僕の彼女は自殺愛好家

桜崎夜宵は自殺したい

　放課後、クラスメイト達が各々部活や下校を始めた。伊藤一也も帰宅の準備をして友達と帰ろうとしていた。
　しかし、一人のクラスメイトに呼び出された。
「伊藤君、話があるんだけどいいかな？」
「うん、大丈夫だけど」
　桜崎夜宵は嬉しそうに微笑んだ。つられて、一也も笑う。
　終わったら話聞かせろよ、彼の友達はそう言い残して帰って行った。夜宵は一也の好きな相手だった。
　二人並んで屋上へと向かった。二人とも、何も話さなかった。一也は緊張からだが、夜宵が話さない理由は分からなかった。
　屋上の扉を開けて、夜宵が転落防止の為にあるフェンスまで歩いた。そして、振り返って言った。
「伊藤君、私は今から自殺します」
「は･･････え？　今何て？」
驚く一也ににっこりと笑って夜宵は再度言った。
「私は自殺します」
「･･････」
 彼女の言ったことがすぐに理解できなかった。
 桜崎さんは死にたいのだろうか。
「･･････あの、話聞くから！」
「ありがとう。でもね、そうしたって何も変わらないよ」
淡々と述べる夜宵の表情は悲しそうだった。一也は必死に彼女を説得する。
「何でもするから死なないで！」
「何もしなくていいよ」
「･･････人生いいことだってあるよ」
「いいことがあるって期待することになんの意味があるの？」
「･･････」
何も言葉が思い浮かばなくて、黙ってしまった一也に、夜宵はため息をついて言った。
「じゃあね、伊藤君」
夜宵はフェンスに手をかける。
止めなければ、と一也は焦った。
「ねえ、ひとつだけ聞いていい？」
「何？」
夜宵は振り返らずに言った。
「なんで、死のうと思ったの？」
「･･････君に言ってどうするの？」
「だったらなんで俺の前で死のうとしたんだよ」
夜宵は一也に向かって、きょとんとした顔をした。そしてふっと笑って言う
「あなたが今日の日直だったから」
「え？」
「今日死ぬんだから、今日の日直の子に最期を見せようと思ったの」
「･･････それ、トラウマ植え付けるだけだよね」
「そうだね。でも、私の自殺を止める為に今まで言われたことの無いことを言ってくれると期待していたの」
今まで一度たりとも心に届く言葉はなかったのだけどね、つまらなそうな悲しそうな顔をして彼女は言った。
「ごめんね。実際は、自殺願望があるだけで今日死のうとは思ってないの。まだ遺書も書いてないし、身辺整理も終わってないから」
寒気が走った。まだ高校生なのに人生を終わろうとしていることにぞっとした。
「･･････いつかは死ぬの？」
「死ぬよ。人は誰だって死ぬんだからそれが早いか、遅いかだけだよ」
「そうだけど･･････」
そうだとしても、死んで欲しくない。だって桜崎さんは、俺の────。
「ただのクラスメイトの私に死んで欲しくない理由でもあるの？」
「俺の好きな人だから」
「え？」
「好きなんだ、桜崎さんのことが」
驚く彼女を一也は真っ直ぐ見る。もうこの際振られてもいいと思った。生きたいと思わせられるなら。
「私･･････」