8 / 15
8.賄賂要求
しおりを挟む
二日後の午後、ハージェイから指示された通りハートの寮に向かう。
ここに来るのは初めてだ。
情報提供者であるカーディスの知り合いに会うと言って公爵家を出たので、カーディスで軽く外見を変えて裏から脱出、更にダイヤの寮で変装してからここまで来た。
管理人さんにダイヤのメンバータグを見せると、ハージェイはまだ帰っていないので共用スペースで待つようにと言われる。
歓談用にとソファーなどが置かれた部屋を奥まで進み、直射日光の当たらない窓際の席に座った。
鞄からレース編みの道具を取り出すと、円になるよう編んでいく。
誰もいない静かな昼下がりなんて久しぶりかもしれない。
ダイヤの寮には私の部屋もある。
ベッドと服と変装用の小道具しか置いていないので、今日のように変装の必要のある場合の他は、半年に一度掃除に行くくらいだ。
足が付いても困るしね。
事務所の方は良く行くが、カーディス本部の中にあるので出入りを見られても問題ない。
直属の上司である『ダイヤのエース』ことダイアンの表はカーディス職員で、件の情報提供者というのは彼のことだ。
彼は遠い親戚で、田舎から王都に出てきた私は、責任感の強い彼に週に一度は顔を見せに行くという設定になっている。
空気が動いた気がして顔を上げれば、開けっぱなしだった部屋の入り口の向こうで管理人さんとハージェイが話をしていた。
帰ってきたらしい。
手を振って合図して、作り掛けだったモチーフの糸が緩まないように始末する。
「待たせた。すまん。」
「おかえり。」
此方へと寄ってきたハージェイが一瞬足を止めた。
気配を探ったが、妙なものは感じない。
「何してたんだ?」
間近まで来たハージェイが手元を覗き込んできたので、見やすいようモチーフを掌に乗せた。
「賄賂作ってた。」
「賄賂?」
「表の仕事場の人達にあげるの。」
女性の職場での円滑なコミュニケーションには、こういった細かなプレゼントが大事なのです!
「これ貰ってどうするんだ?」
「ハンカチとか、小物に縫い付けるんだけど、えーっと、──」
鞄を手元に寄せて、イメージを手で作りながら説明する。
「ここにこう付けるの。一つだと寂しいから、三つくらい欲しいかな。後は、紐を付けてこんなふうに取っ手にぶら下げたり、……分かる?」
「ああ……、今のぶら下げるやつ、ここで作ってくれ。」
「え?今?ここで?」
「そうだ。できるか?」
「紐が……。」
今日はバレッタを使っているので髪紐がない。
鞄に予備の刺繍糸はあるけど、組紐にする道具は持ってきていない。組紐は時間もかかる。
「今はこれしか紐がないんだけど……。」
トランプ支給品の拘束紐。
スカートの裏の隠しポケットから、それを取り出してハージェイに見せる。
これと同じ紐でハージェイに縛られたのは、つい先日のことだ。
「うん。その紐で。」
「作ったのどうするの?」
「俺にくれ。賄賂で。」
「はあ?」
貰う側が賄賂を要求するって、おかしくないか?
いや、金くれたら融通してやるぞーニヤリとか、政治の世界ではありそうな話だ。
奴は王城に染まりきってるってこと?
「賄賂だ。賄賂。うーん、今日の話し合いで何か要求できるかもしれないぞ。」
ゼットがいるために口に出せなかったこととかも含めて、説明してもらうつもりで今日はここに来た。
私と交渉するようなことがあるのだろうか……。
その交渉に余地あるんだったら、材料は少しでも欲しい。
「とんでもないこと、お願いするかもよ。」
「お前がそんなことしない奴だってことくらい知ってるよ。」
返答を聞いて、余計なことを言ったと思った。
単に『とんでもない要求』をさせないための牽制だろうか。
だって私は混乱している。
ハージェイは私のこと知ってると言ったけれど、私はハージェイのことが全く分からない。
何でこんなものが欲しいのか。
彼に引き合わされたのは、トランプの養成所だった。
私に与えられた役目は『王の愛妾』。
いずれは後宮でハートの一員として動く。
それまでは別チームで必要な技能を磨きつつ、時を待つ。
処女を保つため、閨は講師に指定された人とだけ。
訓練と後輩指導を兼ねて養成所に訪れた人達で、一、二ヵ月でいなくなってしまう。
そんな中の一人がハージェイだった。
彼は身体能力が高く、面倒見がいい。
できるようになるまで徹底的に扱かれ、できたことを褒められれば、嬉しかった。
一方、閨は荒々しく、快楽を教え込まれた。
普通の会話をした記憶は殆んどない。
混乱の中、作業にかかる時間を聞かれて、余裕を持たせずそのまま答えてしまった。
作業が終わったら管理人さんに言って部屋に案内してもらうようにと言い残して去っていくハージェイを見送り、作業に取り掛かる。
呆けている暇はないのだ。
ここに来るのは初めてだ。
情報提供者であるカーディスの知り合いに会うと言って公爵家を出たので、カーディスで軽く外見を変えて裏から脱出、更にダイヤの寮で変装してからここまで来た。
管理人さんにダイヤのメンバータグを見せると、ハージェイはまだ帰っていないので共用スペースで待つようにと言われる。
歓談用にとソファーなどが置かれた部屋を奥まで進み、直射日光の当たらない窓際の席に座った。
鞄からレース編みの道具を取り出すと、円になるよう編んでいく。
誰もいない静かな昼下がりなんて久しぶりかもしれない。
ダイヤの寮には私の部屋もある。
ベッドと服と変装用の小道具しか置いていないので、今日のように変装の必要のある場合の他は、半年に一度掃除に行くくらいだ。
足が付いても困るしね。
事務所の方は良く行くが、カーディス本部の中にあるので出入りを見られても問題ない。
直属の上司である『ダイヤのエース』ことダイアンの表はカーディス職員で、件の情報提供者というのは彼のことだ。
彼は遠い親戚で、田舎から王都に出てきた私は、責任感の強い彼に週に一度は顔を見せに行くという設定になっている。
空気が動いた気がして顔を上げれば、開けっぱなしだった部屋の入り口の向こうで管理人さんとハージェイが話をしていた。
帰ってきたらしい。
手を振って合図して、作り掛けだったモチーフの糸が緩まないように始末する。
「待たせた。すまん。」
「おかえり。」
此方へと寄ってきたハージェイが一瞬足を止めた。
気配を探ったが、妙なものは感じない。
「何してたんだ?」
間近まで来たハージェイが手元を覗き込んできたので、見やすいようモチーフを掌に乗せた。
「賄賂作ってた。」
「賄賂?」
「表の仕事場の人達にあげるの。」
女性の職場での円滑なコミュニケーションには、こういった細かなプレゼントが大事なのです!
「これ貰ってどうするんだ?」
「ハンカチとか、小物に縫い付けるんだけど、えーっと、──」
鞄を手元に寄せて、イメージを手で作りながら説明する。
「ここにこう付けるの。一つだと寂しいから、三つくらい欲しいかな。後は、紐を付けてこんなふうに取っ手にぶら下げたり、……分かる?」
「ああ……、今のぶら下げるやつ、ここで作ってくれ。」
「え?今?ここで?」
「そうだ。できるか?」
「紐が……。」
今日はバレッタを使っているので髪紐がない。
鞄に予備の刺繍糸はあるけど、組紐にする道具は持ってきていない。組紐は時間もかかる。
「今はこれしか紐がないんだけど……。」
トランプ支給品の拘束紐。
スカートの裏の隠しポケットから、それを取り出してハージェイに見せる。
これと同じ紐でハージェイに縛られたのは、つい先日のことだ。
「うん。その紐で。」
「作ったのどうするの?」
「俺にくれ。賄賂で。」
「はあ?」
貰う側が賄賂を要求するって、おかしくないか?
いや、金くれたら融通してやるぞーニヤリとか、政治の世界ではありそうな話だ。
奴は王城に染まりきってるってこと?
「賄賂だ。賄賂。うーん、今日の話し合いで何か要求できるかもしれないぞ。」
ゼットがいるために口に出せなかったこととかも含めて、説明してもらうつもりで今日はここに来た。
私と交渉するようなことがあるのだろうか……。
その交渉に余地あるんだったら、材料は少しでも欲しい。
「とんでもないこと、お願いするかもよ。」
「お前がそんなことしない奴だってことくらい知ってるよ。」
返答を聞いて、余計なことを言ったと思った。
単に『とんでもない要求』をさせないための牽制だろうか。
だって私は混乱している。
ハージェイは私のこと知ってると言ったけれど、私はハージェイのことが全く分からない。
何でこんなものが欲しいのか。
彼に引き合わされたのは、トランプの養成所だった。
私に与えられた役目は『王の愛妾』。
いずれは後宮でハートの一員として動く。
それまでは別チームで必要な技能を磨きつつ、時を待つ。
処女を保つため、閨は講師に指定された人とだけ。
訓練と後輩指導を兼ねて養成所に訪れた人達で、一、二ヵ月でいなくなってしまう。
そんな中の一人がハージェイだった。
彼は身体能力が高く、面倒見がいい。
できるようになるまで徹底的に扱かれ、できたことを褒められれば、嬉しかった。
一方、閨は荒々しく、快楽を教え込まれた。
普通の会話をした記憶は殆んどない。
混乱の中、作業にかかる時間を聞かれて、余裕を持たせずそのまま答えてしまった。
作業が終わったら管理人さんに言って部屋に案内してもらうようにと言い残して去っていくハージェイを見送り、作業に取り掛かる。
呆けている暇はないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
👨一人用声劇台本「寝落ち通話」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。
続編「遊園地デート」もあり。
ジャンル:恋愛
所要時間:5分以内
男性一人用の声劇台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる