いようだ。それにしても世界情勢は全く分からなくなってきた。戦渦は広がり参戦国は百を超えていた。ウチはアミラル将軍に近づくことになった。一番安全な将軍の腰巾着となることに決めた。ウチは死にたくなかったので敵国には殲滅戦で対応することを進言した。というよりも無意識のうちにアミラル将軍の記憶を改竄していた。苦しい戦局があるたびに記憶を改竄した。これによりウチは助かるが多くの人命は失われた。


新西暦五九四四年
ウチは最強の記憶操作の魔法使い、ノルンの名前をつけられた。
「失礼ですが、その子は協会のものですか?」
「何を言っている。アミラル総司令に失礼だぞ。」
「申し訳ありません。アミラル総司令の命を狙う者が多いですから。」
「ブリル協会員の公民権を剥奪する法律を提出する。この戦況では仕方あるまい。陸上部隊は明朝に進撃を開始する。私が戦闘指揮を執る。」
「しかし、支援物資が前線まで届くでしょうか?海の向こう」
突然銃声が鳴り響き頭を打ち抜かれた大将が血の海に倒れこんだ。ウチは一言、アミラルと呼ばれている男に呟いた。
「この人、あなたの命を狙っていたみたい。」
「やはりそうか。私の命を・・・やはり、将校全てを粛清しなくてはいけない。いや、いや、いや・・・ノルン。君の協力が必要不可欠なのだ。ノルンは私のために力を貸してくれるか。」
「はい。ウチの全てはアミラル様のものです。」
「戦況は重要な局面だ。あらゆる魔法を駆使して戦局を打開しなくてはいけない!」
当たり前のことだが、ウチにはこの男の考えていることは丸分かりだった。それに他の国もウチと同じ系統の魔法使いが大勢いることを知っている。ウチは早くこの男から離れたい。すでに将校派の陣営は瓦解しつつあった。同盟国は次々に降伏して祖国は敵国に包囲されている。戦神である風の民と神教の長である水の巫女が手を組んでからは戦局が一気に不利になり東西両挟みで後退している。陸上の部隊よりも海の向こうの大陸からは様々な兵器が毎日飛んでくる。仕方が無いので海の向こうのアトランティス大陸を消すことにした。
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